捲られた幕
6月下旬のある日。階戸楓は仙台駅を歩いていた。
東北とはいっても、政令指定都市である仙台はかなり混んでいる。
「さっさと済ませて帰宅しないと」
今日の目的は、同僚から頼まれた限定スイーツの購入。仙台に住んでいるとはいえ頻繁に駅に来るわけではない階戸のために、同僚が渡してくれた地図を開く。仙台駅の文字の横に書かれている、”お店はここ!”という赤字。全く地図としての役割を果たさない紙切れを見てため息をついた。
「店名くらい書けよ、、、」
地図だけ渡して用事があるから後よろしく、と去って行ったあいつの顔が浮かびイライラしながら電話を取り出すが
「……おかけになった電話番号は、現在使われていないか」
聞き慣れた機械音声が流れ、階戸は二度目のため息をつきながら電話を閉じた。
しかし、ここで諦めないのが階戸楓である。別に同僚の為にという訳ではない。折角重い腰を上げて外に出たのだ。それを無駄にするのは癪だという極めて個人的な問題である。
早速【仙台、限定スイーツ】と検索をかけてみるも、運悪く大量のスイーツがヒットしてしまった。せめて何のスイーツかさえ分かれば多少は絞れるかもしれないが、あいつは「あまり仙台に行かない楓のために地図書いたから、それを頼りによろしく~」としか言ってない。
あいつを少しでも疑うべきだったと頭を抱え、一旦休憩しようと近くの空いてるベンチを探すがどこを見渡しても全て満席。適当にコンビニスイーツでも買って帰るかと三度目のため息をつこうとしたその時、後ろから声を掛けられた。
「すみません」
「、、、はい?」
振り向くと、幸薄そうな黒髪の少年が席を立とうとしていた。
「もしかして席探してますか?もう僕行くのでよかったらどうぞ、、、では。」
「あ、ありが」
階戸がお礼を言う間もなく、その少年は優しそうな、そしてどこか全てを諦めたような笑顔をして去って行ってしまった。
少しその表情に違和感を感じつつも、譲って貰った席にありがたく座り目を閉じる。
「(さっきの人疲れてるのか、、あんな優しい人が楽しく生きていける世界になればいいのに)」
考えたその瞬間。階戸の脳内がなんの前触れもなくクリアになった。昨日、一昨日、同僚のあいつが今日までに言っていた言葉が次々と脳内を駆け巡る。
『今日仙台駅で好きなアイドルの広告が~』『さっき頭にサンバみたいな帽子付けてた人が』『今日の晩ご飯は』『榴田屋で来週出るプリンが』
「……あ。」
榴田屋。確かにあいつは先週そう言っていた。急いでスマホに”榴田屋 限定”と打ち込む。
「(ビンゴだ)」
HPにでかでかと書かれる「本日から」「限定プリン」「仙台駅」の文字。さっきの全く意味のなさない地図とスマホのマップを見比べても方角的には矛盾はしない。おそらくここで間違いなさそうだ。そう階戸は確信をし、ベンチから立ち上がった。
人混みを縫うように歩きながら階戸はさっきの奇妙な出来事を思い出す。
”目をつぶったら急に思考がクリアになった”
一般的に考えるとそこまで異常な出来事ではないように思えるが、さっきのは普通の範疇を確実に超えていた。あれは思い出す、というよりかは映像のリプレイを脳内に強制的に流されている感覚に近かった。それくらい鮮明だったのである。主要な会話部分だけではなく、相づちからトイレ行ってくるといったような日常会話まで細かく思い出せていた気がする。
「俺、もしかして映像記憶能力あったのか」
そうこう考えている内に目的地に到着する。自分の新たな才能については後で考えるとして、まずはプリンを買おうと、階戸が榴田屋が入っているビルに入ろうとしたその時
「おい!上から人が」
知らない人の叫び声、混乱する通行人、そして
「そこの兄ちゃん、逃げろ!」
逃げ遅れた俺。混乱した人の中に俺を押しのけたやつがいるせいで、バランスを崩して倒れ込んでしまったのである。人間、いざという時には体が動かないもので、立ち上がろうと力を入れた足はアスファルトの上で虚しく震えているだけ。
10階から落ちてくる人のスピードは思ったより速く、何もできない俺は落ちてくる人間をぼーっと見上げ死を覚悟する。
「(折角、才能が開花したってのに。プリンなんて諦めて帰りゃ良かった。)」
次の瞬間、俺が今まで感じた事のない重さが体にのしかかった。アスファルトに食い込む体。周りの悲鳴。反射的に前に出した腕と伸びた脚の上に落ちてきた人間。
「い、生きてる!」
近くに居た人が俺の上に落ちてきた少年(おそらく自殺志願者)の脈を確認して叫んだ。
その声を聞き、ショックで放心状態だった俺の意識が現実に引き戻される。すぐさま落ちてきた人に目を向けると俺をクッションにしたからか、意識は無いものの確かに生きていそうだ。顔をのぞき込むとどこかで見覚えがある、というかさっきの幸薄い少年だと気がつく。こんな偶然あるなんて、人生小説より奇なりとはまさにこのことだ…
ーいや、そうじゃない。そんなことどうでもいい。今本当に気にするべきことは自分の
「……え」
混乱していて気がつかなかった。落ちてきた瞬間、確かに重みは感じた。アスファルトに食い込む感覚もあった。でも、一番重要なあれを俺は感じていない
「痛みが無い…?」
ビル10階から落ちてきた少年を、俺は骨折もせず無傷で受け止めていた。
この話、漫画と小説で迷ったという経緯があります。いつか漫画にも挑戦したいですね。
それはそれとして、文章が読みにくいと自分でも感じているので、後で推敲しなおすかと思います。




