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第十話 監獄からの脱出。……そして

イエガー……


イライラにはカルシウムよ。


 イエガーによって瀕死状態となったもう一人のイエガーがトドメを刺されそうになった時、ジェシカの形見のペンダントが光だし、もう一人のイエガーを包み込み消えてしまった。

 


(な……なにが、起こったの……?)



 ジェシカはペンダントから発した謎の光によって起きた突然の出来事に、理解するのに時間をかけていた。



 だがそれは当然の事だった。



 幼い頃から身につけていた形見が輝き、その上もう一人のイエガーを消してしまう事案を起こしたからだ。この出来事を誰かに話したとしても、誰もが予測できなかったと口にする位に。



 そして暫く流れた沈黙の時間は、突如終わりを告げる。



「誰かそこにいるのか!! 姿を現せ!!」


 

 最初に呆然から正気に戻り、口を開いたのはイエガーだった。イエガーは牢屋から飛び出し、辺りを確認する。その時のイエガーは、顔に血管が浮かび上がる程に激昂していた。



「アイツを何処にやった!! 俺の楽しみを奪いやがって……ふざんけんじゃねえぇぇ!!!」



(……ッ!)



 イエガーが牢屋から飛び出した事でジェシカも正気に戻り、危険な状態と化したイエガーから距離を取ろうとする。



(まだカムフラージュの効果で奴は私の姿は見えてない。冷静さを失っている内に離れないと!)



 イエガーからかなりの距離を取った後、ジェシカは近くの無人の牢屋の隅へ身を潜め、ワープ用の魔石を取り出す。



(ここは一旦出直しましょう。奴を殺す好機はまだある!)



 魔石を強く握り、ジェシカはワープの詠唱を心の中で唱え始める。



 しかし、ジェシカの耳に突如、イエガーの声が響く。



「黒に染める力よ!! 我が怒りを糧とし、命を喰らい尽くせ!!」



 グオン!!



 遠くに離れているイエガーが何かしらの魔法を唱えた後、牢屋の外を数多の黒い腕が風を切る様に横切る。



(黒い力でまだ何かする気?)



 イエガーが黒い力で何か仕掛けることに警戒するジェシカ。そして一つの黒い腕が向かい側の牢屋にいたネズミを見つけると、進路変えた瞬間……



 グジャアッ!!


(……! なに……あれ……)



 黒い腕は()()()()()()()()、血と肉による耳慣れしない音を立てながらネズミを喰らう。ネズミは悲痛な叫びを上げることは無く、一瞬で肉片と化してしまった。


 

「……チッ! 誰かいると思ったらネズミかよ、クソ!! オイ! 何処に隠れてやがる!!」


 

(もしかして、あの黒い腕はイエガーの目にもなっているの……?)


 黒い腕の特徴を考察するジェシカだったが、ネズミの悲惨さを思い返し、脱出をすることに集中する。



(っ! 今は脱出が優先! 考えるのは後!)


 

 ジェシカは魔石を強く握り、緊張感の中、改めてワープの詠唱を心の中で唱える。


 気配を殺しながら詠唱を終わらしたジェシカの体は、転移の光に包まれる。ジェシカは安堵して、ふと魔石を見る。握っていた手が可視化しつつあり、ジェシカにかかっている欺きの魔法(カムフラージュ)の効果が切れようとしていた。



「……ッ! そこかぁああああ!!」



 転移の光と可視化された体が目印となり、ジェシカは見つかってしまう。近くにいた黒い腕が牢屋に侵入し襲いかかるが、ジェシカは冷静に躱す。



(もうすぐワープが発動する!


 後は逃げるだけーーー)



 しかし、攻撃を外した直接に黒い腕は分裂して別の黒い腕を生み出し、鋭利な爪でジェシカの左腹を切り裂く。



「あぁああッ!!!」



 今まで声を抑え続けたジェシカだったが、肉体に激痛が走り、声を上げてしまう。


 

 そしてその声は監獄に響き渡り、イエガーの耳に届く。



「おい! そこ動くんじゃねぇ!!」



 イエガーが足音を鳴らしながらジェシカのいる牢屋に向かってくる。そして幾多の黒い手も牢屋に入り込みジェシカに向かって襲いかかる。


 しかし転移の光がジェシカを完全に包み込んだことによりワープが発動、ジェシカは難を逃れた。


 牢屋には転移の光の残留が淡く輝きながら消え、牢屋に辿り着いたイエガーはその光を怒りを宿した瞳で見つめ、取り逃した侵入者(ジェシカ)に対して行き場のない怒りを転移の光が残っていた場所にぶつける。



