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灰色大戦  作者: 灰色のネズミ
第一章 炎路のラスボス
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灰色の騎士 弐

 漆黒の氷壁。光を通さず光を氷面に流して遮る壁が、タールの目の前にいきなり現れた。

 タールの魔法は“黒い氷”。今は壁を生み出して見せた。


「炎路リスペクト、ってな」


「炎路? そういえば戦ったと報告があったな。そうか」


「隣高校でも知ってるんだ」


「彼、母親を六歳の頃に亡くしたらしい。目の前で」


「え?」


 腕の装甲を変形させながら、高天ヶ原は話す。


「その母親の名も、さらには父親の存在も、何もかも闇の中に葬られて情報に存在しない。赤校緑校の教師陣が協力して探したが、()()()()()()()()()()()という壁に行き着いた」


 ガシャン!と作り替えられたのは、先が平べったくなったハンコのような鈍器。準備を終わらせた後も話は続く。


「そこから先は調べられなかった。“局”からも止められた。三傑の山の助、斜丸丸、双葉未亜が揃っていてもなお辿り着けないこの街の闇を、我々は炎路を通して見てしまった。炎の路の先に光があるか闇があるかで闇を見たと言ったところか」


「目の前で、ってのは?」


「小学校に通い始めた頃、家に帰ると死んでいた、とのことだ」


「………そうか」


「母親の死を歳若くして直視した……そんな子がどんな風に育つかなんて想像できない。母親が死んだその後“局”の手配もあって孤児院に保護された。小学校は辞めたがな」


「母親か」


「まあでも精神力は大人以上のものがあったらしく、孤児院で勉強に励み、資格も検定も子供ながらにいくつも取った。そこまで行くと当然IQというのが測られて190を叩き出し、そうして中学に進み、今に至ると言う形だ」


「IQ?」


「子供の知能指数を測って数値化するものだ。高ければ高いほど考える能力が高く、理性が色濃く染み付く。大人になると関係ないがな」


 そこまで話して、突然ビーッと耳障りなブザー音が鳴り響いた。賓客室にいる山の助が戦いを再開するよう指示するためのブザーだ。


「……ふぅ、どうせ賓客室に入ったのは戦いを見るためではなくタバコを吸うためだろうに……」


 ハンコ型鈍器に変えた腕を振って調子を確かめてから、高天ヶ原は足裏のジェット噴射で一気に詰め寄った。勢いよく突き出された腕をタールはまた黒い氷で壁を作り上げて防ぐ。


「けど注目されているのは事実。お前を倒して、俺はヒーローに舞い戻りたい!」


 ガンガン!と壁をぶっ叩くがびくともしない。

 またも腕を変形させて、今度は火炎放射器にして炎を噴射。だがそれも防ぎ切られた。溶ける様子もない。


「……ならば!」


 戦法を変えることにした。背中から四門の砲台を出して射出。ミサイルは壁の横を回り込むようにして飛んでいく。

 タールは壁をまだ一枚しか張ることができない。なのでそれは避けるしかない。後ろに下がって蹴り飛ばす準備をする。

 だが高天ヶ原の狙いは壁の裏で爆破を起こすこと。タールを追いかけることなく四つのミサイルはタールのいた壁の裏で爆発。それと同時に高天ヶ原の方でも腕からミサイルを発射して壁に向かって爆破。両側で爆破を受けた壁は下から()()()()崩れ散った。


