帰って来ない英傑の娘
今日のコーデ
体操着。赤いラインの入った白地のシャツと赤い体操着ズボン。
保健室を後にして教室に向かう途中、茂木加奈子は立ち止まり、二人に先に行かせた。タールと真田は首を傾げたが、茂木加奈子を置いて教室に向かった。そして茂木加奈子は『ドルフォン』を取り出して、自分の祖父に繋げた。
一方、茂木加奈子の祖父、山の助は校長室でヘッドホンをして音楽を聴いていた。ご丁寧に机の上にはヘッドホン掛けが置いてある。
白髪でガタイの良い老人は、アグレッシブなロックをノリノリで聴いていたが、孫娘からの着信音が部屋に鳴り響くとヘッドホン掛けにヘッドホンを放り投げ、すぐさま『ドルフォン』を取った。
「加奈子ちゃん⁉︎ ど、どうしたの! 今学校だよね! なんか怪我したのか⁉︎」
『はあ……おじいちゃん、もしそうだとしても怪我したらミアおばあちゃんの所に行くわよ』
孫娘からの電話に山の助は激しく反応したが、一方の孫娘の方は冷静だ。
『それと、私が連絡したのはミアおばあちゃんの話』
「それで学校でかけてきたの? まったく一緒に住んでたら帰ってすぐ話せたのに、加奈子ちゃんが一人暮らししたいって言うから。まあしかし、あの厳しい母親から離れたい気持ちもわかるが」
『……離れたんじゃない、逃げたの。それに私がする話はとっても重要で、今話さなきゃいけないと考えたから。というか私がここで電話した時点でもう大方予想はついてるよね』
「うん〜……予想はついてるけど、加奈子ちゃんの声聞きたいからぜひぜひどうぞ話して〜」
『あ、じゃあこれで』
「ええ⁉︎」
プツン、と一方的に切られてしまった。かつての英雄は孫娘から切られたドルフォンを持って、ガックシと項垂れた。
が、そんなテンションもそれまでで、顔を上げると真面目な顔をして前を見た。そこにはもう一人、老人がいる。
背の高い老人は校長室のソファに腰掛け、腕を組んでいた。威厳のある彼はため息をつく。
「お前のキモさはどうにかならんのか」
「あ? 好きなもんに好きと言って何が悪い。あとちょっと待て、加奈子ちゃんにかけ直すから」
「そんなに孫娘の声が聞きたいのか」
「加奈子ちゃんの声が聞きたいのが二割、加奈子ちゃんのためなのが八割」
「きっしょ」
悪友からの悪態を無視して、山の助はすぐに孫娘にかけ直した。
『ん? なに?』
「加奈子ちゃん……いいや、赤高校一年茂木加奈子。一つ言っておく、魔王の息子相手にこれ以上肩入れするな」
『…………やだ。母様のこともあるけど、おじいちゃんからそう言われるのが分かってたから私は家出したんだから』
「俺は人間界で勝てないと断言できる人物が二人いる、“金林檎”と“狂王”だ。しかしその二人も魔王を前にすればかなり苦戦することだろう。当たり前だ、魔界を征服できていないんだからな。そして俺は……一度も“キラー”に勝てなかった。俺の言いたいことわかるな?」
『魔王と関わるなってこと?』
「違う。何かあった時俺は助けられないという話だ。俺の忠告を無視して結果魔王に殺されました、なんて親不孝は絶対に許さない。家出した身であろうとも子は子だ。俺の力がもっとあればいいんだが、人一人の力なんてたかが知れてる、俺の手の届かない場所で加奈子ちゃんが死んだなんて知ったら……俺は……だから」
『大丈夫だよ、ありがとうおじいちゃん。でもなんとかできると感じるの。その感覚を信じたい、私は私の想いや考えを全力で信頼したい』
「……美しくなったな、加奈子ちゃん」
『これも魔界で私に光をくれて、灰色から色をつけてくれたタール君のおかげだから…………』
「わかった。成長した、孫を信じよう」
そこで通話を終えた。そして山の助は校長室の椅子に深く座り直し、天井を仰いだ。
ソファに腰掛ける悪友は少し時間を空けてから、切り出した。
「……………………、それで? 一回目の連絡はやはり」
「ああ、間違いない」
「……子が、親の知らない場所で死ぬ親不孝、か」
山の助は歯軋りした。
悪友も山の助から顔を背け、ドアのほうを見ていた。
「だが山の助、まだそう決まったわけではないだろう……連れ去られた事実は変わらないし、行方知れずなのも変わらないがな」
「………20年前の人魔停戦、最後の魔界との戦争。戦死した者が多い中、ひとつだけおかしな報告があった。魔界に18歳の娘が連れ去られたという報告。しかもそれは英傑の娘だった。当然ヒーローの子はヒーローとして生まれる」
「そしてあれから20年。行方知れずのまま時が流れ、やってきた『ヒーロー』の息子。魔王とヒーローの息子」
「未だ英傑の娘は帰ってこない」
三傑と数えられる山の助と、同じ三傑であり隣校の校長である悪友———斜丸丸、そして両校の保険医を務める治癒能力ヒーローの双葉未亜。
山の助が猛反対した茂木加奈子の魔界行きも、茂木加奈子は無事に帰ってきた。しかし双葉未亜の娘は、まだ帰ってこない。




