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灰色大戦  作者: 灰色のネズミ
第一章 炎路のラスボス
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裏の食事処

 この街には安いが不味くて危険な飯屋がある。

 この街を管理しているところをストロベリー街管理局と呼ぶ。略称SB管理局。

 そしてその局長は階級や貧富を無視や蔑ろにせずキチンと人にランクを付けて、必要な人に必要なものが届くような街づくりを基本とし、戦場だったこの土地をたった20年以下でビルが立ち並ぶ街に仕上げた。

 つまり金持ちも金なしも暮らせるような街。ただ貧困民も富裕民も、甘やかされると途端に貪る豚となるのは当然であった。人の欲望は留まるところを知らない。

 だが富裕民は守られているが、貧乏な者らは保護されない。だから貧民のためにある安い飯屋も富裕民の目も手も届かない裏路地にあり、汚く危険な場所だ。今日は道の隅っこに血がついていた。

 だが行く価値はあった。不味いが安い、腹を満たすのに十分。貪る豚どもには楽園のような場所だ。


「いらっしゃいませー」


 店員の高い声が店に響く。入ってきたのは2メートルを超える体格の男。しかし店にいる男たちも何人かは2メートル近くがゴロゴロいる。背が高く体も鍛え抜かれていてゴツいがそれほど珍しいものでは無かった。

 男は店に入るといつもカウンターの一番奥の席に座る。今日もそうするつもりで来たが、いつもの席に先客がいた。


(……ちっ)


 男は内心で舌打ちし、一つ席を空けた隣に座る。そしていつもの席に座る不届き者を観察した。


(……赤い髪に、青いシャツ……黒茶色のズボンに、黒いスポーツシューズ。ん? 学生か?)


 頬杖をついてそっぽを向いており顔がわからず、体格からわかりづらかったが、服装があまりにも若々しく、少年であるとわかった。


(高校生くらいか? だが学校は? 定休日ではないだろう。バックレ……それはいいが、見た感じ、感覚からヒーローっぽいんだがな。ヒーロー高校通っててサボりは不味いだろう。体裁が全てのようなものなのに)


 席を先取りされて横目で観察し続けていたが、カウンターの中から店員に注文を尋ねられて、赤髪の少年から視線を外す。


「ごろごろジャンクハンバーガー10キロと、バナナ牛のステーキ20キロ」


 男はいつもの注文をした。店員はそのまま声を張り上げて奥のシェフに注文を伝えた。

 ごろごろジャンクハンバーガーとは、ハンバーガーとは言いがたいパンもレタスも肉も重ならずバラバラになっている見た目もバランスも度外視にした下品な食べ物。皿の上に合計10キロの食い物が乗っていれば良いという安直な考えで作られた。ハンバーガーには見えないが、早くて量もあるので腹を膨れさせるなら最良の一品と言える。

 バナナ牛のステーキとは、人間界の南にあるバナナ街から輸入された牛のステーキ。


(ふぅ、いつもの場所じゃないから落ち着かないが……まあいい。とにかく腹におさめよう)


 男は『ドルフォン』を取り出して、適当にニュース記事を読む。最近はもっぱら魔王の息子の話で持ちきり。その中に、赤髪の少年と戦ったと書いてあり、男は思わずチラッと隣の少年を見た。


「お待たせしましたー! ごろごろジャンクハンバーガー20キロとバナナ牛のステーキ30キロでーす」


(あ? 20キロに30キロ? 注文間違えか?)


 店員が一皿2人係で運んできた品。自分の注文したのが来たと思った男だったが、量が多い。

 店員は男の方に持ってきて、そして通り過ぎた。置いたのは赤髪の少年のところだ。


(なにっ⁉︎ アイツの⁉︎)


「おまたせしましたー」


「ん」


 店員から品を受け取り、ぶっきらぼうに答えた少年。


(あの野郎……ガキのくせに)


 自分よりも重い量を隣の奴が頼んだ。それも相手は子供。男は対抗心に火をつけた。


「すまん! 注文追加で大帝冷麺30キロ!」


「はい! 了解でーす」


 店員に追加注文する。

 大帝冷麺とは、香辛料をふんだんに使った激辛大盛り冷麺。


(ふん! ガキに負けてたまるか)


「お待たせしましたー! 大帝冷麺40キロと豆カレー10キロでーす」


「ナニィ⁉︎」


 またしても隣に自分の頼んだもの以上の量の品が運ばれた。しかもおまけに豆カレー、豆の入ったカレーも頼んでいる。

 さきほど頼んだハンバーガーもステーキもガツガツ食う赤髪の少年の勢いは、本当にこの量を食い尽くす勢いだった。


「こ、こいつ……」


 驚きで思わず立ち上がった男はさらに追加注文をする。男の対抗心は最高潮に燃え上がっていた。

 だが次から次に男の頼んだものよりも大量の飯を食う赤髪の少年。ついには男も最後の最後にホットドッグを半分残して、リタイアしてしまった。


「ぐ、ぐぞぉ……!」


「ありがとうございました〜」


 赤髪の少年は男以上のものを食ったはずなのに、ちっとも辛そうではなく、ピンピンして店から出ようとしている。

 男は慌ててドルフォンで検索して、先程の魔王の息子記事からウワサの赤髪の少年の名前を探す。そして見つけ出した。


「ま、待ってくれ! 炎路くん!」


「あ?」


 態度悪く、鋭い目で振り返ってくる赤髪の少年———炎路。

 男は立ち上がって店を出る前に炎路を呼び止めた。


「……よければ、ここの飯代奢らせてくれないか」


「は?」


「いや俺の勝手に取り付けた勝負だが、俺は君に負けた。だから敬意を込めて奢らせてほしい」


「………」


 炎路は自分の座っていた席と、男の席を見比べて、同じメニューだが量が違うことを見つける。鼻で笑うと、


「奢るって言うなら甘えるがな」


「ああ、そうさせて欲しい。また会ったら今度は声かけて良いか」


「ダメだね。そこまでは嫌だ。めんどくせー」


「そうか。いや呼び止めて悪かった」


 変な奴だ、と炎路は首を振って店を後にした。

 店を出てすぐに2、3人チンピラが武器を持って襲い掛かってきたが、炎の針を横に振って一網打尽にした後、暗い裏路地から出る。


「………はあ」


 炎路は青い空を見上げて、重い息を吐いた。

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