「っ!」


 避けていたタールから氷の礫が飛んできた。その礫も真っ黒で光を通さない。

 手のひらサイズのそれを片手で掴む。が、瞬間()()()()破裂した。


「なっ! くっ!」


 礫の破片が飛び散り装甲を傷つける。そして高天ヶ原は気づいた。先程の壁の破壊はタールが意図的にやったものなのだと。礫を投げつけるために破壊したのだ。

 プラス、タールの魔法が氷の壁や礫を生成するだけでなく、なんとその氷の物体は内部から爆発して破裂する事がわかった。


「氷と爆発という相反するもの同士の融合……厄介だ———ッ! しまっ!」


 そこまで考えて、眼前から無数の礫が飛んできているのに気づく。足の先のジェット噴射で真上に飛び上がる。

 礫は高天ヶ原がいた場所のさらに先に飛んでいき、壁に当たって爆発した。

 高天ヶ原は上から拳を振り下ろす。しかしそれもタールの顔の前に貼られた氷の壁で防がれた。先程の壁の破壊が意図的によるものなら、タールの壁の強度を高天ヶ原はまだ越えられていないと言うことになる。鉄壁に対して高天ヶ原は思考を巡らせて———その思考全てを消去した。


「壊れないなら———」


「?」


 なんと高天ヶ原は『変身』を解除した。生身の姿で高天ヶ原が現れる。

 タールは驚いた。その後ろから、高天ヶ原が着ていた『機械人形』がタールに忍び寄って腰を腕でホールドし、固めた。

 ホールドした腕から手先の装備を取り上げた高天ヶ原はそれだけを自分の手に装着。


「なにこれ? な、何するってんだ」


「機械人形の能力は変身するだけでなく、こうして俺と分離した状態で呼び出せて操れる」


 ホールドされているとはいえ、腰から上は問題なく動かせるためタールはそのまま氷の壁を顔の前に展開している。高天ヶ原はそれを灰色の手で撫でてから、ぐっと腰を落とす。


「そして今からするのは、ロボでは決して出来ない“人間の業”……背中に大怪我を負い、ヒーローを諦めた俺の……編み出した“あがき”の業だ」


 腰を捻り、足を前後に開く。まるでそれはボクサーのような装い。リズムにのって上半身を揺らし、その揺らす軌道は∞を描く。

 そして拳を、腰の捻りを戻す勢いのまま、出す。

 ガィン!と鉄の拳と鉄壁がぶつかり合い火花が散る。


「壊れないなら———壊れるまで……ぶっ壊す!!」


 拳を振った勢いで捻られた腰を、足運びと共にさらに拳を出す体勢に戻して、逆側から同じようにぶん殴る。

 それを何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返した。

 ガァンガァンガァンガァン!何度も殴り、諦めず壁を攻撃する。途中鉄の拳が割れそうになったが、それでも殴るのをやめない。

 ホールドして足止めされているタールはそれを受け続けた。


「へぇ………」


 どこか、タールは笑っていた。高天ヶ原を認めた証拠だ。

 この学校に来て初めて動いた表情を、しかし高天ヶ原は漆黒の氷の壁のせいで見ていない。

 氷の壁は、真ん中に亀裂が生まれた。


「割れる!」


「割れるまでやれ!」


「あ⁉︎」


「一度割ると決めたら、全力でやるべきだ!」


「やってるよ! テメェの想像以上に頑張ってるわ!」


 途中、謎の応援を受けながら高天ヶ原はさらに拳の振りを加速していく。腰が痛む、背中の古傷が疼く、けれど止める気は全然起きなかった。

 徐々に、徐々に開いていく亀裂。そしてとうとう割り切ったその瞬間、開いた真っ黒な壁の向こうに高天ヶ原が見たのは、嬉しそうにキャッキャと笑う可愛い女の子の顔だった。


(え?)


