表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/121

103話

『こちら、ホークアイ、要救助者のうち三名を収容』

『司令部からホークアイ、負傷者の状態を報告せよ』

『現在、負傷者は収容していない』

『……アイリスは?』

『未だにトンネルの中に取り残されている模様、送れ』

『……フェイクバケーション、聞こえていたら応答せよ』


 垣守先輩たちに全員が助かるための作戦を話している最中に無線機から聞こえてきたやりとり。

 怪我のない人が先に上がってきたからだろうか。

 桂木さんの声には“なぜ重傷者から上げないんだ”と責めるようなニュアンスが感じられた。


 それに垣守先輩が無線機を握りながら俺の方へジトっとした視線を送ってきた。


「これ……私が悪いの……?」


 責めるように告げられた一言。


「ソフィアさんが悪い……? いや、元々は私のせいで怪我をしたから、私が悪い……?」


 戒田さんがコテリと首を傾げる。

 久世さんがその小さな肩に手を乗せて静かに首を横に振り、垣守先輩へ諭すような眼差しを向ける。

 

「こういう時は年長者が泥を被るもんだぜ」

「それなら最年長は久世さんでしょ?」

「俺は民間人だろ!」

「はぁ、言い争いをやってる場合でもないし分かったわ……」


 先輩は諦めたように小さく息を吐くと無線機のスイッチをカチリと押した。


『こちら……フェイクバケーション』

『……重傷者から優先して地上に上げて欲しい』


 案の定、お叱りの言葉を頂いてしまった。


「月城さん……覚えておきなさいよ……」


 俺は睨みつけてくる先輩に両手を合わせて頭を下げる。

 

『アイリスはやむを得ない事情があって第一便には乗せられませんでした』

『……事情?』


 桂木さんがそう聞き返してきた直後。

 ギィィィっと、少し不安を掻き立てる音を鳴らしながらゆっくりとエレベーターが戻ってきた。


「説明している時間が惜しいので、今から言う支援要請の実施をお願いします」

『……了解、何が必要だ?』

「非常口の蓋をしている部分を下に瓦礫を落とさないように破壊することは可能ですか?」

『立坑上部の換気塔の部分のことか?』

「はい、それをこちらの合図と同時に破壊できますか?」

『……可能だ』

 

 どんな要請をしているんだとツッコミを受けても何も不思議じゃない。

 そんな無線に桂木さんは“できる“とだけ答えてくれた。


 そして、垣守先輩がこちらの脱出プランを手短に話していく。


『分かった、換気塔の破壊はマギバスターが実施せよ』

『マギバスター了解。直ちにポジションへ移動します』


 正直言って、賭けに近い危険しかない方法だったが無事に了承を得ることができた。

 垣守先輩の合図で、俺たちは久世さんを含めた四人“全員”でエレベーターの中に乗り込む。


「よし、帰るぞ……」


 久世さんが上昇のボタンを押す。

 

 ガコンッ。


 腹を突き上げるような衝撃が走る。

 そして、琴音たちの第一便の時に比べて少し苦しそうにエレベーターがゆっくりと上昇を開始した。


「あとは朝倉澪がポジションにつくのを待つだけね」

「ですね」


 垣守先輩も、戒田さんも、久世さんも、そして俺も祈るように上を見上げる。

 

 ギギィィ、ゴゥンンンン――


 唸り声のような音が上から微かに聞こえてくる。

 それと同時――


 ゴゴゴォォォォオオオ!!!


 耳をつんざくような轟音。

 さっきまで俺たちが居た場所で落盤が発生し、あっという間に土砂に埋もれてしまった。


「間一髪でしたね……」

 

 落盤の衝撃でかごが少し揺れる。

 戒田さんが冷や汗を流しながら呟いた。


「本当に……」


 ギリギリだった……

 あと少しでも遅れていたら俺たち四人は今頃……


 思わずゴクリと唾を飲み込む。


「制御盤は……まだ生きているか……?」


 久世さんのそのセリフにハッとして土砂に埋もれた場所を見る。

 さっきまで久世さんが弄っていた盤は完全に土砂に埋もれてしまっている……


「これはどこまで上に上がれるかが勝負ね……」

「ですね」


 まぁ、元々エレベーターが負荷に耐えられずに止まることは想定済みだ。

 だが……あまりに早くギブアップするのは勘弁願いたい。


「まずいな……」


 しかし――


 現実は非情なものだ。

 久世さんが顔を顰めたその瞬間。


 パチンッ!!!


