第二十三話 露店の少女アメリア
遅くなってすみません!!←(開幕土下座しながら書きました。なので凝視して目が少しぼんやり気味)
賑やかな通りとは対照的な路地裏で、服を販売している露店の少女アメリアと出会ったジェシカ。
腹を空かしていたアメリアに食事を与えたことがきっかけで交流が始まり、心を開いたアメリアはここまで来た経緯を話し始めた。
まずアメリアは父と一緒に、山岳地帯の多い帝国の北西にある『エカリア』という村からはるばる物売りに来ていた。だが、露店の許可を出している商業ギルドに赴いた際、権力持ちの悪質ギルド職員が担当した事によって存外な扱いを受けてしまい、抵抗も虚しく路地裏で出店することになったらしい。
何故そんな不遇な目に遭わされたのか尋ねると、まずエカリア村は僻遠の地であり、近くの村や町は歩いて五日かかるので、村の外の人間との交流は乏しい。それ故に帝都の商業ギルドに申請した際、職員がわざわざ地図や昔の資料を取り出して調べる事態が発生するなど、エカリア村の認知度はかなり低い状態なのである。
そしてエカリア村の名産は一般的に使われる衣類の素材くらいしかなく、さらに運が悪く作物や獲物も得られず、売りに出せるものが服の素材や村人達が作った服くらいしかなかったらしい。他の店と比べると感謝祭で売りに出す品としては弱い為、担当したギルド職員は前述の理由も含めて"認知度の低い村の品は人通りの良い所に出店しても利益を生み出さない"と判断し、路地裏に追いやったそうだ。
その為アメリアの父は他区へ単独で物売りに行くことにし、近くの露店の者にアメリアを見てもらうように頼み、娘に店番を任せて北区の方へ向かったらしい。そしていま現在に至るわけである。
「私の父は戦闘や物売りの経験がある人で、それで村の代表に選ばれてここへやって来たんです」
「そうだったの。……それしても、ひどい話ね」
ギルド職員の対応にジェシカは思わず苛立ちを含んだ言葉を発する。しかし、アメリアは否定するように首を振った。
「いえ、あの、担当した職員さんの言い分も一理あります。それに……」
「……それに?」
他にも何か理由がある事を言いかけていたアメリアは、俯きながら右手で左の袖口をギュッと掴む。だが直ぐに顔を上げ、ジェシカに話し出した。
「実はエカリア村の人達が感謝祭の情報を知ったのがつい最近で、わたしと父は申請期間が終わるときに商業ギルドへお願いしに来たんですよ。相手にとっては迷惑だったでしょうし、焦って他の商業ギルドにお願いする考えも浮かばなかったのも悪かったんです。……この前まで外との交流を希薄にしていた付けが回って来たのかな」
「…………」
「だからこうなってしまったのも仕方ないんですよ。身の程知らずの人間がこうして不参加にならずに済んだだけでもまだ良い方なのだと思ってます。村のみんなもわかってくれるでしょうし」
「……怒りを放棄しないで」
「え?」
今の現状の原因は他者からの悪意だけじゃなく、己にも非があるからなったものだと結論づけ、アメリアは気丈に振る舞う。
しかしジェシカは彼女の言い分を容赦なく指摘した。
それは故郷を滅ぼされたジェシカにとって、不当な扱いよる怒りの感情は人一倍に感じるものがあり
アメリアの心の海に深く沈んでいる怒りの感情を無視することは、復讐少女には出来なかったからだ。
ジェシカは優しさと厳しさが秘めている真剣な眼差しでアメリアを見つめながら、アメリアの大切な感情を呼び戻そうとする。
「アメリア。あなたが他人に怒りをぶつけないようにしたり、相手の問題だけじゃないことに気づいたのは凄いと思うわ。だけど、今のあなたはギルド職員の影響で、自分の良い部分を悪くしようとしている。そんなことをしては駄目よ」
「……」
「それにね、アメリア」
先ほどのアメリアの似た様に、ジェシカは怒りを抱いても良い他の理由を述べ始める。
「存外な扱いをされたのはあなたとお父さんだけじゃない。さっき話していたエカリア村や村の人達もなのよ。……あなたはそれでも平気なの?」
「……!」
直接ではなく間接的に故郷と村の仲間を貶されていたという事実をアメリアはジェシカの言葉でようやく気づき、先ほどまで達観していた雰囲気は次第に消え、最後には眦を決する様な姿勢をジェシカに示した。
「リリスさん、ありがとうございます。わたし自分の事ばかりで、村のみんなのことまで考えが及びませんでした。それにせっかく来てくれたリリスさんにも最初から諦めている姿を見せて……ほんとうにすみません!」