 高天ヶ原は動揺した。

 しかし“笑顔”も一瞬で、次の瞬間には無表情に戻り、タールは冷たい顔で反撃してきた。

 腕の振りに振り回されるがまま、体が硬直してしまっている高天ヶ原に、タールは手を伸ばした。L字に曲げた手を高天ヶ原の顔面に向かって伸ばし———


「———取った、口」


 開いた口の中に手を突っ込んで上顎を掴んだ。


「せーの、REX(レックス)———」


 そしてそのまま巨体を持ち上げて、腰に引っ付いてホールドしていた機械人形を力づくで剥がして、体を大きく後ろに翻し高天ヶ原の頭を床に叩きつけた。


「は、ぐあ……」


 叩きつけられ、浮いた高天ヶ原は意識が消えかかっている。そこにタールが口から手を抜いて、浮き上がった高天ヶ原の背中に両足でドロップキックをくらわせた。


「———ガジェット!」


 強い衝撃と共にぶっ飛ばされる高天ヶ原。途中で意識を取り戻して、機械人形を呼び出して自分の体に装着して、体勢を立て直そうとしたところに、さらにタールが接近する。


「ラビットファイア!」


 ドドドド!飛び上がったタールの連続蹴りが降りかかる。高天ヶ原自体を足場にしながら、永遠と空中から蹴りを浴びせる。その足の勢い、威力、速さはおよそ止められるものではない。

 殺される、と思ってしまうほどゾッとした。

 防御しかできなくなった高天ヶ原は、その勢いに押される。

 動かなくなった高天ヶ原の頭を、両足の先で挟み込んで大きく宙返りをし、真後ろに投げてその体を床に叩きつける。


「ドラゴンストライク!」


(くそ! コイツの本分は魔法じゃなく、格闘(こっち)か!)


 叩きつけられたところから、ジェット噴射で切り返すために一度離れた。壁際に来たところで、そこにダメ押しとばかりにタールが高速で突進してきた。

 ガードする前に腹に右手の掌底が押し込まれた。

 真後ろに押されて、足で踏ん張って耐えようとするが、さらにタールは左手で右手の上に掌底を押し込んだ。二段階ショック。


「ボーア!!」


 たまらず高天ヶ原は壁に押し込まれて潰されそうになる。

 能力者同士の戦いのために作られた頑強な準最新鋭の壁が、派手にぶっ壊れて高天ヶ原は外の観客席に押し出される。

 生徒達は悲鳴を上げて逃げ惑う。三人ほど巻き込まれて高天ヶ原の体にぶつかって吹っ飛ばされたり、壊れた壁の瓦礫が一人の学生の頭に降ってきた。

 観客席よりもさらに後ろの壁にまで吹っ飛ばされた高天ヶ原は、腹を押さえて苦しそうにうめき、起き上がる。


「けほっ! けほっ! ぐそ…………ここまでか」


 仮面の奥から見える、ぼやける視界の中で、高天ヶ原は舞台に立つタールを見上げる。

 ぼやける視界に、タールの黄金の瞳が映り込む。


「何してる、早く立ち上がって、こっちに戻って来い。まずは今のでオレの一勝な」


「………………………は、はあ?」


 何を言われたのか分からず、仮面を剥ぎ取って顔を叩いてから、意識がはっきりしたところでもう一度タールを見上げる。

 一方タールも首を傾げていた。


「あれ? アンタに勝ったらこの学校で色んなこと許可してもらえるんだろ? だから……」


 ビシッと、タールは二本指を立てて突き出す。


「あと二戦だ。今のはオレの私服許可で、次のはサボりOKのやつな。まあ“局長”に呼ばれていなくなる事があるけど、オレからの許可としておきたい。責任は“局長”じゃなくオレが取る。そのための……」


「ま、待て……待て!」


 なんとか立ち上がって、周りの生徒の安否を確かめてから、高天ヶ原は舞台に這い上がる。


「俺が言ったのは別に、お前のワガママを聞くって事じゃねーぞ!」


「じゃ、一戦目はワガママを聞く許可だ。次が私服で、その次がサボりOKで、ん……考えてみると次から次に欲しいものが出てくる。あ! そうだ! 甘い物が食べたい」


「〜〜〜ッ! わあったよ! やるよ! やってやるよ! とことん付き合ってやる!」


 機械人形の装甲を脱ぎ去って、高天ヶ原は下に着ていた上の服を脱ぎ去った。


「あー……まったく、これだとどっちが挑戦者かわからねーじゃねーか!」


プリンアラモード(スイーツの王様)もいいけど、最近ミルクセーキにハマってるんだよ、ぬるめのが良い」


「わかったよ! なんでも叶えてやる!」

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