第9話 かつての勇者
雷にやられたネット回線復旧しました。
これでいつも通り更新できます。
ただし、雷が来たら別です。
「それで、この問題はどのように解くんですの?」
「まず、ヒントの方、『性質を包括する抽象的概念』は元素のことを指しているんだ。」
「元素?聞いたことがありませんわ。」
「元素は、物質を構成する小さな粒だとでも思ってくれ。」
元素の概念がない人たちに、元素を説明するのって難しいな。
俺にとっては当たり前なものなので、感覚的に元素がわかっているから、余計に説明が難しい。
「それで、この元素にはそれぞれ番号が振られているんだ。1番目が水素、2番目がヘリウム、3番目がリチウムっていう具合に。その番号でいうと、金は76番目、銀は47番目、銅は29番目になっているんだ。」
「なるほど、そうすると太陽の16、92、7は何に当たるんだい?」
「16は硫黄、92はウラン、7は窒素だ。」
「それがどうして太陽になるのですの?」
「元素には番号以外に元素記号が与えられていて、硫黄はS、ウランはU、窒素はNこれを順番に並べるとSUN、太陽になる。同じように月の方も42はモリブデンでMO、8は酸素でO、7は水素でN。これを並べるとMOON、月になる。」
「じゃあ、15、53、7、19も同じように対応させれば言葉が出てくるんだね。」
「ああ、15はリンでP、53はヨウ素でI、7は水素でN、19はカリウムでK、これを並べてPINKこれが答えだ。」
俺は入り口とは反対の場所に設置されたコンソールに向かい、答えを入力する。
すると、ごごごごごっ、という音を立てコンソール横の扉が開いた。
「開きましたわ。」
「流石ミツキだね。」
「ご主人様すごい!」
「ぱぱ、やりましたね。」
みんなが口々に俺を称賛してくる。
しかし、俺としてはただ単に向こうの世界の知識があっただけにすぎず、智の塔も研究所と同じく、俺のように地球から来た人が攻略することを前提で作っているのだろう。
なぜ、3階層までは攻略されたかわからないが、4階層の問題はこちらの知識では絶対に解けない問題である。
「よし、先に進むぞ。」
俺は開かれた扉をくぐる。
その先には上へと続く階段があったので、階段を上り5階層へと足を踏み入れた。
入り口には襖があり、それを開けるとそこは部屋になっていた。
ご丁寧に襖には「この先土足厳禁」と書かれている。
「ここがゴールなのか?」
5階層は4階層とは異なり、問題の書かれた石碑もなく、床には畳が引かれ、壁は塗り壁になっており、部屋の真ん中には掘り炬燵が備え付けられている。
壁には滝が描かれた掛け軸もかけられ、その真下には壺みたいな工芸品も置かれ、押入れも備え付けられていて、以前誰かが生活していたように思われる。
「とりあえず、靴を脱いで部屋に入ろう。」
土足厳禁なので、全員靴を脱ぎ、部屋へと上がる。
「何か変わったものがないか探そう。」
家探し開始である。
押入れを開ける。
中には布団が入っており、中を漁るがそれ以外は出てこない。
壺の中をのぞくが、何も入っていなかった。
壺を持ち上げようとしたが、固定されていて持ち上がらなかった。
掘り炬燵にも特に変わったところはない。
あまり広くない部屋なので、数分で調べるところが無くなってしまった。
「何もありませんわ。」
「どういうことなんだい?」
遺跡の最上階で何もないというのは不自然だ。
不自然と言えば、この部屋の広さも不自然だ。
下の階層と比べると、この部屋は狭すぎである。
この部屋の3倍はあってもおかしくない。
しかし、階段からここまでは1本道であったし、この部屋から他のところに移動できるような場所はない。
もう一度部屋を監察する、スペースがあるとすれば掛け軸のかけられた方である。
「もしかして…」
掛け軸をめくってみる。
何もなかった。
掛け軸の裏に何か隠すのは、定番だと思ったんだけどな。
「おかしいな?何か見逃したか?」
手詰まりだ。
どうすればいいか全くわからない。
「ねえ、ご主人様、この壺から水の臭いがするよ?」
スンスンと部屋の臭いをかたっぱしから嗅いでいたリアが、壺の臭いを嗅ぐとそう言ってきた。
「水?…まさか、」
魔法で壺に水を入れる。
カチッ、ズズズズズズという音として、掛け軸のかかった壁が横にスライドした。
「そういうことか。」
掛軸と壺は2つで1つだったのだ。
壺はちょうど掛け軸の真下にあり、掛け軸に描かれた滝が、壺の中に注ぎ込むように置かれている。
壺が動かなかったのも、この仕掛けがあるからだろう。
壁を抜け先に進む。
そこは研究所の5階と同じようなラボになっていた。
ラボの中はマジックアイテムが数多く置いてあり、スマートフォンのようなマジックアイテムが1つ、部屋の真ん中の机にポツンと置かれていた。