「そんな、謝らないで。それに冷静に考えたら、私も会って間もないあなたにあれこれ偉そうなことを言って、ごめんなさい」
「いいえ!わたしが悪いんです!」
「そんな事ないわ。私が……」
「……」
「……」
互いに自分に非があることを主張し合い始め、しばらくの沈黙が生まる。
しかし、このあと険悪な雰囲気になることは決して無かった。
「……このままだと、言い合い合戦になりそうね?」
「……ふふ、確かにそうですね」
埒が開かないことに二人は沈黙の時に悟り、区切りをつけると笑い合い、和やかな時がその場に流れた。
そして二人は再び雑談を再開させたが、アメリアはジェシカが急用で服を購入しに来たことを思い出し、ジェシカを送り出そうとする。
「ごめんなさいリリスさん。急ぎの用事があったのに、たくさんお話に付き合ってもらって……」
「いいのよ。友達と話すのは嬉しい事でしょ?」
「とも、だち……? わたしと友達になってくれるんですか?」
「もちろん。だからアメリア、またこうしてお話ししましょ?」
「は、はい。リリスさんとお話ししたいです!」
「ふふ、私もよ」
「……あの、リリスさん。よろしかったら、これを受け取ってくれませんか?」
「これは、ハンカチ?」
アメリアから譲られたのは白いハンカチだった。
一見素朴な品に見えたが、端には黄色の蝶や桃色の花の刺繍が縫われており、女性らしい意匠にジェシカは喜ぶ。
ジェシカはハンカチの製作者は誰なのか尋ねると、アメリアであることが判明。試作品で作ったらしく、購入した際の特典にしていたので陳列していなかったらしい。
「ありがとうアメリア。大切に使うわね」
「……あの、リリスさん」
「ん? なに?」
「……実は、あの……わたし……」
「……私はいつでも大丈夫だから、話せる時に聞かせて、ね?」
「ーーッ! あ、ありがとう、ございます」
アメリアが何かを言いかけていたが、"気を張らなくしていい"というジェシカの対応に、気まずそうにしていたアメリアは笑顔を浮かべる。それに釣られてジェシカも微笑み、互いに新しい友人が出来たことに二人は改めて喜びあう。
その後、二人はまた会う約束を交わした後、賑わっている露店通りの人混みに入っていくジェシカにアメリアは手を振りながら見送り、ジェシカも手を振り返しながら次の目的地へと向かった。
そして道中にて、受け取ったハンカチを見ながら、ジェシカはアメリアのことを考えていた。
(……さっき言いかけていたことって何だったのかしら?……もしかして)
先ほどアメリアの言い淀んでいた件について、ジェシカは不可解な点と関係があると感じていた。
それはアメリアの話の中に、感謝祭に参加し物売りに来た"理由"が欠如していたこと。ジェシカはそこに違和感を感じていたのだ。
(不作の話題があったから出稼ぎと感じたけれど、山岳地帯の多い北西からたった二人……。父親は戦えるって言ってたけど、今の時期で子どもと荷物を一人で守るのは難しいはずよね……)
感謝祭で一稼ぎするにしても物資や資金、道中の魔物や野盗を考えれば、潤沢じゃない限り帝都への出稼ぎは困難な道である。特に感謝祭の情報は帝国の野盗達の耳にも届いてしまっているからか、街道警備が強化されている現在でも襲われた商人の報せが後を絶たない。
なので遠方からの商人のなかには、感謝祭に乗じて活気立たせた他所の町で商売をし、帝都へ向かう途中で立ち寄った旅行客などを捕まえ利益を得ようとしている。
(最近まで交流を絶っていた村人が、急に栄えている場所へ向かうなんて違和感を感じるし、それに……
アメリアが同行した理由もあやふやよね)
話のなかにあった"それらしい理由"と、雰囲気に"悲愴感が溢れていたこと"で、アメリアと父親、そしてエカリア村という存在に対して惑わされた気分になったジェシカは首を捻る。
しかし、直ぐに深く考えない様に頭を切り替えた。
それは、アメリアが話してくれた不当な扱いを受けた時の痛みが紛れもなく本物だったのを感じ取り、信じられる部分がある相手だとジェシカは認識していたからだ。
人に対して敏感な感性を持っている復讐少女だからこそ、気付いていたとしても無意識に避け、尊重して深追いをしない様にすることも時には配慮なのだとジェシカは自負している。
(……今は心の隅に留めておきましょう)
謎の少女から譲られたハンカチを、湧き上がる疑問を抑えるようにポケットに仕舞い、ジェシカは次なる目的地へと向かった。
読んでくれてありがとうございます!
投稿ペースは調子良い時には一ヶ月に一話を予定してましたが、諸事情で遅くなりました。誠にすみません。




