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第十一話 もう一人のイエガー

ジェシカ、主人公との初絡みの巻。

(ほんの少しだけですけど……)


(なんで、この人がここに……?)


 隠蔽監獄で、ペンダントの放った光と共に消えたもう一人のイエガーを転移先の橋の下で発見し、ジェシカは驚いていた。


 差し込んだ月明かりは壁に寄りかかっているもう一人のイエガーの姿を徐々に鮮明にし、イエガーより少し長めの同じ金の髪色を示し、身につけている囚人服と手足の拘束具が、先程までイエガーの暴力を受けていたもう一人のイエガーだというのを知らしめる。


 しかし、現れたその姿には違和感があった。

 

(顔は俯いているからわからないけど、やっぱりさっきの人だわ。でも、傷が無くなってる、どうして?)


 もう一人のイエガーの体は、傷は勿論、痣や骨折箇所も無く、一連の非道な暴行を目の当たりにしていたジェシカは疑問に感じた。



 だが、ジェシカは直ぐに疑問に感じるのを止めた。


 正確には、止めざる得なくなったからだ。



(ーーうっ! ……まずい。

 頭が、痛い……視界が、ぼやけ……ッ!)



 癒しの魔法(ヒール)を連発したことと、今日の間に様々な魔法を連発した事が仇となり、ジェシカは魔力切れの症状が出始める。更に呪いの傷による大量出血によって、ジェシカの意識が朦朧とし始める。


 そして今まで懸命に立っていたジェシカの足は震えながら膝から崩れ、右手を床につきながら、転がっている薬瓶に手を伸ばそうとする。


(はや、く……飲まない、と……)


 ジェシカが薬瓶に手を伸ばそうと瞬間、付いてきたスライムが手のような部位で素早く取り、瓶の蓋を開け、ジェシカに飲ませようとする。


 スライムの優しさにジェシカは喜悦を感じたが、とうとう飲む力も出なくなってしまい、死期を感じてしまう。


(スライムくんに、お礼言わないと……こんな、ところで……いや……)




 パキリッ! ガチャン!



(……え? な、何これ、……って、あ、あれ?)




 突如、何か金属の壊れた様な音と崩れ落ちた音が鳴り、それと同時に沢山の白光の粒子がジェシカの周りを包んでいた。


 そしてジェシカは自分の意識と体力が戻っていくのを感じ、左腹の傷口を確認する。


(傷がちゃんと治っていく……呪いも無くなったってこと? これは一体……)


 ジェシカを包んでいた白光は役目を終えたかの様に徐々に消え始め、最後は弾け散ってしまった。



 あまりの突然の出来事にジェシカは呆然としながらへたり込む。だが、膝に乗り心配する素振りをするスライムに気付き、意識を取り戻す。


「……スライムくん。


 ……ねぇ、さっきのってスライムくんの力?」


 膝下のスライムにジェシカは問いかけるが、スライムは首を振る様な動作をし、腕の様な部位で右方向を指す。


「え? ーーあっ!」


 スライムが指した方向を見ると、顔を俯きながらもジェシカに向かって手をかざしているもう一人のイエガーが存在していた。彼の膝下と足元には、崩れた拘束具があり、先程の金属の音は拘束具が壊れて落ちた音だったのを物語っていた。



(この人が助けて……って、意識あったの?)



 今まで気絶していたと思っていたジェシカは、助けてもらいながらも、もう一人のイエガーに警戒心を抱く。恐る恐るジェシカが近づくと、かざしていた手を脱力しながら下ろし、弱々しく息をし始めたもう一人のイエガーに異変が起きる。



 パリ……バリ……ペリ……



(なっ、何!?)

 


 もう一人のイエガーの足や手、耳や髪といったところも含めて、全身からひび割れた紫色の欠片が浮かび上がる。


 欠片は塗装が剥がれる様に取れ始め


 頭の一部分の欠片が取れると、金髪が橙色の髪に変わり


 体の欠片が剥がれると体格が少し縮んだりなど


 もう一人のイエガーの姿は別の男に変わっていく。



 急展開について行けてないジェシカは、スライムと一緒に言葉を失いながら、今起きている現状をただ見ることしかできなくなっていた。



 そして顔の部分にも欠片が剥がれそうになった時、今まで俯いていた顔がゆっくりと上がっていく。


 欠片が徐々に剥がれると、イエガーでは無い別の顔に変わり、ジェシカは髪の隙間から覗いてくる青鈍色の瞳と目が合ってしまう。



「…………っ……」



(え……笑った……?)