それを手に取ると、それは紛れもなくスマホであった。
しかし、スマホからは微弱な魔力を感じ、動力が電力から魔力に変わっているようである。
「それはなんですの?」
「多分、通信機かな?」
スマホの横のボタンを押し、電源を入れる。
画面が白く発光し、よくわからない魔法陣が浮かび上がった。
すると、自動的にメモ帳が起動した。
メモ帳には日本語で何やら文字が書かれていた。
「なんて書かれているんだい?」
メモ帳に書かれていた内容は次の通りだ。
これを誰かが読んでいるということは、私はすでにこの世に存在しないのだろう…って始めるとなんかそれっぽい文章になるよね。でもまあ実際、これが読まれているってことは私は死んでるけどね。
私の名前は秋山花帆、魔法歴653年にこちらの世界に召喚された勇者の1人だ。すごいだろ、私は勇者だぞ~。といっても、私の時は全部で5人の勇者が召喚されたんだけどね。
私たちは魔王を倒すためにこっちの世界に呼ばれて、それはもう苦労の末魔王を倒したのだ!今世界があるのは私たちのおかげだぜ、いえーい。
私たちは魔王討伐後、それぞれの道に進み、私は元の世界に戻るためこの塔で魔法の研究やマジックアイテムの製造をすることにしたんだ。結局、元の世界には戻れなかったけどねー、残念残念。
それでも、この世界での生活は楽しかったし、彼女と一緒に作り上げたマジックアイテムは、私にとっては子供のような存在だったし、生涯最高の出来だったんだ。まあ、若干問題のあるマジックアイテムになったけれど、そのうち運命の相手に出会えるさ。頑張れ、私の娘~。
ところで、この文章を読んでいるってことは、私と同じ世界から来た人間だよね?第4階層の問題はこっちの人じゃ解けない問題にしておいたし、それとも、この世界の科学が21世紀並みに進んだのかな。まあ、どっちでもいいや。
ここまでたどり着いた君には私の研究のすべてを与えよう。
私はマジックアイテムも作っていたけど、もっぱらとある魔法の研究がメインだったのさ。その魔法とは、空間転移の魔法だよ。ル○ラーって奴だね。
もしかしたら知っているかもしれないが、この世界の魔法は基本の7属性以外にもある。空間転移の魔法は空属性の魔法に分類されるものらしいね、私のステータスにはそう出ていたから間違いないね。
そんなわけで、これを読んでいる君には私が会得した空間転移魔法を覚えることが出来るチャンスを授けよう。ただし、魔力が低いと無理だよ。チャンスは1度だけだから、確実に覚えたかったら、MPを1000以上にあげてから出直してこいや。
では、改めて、君は空間転移魔法を覚えるかい?覚えるなら、YESを今はレベル不足だーと感じるならNOを選ぶのだ!YESを選んだら、空間転移魔法を覚えるための試練が始まるぜ。
YES
NO
「ということだ。」
俺はメモ帳に残された内容を全員に読んで聞かせた。
文章がどことなく、堺さんを彷彿とさせるのは気のせいではないだろう。
この塔の主であった秋山さんは、魔法歴653年にこっちの世界に飛ばされたと書いてあった。
堺さんも研究所の動画の中で、魔法歴653年にこちらに来たと言っていた。
それに、秋山さんの書いたこの文章を信じるなら、勇者は全部で5人呼ばれており、そのうちの2人が堺さんと秋山さんということになるのだろう。
「空間転移魔法か、ボクにはどんなものか想像がつかないよ。」
「空属性というのも初めて耳にしましたわ。」
「空属性がどんなものかわからないが、空間転移魔法は例えば、ここスクレクドからニースまで一瞬で移動できる魔法だ。」
「一瞬で!?」
「それは、すばらしい魔法ではないですか!?」
この世界の移動方法が馬車がメインということを考えると、空間転移魔法は画期的な移動手段であろう。
惜しむらくは、覚えるために魔力が大量に必要であるという点だ。
MP1000とか、人間でそこまでいく人はほとんどいないであろう。
「覚える機会は一度だけみたいだな。どうする、フランも覚える条件を満たしているけど。」
「ボクかい、ボクよりミツキが覚えた方が良いんじゃないかい?ボクは空間転移魔法についてよくわかっていないから、イメージが湧かないんだ。魔法はイメージだからね。ボクだと使えない可能性があるよ。」
「わかったそれなら俺が覚えよう。」
スマホを操作し、YESを選択する。
すると、スマホから魔力が迸り、俺の全身を包み込んでいき、俺の意識はそこで途切れた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字、その他気になった点がありましたら、コメントよろしくお願いします。




