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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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102話

 久世さんがカチャカチャと盤の中に手を突っ込んで迷いのない動作で線を捌いていく。

 

「お父さんすごい……」

「あたぼうよ! 何年をやってきたと思ってんだ!」


 そのやりとりを横目にエレナが俺の脇腹へ止血シートを貼り付ける。


「どう?」

「多少マシになったかな……?」


 脇腹はまだピリピリと痛みを訴えるがさっきほど酷くはなさそうだ。

 俺は下半身に力を込めてゆっくりと慎重に体を起こす。


「よしっ、これで動くはずだ!!」


 それと同時に久世さんが“カチリ”と主電源と書かれたスイッチを上げる。


 そして――


 遠くの方から落盤の音に混じってウィーンっというモーター音が聞こえてきた。


「エレベーターの電気、きたよ〜!」

「よしっ」


 セイラからの報告に久世さん、エレナ、先輩がそれぞれガッツポーズをした。


「それじゃ、早く上に……」

「待った」


 エレベーターを動かすべく足早に動こうとした垣守先輩を久世さんが引き止めた。


「応急処置をしただけだから、いっぺんに大人数を乗せると故障する可能性がたけぇ」

「何回かに分けた方が良いってことですね?」

「そうだ、一回の昇降で運べるのは三人が限度だと思ってくれ」


 今、この場にいるは七人だから、三回に分ける必要があるということかな?

 そうなると、誰がどういう順番で地上に上がるかなのだが……

 垣守先輩の視線が俺を捉えたあと全員の顔をぐるりと一周する。


「負傷者から先に上に上げましょうか。久世さんは……」

「俺は最後でいい。トラブルになった時に対処できる人間が居るだろう?」

「わかったわ。じゃあ、エレナと柊木さんと月城さんで先に上がって頂戴」


 琴音とエレナがそれに静かに頷きを返し、俺を支えるように両側から肩を差し込んできた。


「さぁ、帰るわよ!」

「ありがとう……」


 琴音とエレナに一言お礼を告げ、簡素な作りのエレベーターの扉の中へと入る。


「久世さん」


 エレナが久世さんに声をかける。


「なんだ?」

「ちゃんと帰ってきなさいよ」

「わかってる」


 エレナが短く返ってきた久世さんの返事に一つ頷き、エレベーターのボタンを押そうとした瞬間。

 

「……待って」


 直感のようなものだった。

 俺は琴音とエレナからそっと離れるとエレベーターの中から足を踏み出して外へ出る。


「私も後からでいい」

「はぁ〜!? アンタ何言ってんのよ!!!」


 琴音が突然勝手な動きをした俺を怒鳴る。


 でも――


 揉めているような場合でもないし説明する時間も惜しい。

 俺は心の中で謝りながら近くにいたセイラの背中をエレベーターの中へと無理矢理押し込む。


「きゃっ……ちょっとフィアちゃん何を……」


 セイラが抗議の声を上げた瞬間。

 俺の行動の意図を察してくれたようだ。

 エレナが素早くエレベーターのボタンを押し、扉が閉まる。


 そして――


 ガコンッと音を立て、エレベーターが抗議の声を上げる二人を乗せ、上に向かって動き出した。


「……月城さん、どういうつもり?」


 それを見送る俺の背中に垣守先輩の刺すような視線が突き刺さる。

 俺はそれを受けながら先輩でなく、久世さんに向かって声をかける。


「久世さん……あのエレベーターに三回目は存在するんですか?」


 久世さんは俺の問いかけに対し、盤の中を覗き込んだまま静かに息を吐く。


「……」


 その無言に何かを感じたのだろう。

 戒田さんと先輩が視線の先を俺から久世さんへと切り替えた。


「本来、昇降機とは関係ねぇ電源を無理矢理回しているせいで容量に全く余裕がねぇ」

「つまり?」

「……誰かが常に盤に張り付いて面倒を見てやる必要があるってわけだわな」


 それで全てを察したのだろう。

 先輩と戒田さんが息を呑む。


「じゃあ、お父さんは……」

「悪いな葵、アイツにはよろしく言っといてくれや」


 やはり、久世さんには自分が助かるつもりがなかったのだ。


「ふざけないで!!!!」

 

 戒田さんがそう言った瞬間。

 

 カチッ。


 エレベーターのモーターの駆動音が止まる。


「ッチ、一回も持たねぇのか」


 久世さんが悪態をつきながら盤の中に手を入れてすぐさま復旧作業に入る。

 再びゴゥン――という重低音が響き出した。


「葵、これは父として半端者だった上に嬢ちゃんにまで傷を負わせたクソ野郎なりの責任の取り方なんだ」

「お父さんは半端なんかじゃない……! ずっとずっと私たちのために頑張ってたじゃない!!」

「それでもお前らにとんでもねぇ苦労をさせたのは俺だ」


 久世さんは重く低い声でそう呟くと垣守先輩の方を向きゆっくりと頭を下げた。


「悪いが娘を頼む。俺の大切な宝物なんだ」

「……ょ…………取り……上げ……ないで……よ」


 完全に覚悟を決め切っている久世さんの態度。

 どんな言葉も全く響く様子がなく、戒田さんが強く両手の拳を握りしめる。

 その目には涙が溢れ、頬を大粒の雫が伝う。


「私からお父さんまで取り上げないでよ……!!」


 ゴゴォォ!!!


 またどこかで天井が崩れ、地面が揺れる。

 そんな中、響いた戒田さんの慟哭。


「すまん……葵……俺ァ、こんなに娘に愛されて幸せ者だな……」


 久世さんが心から嬉しそうに笑った。

 

 

「あの……」


 しんみりとした重苦しい空気が漂う。

 そんな中で本当に申し訳ないのだが……


 俺は先程からずっと思っていたことを言おうと口を開く。

 この互いに想い合う親子がこんな所で今生の別れを迎えるなんてあってはならない。


「家族愛を確かめ合うのは帰ってからにしてくれませんか?」

「あぁ?」


 阿修羅の鬼のような形相を彷彿とさせる顔でこちらを睨む久世さん。


「ふっ……いたっ……」


 それが少し面白くて堪えきれずに思わず吹き出してしまい脇腹に鋭い痛みが走る。

 俺は脇腹を抑えながら久世さん、戒田さん、垣守先輩の目を見つめる。


「みんなで帰りますよ」

「何か方法があるのか……?」

「だから、私は先に上に行かずに残ったんです」


 そう言った俺に三人は揃って顔を見合わせたのだった。

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そのまま不器用な親子を救ってあげて!
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