第3話 シュリンプ・スコーピオを食べよう
次回にはヒロインが登場する予定です。予定ではすでに出ているはずだったのだが、思いのほか長くなりました。
「おおうっ…嬢ちゃん、すげえな。一体何者だ?」
流石に、シュリンプ・スコーピオの二枚おろしには驚いたのか、困惑した様子が半分、警戒した様子が半分といった感じで狂戦士が声をかけてきた。
「おっさん、初めに言っとく。俺は男だ。俺は男だ。」
「何?まじか、そいつはすまん。てっきり女だとばかり。俺はアルバート・フォン・ニース。ニースの町の領主だ。アルと呼んでくれていい。」
「俺は春野水月…こっちだとミツキ・ハルノになるか?ミツキでいいよアル。」
アルは年上で貴族であるが、先ほどまでの戦いぶりと、体育会系の雰囲気から敬語を使う気にはならなかった。
「ミツキか、援護してくれたことには感謝する。だが、なぜこんなところにいた?」
「詳しいことは後で話す。それよりも今は騎士たちの手当てをしないといけないだろう。俺は回復魔法が使えるから、治せるはずだ。」
4人の騎士はシュリンプ・スコーピオの毒を受けたためか、呼吸は荒く、顔色も悪い。脂汗もかいており、このままにしておくと命にかかわる。
「そうか、それは助かる!回復魔法が使える奴が最初に毒食らっちまったんだ。このままじゃ、お陀仏になるところだったぜ。」
まず、1番容体の悪い騎士に近づく。多分、この騎士が回復魔法を使える騎士なんだろう。背中に刺し傷があり、青黒く変色している。その患部に右手をかざし、
「キュア、ヒール」
ぽうっと右手が淡い光に包まれ、光が収まると患部は綺麗に治り、騎士の顔色も赤みが戻った。同じように残りの3人にも回復魔法を施す。
さほど時間もかからず、3人の顔にも生気が戻る。
キュアは状態異常、毒や麻痺、混乱を治し、ヒールが傷を治し、体力まあHPを回復させる魔法である。ただ、失った血を元に戻すことはできないため、治療後も安静にすることが必要である。
「本当に助かった。礼をいうありがとう。」
アルが頭を下げてくる。
「「「「ありがとうございます。」」」」
それに呼応し、動ける部下の騎士も礼を述べた。
「あーその、まあ、気にするな。困った時はお互い様だ。」
人に感謝されることはあるが、大の大人に真剣に頭を下げられるという経験がない俺には、いささか居心地が悪い。俺としては力試しをするつもりで、あの魔物を倒したに過ぎない。
「謙遜するな。ミツキは俺らの命の恩人だ。それはそうと、ミツキがここにいた理由を説明してくれ。」
「そうだな、どこから説明したものか…」
神殿から出てきていきなり人に出くわすと思わなかった俺は、どう説明していいか迷った。
そんな俺の気配を察してか、
「ミツキの出身はどこなんだ?この大陸じゃあまり見ない風貌だが?」
「俺の出身は、東の方の島国で大和って知ってるか?」
シルヴィアが俺の名が大和天主国の呼び名に近いと言っていたのを思い出し、とっさにそう答える。
「大和か…確かにその黒い髪と目は大和民族の特徴だな。だが妙だな、大和の奴らは閉鎖的でほとんど別の大陸には出てこない。それがなんで大陸でも南西部に位置するこんなところにいるんだ?」
「俺にもよくわからないんだが、遺跡を探索していて、いきなり強い光に包まれたと思ったらここにいたんだ。」
嘘は言っていない。本当のことも言っていないが。
「なるほど、強制転移に巻き込まれたか。それは難儀だな。」
「強制転移?なんだ、それ?」
「強制転移っていうのはな、あまり知られていないんだが、遺跡ある罠の1つで本人の意思に関係なく別の場所に転移させられてしまう最悪の罠だ。」
「俺はそれに巻き込まれたから、ここに現れたと…そういうことか。」
どうやら、俺の発言から勝手に推測してくれたようだ。今後は強制転移で跳ばされたことにしよう。
「ああ、災難だったな。だが、陸地に転移されただけ運がよかったな。強制転移はどこに跳ばされるかわからない代物だから、海の上かもしれないし活火山の火口かもしれないんだぜ。」
「ところで、ここはどこなんだ?」
