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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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117/123

101話

 ドゴォォォォオオオオ!!!

 ドンッ!!! ドンッ!!!!!!


 耳を塞ぎたくなるような轟音ともに地面が小刻みに揺れる。

 天井にバリバリと亀裂が走り、上から瓦礫の山が降り注いだ。


『状況を報告せよ!! 状況を報告せよ!!』


 無線機から緊迫した桂木さんの声が響く。


「灰原がトンネル内で爆弾を起爆しました!」

『なに⁉︎』

「内部で激しい崩落が起こってます!」

『……了解、脱出は可能か?』


 先輩は走りながら無線機を握り締め、琴音に背負われる俺にチラリと視線を向けた。


「現在は全員で速やかに非常口を目指してます」

『……どんな支援が必要だ?』

「電源を喪失していて非常口についたあと地上に上がるのが困難です」

『分かった……方法を検討する』


 地下深くにあるトンネルで発生した崩落。

 そこから怪我人を抱えて脱出することがどれほどに困難なのか。

 “方法を検討する”という桂木さんの言葉はそれをまざまざと示しているようだった。


 琴音が地面に足を着くたびに脇腹に走るピリッとした痛み。

 それを堪えるようにただ歯を食い縛る。

 

 そして――


「非常口についたわよ!!」


 永遠とも思われるような苦痛の末に、琴音が俺の耳元で声を張り上げる。

 やっとここまできた。


「あともう少しだから、もう少し頑張って」


 エレナが背中を優しく撫でながら耳元でそう告げる。

 あと少し――


 怪我をして弱気になってしまっているからだろうか?

 でも、その少しがやけに遠くに感じてしまった。

 

「こちら、フェイクバケーション。非常口に到着」

『了解……地上に上がる手段はあるか?』


 歯切れの悪い桂木さんの声。

 やはり、非常口から簡単に脱出とはいかないらしい。

 

「あの……」


 そんなことを考えていると戒田さんが非常階段から降りてきた。

 どうやら先に行って上の状況を確認してきてくれたみたいだが……

 その顔色は真っ青だった。


「爆発の衝撃で階段が途中で途切れてます……」

「うそ……」

「他の非常口は……もう行けないか……」


 戒田さんの最悪の事態を告げる報告。

 他の脱出手段を求めてトンネルの中に戻るのは自殺行為だ。

 使える非常口はここだけになるのだが、肝心の上に上げるために手段がない。


 さすがの先輩ですら絶句して天を仰いでいる。

 

「エレベーターは使えねぇか?」


 いち早く次の手段を模索したのは久世さんだった。

 

「電源が来ていないと思います……」

「でも、非常灯は点いてたけど〜?」

「あれはおそらくエレベーターとは関係ねぇ系統だな」


 久世さんは迷いなく言い切るとエレベーターのスイッチの前まで歩いて行った。


「やっぱり電気が来てねぇな」


 エレベーターを使えないかと提案をした割には動かないことは想定済みだったようだ。

 久世さんはすぐに踵を返して壁に埋め込まれた金属盤の前に立つ。


「おい、誰か中身を痛めつけねぇようにこの蓋を壊せねぇか?」


 ゴンゴンッと鉄板を叩く久世さん。

 

「私がやります」


 すぐに垣守先輩が剣を抜いた。


 キンッ。


 振るわれた剣が盤の上を走る。

 金属音を引き裂く甲高い音と小さな火花。

 そのあと、蓋がゆっくりと開く。


「明かりが欲しいな」

「これでいい?」


 エレナがその中をスマホのライトで照らし出す。

 中ではいくつものスイッチや配線が複雑に絡み合っているのが見える。

 俺から見るとそれは難解な迷宮にしか見えない。

 

 だが、久世さんは違ったようだ。

 その中の一つ一つをまるでパズルを読み解くかのように真剣な表情で視線を走らせていた。


「予備系統はまだ生きてるな……!」


 そして、一番下の方にあったスイッチの表示を確かめるとカチリと上へ上げる。


「あとは……昇降機……昇降機……」


 久世さんの指がたくさんあるスイッチ類の中を彷徨い――ある一点で止まった。


「ッチ……やっぱりヒューズが飛んでるか……」

「どうするの……?」


 エレナが不安そうに久世さんの顔を見る。


「生きてはいるがいらねぇ系統から引っ張ってくるしかねぇわけだが……」


 そこで久世さんの手が止まり、頬を一筋の汗が流れ落ちる。


「必要な工具がねぇ……」


 ここまで来て八方塞がりなのか……

 ガタガタと地面が揺れ、天井が軋む。

 何か……手はないのか?


「こちら、フェイクバケーション!! 工具の支援を要請します!」

『……了解ッ! 必要な物は?』


 その無線が響いたあと、先輩は久世さんへ鋭い視線を送る。


「ラジオペンチ、あとはドライバー、絶縁手袋もあると嬉しいぜ!」

「ラジオペンチとドライバー、できたら絶縁手袋だ、そうよ」

『了解』


 そして、そのすぐあと。


『作戦区域内の全部隊に通達、ピックアップポイント付近でラジオペンチ、ドライバー、絶縁手袋の各種工具がある部隊は報告せよ!』

『こちらホークアイ、工具あり』

『こちらマルヨン、工具あり』

『こちらマルサン、工具あり』

『各部隊、現在地を知らせ!』

『ホークアイ、PP直上を飛行中』

『マルヨン、PPから距離700』

『マルサン、PPより距離500、進路上に沢あり』


 すごい無線だ……

 かつて、ドライバーをデリバリーするのにここまで緊張感のあるやりとりがあっただろうか?


『司令部よりホークアイへ、工具を非常口内に投下することは可能か? 送れ』

『ホークアイから司令部、非常口の出入り口付近への投下は可能、送れ』

『横から失礼するよ、投下さえやってもらえればボクの植物タレットでトンネル内に押し込むよ』

『司令部了解、直ちに実施せよ、繰り返す直ちに実施せよ』

『ホークアイ了、アイリスへの医療物資の投下は必要ないか確認願う』

「こちらフェイクバケーション、止血パットとかがあると嬉しいわ」

『ホークアイ了解、工具と一緒に投下する』

「ありがとう」



 それからしばらく。

 奥の方で崩落を起こすトンネルをただ眺めるという地獄のような時間が続いた。


 そして――


『ホークアイ、物資を投下』


 そんな無線が聞こえ、戒田さんが慌てた様子で階段を登っていった。


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