戦いの意味
「……んなカリスマだとかの話されてもな。突飛な話すぎて実感湧かねーわ」
「そうなの? 人間界の中枢、人間界の全てを取り仕切る人間界政府。その幹部の息子とは思えない発言ね」
島は舌打ちした。
「知ってたのかよ。まあ真田と同じく知られててもおかしくねーけど……」
「それとも『魔王』の話をしてるのに、平凡で屈託のないつまらない小さな話が出てくると思ってた? あなたが挑んだのはそんな小さな相手?」
「………もういい」
島はそれから誰に何かを言うわけでもなく、背中を向けてそのまま去っていった。その後ろをずっと隠れて見ていた水色の髪をした赤校女子がついて行った。
そして残った炎路は下を向いていたが、顔を上げて、
「……お前、名前なんだっけ」
「茂木加奈子。三傑山の助の孫娘」
「茂木加奈子、加奈子茂木、かなこもぎ。よし呼び方は『きなこもち』でいいな」
「えっ、なんでそうなるの」
「……きなこもち、赤校のアイツがいる場所に案内しろ」
「勝手に行ってもらえる? 今なら赤校の訓練所にいると思う。もう戦いは終わってるかもしれないけど」
「……それでもいい。最後お前がアイツを見た場所は訓練所で間違いないんだな。それじゃ」
炎路は茂木加奈子に背を向けて赤校に向かおうとした。
だがその背中に待ったをかける声が。
「ま、まってっス! 炎路さん! 私も行きまス!」
「勝手しろ」
炎路はチョコ色髪の少女を待たずに歩き出す。
炎路が心配ですぐ近くで隠れて見守っていた花村キツネだった。炎路を慕う彼女は、一切視線が自分の方に向けられなくても、それでも彼女は炎路を追いかけた。一瞬残った茂木加奈子と、島とその後を追いかけた水色髪のメガネっ子の方を見たが、すぐに炎路を追いかけた。
「私は……桜くんの方に島くんの事を伝えとこうかな」
茂木加奈子もすぐにその場から消えた。
そうして赤校の訓練所前に辿り着いた炎路と花村キツネ。ちょうどその時、入り口からゾロゾロと生徒たちが出てくるところだった。赤校生徒たちは目の前に現れた緑校の生徒に驚き、足を止めた。
入り口に留まる赤校生徒達。その後ろから人垣が割れて、灰色髪の少女の見た目をした魔王が現れた。担任教師との戦闘で所々赤校指定の体操着が破れていて、ミサイルの爆発で煤がついていた。炎路の姿を見て目を大きくして驚いている。
「ん? まだだぞー、炎路。1ヶ月はお前が勝ててオレも勝てる可能性が一番高いタイミングだ。再戦の約束は今は果たせない」
ここになぜいるのか問うのではなく、再戦に来たんだと思った魔王の子は、呑気な口調で芯を食ったような事を言う。
カリスマ、というものは本当にあるのだろう。それを考慮した上で炎路は大きく声を張り、問いかける。
「その再戦、一体なんなんだ!」
「え?」
「俺は最初、お前が魔王だから挑んだ! だがこの戦いはなんだ? なんの意味がある!」
「意味は———とにかくオレは、お前に強くなって欲しいんだよ、強くなって欲しいから再戦するんだ、炎路」
「う……う……」
カエルの鳴き声のような籠ったうめき声が出る。答え合わせがされて、答えがピタリとハマったからだ。
(俺のため……だが、なんで)
「なんでかは1ヶ月後な。お前はオレに勝つことだけ考えとけ。あ! でも会いに来るぶんには幾らでも遊びに来ていいからな。お前とは———」
「うっせぇ! 死ね!」
炎の針が飛んだ。だがそれは魔王の出した黒色の氷の壁に当たってガシャリと破裂して壊れた。
炎路の顔が引き攣る。魔王の子は炎路の顔を見ずに、氷の壁を撫でて好き勝手話し出す。
「魔法覚えたけどさー、コレの名前なんて呼べばいいと思う? 爆発する氷だから氷爆? それとも黒氷? どれがいいと……炎路?」
話の途中でいつのまにか炎路は居なくなっていた。そばにいた花村キツネも炎路を追いかけて行った。
「……炎路」
「だーいじょうぶだよタールくん」
見送った哀愁漂う魔王の小さな背中に、赤校の校長山の助が声をかけた。振り向けば巨体の爺さんが訓練所から出てきていた。
「あの赤髪は強く育つぞ。ここ20年の悠久の期間で見なかった貴重な原石だ。おい斜丸丸」
「なんだ」
山の助は後ろから出てきた緑校の校長斜丸丸に提案する。
「お前んとこでコイツらの戦いの面倒見れないか。ウチは訓練所の改修工事するし、お前のとこはウチのよりも頑丈だろ」
「………」
斜丸丸はイヤーな顔をしたまま、魔王を見て、数秒口をつぐんで黙ってから、重く頷いた。
「わかった」
「今、泣こうとしてた?」
「うるさい、黙れ」
「……へっ。てことだタールくん、1ヶ月だっけ? その日になったら緑校の訓練所に集まれ」
「そ。オレは今から管理局に行くから、せんせーのことは任せたよ」