先ほど、大陸南西部と言っていたが、詳しい地名がまだわからなかった。わかっていることはニースという町が近くにあることだろう。
「ここは見ての通り森の中だ。わからんのか?」
「違う!そういうことじゃねーよ。」
「はっはっは、冗談だ。ここはフロレンス王国、この森は王国の南西に位置しているニースから1日ほどの場所だ。この遺跡は最近見つかったものでな、俺たちは調査に来ていたんだ。」
「調査?領主がわざわざ?」
俺の貴族の印象は自分の領地に籠って、領民から税を搾取しやりたい放題しているものである。もちろんお袋の好きなラノベか何かから得た知識である。
「おう。領主には領民を安全に生活させる義務がある。だから、新しい遺跡が発見された時には貴族がその責任を持って調査することにこの国ではなっている。まあ、中央の貴族どもはどうか知らんが、辺境に領地を持っている奴らの殆どが元冒険者や騎士の連中だったりするからな。詳しいことは移動しながらでいいか?早めに安全場所まで移動してえ。」
毒を食らった騎士たちが動けるようになったことを受け、アルたちは一先ずここから移動するつもりであるらしい。
本来であれば、目の前の遺跡を調査したいところであるが、先ほどの戦闘での消耗が思いのほかあり、ここが引き際であると考えたようだ。
「っと、その前に、こいつを回収しねえとな。」
そう言うと、アルは腰に下げていた袋の口を広げた。袋の口を魔物の死骸に付ける。すると、魔物の死骸が姿を消した。アルは同じように残りの魔物の死骸にも袋の口を付けた。やはり、同じように死骸は消えた。
「どうだ?すげえだろこの袋。マジックアイテムなんだぜ。ミツキにはニースに戻ってから今回の報酬を渡す。それまでは俺がこいつらを持っとく。」
どうやらアルの持つ袋はアイテムボックスみたいなもののようだ。
報酬というのは、ギルドに魔物の死骸を持っていくと倒した魔物に応じて討伐報酬が得られるらしい。それと、魔物の死骸で有効活用できる部位の買い取りもギルドでしており、そちらでも報酬が出るとのことだった。
その後、アルは森を移動中フロレンス王国のあり方について俺に教えてくれた。
大陸の南西部にある王国で、君主制が取られており、国王をトップに貴族によって政治が行われている。貴族は国王より爵位が与えられ、フロレンス王国は実力があるものであれば平民であっても貴族にとして爵位を与えられることがある。爵位は上から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵。9割の貴族が子爵以下である。爵位を授けられてから次代までは爵位を継げるが、以降は功績を残さないと爵位をはく奪される。そのため、貴族の中には優秀な冒険者を婿や養子に迎えることがある。しかしながら、高位ランクの冒険者は収入や権限に関して下手な貴族より上であり、婿入りや養子になることは稀である。
国の西側を魔族の領地、通称魔界と接しており、今より30年ほど前魔族より大規模な侵攻を受けるもこれを撃退する。魔界との境には砦が3箇所築かれており、30年前は2つの砦が落ちた。現在はすでに復興している。ニースから5日のところにも砦があるが、そこも落ちたが、冒険者の活躍により奪還された。その時に最も活躍したのがアルで、その功績から国王より男爵の爵位を与えられ、アルの生まれ故郷であったニースの町を下賜されたそうだ。
「よし、今日はここらで野営だ。野郎ども準備するぞ!」
遺跡・シルヴィア曰く神殿から歩くこと5時間くらい時間が経ち、日が傾き始めた。1時間ほど前に森を抜け、街道を歩いていると開けた場所に出た。その場所には誰かがいた形跡があり、野営地としてよく使われていることが窺える。その場所に騎士たちはテキパキと野営の準備をしていく。
「アル、俺は何をすればいい?」
「ミツキ、お前さん料理は出来たか?」
「まあ、人並みには。」
「そうか、なら今日はこいつを料理するから手伝ってくれ。」
アルはそう言うと、袋からシュリンプ・スコーピオの半分を取り出した。
「これ、食えたのか?」