 

 ガクッ



「えっ! ちょ、ちょっと!」



 イエガーだった男は目線が合ったジェシカに微笑むと、力尽きたかの様にまた顔を俯き、そのまま気絶してしまった。

 





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 





(……なにやってんだろ私……)



 七番街の路地裏の一角にある空き家。そこはジェシカが帝都を調査した時に見つけた隠れ家であり、踊り子リリス以外での活動拠点になっている。


 隠れ家の地下室で、ベッドに横になっているイエガーだった男を、椅子に腰掛けながら見ていたジェシカは、己のお人好しな行動にため息をついていた。



 あの後、ジェシカはイエガーだった男を放置する事が出来ず、自分の隠れ家まで連れ帰り、意識が戻るまで保護することにしたのだ。


(怪しい人なのに、甲斐甲斐しく世話をしちゃったな……)


 ベッドに男を寝かせた後、ジェシカは男の体の汚れを落とし、体力の回復力を高める治療薬、『ポーション』を男に飲ませた。その時の世話は、警戒心が皆無と言えてしまう程に。


(……でも、この人には色々聞きたいことがあるし、連れて来たのは間違いじゃないわよね?)


 自分の行動に合理的な理由を模索しながら、ジェシカは机の方に顔を向け、魔法の袋(腰のポーチ)から夜食用に買っておいたパンを取り出して齧る。更に魔法の袋から自動作成(オートマティック)地図(マップ)を取り出して机に広げる。


「別棟や地下も含めて、(ファブンベルク)の最上階、二十八階まで記載されてる……。よし、これで地図が出来上がったわ。家蜘蛛達を迎えに行ったらお礼言わないとね」


 作戦に必要な物を入手できたジェシカは地図を見ながら、尽力してくれた家蜘蛛達に感謝の念を抱く。


 そんなジェシカを、机の上で待機しているスライムがジッと見つめる。(目は無いが)



「あっ、スライムくんもお腹すいてるよね? ちょっと待ってて」



 スライムの視線に気づいたジェシカは水の魔法を唱え、スライムに三度目の水球を差し出す。



「ーーー♪」



「ふふ、美味しそうに飲んでくれると、こっちも嬉しいわ」



 水の魔法は未熟者が発動すると、不純物が混じったりするので飲むのは難しく、飲水ができるようになった者は達人級の扱いになっている。



「スライムくんの種族は綺麗な水を好むから、言わば水質の評論家よね。スライムのあなたが喜んでくれると、私の水魔法の質が良いって感じられるわ」



 ジェシカは自分の水の魔法の腕前を示してくれるスライムの頭?を優しく撫で、スライムはリラックスしているかのように体を寝そべり、次第に眠り始めた。


「スライムくんも眠っちゃったか。……それにしても」

 

 スライムを撫でるのを止め、ジェシカは水球を出した右手をジッと見つながらイエガーだった男の方を向く。


(さっきまで魔力切れだったのに……。傷と一緒に魔力も回復するとか、一体この人は何者なんだろう?)


 あの時、ジェシカはイエガーだった男を運ぼうとした際、自分の魔力が回復していることに気づき、念の為に二人一緒に『欺きの魔法(カムフラージュ)』で姿を隠し、誰にも見られずに隠れ家へ向かったのだ。


(ここは人けは無いけど、私みたいな事情持ちの人間がいるし、見られたら色々面倒よね。……さて、スライムくんも寝ちゃったし、私も寝よう)

 

 眠気と話し相手のスライムが就寝した事で、ジェシカは明日の準備を確認した後、ソファーの方で寝支度を始める。



「ねぇ、イエガーだった人。早く起きて、そのベッドを空けてよね」



 自分に毛布をかけながら、ジェシカはベッドを占領している男に向かって不満を言う。



「……あと、助けてくれたお礼もちゃんと言わないといけないし…………」



 だが、ジェシカは男に助けられた事実を無視はせず、むしろ命の恩人が目覚めることを願っていた。



 そして長い夜の侵入作戦で疲れたジェシカは、瞼を眠気に委ね、小さな寝息を立て始めた。


 

『補足』


ジェシカの魔力の量は平均並で、魔導士ほど魔法を連発できません。


この作品に登場予定の一般の魔道士達の魔力の量は、作中でジェシカが使っていた魔法の回数×10倍か20倍位です。


腰のポーチには傷治しや魔力回復などの薬は入っていましたが、ジェシカは解呪した方が早いと考え、あえて使いませんでした。(危なかったけどね)



読んでくれてありがとうございます!


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