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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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98話

「お父さんっ! 勝手に居なくなったことずっと怒ってるの?」

「久世さんっ! 目を覚まして!」


 トンネル内に響く、エレナと戒田さんの声。

 その呼びかけを無視するかのように阿修羅は殺意が宿る槍を二人へと突き出す。

 

 ガガンッカンッ!!!


 その一撃を垣守先輩が盾で弾き、赤い閃光が飛び散る。

 その攻撃の隙を狙い俺は阿修羅の背後へと回り込む。


 顔が三つあってヤツの視野角は広い。

 でも、後方は逆にその頭の重さが仇になって死角になるはずだ。

 一瞬の隙を突き、アナフトリウムの入った注射器を阿修羅の細い針が通りそうな柔らかい場所に突き刺す。


 ――それが俺の果たすべき仕事だ。


「それじゃ、加勢するね〜」


 セイラのゆるっとした声。

 それが聞こえたのと同時に杖を高く掲げるセイラが目に入る。

 そして、次々と生み出された光の球が阿修羅に向けて殺到した。


 ブンッと槍が振るわれ、光の球が次々と払われていく。

 その対処に追われている間からエレナが阿修羅の首元目掛けてレイピアを突き出す。

 

 槍の隙間を通り抜けるように阿修羅の首元へ一直線に向かったその一撃。


 しかし。


 コンッと鈍い音たてて阿修羅の鎧のような肉体に弾かれた。


「硬いっ……でも……」


 エレナは懐に入ってきた獲物を刈り取ろうと迫る刃を後方にステップして躱すと銃を構える。


「あのアリほどじゃないっ!!」


 パンッ。


 火薬の爆ぜる音と同時に黄色い閃光が阿修羅の首元を掠める。

 

 ――今だ。


 銃弾を躱すために大きく体をのけ反らせた阿修羅。

 俺はその背中を目掛けて一直線に飛びこんだ。

 足を動かすたびに脇腹に走る鋭い痛み。


 それを歯で噛み殺しながらただひたすらにその大きな背中を目指す。


 阿修羅が背後に迫る俺に気付いたのか、足先を動かす。

 やはり、頭が重すぎて首が回らないのか、体全体をこちらへ向けようとしている。


「させるかっての!!」


 俺の反対側から琴音が阿修羅の懐に飛びこんだ。


「ブレイズクロスッ」


 咄嗟にその攻撃を受け止めようと矛を取り出す阿修羅。

 だが、遅い。

 赤い二筋の線が阿修羅の槍を切り裂き、体の表面に薄っすらと跡を残した。


 刹那――


 ドガァァァ!


 爆炎を残し、爆ぜる。

 そして、爆風が俺の胸元のリボンを揺らした直後。


 阿修羅の体が爆風によって少し傾いた。


「いけっソフィアさん!!」


 戒田さんの叫びが耳に届いた瞬間。

 魔眼の予測した通りにきた横一文字に振るわれた矛。

 それをあえて血の滲む脇腹に当たるような軌道を描かせる。


 そして――


 ピタりと矛が俺の脇腹に当たる直前で止まった。

 牽制のつもりだったのだろうが、阿修羅が俺に致命傷を与えられないのはわかりきっている。

 だから、あとはそれを利用するだけ。

 琴音とエレナによって削られて赤い筋になっている部分。

 

 俺はその制止した一瞬を見計らってそこに目掛けてそっと注射針を突き立てた。

 あとは祈るような気持ちで銀色の鈍い光を放つ注射針の先を見つめるだけだ。


 ――入れ。


「行って……ッ!」


 最初は硬すぎて刺さる気配がなかった。

 でも戒田さんの言葉の後押しを受けるように少し青い光を放ったあと――

 

 プスッ。


 腕にほんの微かな手応えを残し、細い針先が分厚い皮膚の中に埋まる。

 それを確認して、俺は中の液体をゆっくりと流し込む。


 そして、その作業を終えると、俺はゆっくりと阿修羅から距離を取る。


「やった……」

「ちょっと、柊木さん……それやめて……」


 何かのフラグ立てようとした琴音に垣守先輩が釘を刺した――次の瞬間。

 阿修羅の巨体が白い光に覆われてトンネルの中がまるで真昼のように照らされた。


「眩しっ」


 目がチカチカとする中、収まっていく光。

 

「久世さんっ!!」


 エレナの声に視線を阿修羅のいた方へ戻す。


 するとそこには――


 首筋に薄っすらと赤い筋をつけ、ボロボロになった患者衣を身に纏った久世さんが横たわっていた。


「あ……エレナ……? おめぇ……なんで……」


 どうやら無事に意識を取り戻したみたいだ。

 久世さんはゆっくりと目を開くと首を少し動かしてエレナの方へ視線を動かす。


「久世さん……良かった……」


 全員が安堵の息を吐く中――


「お父さんっ!!!!」


 仰向けになる久世さんの胸を目掛けて上からガバッと戒田さんが飛びこんだ。

 最初は誰だ? と怪訝な顔をしていた久世さん。

 しかし、声や伝わってくる温もりから察しがついたのか徐々に瞼が大きく見開かれていった。


「お前……まさか……葵か?」

「うん……久しぶり、お父さん」

「そっか……」


 久世さんは震える声でまるで確めるように手を伸ばす。

 そして、埃に塗れた久世さんの腕がゆっくりと戒田さんの輪郭をなぞった。


「大きく……なった……なぁ……」

「うん」


 目に光るものを浮かべる久世さん。

 二人はやがて互いの鼓動を確めるように身を寄せ合った。


「こちら、チームフェイクバケーション。阿修羅の排除と要救助者一名の確保を完了」


 それを横目に垣守先輩がどこかホッとした表情で無線機を握る。


『了解』

「軽傷者一名、重傷者一名が発生。直ちに救助の派遣を要請します」

『……了解、重傷者の名前と状況は?』

「アイリスが腹部裂傷、意識はあり、ただ出血が続いてます」

『……速やかに救助隊を編成し派遣する』


 桂木さんのその言葉を最後に無線は切れた。 

 垣守先輩は久しぶりに再会をして家族の時間を過ごす久世さんたちを横目にこちらを振り返る。


「さ、帰りましょう。帰るまでが遠足よ」


 その垣守先輩の台詞に俺たちは少し笑みを浮かべながら頷きを返したのだった。

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