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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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閑話3-1

「だぁ〜!もうやってられっか!!」


 自衛隊との共同演習の初日を終えて。 

 富士山の麓にある演習場に設営されたマギ管のキャンプ。

 テントの中で猪頭楽が疲労の滲む声を上げながら椅子に向かってどさりと倒れ込んだ。


「きょ、今日は、た、大変でしたねっ」


 霞野ゆかりが猪頭を気遣うように声をかける。

 富士山麓に危険度S級の魔物が現れたという想定の演習。

 自衛隊の部隊が先着、後からマギ管の援護が来るというシナリオだった。


 しかし。


 いざ演習を開始すると問題点が次々と噴き出した。


 まず試されたのが民間のS級魔法少女を自衛隊側の指揮下に組み込んでみるという運用。

 これはマギ管側で無線で使われる用語が理解できなかったり聞き逃したりと齟齬が多発。

 

 無線に対して猪頭が「日本語で分かりやすく喋りやがれ!」とブチギレる事態に発展。


 やむなくナシとなった。


 ならば、とマギ管側には自衛隊無線を聞いてもらうだけにして現場判断で行動をしてもらう方式にした。


 だが、今度は自衛隊の魔法少女と方針や連携を巡って衝突。

 判断の優先順位が噛み合わず、連携は最後まで形にならなかった。


「まぁ、初日はこんなもんだよ」


 そう言って、白鷺環が肩を竦める。


「これから徐々に練度を上げていけばいいさ」

「でもよぉ〜、アイツらと連携なんて絶対無理だぜ」


 猪頭のその言葉への反論はなかった。

 白鷺と霞野はどこか気まずそうな苦笑を浮かべている。


「ソフィアが天使だのなんだのと隊員に持て囃されるのが気に食わないからってよ」


 演習の当日の朝、整然と並んだ隊員たちの列。

 それを見て、流石だ。

 過酷な訓練を積んできた人たちなだけあって練度が凄い。

 そんな尊敬の眼差しを向けていたマギ管御一行だったのだが……


 マギ管のS級魔法少女三人と石動などのサポート班が作る小さな列にチラチラと視線を向ける隊員が何人か居た。


 最初は、アイツらまるで修学旅行で列を作る学生のように統率が取れていないぞ、と。

 猪頭はそんなマギ管を嘲笑う視線かと思った。

 それで歯を剥き出しにして対抗意識を燃やしていたのだが――


「あの……アイリスさんは参加していないのですか……?」


 突然、そう尋ねてきた隊員に「あぁ、そうだけど」と返事を返した瞬間。

 猪頭には露骨に彼らの士気が下がったように見えた。

 でも隊列は一縷の乱れもなく、表情も精強なまま。


 しかし、彼らから放たれる燃え上がる炎のようなオーラ。

 それが、急にかき消されて、じめりとした重たいものに変わったような気がした。


 (なんだ? どうしたんだ? コイツら。)


 猪頭がそんなことを考えたのと同時。

 自衛隊の魔法少女たちが一斉に眉を顰めているのが目に入る。


 あとで朝倉澪に話を聞いたところ――


「ソフィはよく朝霞に訓練をしに来るでしょ? それで自衛隊の中に彼女のファンがたくさんいるの」


 とのことだった。

 それで猪頭は隊員たちの視線、自衛隊の魔法少女の険しい表情の理由、全てが腑に落ちた。


(他所の魔法少女を持て囃して、自分たちはスルーなのは気分が悪いってことか)

 

 まぁ、よくあることだ。

 そう考えて最初は気にしていなかった。


 だが――


 演習が始まるとそれが一気に表面化。

 坊主が憎けりゃ袈裟まで憎いということなのか。

 ソフィアを通り越してマギ管までを目の敵にしているような、睨む視線をよく感じた。


 当然、そんな相手と連携などできるはずもない。


「おまけに正義のヒーロー気取りの戒田って奴まで居るし、もう無理だろ……」


 もうこの演習自体を中止にした方がいいんじゃないか。

 そんな諦めが混じった猪頭の声に霞野も演習中で起こったことを思い返して眉を顰めた。


「あ、あの人は組織側が割けるリソースに限界があることを、り、理解できてません」


 できる限り多くの人を救いたい。

 被害は最小限にしたい。なんてことは誰もが理想としていることだ。

 でも、自衛隊やマギ管は人が動かす組織だ。

 当然、人手にも体力にも兵站にも限界がある。


 それを理解せずに現場の判断で己を顧みずに闇雲に無理を繰り返す。

 そんな人が自衛官側にいたのだ。

 当然、自分の命を最優先とするマギ管側と意見が合うわけもない。


「多くの人を助けたい思いが先行して、味方を顧みないのはちょっとどうかと思うね」


 白鷺でさえも苦言を呈する。

 そのことに一瞬猪頭と霞野が目を瞬かせた。


「あ、あれは本当にただのスタンドプレー、と呼べるもの、でしたね」


 霞野もそれに同調し、三人揃って小さくため息を吐き出した。

 ――その時。


「みんな、少しいいか?」


 テントの外から石動の声がかかった。

 何かあったのか? 三人はそう顔を見合わせる。

 そして、猪頭が外に向かって返事をした。


「あぁ、大丈夫だ、中に入っていいぜ」


 その声からしばらくして。

 入り口の幕をくぐって石動が姿を現す。


「灰原のスパイが捕まったそうだ」


 入ってくるなり、そう告げた石動。


「流石、うちの精鋭部隊! やるじゃねぇか!」


 その報告に下がっていたテンションを一気に上げる猪頭。

 しかし、それとは裏腹に石動の表情はあまり冴えない。


「何か、問題があるんだね?」


 白鷺のその言葉に石動は険しい面持ちで頷いたのだった。

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