灰色の騎士 壱
ヒーロー学校、戦闘に重きを置くのだから当然そのための場所がある。訓練のため、一人一人の能力を試すための場所、そして決闘の場でも戦いを観戦する場所でもある場所———それがタールと高天ヶ原の戦いの地、訓練施設である。
赤高校敷地内西側、校門入って校舎を見て西側に行くとグラウンドに行くまでにその施設はある。
当然頑丈にできている。人間界の最先端の技術……の一歩下がったちょっぴり古い鋼鉄の壁でできていて、滅多なことでは壊れない。
タールと高天ヶ原が観客席に囲まれた中央の舞台に登る。そして授業中だが戦闘に重きを置くゆえ途中で抜けても許されるので、生徒たちは魔王の勝負が観れるとワラワラと集まってきた。
中にはこの街でも有名な生徒がいたりする。
「おいあれ、金城じゃねーか……やっぱ来たか」
「そりゃ三年主席だもんな。隣にいんのは銀幕か」
「まだ俺は信じてねーがな」
「お前“アレ”?」
「違うが、信じられんだろ」
金髪の恰幅のいい青年と、銀髪のシュッとした青年を指差して観客席に集まった生徒たちはざわめき立つ。中には金城に対して舌打ちしたり、不信感を示す者もいる。
「二年の主席はいねーのか」
「まあ既に魔王の息子にやられたって噂だし、多分入学式前の一ヶ月の間だろうな」
「代わりに来年の主席候補だ。あの、青髪の」
目つきの悪い青い髪をした少年が機嫌悪そうに入ってきて、またも生徒たちはざわめく。
注目を浴びる島の後ろから水色の髪をしたメガネの女子がオドオドと入ってきた。長い髪を後ろでポニーテールに結っている地味な女の子。
そんな水色のメガネ女子には目もくれず生徒たちの注目は島に集まっている。
「なんで今年、島じゃなかったんだろ」
「中学でむちゃくちゃブイブイ言わせてたって噂だよな。一年主席は校長が決めるが、なんでだ?」
「知らね。前の戦争で親父に世話になったからとかじゃねーの? ほら山の助はあの戦い出てたし、そんときの最高司令官は真田の親父だったろ」
遠くで話されているはずなのに真田にはそれが鮮明に届いた。
「うぐ……」
「大丈夫よ、むらくも。身内の私が保証する、おじいちゃんは忖度なんかで選んだりしない」
「ありがと、加奈子」
「おっと、噂をすれば影がさすってとこかな」
観客席の一番前から、茂木は真田に入り口を指し示した。白髪の背の高いガタイのいい老人が二人、入ってきて、二階の賓客席室に入って行った。舞台が上からよく見える特等席だ。
特等席に入っていくのを見送ってから、もうすでにタールの方に視線を変えていた茂木加奈子に、真田は疑問に思う。
「……行かないの?」
「いやぁ、おじいちゃんは私のこと好きすぎて、私の声を聞くだけでもこっちが調子狂うくらいおかしなテンションになるのよ。それに一緒に入って行った長髪の方はシャマルおじいちゃん。シャマルおじいちゃんと一緒にいる時に変な格好したくないだろうし、私はここにいる。あと熱烈に絡んでくる感じがなんかウザいし」
「変なテンション……」
「あ! タールくんこっち見た! きゃー! タールくーん! 今すぐ抱きしめたいよー!」
「ああうん言いたいことは全部わかった。血縁ってこんなにも似るのかしら」
周りの目も気にせず大声で大手を振ってハートマークを飛ばす茂木加奈子から、真田はちょっと横に離れた。
そんな茂木加奈子をウザったく見る周りの生徒の中から、タールは青髪の少年を見つけた。
「あ、島」
島の方もタールから見られた事はわかっているが、無視して別の方を向いている。隣に座った水色髪の少女も、魔王に見られているとビックリして体を縮こませた。
「ふっ………」
タールは鼻を鳴らして小さく笑った。そして高天ヶ原に目線を戻す。
高天ヶ原の方はポッケから出した指輪を眺めていて、タールからの視線に気づき、右脚のポッケに戻した。
「大切な指輪か? 誰かに預けとくか?」
「余計なお世話だ。砕けたら、それまでだ」
「ふぅん」
タールは足元を蹴る。足場はタイルになっていて硬め。トントンとつま先で叩いて見て強度を確かめる。そうしながら質問を飛ばす。
「アンタって能力あるのか?」
「ある」
「なんの」
「鉄の」
「鉄?」
タンッ、タンッ。タールは軽快にはずみ、体を上下に揺らす。
