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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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閑話3-2

 富士山の麓で行われている自衛隊との共同演習。

 その二日目。

 前日に石動によってもたらされた「灰原と魔物になった久世が付近に潜んでいる」という情報。

 白鷺環のホームグラウンドである大自然の中。

 しかも、朝倉澪をはじめ、自衛隊の戦力も勢揃いしている。

 仮に連携の破壊が目的だとして、そんな場所でそれが本当に可能なのか?

 

 それは、現場の魔法少女をはじめ、指揮官である桂木、石動など、全員の疑問だった。

 

 一体何を仕掛けてくるのか。

 夜更けまで上層部で会議が行われたが、何か特別な対応策が決まることはなかった。

 結局、最後は厳戒態勢を敷きながら演習を日程通りに遂行しようという結論に落ち着いた。


 そして、演習二日目の朝。


 前日同様に訓示を行うということで広場に集まったマギ管のメンバーと自衛官たち。

 一日目のどこか浮き足だった雰囲気は無く。

 代わりにピリピリとした肌を刺すような緊張感が漂う中。


「はぁぅぁ〜、もうちょっと寝かせて欲しいぜ〜」


 猪頭が緊張感が全く感じられない大きな欠伸をする。


「テロリストが近くに居るのに呑気に欠伸をするなんて……遠足気分が抜けてないんだわ……」


 手を口に当てて大きく伸びをする猪頭の耳に嘲るような声が微かに届く。

 

「あぁ?」


 声のした方向を睨みつけると――

 自衛隊の魔法少女たちが作るこぢんまりとした隊列の真ん中あたり。

 濃い茶色の髪を帽子からのぞかせる少女が猪頭に敵意を剥き出しにした視線を向けていた。

 

「戒田ァ……」

 

 昨日から意見が全く合わず衝突ばかり起こしていた少女の蔑むような視線。

 猪頭がそれに頬をぴくりと引き攣らせた――その瞬間。


「前哨より報告! 方位300、距離3000、魔物の大集団を発見!」


 今まさに、訓示を述べようとした桂木のところにやってきた隊員の報告。

 それを聞いた桂木の眉間に深い皺が刻まれる。


「なに……? 敵情の詳細は?」

「はッ! ジャイアントベアーに鹿型、猪型、猿型そして……ネズミ型と思わしきものがいるとの報告が入ってます」


 ネズミ型。

 その名前が出た瞬間、桂木の皺がさらに深くなる。

 それとは対照的に、そのやりとりを聞く隊員たちは僅かに気を緩ませた。

 ネズミ型は世界で最初に誕生した魔物だ。

 人間の臓物や都市のインフラを食い尽くす大災害と言われているのだが……

 

 核兵器で焼き尽くされたとされ、今までの出現の報告は今まで一切なし。

 その認識がこの場にいる人間にこれは“演習”のシナリオの一つじゃないか? と、思わせた。


 しかし――



「総員! 戦闘配置! これは訓練ではない! 繰り返す訓練ではない!」


 桂木のその言葉は演習が“実戦”に変わったのだという現実を突きつけた。

 

「おいおい! ネズミ型ってマジかよ!」


 一気に場が慌ただしくなる。

 そんな中、猪頭は動揺を隠しきれない声を出す。


「も、もし本当に原初個体なら……」


 原初個体。

 世界中にマナという名の災厄をばら撒くことになった原因となったことからネズミ型につけられた異名だ。

 一番最初に確認された魔物でありながら齎した被害は過去最悪。


 未だにアメリカはそのダメージから回復するどころか徐々に追い込まれつつある。

 それが日本にも現れたのかもしれない……

 猪頭と霞野が不安の声をもらす。


「大丈夫さ」


 そんな二人を宥めるように白鷺がいつものトーンで告げる。


「仮に原初個体でもボク達が力を合わせれば敵ではないよ」

「ははっ……」


 その言葉に猪頭は小さく不敵な笑みを零す。


(俺サマとしたことが、リーダー、朝倉澪、ドルマイ、自分――S級が四人も居て何を弱気になってんだか)


「ソフィアやセイラが援軍に来たらそのまま何もせずにUターンさせてやる」


 そして、猪頭は変身をすると棍棒を肩へ。

 遠く、富士山の下、生い茂る木々の隙間から立ち上る砂煙を鋭く見据えた。

 

「リーダーのタレットを強引に突破してるのか……?」


 白鷺のタレットと思わしき木々が蠢く中、それでも速度を落とすことなく進む砂塵。

 

「何匹か魔物を倒してる手応えはあるから相当な数が居る可能性があるね」

「だとしても、ここまで来る頃にはだいぶ消耗してねぇか?」


 これだけ草木が生い茂る中だ。

 いくら原初個体と思わしき魔物が混じっていても進めば進むほどに消耗を強いられるはず。


 しかし、猪頭がそう高を括るその横。

 霞野が人形に持たせたカメラの映像を見て声を震わせた。


「こ、これ、見てください!」


 霞野が慌ただしくタブレットの画面を突き出し、それを覗き込む二人。

 

 そこには――


 木々の根元にある地面を覆い尽くすほどの魔物の大群。

 大半をネズミが占め、その中に血走った目で涎を撒き散らす熊や鹿などが混じる。


 いくら数が多いとはいえ、それだけなら、植物タレットの敵ではない。

 四方八方から伸びる枝や蔦に絡み取られるか貫かれて徐々に数を減らすはず……


 その考えを肯定するように一斉に伸び、群れに向かって木々の枝が殺到する。


 しかし――


「なっ……」


 二人の視線の先。

 画面の中で怒涛の勢いで魔物に襲いかかっていた、緑の大波。

 それが、魔物たちのところに到達する寸前で弾け飛ぶ。


 それでもと、すぐさま再生して襲い掛かろうとした――刹那。


 突如、数十本の木々が根元から切り倒され、ギィっと軋む音を立てて地面に横たわる。

 

「タレットを壊してる?」


 白鷺が少し目を見開いて凝視する画面の先。

 

「なんだ……コイツ……」


 異形が静かに、群れの奥から二本の足でズシン、ズシンと足音を響かせながら現れた。


 まず目を奪われるは、鎧のように膨れ上がった筋骨隆々の肉体から生える“六本の腕”

 正面、左右でそれぞれ別の方向を見つめるようにある三つの顔。

 一つの顔につき六つずつある紅い目が忌避感を感じさせる光を放ちながら鬼神のような形相で周囲を睥睨している。


「こ、この魔物が腕を動かす度にタレットが弾かれてます!」


 リーパーやヴォイドタイタンと同じレイス系の魔物。

 白鷺は外見からそう判断すると同時、この魔物の能力の分析にかかる。


「危険度は“S”を想定すべきだろう……」


 突然かけられた声に三人が振り向くと、石動が画面の向こう側に鋭い眼差しを送っていた。


「阿修羅……かな?」


 白鷺がその魔物の容貌を形容する言葉を紡ぎ、石動もそれに頷く。


「幸いここは人里とは離れている。後退も視野に入れつつ慎重に……」


 様子を見ながら対処しよう。そう言おうとした石動の言葉は――


「直ちに偵察に向かい、敵の弱点を明らかにすべきです!」


 先程、猪頭に軽蔑するかのような視線を送っていた自衛隊の魔法少女。

 戒田紗季によって遮られたのだった。

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