第6話 異世界転移者とギルド長の過去
6/8 タイトル変更
転生⇒転移
転生と転移を間違えました。
朝食後、俺はアルと共にギルドへと足を運んだ。アルは森で仕留めた魔物の換金に、俺はギルド長に話をしに。一緒に来たのは、シュリンプ・スコーピオとキラーマンティスの報酬は俺の分であるとアルが言って聞かないからである。
ギルドに入ると、午前中ということもあり、冒険者で賑わっていた。アルは1番左側のカウンターに行き、そこにいるギルド職員に声をかけた。
「魔物の素材を売りたいのだが頼めるか?」
「これはニース卿、おはようございます。かしこまりました。量はどのくらいになりますか?こちらで大丈夫なようでしたら、ここでお出しいただいても結構ですが、たくさんあるようでしたらギルドの裏手にお願いします。」
ギルドの職員は昨日と同じくメルティさんであった。相変わらずクールである。
「そうだな、裏手で頼む。量は多くないが、得物がでかい。」
「かしこまりました。それでは裏手にお願いします。」
「俺はちょっと裏手に行ってくる。ミツキはクエスト掲示板でも見てるといい。」
そう言い残し、アルはメルティさんと一緒にカウンターの奥にある扉から出て行った。俺はアルに言われたように、クエスト掲示板を見に行く。今掲示板に張られているのは常時クエストと、通常クエストである。
常時クエストの依頼者はギルドになっており、こちらはクエストを受注せずとも素材を持ち込んだ入り、魔物を倒したりしてギルドに報告すれば自動的にクエスト完了したことになり、回数制限もないようだ。
通常クエストは依頼者がギルドであるものもあるが、他の人の名前が書かれているものもあり、こちらはカウンターに紙を持っていきクエストを受注しなければならないようである。通常クエストには買い物の手伝いから犬の散歩、清掃活動といった生活感あふれるものから、魔物の討伐依頼や素材の採取、護衛依頼といった荒事まで様々なものがある。中には話し相手募集なんて依頼もある。依頼人はギルド長。
「ギルド長!?」
「呼んだかえ?」
つい驚いて口に出してしまったら、後ろにギルド長がいた。そのことにさらに驚かされた。その拍子に、そのクエストの紙を壁から取ってしまった。
「おや、坊やがその依頼受けてくれるのか、そうかそうか、ほれギルドカードださんかい。」
「あ、ああ。」
「ほれ、これで受注完了じゃ、今日1日このばばあの相手よろしく頼むぞ。」
ギルド長に促されるまま、ギルドカードを渡してしまったら、俺がそのクエストを受けることになってしまった。
「ちょ、俺まだ受けるとは一言も…」
「なんじゃ、クエスト破棄するのか?破棄すると罰金として金貨1枚かかるぞ?」
なにそのぼったくり!金貨1枚って、どんだけだよ。てか、マジで紙に書かれている、報酬が銀貨1枚、受注後の破棄には罰金として金貨1枚って。
「わかりました、受けます、受けさせていただきます。元からギルド長に聞きたいことがありましたし。」
「それは重畳、なら散歩しつつ話ししようかね。」
「あ、少し待って貰っていいですか?アルが今素材の換金してまして、待ってるように言われてるので。」
「ふむ、なら裏手か、おお、ちょうど戻ってきたぞ。」
視線をカウンター奥の扉に向けると、そこからアルとメルティさんが入ってきた。
「待たせたな、ミツキ、これがお前の取り分だ。」
俺に小さな袋を放り投げてくる。それは、ジャラッという音をたて俺の手に収まる。ずっしりとしており、結構入っていることがわかる。
「お前が倒したシュリンプ・スコーピオ1体が22000X、キラーマンティス1体が300X、合わせて22300Xだ。確認してくれ。」
袋を開けると、中にはたくさんの銀貨が入っていた。金貨も1枚入っている。
「今後のことを考えて金貨1枚分は銀貨100枚にしておいたぜ。」
「これ、多すぎないか?」
「いえ、そんなことはありません。ハルノ様が受け取るべき正当な金額です。シュリンプ・スコーピオは危険度Aの魔物です。危険度Aの魔物は本来であれば、Bランク以上のパーティに討伐が依頼されるもので、基本的に複数パーティでの討伐となります。また、そのシュリンプ・スコーピオの身は味がよく、高値で取引され、尻尾も武器の素材として1流のものです。今回は身が半分しかありませんでしたのでこの値段ですが、1体丸ごとですと、大きさにもよりますが40000X以上にはなります。」
シュリンプ・スコーピオは俺の想像を行く値段だった。ようするに俺たちは、一昨日の夜に20000Xを食べていたことになる。一夜でそれだけ使うとか、どこの風俗だって感じだ。
「でも、アルたちの取り分は?」
「俺たちはお前に救われた身だからな。それに、回復魔法まで使ってもらっただろ?普通、回復魔法を他の人に使ってもらう場合は金を払うんだ。何せ、お前さんほどの回復魔法の使い手はほとんどいない。お前さんのようにキュアまで使えるのは、教会の治癒術士に数名いる程度だ。うちの騎士団にいる奴もヒールしか使えねえしな。」
