豹変
真田は初め、何が起きたのか分からなかった。すぐ隣にいたはずの友人が、校門前に集まっていた集団の上を軽々と飛び越えて、中心にいたタールに抱きついた。
そう、抱きついた。猫撫で声で叫びながら飛びついたのだ。出会ってから彼女の家に泊まり今の今まで彼女の様子はクールで変わらなかった。冷たい部分もあり冷静沈着、気品があって、厳かな感じだった。
そして抱きついた相手もおかしく、なぜ魔王の息子に対して彼女は抱きついたのか。この様子の変化も訳がわからない。
「タールくんタールくんタールくんタールくんタールタールくんタータータールタールタールルくんくん! くんくんくん! すんすんすんすーはーすーはースハスハスハスハはふはふはふんふふんふっふんふじゅるるじゅる! はあっ、はあっ、はあっ! や、やばい……気持ちいい♡」
怖い。真田は正直にそう思った。
周りにいる人間も全員ぽかーんと固まってしまっている。高天ヶ原も冷や汗をかいて困っていた。
ただタールだけは表情が変わらず冷静で、抱きついて来た茂木加奈子を見て、
「あれ、茂木?」
「そーですよー! 茂木ですよー! 一年ぶりだね!」
「そーだなー、桜とはすぐに再会できたけど」
「そーだよね! 私ももっと早くに会いたかった! 色々と事情があってなかなか会いに行けなかったの。お爺ちゃんも私が会いにいくのを反対してたし……でもこうして会えてホントウに嬉しいっ!」
「……お前、そんなんだっけ。なんか様子ちがくないか?」
「いやタールもわかんないのかい! じゃあ誰がわかるのよアナタのその変化!」
思わず真田はツッコんでしまった。そうすると、真田の前にいた集団が真っ二つに割れて、真田の道が出来上がった。ちょっと照れ臭くも、それでも友人二人の元に行った。
「タールきゅううううん♡ はあ! 大好き!」
「えーと、何がどうしてそうなってるの? 加奈子……いや茂木さん」
「ふっふーん! 説明してあげよう!」
タールから離れると、自分の体を抱きしめてくるくるしながら説明し出した。
「私は一年前に人間界政府から命じられて、いつか来るタールくんの監視やら見守りやらするために、あらかじめ前もって魔界に行ってタールくんと会っていたの! そこから人間界に帰ってきて一年……ずーっとタールくんを想い焦がれているうちにこんな風に……はあ、タールくんの匂い、あの時から変わってないね」
「あ、うん」
「タールも戸惑ってんじゃん。と、言うか………」
真田は周りを見る。今の茂木加奈子の話は人間の集まったここですれば、当然茂木加奈子は遺物として見られしまう。魔界に行って魔王の息子と密会し、魔王から籠絡されていると見られてもおかしくはない。こんな事、人前でしてはいけない、このくらいはいつも冷静な茂木加奈子なら判断できるだろうに、本当おかしくなってしまっているのだろう。
「と、とりあえずここを離れるわよ!」
真田はタールを引っ張り、茂木加奈子もそんなタールにくっついているので一緒に連れて行ける。そのまま校舎内に向かう。
だが真田が引っ張るタールの腕を、担任教師高天ヶ原が掴んで止めた。
「待て」
「先生⁉︎」
「……保健室に行け、そこに体操着がある。私服のままなんて許さない。真田、お前が責任持って着替えさせろ」
「は、はい!」
真田の返事を聞いて高天ヶ原は手を離した。
真田は二人を連れて保健室に行った。