 何かが弾け飛ぶような音がして、ワイヤーの巻き上げが止まってしまった。

 下へ下へと流れていたコンクリート壁も動かなくなる。


「思ったより早く止まっちゃったわね……」

「まぁ、でも換気扇の部分は越えたので行こうと思えば……」


 一番の難関だった換気扇などの構造物が邪魔をする部分は越えてはいる。

 上を見上げれば、微かに漏れる陽の光も見える。


『こちらフェイクバケーション、地上まで残り30メートルほどでエレベーターが停止』

『……了解、例の作戦は実行可能か?』


 先輩が無線を強く握り締めたまま、俺の方へ力強い視線を送る。


「大丈夫よね?」

「……はい」



 今からやる救出作戦の成否は俺一人の問題じゃない。

 ここにいる全員と地上にいる人達その全部にかかっている。


「おそらく、問題なしです……」

『了解……各隊、配置状況を知らせ』

『こちらホークアイ、配置完了』

『マギバスター、スタンバイ完了です』

『ボクたちマギ管組もいつでも大丈夫だよ』


 自衛隊、マギ管と二つの組織の人間の両方が息を合わせる必要がある。

 自然と早くなる鼓動を落ち着かせようと息を大きく吸い込む。


「マギ管と自衛隊が力を合わせた象徴的な事象になればいいわね」

「はい」


 垣守先輩の言葉に戒田さんが強く頷いた。


「私たちは考え方は違っても向いている方向は同じはずですから」


 まさか戒田さんの口からそんなセリフが飛び出してくるとは……

 思わずその真っ直ぐ瞳を凝視していると彼女はわずかに頬を膨らませた。


「もしかして……まさかコイツがこんなことを言うなんて、とか思ってます……?」


 ぎくっ。


「それを教えてくれたのはアナタなのに気付いてないなんて……」


 狭いゴンドラの中、戒田さんが一歩、また一歩と距離を詰めてくる。

 背中に冷たい鉄の感触を感じ、もうこれ以上は下がれなくなった瞬間。


『よし、今から10秒後、救出作戦を開始する。各隊用意は良いか?』


 空気が一変した。


『こちらホークアイ、用意よし』

『マギバスター用意よし』

『こちら石動、問題ナシ』


 いよいよだ。

 無線越しに伝わってくる緊張が胸に流れ込んでくる。


『フェイクバケーション、準備完了』 


 最後に垣守先輩の無線が入り、心臓が煩くなり、手に汗が滲む。


『開始10秒前、10秒前』


 勝負一瞬、一つのミスさえも許されない。

 空気が張り詰めるなか、少しでも平常心を保とうと深呼吸を繰り返す。

 落ち着けと心の中で繰り返しているとふと左手が温もりに包まれる。


「きっと大丈夫だから」


 振り向くと先輩が俺の左手を握り締めていた。

 俺はそれに黙って頷くと上を見上げて静かにその時を待つ。

 左手に感じる柔らかな温もりのおかげで鼓動は少しずつ静まりだしている。


『5秒前、5、4、3、2、1――今!!』

『マギバスター、砲撃を開始します』


 刹那――。


 俺たちがいる立坑の上部が強烈な光に包まれる。

 極太の光の束が右から左と横方向へ流れ、容赦なく上層の構造物を消し飛ばしていく。

 当然、その中にはエレベーターの昇降機も含まれている。


「来るわよ!!」


 垣守先輩が叫び声を上げるのと同時。

 光の束の先へと飲み込まれていたエレベーターのワイヤーが音もなく切れた。

 そして、エレベーターが重力に従って落下をはじめ、俺たちの体が宙へ浮かぶ。


「行きます!!!」


 合図を送り、あらかじめ切断しておいたエレベーターの天井の隙間へ手を伸ばす。

 そして、エレベーターを吊り下げるワイヤーを掴むと中に引き込む。

 あとはそれを垣守先輩の盾の持ち手部分に括り付け、ワイヤーに魔力を流す。


「間に合え……!」


 祈るように出た言葉と同時に魔力を流す。

