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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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84話

 そもそも、宇宙由来の材料をどうやって手に入れたのか?

 宇宙にある材料を回収する方法は?

 今、アナフトリウムはどの程度の数が用意できているのか。

 

 矢継ぎ早に質問を繰り返す桂木さん。

 それに対して神崎理事長は淡々と答え始める。


「話は大きく遡るのだけど、以前アメリカがまだ宇宙開発に勤しんでいた頃の話よ――」


 宇宙からの資源回収を目的とした探査機ペルセフォネ。

 それが持ち帰った資源の中にQ因子物質――つまりマナを抑える作用のある物質が微量に混じっていたそうだ。


「研究部長は当時、本命とされていたQ因子物質以外の不要な部分を譲り受けることができたそうなの」


 貴重ではあるがQ因子物質が含まれていない。

 だから友好国の研究者に渡しても構わないとされた部分。

 九重先生がそれの解析を進めていた最中。


「偶然見つけたのよ、Q因子の連鎖反応を抑制する物質をね。研究部長はそれに“アナ”と名付けたわ」


 人類に災禍を招いた探査機が希望も一緒に運んでいたとは。

 なんとも皮肉なものだと思った。


「それ以来、彼は研究に明け暮れ、ようやく完成と呼べる状態まで持ってくることができた」

「だが、肝心の材料がないと?」

「えぇ、だから今この国にあるのはこの一本だけ」


 理事長、桂木さん、そして俺の視線がアタッシュケースの中の小瓶に落ちる。

 一本だけ……

 それでは到底世界を変えることは叶わない。

 おまけに材料は宇宙ときた……


 それでも今、それが俺たちにとっての”希望の光“であることは間違いない。


「なんとかして宇宙にある材料を取りにいけないんですか?」


 思わず話し合いに割り込んだ俺に二人の視線が降り注ぐ。

 あっ……

 自分の”護衛“という役割を思い出した俺は肩を縮こませながら一歩後ろへ下がる。


「すみません……」


 そこへ理事長の声が響く。


「方法はある。ただ、それには自衛隊や政府の力が必要不可欠なの」

「今すぐには無理だろう」


 桂木さんがピシャリ、と理事長の話を遮った。

 そして、一口も料理を口にしないまま席を立つ。


「ロケットを一つ飛ばすのには時間がかかる。ましてや、Q因子のあった太陽圏の外側まで飛ばせるのはNASAぐらいだ」

「灰原の脅威もある。なんとか前向きに検討して貰えないかい?」


 座ったまま、前だけを見据える理事長。

 桂木さんはそれに静かに首を横に振る。


「私個人の意見は別として政府や統合幕僚監部は灰原とやらを脅威とは見做していない」

「えっ……?」


 あんなに堂々と人類を魔物に変えるとか宣言してたのに……?

 それがどうして脅威ではないのか。

 

「奴自身はアイリスを前に戦いもせずに尻尾巻いて逃げた。そのことが警察とマギ管に任せておけば対処可能だとする判断に繋がっている」


 確かに、使っていた武器は拳銃のみだったし戦闘能力はそこまで高くないと見積もっているのか。

 でも、あの余裕そうな顔を見るにまだまだ奥の手は隠し持っていそうだし……

 彼の性格からして、”とっておき“とかは大事な所で使いそうなのだが。


 そんな言いようのない不安が胸の奥から込み上げてくる。

 

「まぁ、そのアナフトリウムの件は上に掛け合いはしてみよう」


 桂木さんは襖の前で立ち止まると最後にそう言い残し襖を開く。

 パタンっという音を残して閉じた襖に視線向けているとインカム越しに琴音の声が響いた。


『今のところ、怪しい動きをしている奴はいないって報告が入っているわよ』

「了解」


 琴音とそんなやりとりをしているのをよそに理事長が刺身にサッと醤油をつけ口の中へ。


「まぁ、いきなり餌に飛びつくほど単純な敵ではないでしょう」

「ですね……」


 ここで引っかかってくれるのが一番楽なのだが。

 まぁ、そう上手くはいかないか。


「でも、奴らが動かざるを得ない情報は出した。あとは待つだけで勝手に網にかかるはずだわ」


 久世さんを助けたい。

 そんな思いとは裏腹に待つことしかできないのがもどかしい。

 エレナは大丈夫だろうか?

 そんな心配をしていると理事長が桂木さんの座っていた座布団を静かに指し示す。


「このフードロスに厳しい時代に丸ごと残して行くなんてほんと、桂木のボンボンは……」

「あはは……」

「勿体無いから貴女が食べちゃって」

「えっ、でも……」

「若いのが遠慮しないの」


 どうにも、この人に押されるとなんだか弱い気がする。

 恐る恐る今度は隣ではなく理事長の正面に座る。

 

「さ、食べましょう」

「は、はい」

 

 それから、他愛のない話をしながら料理をつつき合い。

 テーブルの綺麗な木目が見えてきた頃。

 理事長がそっと薬の入ったケースを俺の方へ差し出した。


「これは貴女が持っていて貰える?」

「えっ⁉︎」


 魔物を元に戻す薬を俺に持て……と?

 流石に責任が重大すぎる。

 「受け取れません」と突き返すが、理事長も向こう側からケースを押し返してきた。

 

「今の話、聞いていたでしょう?情報が漏れれば我々の身辺は安全とは言えなくなる」

「いや、でも、私の周りも安全かと言われると……」

「いいから……それにもし、久世努さんが魔物化しているようなことがあればそれで助けてあげて」


 ……そう言われると弱い。

 押し返す手から自然と力が抜け、緑色の液体の入った瓶が俺の眼前まできた。


「あと、九重が言うには理論上は貴女を元の男性の姿に戻せる薬でもあるそうよ」

「そう……なん……ですか……」


 本当に神崎理事長は押し方がうまい。

 今、手元にある瓶一本では自らの意思とは関係なく魔物にされてしまった人を戻すので精一杯だろう。

 そうなると、俺が男に戻るには魔法少女の力が必要無くなり、宇宙から材料を調達できる日を迎える必要がある。

 

「狡いとは思う。でもこの魔法がある時代を私たちの世代で終わらせる。そのための力を貸してほしい」


 理事長はそう言うと唇を固く引き結び、一点の迷いのない視線が静かに俺を貫いた。

 この先、何が待ち受けているのかはわからない。

 でも――


 身近な誰かが知らないところで日常的に命を賭ける。

 そんな日々は終わらせなければならないはずだ。


「はい」


 頷きながらそう返事を返す俺に理事長は少し口角を上げる。


「ありがとう。この薬を必ず世界中に届けましょう」


 そう告げると理事長は席を立つ。

 

「それにはまず、私があの桂木とかいう頭デッカチを説得しないとね」

「自衛隊の力が必要なんですね?」

「自衛隊も米軍も政府も全て巻き込む必要があるから本当に大変よ〜」


 一体、理事長の頭の中ではどれほど壮大な計画が描かれているのだろうか。

 そう固唾を飲んだのだが……


「目的は果たしたし、今日はこれで帰りましょう」


 その後、料亭を出てマギ管まで帰る車内でも理事長は一切計画のことを口にしないまま――

 灰原への非常に大きな餌をチラつかせた夜は静かに更けていった。

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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読みました。素晴らしい作品をありがとうございます!ソフィアも魔法少女の皆も良い娘達ですしマギ管の大人達もOTONAしてて好感が持てます。これからも楽しみに更新を待ってます。
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