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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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92話

 杭の刺さった天井を目掛け、勢いよく飛翔する俺とエレナ。

 トンネルの中の冷たい空気の塊が全身を容赦なく打ちつける。

 

 真っ暗な中、感覚だけを頼りに迫る天井を体を捻って蹴り飛ばす。

 そして今度はトンネルの壁を目掛けて杭を投擲。

 

 急速に伸縮したロープが俺たちを前へ前へとひたすらに運んでいく。


「ねぇ、ソフィア」

「ん?」


 速度は速いがそれ以外は全てを犠牲にした移動方法だ。

 ロープを握り、ある程度制御をできている俺はマシだが……

 身を任せるだけのエレナは違う。

 空中で体の向きがコロコロと変わり、まるで絶叫マシーンに乗っている感覚だろう。


 琴音も相当辛そうにしてたのだ。

 もしかして、限界かな?

 そう思ってエレナの方を振り返ったが――


 そこには、飛ぶ前と変わらず、マリンブルーの瞳を鋭く輝かせるエレナの姿があった。


「あの阿修羅なんだけど、魔法を無効化する時、一番したの左手が光るでしょ?」

「うん」

「さっき、チラッと見えたんだけど、あの手の中にオーブみたいなのが握られてる」


 なるほど。

 光った時に魔法を無効化できるということは――


「それを壊せば……」

「できる? もちろん、あの大技は無しで」

「やってみる」


 制御できない技を軽はずみに使って取り返しのつかないことになるのは避けたい。

 そうなると――


 どうやって、肉薄した上でそのオーブとやらを破壊するか。

 そう頭を悩ませていたのだが、考える余裕はあまりなさそうだ。


「見えてきた」

「追いついたわね」


 ドシンッドシンッと重厚な足音を響かせながら俺たちの前方を走る怪影。

 その輪郭が徐々に大きくなっていく。

 

 戒田さんは大丈夫だろうか?

 悠々とピクニックランを敢行する阿修羅の姿に嫌な想像が脳裏を掠める。


 必死になって目を凝らすがやはり居ない。

 

「戒田ならさっき追い抜いたわよ」

「え……」


 いつの間に……

 全く気付かなかったぞ。


「速度が自慢の如何にも偵察型だったのに、ガチガチの近接型に追い抜かれるなんて良い気味」

「エレナ、もうちょっと抑えよう……?」

「これでも抑えてるから」


 抑えてこれなのか……

 前々から思っていたけど、意外とエレナは気性が荒い。


「まぁ、とにかく足止めをしないとね」

「とりあえず、正面突破でいい?」

 

 押してダメなら、叩き壊すしかない。

 楽のことを笑えないくらいシンプルなプランだが大丈夫だろうか?

 

「OK、援護する」


 どうやら、問題ないらしい。

 力強い返事が返ってきたのと同時。

 エレナが繋いでいた手を離し、地面に降りた。


 勢いを前転で殺し、しゃがみ気味の体勢で体を起こす。

 そして、両腕を真っ直ぐに伸ばし銃を構えた。


 パァン! パァン!


 連続して銃声が響く。

 

「繊月連刃!」


 その直後、俺は一直線に尾を引くオレンジ色の閃光の後に続くように斬撃を放つ。

 阿修羅は先にやってきた弾丸を無効化するために一番下の左手を青白く光らせる。


 そして、鎧のような肉体の上で弾丸が砕け散ったすぐあと――


 二筋の斬撃が半月を描きながら阿修羅の背中を目掛けて飛来。

 しかし、これも左手が光った直後にかき消されてしまった。


 でも――


 本命はそれじゃない。

 俺は“カチリ”と魔眼を起動。

 そして、空中で体勢を整えると杭を投擲。

 投げられた杭は走り続ける阿修羅を追い越し、その先の地面に突き刺さる。


 その瞬間。

 ロープの伸縮と同時に俺と阿修羅の間にあった距離が一気に狭くなっていく。


 そして――


 あと少し、というところでまたもや阿修羅の左手が発光。

 ロープに流れている魔力が詰まったかのように滞り、伸縮が停止。

 無効化は魔眼にも有効だったようで頭の中を流れていた未来がプツリと途絶えた。

 どうやらクールタイムだとかいうものは未実装みたいだ。

 

 悪い方の想定が当たってしまった。

 でも、それまでに得ていた運動エネルギーは殺せない。


 俺の身体はそのまま阿修羅に向かって吸い込まれていく。


「はぁああああ!!!」


 狙いはただ一点。

 阿修羅の左手に握られるオーブだけ。

 

 阿修羅も一気に距離を詰める存在に気がついたのか足を止めてこちらを振り向いた。


 ――刹那。


 キンッ!!


 俺が振り抜いた刀と阿修羅の槍が交差。

 耳の奥で震えるような甲高い金属音が響き渡る。

 

 ――直後。

 

 無効化される前に予測した通りに左右の腕に握られた槍が振り下ろされる。

 それを阿修羅の左側を目掛けて滑りこむように回避。


「せいっ!」


 すれ違いざまに本命の一撃を何も持たずに拳を握り締めたままの左手へ。


 いける。

 刃が綺麗に左手へ吸い込まれていく。


 あとは魔力が流れていない白鷺さんの家宝の刀がオーブを切り裂いてくれるのを祈るだけ。


 そう思った瞬間――


「エアカッター!!!」


 突如、トンネル内に響いた戒田さんの声。

 それと同時、阿修羅の左手がまた発光した。


 反射的にピクっと腕が動き、僅かに軌道が狂ってしまった。


 カンッ!


 乾いた音と共に、刀が拳の少し上。

 手首のあたりを強く叩く。


 刃先から伝わる振動に手が痺れるのと同時に刀身が大きく押し返されてしまった。

 まずいっ。

 当然、そんな大きな隙を見逃してくれる敵じゃない。


 五本の腕に一斉に槍が出現。

 薙ぎ払うのか、突きかそれとも全てがバラバラに動くのか。

 魔眼が使えない今、相手の攻撃の軌道がさっぱりわからない。


 咄嗟に後ろへステップをした瞬間。

 五本の槍が一斉に突き出される。


 当たれば致命傷は避けられなさそうな三本を何とか刀で捌き――

 残りの二本は身を捩ることで回避を試みる。


「っ……!」

「ソフィ!!!」


 だが、そのうちの一本が脇腹を掠めていってしまった。

 それでもなんとかトドメを刺そうとしてきた一撃をやり過ごし、無効化の範囲外へ脱出。


 その後、起動した魔眼が教えてくれた通りに飛んできた矛も回避することができた。

 下された「東京を破壊しろ」という命令を遂行するためか、それ以上の追撃はなく。

 阿修羅は再び背中を向けるとまた走り出した。


「まって……っ!」


 それを追いかけようとした瞬間に脇腹に走るピリッとした痛み。


 思わず抑えた右手を見ると手のひらに薄っすらと赤色の液体が滲んでいた。

 それを横から覗き込んできたエレナ。

 心配そうに俺の顔を見る彼女からみるみるうちに血の気が消え失せる。


 そんな大袈裟なものじゃない。

 とにかく、彼女を安心させねば。


「大丈夫、け……」

「お前っ!!」


 軽傷だから……

 そう言う前にエレナの怒鳴り声が響いた。

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