 ワイヤーの上を青白い光が迸る。

 邪魔をする構造物が失われ、ぽっかりと穴を開けた立坑の上。

 その先の青空を目指して真っ直ぐにワイヤーが弾けるように伸びた。


 そして――


「衝撃に備えて!!!」


 下に見える換気扇とそこへ雪崩れ込む土砂。

 それが眼前いっぱいに広がった――その瞬間。


 ギュンッ!!!!!


 しなるような轟音を立て、ワイヤーがピンと張り詰めた。

 それと同時――

 下から突き上げるような衝撃が襲いかかる。


 全身の骨が軋み、一瞬、脇腹に刺すような激痛が走る。


 だが――


 地面に激突したような衝撃ではない。


「なんとか、ギリギリセーフってやつか……?」


 久世さんがホッと息を吐く。

 その声につられてギュッと閉じていた目を開く。

 視界に広がるのは大きな換気扇。

 その僅か三メートルほど上でエレベーターは空中に浮かんでいた。


「全員、怪我はない?」

「俺は腰をちょっと強打しちまったが問題はねぇ」

「私も問題ありません。ソフィアさんは……」


 垣守先輩、戒田さん、久世さんの心配そうな視線が床に座り込む俺へ突き刺さる。

 

「……わ、私も大丈夫です」


 右手を軽く上げて、無事を伝えて手すりに掴まりながら立ち上がる。


「良かった……」


 周りから聞こえる安堵の声の中、上を見上げると――

 垣守先輩の盾が見事にエレベーターの天井に開けた穴を塞ぐように張り付いていた。


「成功、ですね……」

「えぇ……!!」

「ワイヤーを簡易的に固定してるだけだから油断はできねぇがな」


 この天井にへばり付く盾が一体どれ程の負荷に耐えうるのか?

 確かにそんな心配は尽きない。

 油断するにはまだ早いと言う久世さんの忠告に先輩は頷きを返して無線機を握る。


『こちら、フェイクバケーション、全員無事です』

『了解!! 作戦の第一段階を完了。準備が整い次第、かごの引き上げを実施せよ』

『こちら石動、現場に到着、これより指揮を取る』

『司令部了解』


 そして、その無線が切れた直後。


「おぉ〜い、全員無事か〜?」


 立坑の上の方から楽の声が降ってきた。

 どこか少し能天気ささえ感じるさせる声音に自然と全員の顔が上を向く。

 根拠はないがその声が聞こえただけで大丈夫という気がしてしまう。

 そう思わせてくれる楽のムードメーカーっぷりはやっぱりすごい……

 

「えぇ!! 大丈夫!!!」


 先輩が力強く返事を返す。


「少しずつ引き上げるぞ〜!」

「わかった!!」


 そして――

 立坑の上からピッ、ピッと規則的なリズムで笛の音が鳴り始める。

 その音と共に、少しずつゆっくりとエレベーターが軋みながら上に向かって上昇を開始。


『こちらホークアイ、現在ワイヤーの繋ぎ目に問題は認められず』

『こちらマルヨン、地上までの距離は30』


 少しずつ、少しずつ。

 差し込む陽光が強くなってきた。

 コンクリートの壁の天辺が徐々に近づき、下を覗き込む自衛隊員や楽の姿が徐々にはっきりと見えてきた。


「よし!! リーダー!! もう届くぜ!!」


 先ほどよりもずっと近くで響く楽の声。

 その直後。

 立坑の穴の縁から植物の蔦や幹が一斉に伸びてきた。

 ガサガサとエレベーターへまとわりつくとまるで捕まえるようにガッチリと固定する。


「しっかりと巻きついたわよ!!」

「うっし!! 引き上げるぞ!!!」


 先輩の言葉を受け、楽が大きく手を挙げる。


『こちらホークアイ、救助活動を手順通りに実施中』


 笛の音がピーッと長いものへと変わる。

 そして、先程までとは比べものにならないスピードでエレベーターが上昇を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