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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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91話

「あなた、さっき無線で何を言われたのかわかってるの?」


 少し怒気を孕んだエレナの声。

 戒田さんはそれを曇りのない眼で真っ直ぐに見つめ返す。


「阿修羅討伐は慎重に判断する。でしたか?」

「そう、それをいきなり無視すんなっての」

「コイツを市街地に行かせないためです」

「それは上が判断すること、あなたはヒーローじゃなくてソルジャーでしょう?」

「兵士だとして誰かを守るために戦うことがダメなんですか?」

「だから……」


 エレナと戒田さんの言い争いが続く中、阿修羅が動き出した。

 ドシンっとトンネル内に響いた足音。

 それにエレナたちは言い争いを中断して視線を阿修羅の方へと戻した。


「何をする気?」


 垣守先輩がこちらへ一歩踏み出した阿修羅へ警戒の声を上げた――その時。


『やぁ、魔法少女のみんな、灰原悖理の吸血鬼チャンネルへようこそ』


 阿修羅の腰に巻きつけてあったスピーカーから軽薄な声が響いた。


『いやぁ、まさか俺たちが使ってる魔物の通路がバレちゃうなんて予想外だったよ〜』

「その割には随分と余裕そうね?」


 垣守先輩が阿修羅の腰のあたりに鋭い眼光を送る。


『まぁね、ところでなんだけどさ、その阿修羅、めっちゃかっこよくない⁉︎ 俺の最高傑作なんだけど!』


 まるで自分のアクセサリーを自慢するかのような誇らしげな灰原の声音。

 エレナが握りしめた手を震わせる。

 久世さんという一人の人間を自我のない魔物へと変貌させたことへの罪悪感。

 

 それを全く感じさせない言いように――


「人類救済だとか言って結局はただ命を弄んでるだけの外道が……」


 自分でも驚くほどに冷たい声が出た。

 コイツだけは許せない……

 沸々と胸の奥から湧き上がる感情に視界が真っ赤に染まる。


『ソフィアちゃんにそう言われるとなんかゾクゾクしちゃうね〜』


 軽薄な笑い声。

 それが響く間にも阿修羅は一歩一歩、こちらに近づいてくる。

 

『俺と君たちの思想が相容れないのは前の一件でわかりきっていたことだからさ、何も言わない』


 近づきすぎれば、魔力の流れを乱されて矛の餌食になる。

 そんな予感に俺たちは阿修羅の歩みに合わせて少しずつ後ろへ下がる。


『でも、愛しのソフィアちゃん相手にそれは薄情だから一つだけ教えてあげるよ』


 また何か碌でもないことを言うのだろうか?

 

『その阿修羅はとても良く言うこと聞くやつでね、最後に下したコマンドなんだけど……』


 灰原がそこで言葉を切った瞬間。

 阿修羅が少し前屈みになる。

 

 そして――


『リニアのトンネルを経由して“東京を破壊しろ”って命じてあるんだ』


 灰原がそう告げるのと同時。

 阿修羅が思い切り地面を蹴り飛ばす。

 

 砂煙と瓦礫を巻き上げ、走り出した阿修羅は俺たちの横を通過。

 風が吹き、瞬く間にその背中が離れていく。


『それじゃ、精々頑張って、魔物になれば襲われることはないので至急魔物になりたい方はDMくださいな〜』


 最後にそれを言い残して灰原の声もだんだんと遠ざかっていく。


「追うわよ!」


 垣守先輩の一言に俺たちは頷き、後を追いかけるために走り出そうとした時。

 

 ヴォォン!!


 風が爆発するかのような轟音と共に砂塵が舞い上がる。

 そして、また俺たちの横を何かが通過した。


「戒田さん?」


 風を操るような能力なのだろうか?

 飛ぶように移動して、あっという間に阿修羅に肉薄していく。


「行ったそばからまた勝手な行動を……」

「まぁまぁ、エレナっち、落ち着いて」


 何も告げずに飛び出していった戒田さんの背中を不機嫌そうに見つめるエレナ。

 それをセイラが嗜める。


「とにかく、東京には行かせないようにしないと」

「ですね……」

 

 あの速さだとそう時間をかけずに都市部の直下までは到達してしまうだろう。

 そうなればいくら久世さんとはいえ……

 最悪な事態が頭の中をよぎる。


 俺は自分の中に浮かんだ考えを振り払うように頭を左右に振る。

 

 今はとにかく追いついて、止めないと――

 

 そう思い直し、無線で状況報告する垣守先輩に向き直る。


「とにかく、久世さんに追いつきましょう」

「ええ、でも……走って追いつけるかどうか……」

「考えがあります」


 空中戦になったりする時にたびたびお世話になっていたのでこれは常備しておいた方が良い。

 そう思って、最近は常に腰のあたりにあるポーチの中にずっと忍ばせていたもの。

 

 俺がそれを取り出すと、以前の空中散歩を思い出したのか琴音がそっと目を逸らす。


「ロープ? あぁ、なるほど」


 それを見て垣守先輩もすぐに俺のしようとしていることを察してくれたようだ。


「でも、それだとあなたともう一人ぐらいが飛ぶのが精一杯ね」

 

 垣守先輩はそう言うとぐるりと視線を動かす。

 それに対して琴音が不自然なほど首を後ろに向ける。


「ふっ……」


 そのあまりにも露骨すぎる“嫌だ”との意思表示に思わず吹き出した時。


「私が行く」


 エレナが一歩前に出た。


「久世さんをなんとしてでも元に戻してあげたい」


 揺らぎない覚悟を宿した瞳が真っすぐに俺を貫く。


「わかった」


 俺はそれに一つ頷きを返すとエレナに向かって手を差し出す。

 そのすぐ後、迷いが全くない動作ですぐに柔らかい手が重ねられた。


「それじゃ、しっかり捕まってて」

「うん」


 エレナの手を離さないようにしっかりと握り、反対の手に持つロープに魔力を流す。


「可能な限り足止めをお願い。私たちもすぐに追いつくから」

「無理はだめからね〜」


 先輩とセイラにも頷きを返しながらロープ先端に杭を括り付け、それを思い切り投擲。

 カンッという甲高い音。

 少し先のトンネルの天井に突き刺さったことを確認し、いよいよ飛ぼうとした時。


「ソフィ」


 琴音が珍しく真剣な声音で声をかけてきた。


「あの技、使っちゃダメだからね……」


 どこか縋るように瞳を揺らす琴音。

 九重先生いわく、次元を斬るというあの技。

 

 さっき、久世さんを止めるための最終手段として使えないかとか思ってた。

 なんてことを言ったら、間違いなく頭に角を生やしてつかみかかってくるに違いない。

 

 だから、ここは使うことを検討した、なんておくびに出さないのが吉だ。


「わかった」

「約束だからね」

 

  それに頷くと同時にロープが一気に伸縮を始め――

 俺とエレナは真っ暗なトンネルの空中に勢いよく弾き出されたのだった。

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