「ーークソが!!!」



 黒い手で床を思いっきり殴り、石礫が飛び散る。イエガーの八つ当たりによって、牢屋の床は大きく凹む。


「ハァ…ハァ…さっきの声は女だったよな……。顔を隠していても、体格からして子どもじゃない……何者だったんだ?」


 息を切らしながらもイエガーは、転移の光に包まれた瞬間に見えた侵入者の姿や特徴を思い返す。



「いや、正体なんて捕まえ後でいい。……それよりも」



 先程の出来事でイエガーは()()()()()()()()()()()()()()()、侵入者の正体を考察するのを後回しにする。



「最後に見えたあのペンダント……。あの不快な光と同じ色をしていたよな……」



 イエガーは自分の計画を邪魔した一番の原因を侵入者のペンダントだと考察し、少し落ち着いていた怒りがまた燃え上がり、今度は壁に八つ当たりする。



「……そうか、あのペンダントが原因か!! 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()!!


 ……絶対(ぜってー)許さねぇ。


 俺の計画を邪魔したことを後悔させてやる!!


 そしてアイツも、あの女も、必ず見つけてぶっ殺してやる!!!」


 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 


 一方、イエガーの怒号が響いてる隠蔽監獄とは真逆の静けさを生み出している帝都(アダルバリエ)の東区の七番街。空家や廃屋、使えなくなった家具や道具で雑然としている場所(別名ゴミ捨て場)が多数存在する地区の橋の下で転移の光が光り出す。橋の下も壊れた家具などで雑然としており、転移の光の輝きを目立たなくさせる。


 そして光の中から左腹を抑えているジェシカが現れた。


 いつもならワープした地点に軽やかに受け身を取るジェシカだったが、重症の状態の彼女は受け身を取れずにそのまま地面に倒れ込む。ジェシカが倒れ込んだ地面は、彼女の左腹から流れる血で幾つもの血溜まりが時間もかからずに出来上がっていく。


(ーーっ! 我に集え、癒しの恵み……ヒール!)


 息も絶えそうな状況でもジェシカは冷静に、自分の傷口に癒しの魔法をかける。薄緑色の光が押さえている左手で輝き、左腹の傷口は薄らと消え、ジェシカは起き上がりながら近くの空き箱に寄りかかる。


(追っては……来てないわよね……。なんとか助かったみたい)


 転移の光を追ってイエガーや黒い手が来ていないことに安堵し、フードと仮面を外して一息つく。


(今回は失敗したけど、次の作戦で必ず成功しないと……イタッ!?)


 安心たのも束の間、治したはずのジェシカの左腹の傷口が元に戻っており、血が再び流れ出て、激痛がジェシカを襲う。


(なに、これ!? なんでまた傷口が!?

 ……ッ! もしかして、呪い!?)


 ジェシカはイエガーの黒い手の攻撃に何かしらの呪いの力が付与されていたと考察し、腰のポーチから解呪の薬が入ってる薬瓶を取り出そうとする。すると、



 ポヨン!



「ス…スライムくん。……ごめんなさい、あなたのことを放っておいてしまって……」

 

 腰のポーチを開けた瞬間、中で待機していたスライムが飛び出し姿を現す。ジェシカは作戦に集中し過ぎてスライムの無事を確認する事を怠ってしまったことに気付き、スライムに対して謝罪した。


 しかしスライムは放置されたとは微塵に思っておらず、むしろ今は脂汗と血を流しているジェシカを心配する素振りをしている。


 ジェシカは激痛に耐えながら心配してくれるスライムを撫でながら優しい言葉と表情で話しかける。


「心配してくるのね、大丈夫よスライムくん。この解呪の薬を飲めば……って、あっ!」



 取り出した薬瓶をジェシカは落としてしまい、薬瓶は隣の壊れたテーブルの下を通り抜け、向こう側に転がっていく。



「ん〜〜もう!」



 自分の手が届かない所まで転がっていった薬瓶を追うために、傷口に癒しの魔法をかけながらジェシカは力を振り絞って立ち上がる。


「傷口は塞がんないけど、なんとか動けるわね……。

早く薬を飲まないと……イタっ!」


 激痛に耐えながらジェシカは薬瓶が転がっていた方に向かうと、橋の下に差し込んだ月明かりに反射し、薬瓶が光を放っていた。



(あっ! あった…………え?)



 ジェシカは薬瓶を見つけたのと同時に、()()()()()()が壁に寄りかかっているのを発見する。




(イエガー……じゃない。



 もう一人の、イエガー……?)




 差し込んだ月明かりは薬瓶だけじゃなく、



 救世の勇者に痛めつけられていたもう一人のイエガーを照らし出していた。



読んでくれてありがとうございます!


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