高天ヶ原が右手で殴りかかって、それをタールは片手で掴んで受け止める。もう片方の手も飛んできたがそれも止めて、膠着する。両手を振り払い、大きくのけぞった高天ヶ原の腹に腰を落としたパンチをする。だがそれは高天ヶ原に手で受け止められた。
返しに高天ヶ原は蹴りを繰り出す。それをタールは後ろに飛んで躱す。
気づけばいつの間にかタールと高天ヶ原の周りに壁が出来上がっていた。上から壁が降りてきて二人が戦う舞台と観客席が分断された。危険性を考慮して壁を設置し、おまけに中から外の景色は見えないが、外からは中の様子が丸わかり。
「ネズミ頭が……本気でいくぞ!」
高天ヶ原がバッ、と大きく広げた両手に、一瞬で灰色をした鉄の鎧が装着された。ガチャガチャと動くその鎧小手、だがしかし装いはただの鎧というわけではなく、金属光沢が一面に輝いていた。
さらにさらに腕だけでなく全身にも、その光沢を纏った鎧が纏わりついて高天ヶ原の全身を覆う。顔も完全に隠れてフルフェイスメットよりもピッタリ彼の顔に引っ付いた仮面となった。
「………え……これって」
一瞬の事で、あっという間に姿形が変わってしまった高天ヶ原を見て、タールは驚愕して固まった。見覚えがあったからだ。
「魔王の、『変身』……! いや違う! これは」
「違う、ヒーローの『変身』だ。俺の能力は『機械人形』」
背中がガチャガチャと変形して砲弾が現れる。四門、大きさはボウリングのピンほど。そこから煙を噴射してミサイルが発射された。
「煙棒! おっかけてくるやつか!」
「サーチミサイル、狙うはネズミ頭だ!」
発射されたミサイルは途中で軌道を変えて、真っ直ぐにタールに向かって飛んでいく。
横に走って躱そうとするがその後ろから追いかけてくる。
「殴っても爆発するから意味ないんだよな。だったら」
急ブレーキして止まり、逆にミサイルに向かった。そして蹴っ飛ばした。爆発する前にタールの蹴りの力に負けてあらぬ方向に飛んでいき、タールの影響がないところで爆散。
「蹴りで無理やり軌道を変え、爆破させて処理したか。なら直接ぶち込みに行く!」
足の裏についたジェット噴射機から炎を噴出させて、一気に近寄る。そして灰色の巨人は、灰色の子に目掛けて腕からミサイルを飛ばした。腕の装甲が変形して砲門が出来、そこから先ほどより小さなミサイルが射出。
間近で飛んでくるミサイルにタールは真っ向から見据え、高天ヶ原は爆撃に備えて腕を顔の前にしてガード。
ドォン!とタールの目前で爆破して破片が飛び散る。その破片一つ一つに殺傷能力がある。
爆発からの煙の中、高天ヶ原は手応えは感じていた。必ず爆発に巻き込まれる位置で放ったのだから当然だと、確信している。
「……………あ?」
だがタールは煙が晴れた中で立っていた。
しかし高天ヶ原からはタールの姿が確認できなかった。タールがいた場所にあるのは“黒い板”。タールの全身を覆い隠すほどの大きな黒い物体。
高天ヶ原の着るロボの体が持つ金属光沢とは違う、滑るように流れる白い光沢。向こう側が見えないほどの深い闇の上に流れる煌めく光。
「……“氷”……? “黒い、氷”?」
氷。タールの前にあったのはそれだった。
今は春先、気温も高く氷のできる季節ではない。
「ふぅ……あぶね」
タールは目の前の氷を“解いて”、消し去った。残ったのは氷に刺さっていた破片が、氷が無くなった事で真下にパラパラと落ちる。
氷は自然発生するがこんないきなり発生するものでもない。すなわち……。
「魔法……?」
観客席の真田が真っ先に答えに行き着いた。真田よりも付き合いの長いはずの茂木加奈子よりも先に、魔法に精通している真田が気づいた。
茂木加奈子はチラッと真田を横目で見てから、すぐにタールに視線を戻して、首を傾げる。茂木加奈子はタールの魔法を見たことがない。魔界でも使っていたところを見ていない。
「………つまり、人間界で覚えたってことか」
「人間界で、魔法を? なんで?」
真田や茂木加奈子のみならず、他の生徒たちもざわめき立つ中で、舞台上のタールは島の方を向いた。真っ直ぐに。
普通中から観客席の方は見えない。しかしタールは正確に島の方を見た。見られていることに気づいた島は眉をひそめ、隣にいる水色の少女も首を傾げて怪しむ。
タールはクスリと笑うと、高天ヶ原に向き直った。
「もう……奇跡はない!」