「そういうことならありがたくもらっておくよ。」
「おう、そうしてくれ。ミツキはこの後どうするんだ。ん、何かクエスト受けたのか?」
「ああ、ギルド長の話し相手をするってクエストだ。」
アルは俺の手にあるギルドカードを見て、俺がクエストを受注したことを察した。
「ギルド長の話し相手って、ギルド長がたまに道楽で出してるあれか?」
「道楽とはずいぶんないいようじゃないかい?なあ、アル坊や?」
「まあ、頑張ってくれミツキ、俺はもう行く。それと、泊まる場所決まったらギルドにでも伝えておいてくれ。じゃあな。」
ギルド長に睨まれたアルは、逃げるようにギルドから去って行った。朝からアルに対する株が下がりっぱなしである。
「それでは私も仕事がありますので失礼します。」
メルティさんも俺たちに一礼すると、カウンター業務へと戻る。
「それではわしらも行くとするかの、ミツキや。」
「わかりました。お付き合いいたします。」
俺はギルド長とともに、ギルドを後にする。
「それでギルド長、これからどちらにいくのですか?俺はなるべく人のいないところで話をしたいのですが?」
街中は午前中ということもあり、多くの人で賑わっている。店を開く人、買い出しをする人、農作業に向かう人、漁に出る人。ニースの町の人口は1万人程であるから、町は栄えているように見える。実際、1万人の規模の町というのは、この国では大きい町に入る。
現代日本の感覚からすると少なく感じるが、医療が進んでいなかったり、食糧事情も芳しくないため、そうそう人口は増えない。王都には30万人近い人口を誇るが、反面スラム街があり、治安も悪いそうだ。
「ほっほっほっ、なら『この言葉で話せば問題なかろう?』」
「っ!どうして日本語を!?」
ギルド長の口から発せられた言葉は、こちらの世界の言葉、統一言語と呼ばれているものではなく、俺のよく知る日本語であった。
俺はシルヴィアから貰った言語理解のおかげで、こっちの言葉が理解できるし、話すこともできる。しかし、こちらの世界に来てから日本語は1度も聞いたことはなかった。
『坊やもこの言語で話さんか。これなら他人に聞かれても理解されずに済む。』
『わかりました。どうしてギルド長が日本語をはなせるのですか?というか、どこまでご存じなのですか?』
『わしの知っていることか?坊やが異世界人であることとくらいじゃぞ。他は知らん。』
『それだけ知っていれば十分でしょう。ですが、どうして?』
『昔に会ったことがあるのじゃよ、お主と同じ異世界人、それも日ノ本の国から来たという黒髪・黒目の男にのう。わしはそやつに言葉を習った。』
『それは本当ですか?その人は今どこに?』
『もうおらん。100年前に亡くなっておる。』
『そう、ですか…』
折角、元の世界に帰ることのできる手がかりを得ることができたと思ったのに、残念ながらそううまくはいかないようだ。しかし、俺以外にもこの世界に来たことのある人がいたと、知ることをできたのはかなりの情報だ。
『そやつは言っておった、もし自分と同じ境遇のものが現れたら、その人物に渡して欲しいものがあると。わしはそやつからそれを預かっておる。坊やにそれを渡そう。』
『その人の名前は?』
『本人はツナと名乗っておった。それが本名であるかはわからずじまいじゃったがな。』
ツナか、もしかしたら「綱」という漢字を使っていた人物なのかもしれない。日ノ本と言っているところから、室町から江戸にかけての人物であろう。その時代であれば有名どころでは徳川綱吉が「綱」の名を持つ人物である。
『ここがわしの家じゃ。』
ギルドから歩くこと数分、そこは海に近い場所にある1軒の家であった。そこまで、大きくないが立派な作りをしている。他が木造であるのに対し、目の前の家は石造りである。
促されるまま中に入ると、中は家というより、魔女の実験場だ。大きな甕には得体のしれない液体が入っていたり、よくわからない生き物の死体が天井からつるしてあったり。ホラーである。
ギルド長がその部屋の暖炉の前に立つ。そして、杖が光ったかと思うと、暖炉の中に階段が現れた。ギルド長に続いてその階段を降りる。すると、その先には小部屋があり中には甲冑と刀が置かれていた。
『これがわしが託されたものじゃ、坊やにはこれを受け取る権利がある。どうするのじゃ?』
『ツナさんは他に何か言ってませんでしたか?』
『言ってはおらんかった。じゃが、手紙は残しておった。これじゃ、わしには何が書いてあるのか読めん。』
ギルド長は、アルが持っていた魔法の袋から手紙を取り出した。俺はそれを受け取り中を開く。それは日本語、とはいっても戦国時代頃のもの、で書かれていた。
『どうじゃ?読めるのか?』
『はい、読めます。』
