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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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87話

 ゴゥン――ゴゥン――

  

 一般の人が乗ることは全く想定されていないのだろう。

 金網で囲まれた簡素なエレベーターがゆっくりと下へ降りていく。


 その金網の隙間から見えるのはコンクリートで覆われた巨大な竪穴。

 そして反対側にはずっと下まで続いている非常階段が目に入る。

 

「まさか電源が生きてるなんてね〜」


 そう呟くセイラに垣守先輩が頷く。


「たぶん、灰原が制御盤で電源を入れたんでしょうね」

「……なるほど」


 そんなことを言っているうちに風が吹き込む檻のようなエレベーターは、換気用の設備をくぐり、暗闇の中へ。

 白いLED照明だけが辺りを照らす中、一番下まで降りた俺たちの目の前には――


 白いコンクリートでできた二筋の溝が姿を現した。

 そしてその“軌道”の中に散らばる無数の魔物の毛。


「これは本当に灰原が使っていそうね」


 実質廃線とも言える休業状態なのに電源が入っていて動くエレベーター。

 そして、軌道の中にある無数の魔物の痕跡。

 それを確認した琴音とセイラが感心したような声をあげる。


「まさか、リニアの線路を魔物の移動経路として使うなんて……」

「ホントよく考えたものだよね〜」


 山奥にあったリニア中央新幹線の換気塔。

 植物タレットのない山の奥地に居る魔物をリニアの線路を利用して集結させたんじゃないか?

 そんな推理を見事に的中させた垣守先輩が軌道の中へ足を踏み入れる。

 そして、手元のAIデバイスに口を寄せる。


「こちら、チーム、フェイクバケーション。どうやら“アタリ”みたいだわ」


 ザァーというノイズが走ったあと。


『マギ管、了解』

『司令部 、了解』


 石動さんと桂木さんの声がそれぞれ返ってきた。

 セイラが石動さんに連絡をした時。

 すぐ側に桂木さんが居たことでセイラと垣守先輩の演習ズル休みがバレてしまった。


 結果、桂木さんにこちらが灰原の足取りを追いながら久世さんの救出を目指していることを話すしかなくなった。

 最初は怒られるんじゃないかとビクビクしていたのだが……


「まさか、こっちの動きに合わせるなんて言われるなんてね〜」

「その上、突出した自衛隊の魔法少女の救出を手伝って欲しい、でしょ? ホントビックリよ」


 何があったのか、何がそうさせたのかはイマイチ分からない。

 でも、まぁ、その結果として魔物たちの総大将である灰原を抑えてスタンピードを止める。

 それが俺たちの仕事になったのだ。


 そのために専用回線で逐一状況を突き合わせながら進んでいる。

 まぁ、自衛隊側の無線は専門用語が多くて正直何を言っているのやら、と言った感じだが。


「三人とも、行くわよ」

 

 トンネルの中に反響する垣守先輩の声。

 俺たちは慌ててその背中を追いかける。


 非常灯の灯りだけがトンネル内を薄く照らす。

 その中を先輩はどんどん先へ先へと歩みを進めていく。

 それに対して同じS級のはずのセイラはというと――


「フィアちゃん、し、しっかりと捕まっててね〜」


 そんなことを言いながら俺の腕にしがみついている。


「なっ、何? アンタ、怖いの?」


 そして、それを馬鹿にする琴音も足を震わせている。

 

「蟻の巣は平気そうだったのに、なんで二人ともそんなにビクビクしているんだ……」


 同じ暗さで同じような構造なのになんでこんな反応なんだ?

 俺のそんな疑問に睨みつけるような視線が二つ突き刺さる。


「あれはアリの巣でこっちはトンネルなんだよ〜?」

「休止になって捨て置かれてる場所って今思えば何か出そうじゃないの……!」

「あっちはアリの巣でこっちは人が作った廃墟、みたいな話?」


 俺がそう尋ねると二人揃って勢いよくグッと顔を近づけてくる。


「「そう!」」


 飛んできた唾と迫力の強さに俺は一歩後ずさる。

 同じ暗闇でも、廃墟なのかそうじゃないのかで怖さが違うらしい。

 リーパーの時も琴音が似たようなことを言っていたが、本当によくわからない感覚だ。


「馬鹿なこと言ってないで早く行くわよー」


 先を行っている垣守先輩の呆れたような声に二人はさらに目を剥く。


「灯華先輩が早すぎるんだけど……」

「そうだよ〜班行動をする時はペースの遅い人に合わせるって習わなかったの〜?」


 二人の非難の声にエレナと先輩が揃って息を吐き出した。

 その時。


 垣守先輩が手に持つ懐中電灯の灯りの届かない線路の奥。

 その暗闇の中で一対の赤い点が怪しげな光を放ちながら不気味に揺れる。


「「キィャァァアアア!!!!」」


 こっちの方が何かの化け物だろ。

 そう思うのと同時。

 両脇からガバッと悲鳴をあげる二人に抱きしめられて身動きが取れなくなる。


「ちょっ……苦しいからっ、落ち着いて!」


 そう嗜めるが意味はなく。

 ギュウギュウと俺の上半身を締め上げてくる。

 女の子特有の甘い香りで頭がパニックになるのもそうだが……


 こ、呼吸が苦しいし、何か吐き出しそう。

 容赦なく腹を腕でプレスしてくる二人に俺は助けてくれと垣守先輩とエレナに視線で訴える。


 だが――


 返ってきたのはコイツらどうしようもないな……とでも言いたげな半目がちな表情。

 その“コイツら”の中に自分は入っていないよな? と思った時――

 

 赤い点がすぐ側まで近づいてきていることに気づく。

 それにますます怖さゲージがMAXになって俺の腹や胸に顔を埋めようとする二人。


「いや、これ、魔物だって!」


 灰原が使っているリニアの線路に現れる赤い点。

 この状況だと魔物の方がよほど現実的だ。

 そう訴えるのと同時。

 垣守先輩の懐中電灯の灯りが赤い両目を光らせ、牙を剥く巨大なネズミの姿を映し出す。

 垣守先輩が顔面を目掛けて飛びかかってきたネズミを盾で跳ね返した――刹那。


 ザシュッ!!


 小気味のいい音を立ててネズミの腹部に剣が突き刺さった。


「はぁ……はぁ、脅かすなっての!」


 どうやら琴音が咄嗟に剣を投げたらしい。

 右腕を振り抜いた状態で荒い呼吸をする琴音。

 

「これが噂の原初個体かもってやつ〜?」


 魔物だということを確認できて無事に正気に戻ったらしい。

 先程まで妖怪のように叫びをあげていたのが嘘のように冷静な顔でネズミの死体を検分している。


 この悲鳴で灰原にリニアのトンネルに突入されていることがバレなければいいけど。

 俺はそんなことを考えながらネズミを取り囲む輪の中へ入ったのだった。

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