95話
目指すはずだった東京への道を塞がれた。
阿修羅は天井までぎっしりと埋め尽くす瓦礫の前で立ち尽くしている。
「あとはここから阿修羅がどう動くのか……」
なんとか強引に前へ進むのか。
はたまた、別の方法を考えるのか。
「フリーズしたままなら楽なんだけど」
「ですね」
思わず口をついた俺の願望に戒田さんが同意を示したが。
まぁ、そんな都合よく行く訳もなく。
阿修羅はくるっと顔の向きを180度回転させた。
「迂回するみたいですね……」
「面倒ね……」
どうやらもう一波乱ありそうだ。
ここを突破されて地上に出られてしまう。
なんてことになれば、結局東京へ到達する時間を少し先延ばしにしたという結果にしかならない。
俺たちがあれだけ頑張って、自衛隊が決行したトンネル閉塞作戦も水泡に帰してしまう。
だから、ここで絶対に止める。
俺は腹を決めると両隣にいる二人に向けて声をかけた。
「私に考えがあるんだけど……」
「考え……?」
ただ、今思いついたことの詳細を話せば絶対に止められるという確信がある。
だから俺はそれだけをエレナに告げると阿修羅へと向かって一歩、前へと踏み出した。
それと、同時に迂回して地上を目指すことにした阿修羅が再び走り出す。
足が地面に着く度に腹の底まで響く地響き。
それが徐々に徐々に俺の方へ近づいてくる。
「ソフィア、あなた一体何を……」
無効化の範囲内に入る直前に魔眼を起動。
映し出した未来が俺が今からやる行為に問題がないことを教えてくれた。
そして――
阿修羅の鎧のような体躯が刀の間合いに入ってきた――刹那。
俺はオーブを握る阿修羅の左手を目掛けて一直線に渾身の突きを繰り出した。
阿修羅も当然それに気づく。
カンッ!!
軽く槍で薙ぎ払うように切先を逸らされ、俺は阿修羅に対して無防備な姿を晒す。
「ソフィア!!!」
さぁ、先程から周りをちょろちょろとする小蝿を払う絶好のチャンスだ。
(来いっ!)
阿修羅のそれぞれの手にその隙を逃すまいと五本の槍が握られ――
俺の作戦通りだ。
一斉に突き出された。
風を裂き、獲物の身体を貫かんと鋭く突き出されたそれら。
キンッ!
俺はその中で致命傷にならない身体を掠る程度の軌道を描く2本の槍を弾く。
そして、残りの三本が俺の頭部、左胸、首のそれぞれの皮膚を突き破ろうとした瞬間――
三本の槍はそれぞれ俺の皮膚を薄っすらと切り裂いてピタリと停止した。
まるで電池が切れたかのように動かなくなった阿修羅。
「え……?」
「どういう……こと?」
エレナと戒田さんが困惑の声をあげる。
「たぶんなんだけど……」
俺はその声に答えながら一歩、阿修羅の方へ足を踏み出した。
すると阿修羅もそれに合わせるように槍を後ろへ下げた。
「灰原の命令が強すぎて、私を殺せないんだと思います」
阿修羅と戦いを重ねる中で感じていた阿修羅の攻撃が俺の方にあまり来ていないという感覚。
そして、灰原の指示を頑なに守り東京を目指す姿。
それを見て思ったのだ。
あの歩くセクハラマシーンの灰原ことだ。
“月城ソフィアを殺すな”という命令が下っている可能性があるのでは? と。
そして――
阿修羅はそれを忠実に守るのでは? と考えて敢えて自分を傷つける攻撃だけを防御。
命を奪いかねない攻撃はわざと捌かなかったのだ。
「色ボケ吸血鬼ね……」
「ホントに」
なぜ、自分に対して不利を齎らすような命令をわざわざ組み込むのか……
エレナの呆れた声に同意を示しつつ――
俺はもう一度、刀の切先を阿修羅のオーブを握った左手を目掛けて突き出した。
それを咄嗟に防御しようとする阿修羅だったが――
未だ、ぴたりと俺の急所に当たっている三本の槍は少しでも動かせば致命傷になる可能性があるから動かせない。
だから、もう二本の槍を急いで俺の刀の前に差し込もうとしてきたが……
「遅いッ!!!」
鋭く光る切先が青く光り輝くオーブを捉える方が先だった。
丸い表面のその丁度中央を捉える刀。
「割れろおおおおおおお!!!」
俺は魔力が全く流れない刀を全力で押し出す。
腕の血管が張り裂けそうな悲鳴を上げる中、全力で歯を食い縛る。
そして――
コロンッ
オーブは割れることはなかったが、阿修羅の手からポロリと落ちた。
阿修羅が咄嗟にそれを拾おうと身体を捻った。
刹那――
突風が吹く。
突如、視界に飛び込んできた戒田さんが勢いよくオーブを蹴り飛ばした。
「エレナさんっ!!!」
カコンッ、カンッ。
軌道の上を跳ねながら転がり、遠ざかっていくオーブ。
あそこまで行ってしまえば阿修羅が拾い直すのはそう簡単じゃない。
「二人ともナイス!」
エレナがそう声をあげるのと同時。
パァン!!!
エレナの手に握られた銃から火が吹き、銃口が跳ねる。
そして――
パリンッ
ガラスが割れるような小気味のいい音が響き――
オーブから強烈な光が放たれた。
「眩しっ……」
その言葉を最後に俺の視界はオーブから放たれた真っ青な光で埋め尽くされたのだった。