『そうか、なら、坊やがこれを持っていくのがやはりいい。』
ギルド長は手紙の内容を聞いては来なかった。まるで、自分は知るべきことではないと言わんばかりに。ギルド長が多くの人に尊敬されていることの理由がわかった気がした。それと、ギルド長とツナさんの関係も。
『本当にいいんですか、俺が受け取っても。』
『もちろんじゃ、あやつもそれを望んでおった。』
『ですが…』
『その先は言わんでええ。』
『そうですか…』
『それより、わしからはこれをやろう。それをそのまま持ち歩くのは目立って仕方があるまい。』
ギルド長は魔法の袋から同じような袋を取り出した。
『知っておると思うが、これは魔法の袋じゃ。袋の口を中に入れたいものに当てると、そのものを仕舞うことができる。入れたものの重さを感じることはなく、この袋1つでおおよそギルド1軒は入るかのう。ただし、生きているのもは入れられん。中から物を取り出したい時は、袋の中に手を入れ、取り出したいものを念じれば引き寄せられる。それと、袋の中は時間が止まっておる。本人以外はその袋を使うこともかなわん。まあ、例外として袋の所有者が認めたものだけは、袋を使うことが可能じゃ。』
『ありがとうございます。』
俺は袋を受け取り、早速甲冑を仕舞う。刀はどうしようか迷った。既に1本腰に挿しているし、迷った末鑑定を使ってみることにした。
日本刀
銘は村正。
異世界より持ち込まれた武器。
かつて妖刀と呼ばれたもの。
魔法武器であり、斬撃を飛ばすことが可能。
飛ばせる範囲は使用者の技量と魔力に依存する。
村正か、確か徳川にあだなす刀といわれて、天下分け目の戦の際、東軍は持つことを許されず、逆に西軍は家康を討つために所持していたといわれる刀だ。日本刀としては最高峰である。使ってみたいが、能力がやばすぎる。使いこなせるまでは使わない方がいいだろう。なので、刀も袋の中へ。
ついでに袋の中にお金も仕舞う。ジャラジャラと結構邪魔だったので丁度よかった。
「さて、わしの用はもう終わりじゃ。」
もう、自分の用は終わったと言わんばかりに、ギルド長の言葉が統一言語に戻る。ギルド長はこのことを俺に伝えるために、あんな依頼を出したのだろ。きっとこれまでもギルド長が個別に用がある人物に対して、今回のような依頼を出していたのではないか。確信はないが、なんとなくそう思った。
ギルド長であれば、任意の人物にクエストを受注させることなど造作もなさそうであるし。
「坊やからは何か聞きたいことはあるか?」
「他に俺のように異世界からきた人物についてしりませんか?」
「知っておる。この国、いやこの世界では過去、人類に滅びの危機が迫ったさい勇者を召喚したと言われている。勇者も異世界人であることは間違いない。」
勇者召喚とか、よくありそうな話である。
「それっていつごろの話ですか?」
「ざっと1000年前じゃな。」
「1000年って…」
「それと、この町の近くに遺跡があるのは知っておるか?」
「ええ、俺はその遺跡から来たわけですし。」
「そっちではなく、もう1つの方じゃ。この町から3日ほど東に行ったあたりにある遺跡なんじゃが、確証はないが坊やの世界の人間が作ったものではないかとわしは思っておる。」
「っ!本当ですか?」
「遺跡の入り口に、手紙に書かれておった文字と似たものが書かれておった。わしは古代文字じゃと思っておったがの。」
ここにきて、新たな手掛かりを手に入れた。まだわからないが、その遺跡が日本人が作ったものであれば、何か向こうに帰るための手掛かりがあるかもしれない。
「ありがとうございます。あとは自分で調べてみようと思います。」
「それがええ。ただし、1人で遺跡に行くことはダメじゃ。あそこはゴーレムとガーゴイル、スライムがおって、今まで多くのものが犠牲になった。行くのであればそれ相応の準備をせねばな。」
「そうですか。」
1人では難しいとなると、誰かとパーティを組むべきなのだろう。しかし、俺はこの世界に来たばかりで、信頼できる人物はアルたち家族ぐらいしかいない。
「何、時はいずれ訪れる。あやつが言っておったな、『急がば周れ』じゃったか、それに坊やは今日1日、このババの話し相手じゃぞ?」
「そうですね、冷静さを心掛けてはいるのですが、元の世界の手掛かりがあるかと思うと、その…」
「わかっとる、わかっとる。じゃが焦りは禁物じゃ。どれ、そろそろ昼にしよう。手伝ってくれるかの?」
「ええ、もちろんです。」
俺はその日、お昼をごちそうになり、夕飯までごちそうになった。その間ギルド長は俺の世界の話を聞きたがり、楽しそうに聞いてくれた。少し、心が軽くなった気がした。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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