「おうっ、危険度Aの魔物だからあまり市場に出回らない高級食材なんだぜ。それにしても、見事な切り口だな。俺にはお前がこいつとキラーマンティスを倒したとき、一体何が起こったのかわからなかったんだが、どうやって倒したんだ?」
「刀って武器は知っているか?俺が腰に差しているこれなんだが…」
鞘から刀身を引き抜く。俺が向こうの世界からこちらに飛ばされた際に装備していた武器の日本刀、それも古刀に分類されるもので、現代日本の技術を駆使しても作り出すことが不可能な代物だ。
「見るのは初めてだが、知識としては知っている。大和の国のサムライ連中が使っている武器だろ。そういや、サムライは敵を一刀の基に切り捨てる技を持っているって聞いたな。」
「俺はサムライってわけじゃないが、俺が使ったのは居合っていう技だ。」
「居合?そいつはどうやる?俺にもできるのか?」
「んー、実際に見てもらった方が早いな。」
そういうと、刀を鞘にしまい、近くの木の前に立つ。そして、刀に手を添え構える。
「一瞬だからよく見ておけよ。……はっ!」
刀を引き抜き、再び鞘へ。これを目に留まらぬスピードで行う。
ズズッ、ズシン
左下から右上に切れ目のできた木が、自重に耐え切れず倒れる。
「おぉう、スゲーな。ほとんど目で追えなかった。なるほど、鞘を走らせることでスピードを上げ、目にも留まらぬ速さで相手を切り裂くのか…俺には無理だ。」
「よくわかったな。普通は見ただけじゃわからないもんだぞ。」
「ふん、俺はこと戦闘においては感がきく。何せ冒険者から貴族に抜擢されたからな。」
なるほど、アルのスキルにあった第6感はこういった場面で発揮されるのか。
「それより、さっさとこいつを調理しようぜ。俺も腹減った。」
「おおう、そうだったな。とりあえず…」
俺はアルの指示に従い、シュリンプ・スコーピオを解体していく。討伐したことを表す部位である鋏と武器の素材になる尻尾は、アルの持つ袋に再びしまう。残りを豚の丸焼きを作るような道具にセットする。3m近い大きさもあり、かなり重い(200kgほど)が、脳筋あるは軽々と持ち上げる。
「よし、あとはこいつを丸焼きにするだけだ。」
「ボス!火の準備は出来てます!!」
「よし、ミツキそっち持て。火にくべるぞ。」
「…これを料理とは言わない。」
「細けえ奴だな。これぞ冒険者料理じゃねえか。それに、シュリンプ・スコーピオはこの食べ方が1番うまい!!」
アルに促されシュリ…長いので海老でいいや、海老を火にくべる。海老は香ばしい匂いを漂わせる。確かにうまそうである。しかし、この調理法はいただけない。この世界の料理はこんな感じなのであろうか。そうであれば、自分で食べるものはなるべく元の世界に近くしよう。うん、絶対。
「よし、そろそろいい具合だ。」
海老を焼くこと20分ほど、火から降ろされた。いい具合に焼けている。
「倒した奴の特権だ、ミツキお前が最初に食え!」
「いいのか?」
「ああ、それが冒険者の中でのルールってやつだ。まあ、今回は領主として俺は来ているわけだが、うちの連中は騎士といっても冒険者に近いからな。遠慮なく食え。」
「それなら、いただきます。はむっ…うまい。」
「だろ、どれ俺も…がぶっ、ん、これだこれこそ冒険て感じだぜ。ほらお前らも食え。」
アルは自分も一口食べると、配下の騎士たちにも海老を勧める。
海老はふっくらと柔らかく、何も調味料も使っていないのにほんのりとした塩気と、優しい甘みが口いっぱいに広がる。身はふっくらでありながらもジューシーで、噛めば噛むほどうまみが出てくる。これは味噌汁の出しにすると、めちゃくちゃおいしくなるに違いない。この世界に味噌があればの話であるが。
「いやー、最近中々こういった狩りや冒険出来なくてな。この雰囲気最高だぜ。昔はな~」
いつの間に取り出したのか、アルはワインを飲みながら海老を食していた。他の騎士たちも酒を飲みつつ、海老を食べていた。まるで酒盛りだ。数時間前まで死に掛けていた奴までも、何事もなかったようにしている。
海老がなくなるまでの1時間ほど、俺はアルの昔話を聞きながら海老を食べ勧めた。




