サイドストーリー アメリア編
6月31日に投稿しようと思ったら、架空の日付でした。
「私の最後のお願い……聞いてくれる?」
最後だなんて言わないで。
「あなたにしかできないの……だから、お願い」
そんなの、ずるいよ。
「……だいじょうぶ。あなたなら……できる……わ」
……おばあちゃん? おばあちゃん!!
ーー私は懐かしい夢を見た。
愛する祖母が天に召されたあの日を。
母を亡くした寂しがっていた私に、祖母は母親の様に温もりを感じさせてくれた。感謝してもしきれない程に。
だからこの約束は……使命は必ずやり遂げるよ。
安心して見守っていてね。おばあちゃん。
――――――――――――――――――――――――
「ーーーっと、ちょっと! あんた大丈夫かい?」
「……っあ…………寝ちゃってたみたい」
瞼の闇を徐々に晴れさせて顔を上げると、父に頼まれて見てくれている露店のおばさんが、心配そうな顔で私を見ていた。
どうやらリリスさんからもらったご飯を食べたことで体が満足したせいか、木箱に寄りかかった後、赤子の様に睡魔に襲われ眠ってしまっていたようだ。
「すみません。ご心配をお掛けして……」
「はぁ……まったく、脅かさないでおくれよ」
私が謝るとおばさんは胸を撫で下ろし、自分の露店に戻って客引きを再開させた。
忙しい状況にも関わらず気にかけていることに感謝と罪悪感を感じながら、私はまとわりつく眠気を拭うように目を擦る。
「ご飯もだけど、やっぱり目的を果たせて安心したからかな…?」
眠りに落ちた理由も模索しながら人混みの方を見ると、山男の様な風貌の男性が手を振りながら近づいて来た。
その出立ちに道ゆく人が怖がっていたが、私は恐怖など感じず、その男性を見ると眠気からすっかり覚めることができ、そして起き上がって男性の方へ走り抱きつく。
「ただいま、アメリア。一人で大丈夫だったか?」
「うん、私は大丈夫だよ。それにおばさんが見てくれていたし、お父さんの方こそ早く戻ってきたけどどうしたの?」
「なんだか胸騒ぎがしてな、お前の様子が気になったから戻って来たんだ」
「もう……心配症なんだから」
少し過保護気味なこの人は(アルフ)父さん。私の大切な家族で、私とは分担して南区の方で商売をしていた。
しかし、お父さんの表情は徐々に陰りを帯びていき、申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「……それでアメリア、成果についてなんだが……すまない!まだ売れてないんだ!」
お父さんは謝罪の言葉を述べると、背負っていた売り物を下ろして私に見せた。村で唯一の商売の経験者だから、客寄せや、みんなで作った服が売れなかったこと"も"含めて落ち込んでしまっている。
「俺達のところに予言の人が現れるって言うけどこれじゃあな……。はぁ〜……もっと商売や接客の勉強をすべきだったな……」
「え〜と……お父さん。"加護"を渡すことができたよ」
「…………え? それって……」
「うん。さっき服を買ってくれた人がいたんだけど、"予言の人"だったよ」
落ち込んでいるお父さんを励ましつつ、目的を達成したことを伝えると当然のごとく驚き、目を大きく見開いている。大柄のお父さんがそれをすると、目玉も大きいと感じてしまうほどに。
「だからお父さん。もうそんなに落ち込まないで?無事に目的は果たせたんだし」
「……そうだな。"加護"を渡す大役はアメリアだったってわけなんだし、良しとするか」
立ち直ったお父さんは笑顔を取り戻して私は一安心すると、お父さんはマジックバッグを取り出し、露店の商品を吸収する様にしまい始めた。
「……お父さん、やっぱりもう帰るの?」
「まぁな。元々ここには長居できない状態なのは知ってるだろ? 術もずっとはかけられねぇし。ばれる前に退散しないとな」
「……うん。そうだよね」
お父さんの言う通り、私達は特殊な力を使い、この場所を拠点にして露店を開いていた。
そう―――私達がお店を開いて出稼ぎしている姿は嘘であり、一番の目的は"予言の者"に加護を渡すこと。それが私達がここに来た理由である。
頭では理解しているけれど、今までずっと村の外に出たことない私にとっては目移りするものばかりで、すぐに帰ってしまうのが勿体ないと思ってしまう。
だけど我儘を言って困らせるのも嫌なので、私は気持ちを抑えて片付けを手伝い、路地裏を元の状態に戻す作業に取り掛かる。
「お父さん、忘れ物は無い?」
「ああ、こっちは大丈夫だ」
大方片付けを終えて、私は自分の旅袋を背負いながらお父さんに尋ねると、最後の荷物をマジックバッグにしまい終え、私と同じように自分の荷物を背負いながら答えた。
「さて、予定通り南門へ向かうぞ。あっちの方は出入りが激しかったから、俺でも人混みに紛れやすい。出て行くなら今が好機だ」
「うん。……ねぇ、お父さん、ちょっとだけ待って」
お父さんに少しだけ待ってもらうように頼むと、私は通りの方に向かって頭を下げる。
「短い間でしたが、見てくださりありがとうございました。それと、挨拶せずにいなくなって、ごめんなさい」
今なお忙しそうに働き、私の声が届いていない露店のおばさんに向かって、感謝と別れの言葉を告げる。
"予言の者"以外に正体を知られてしまうわけにはいけない。けれど胸にやるせない気持ちが生まれた以上、せめてお世話になった人に私はお礼は言いたかった。
私の心中に気づいたお父さんは頭を優しく撫で、私と同じ様におばさんに向けて軽く頭を下げて感謝を示す。
そして私たちは路地裏の影に身を潜めながら、その場から立ち去った。
路地裏に存在していたものを残さずに消して。
――――――――――――――――――――――――
その頃、装飾品を扱っているとある露店では……
「お疲れ様〜。こっちもいい感じじゃない」
「ああ、おつかれ。そりゃあ手間暇かけて作った品だからね。売れ残せたりはしないよ」
「こっちも負けていられないわね。って事で、これ差し入れ」
「ああ、ありがと。ーーねぇアンタ! あたしは少し休憩するからよろしくね」
客に売り捌き続けた壮年の女店員は、別の地区の同業者から差し入れを受け取ったのを機に休憩に入りろうとし、別の店員に後を任せた。
「あ〜〜ほんと疲れた〜〜〜」
木箱に座り一息ついた女店員は、肘を伸ばして自身の体に溜まった疲れをほぐし始める。向かい側に座っている同業者は、少し疲弊している彼女を見て思わず心配をする。
「ちょっと、まだ昼前よ? そんな調子で大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。 なんだか急に疲れちゃって……」
「面倒くさい客の相手でもしたの?」
「いやね、実はそこの…………」
「……ん?」
疲れの原因を伝えようと女店員は路地裏に指を刺すが、そこには何も無く、ただ建物同士で挟まれて生まれた影が存在し、同業者は首を傾げる。
「路地裏がどうかしたの?」
「いや……その……なんでアタシ、路地裏に指差しているんだろう……?」
「……は? ねぇ、ホント大丈夫? もう少し休んだほうが良いよ?」
「……そうね。そうするわ」
自身でも理解できない行動をしてしまい、同業者に心配させてしまった女店員。その理由を疲れによるものだと考え、体を充分に休ませることした。
しかし本当の原因は、女店員の記憶から消えた一人の少女とその父親の力によりものだとは、気づくことは決して無かった。
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