第1話 要塞都市グランフィズ
第2章開幕です。
ニースの町を出てから4日、俺たちは東の遺跡、堺研究所に到着した。
研究所を始めてみるチャン商会の商人たちと、ソードダンスの面々は初めはおびえの色が見えていたが、俺たちが門を開け、建物内を案内すると、安心して休み始めた。
今日はここで一晩過ごすことになっており、全員に2階を提供した。
みんなには大変ありがたがられた。
俺がここに寄ったのは、銃弾の補充をするためだ。
この研究所を離れてから二週間ほどが経っているので、1000発ほど製造がされていた。
「このまま、銃弾の製造を続けますか?」
俺と一緒に3階へとついてきた花凛が、今後の工場の稼働予定を聞いてくる。
「ああ、このままで頼む。」
「わかりました。4階の工場はどうしますか?」
「そうだな、もう人間がこの研究所に来る可能性は低いから、迷い込んだ魔物を処分できる程度の戦力が維持出来ればいい。それと、ニワニワトリの世話がスラはんだけでは大変そうだから、そっちにガーゴイルを何体か回してくれ。」
「了解です。」
俺がここに戻ってきて一番驚いたのは、ニワニワトリが増えていたことである。
初めは1匹しかいなかったのに、この二週間の間に数を増やし、今では30匹まで増えていた。
鳥小屋も巨大化しており、あれはもう鶏舎と呼べる代物である。
卵も毎日300個以上とれるようで、そのうち、無精卵であるものをニワニワトリは俺に分けてくれる。
ニワニワトリは感覚的に子供が生まれる卵とそうじゃない卵がわかるのだそうだ。
そのため今、俺の袋の中には1000個近い卵が保管されている。
エディさんにこの話をしたところ、この先の町や村での商売の際少し融通して欲しいとお願いされた。
ニワニワトリの卵は栄養価が高く、普通の鶏の卵と比べ味がいい。
しかし、ニワニワトリは魔物であるため、中々手に入らず、安定して供給が出来ないとのことだった。
俺はこの提案を了承し、1000個のうち500個をエディさんたちに融通することにした。
ソードダンスにも40個提供すると言ったら、すごく喜ばれた。
卵の管理については腐らないように、俺が魔法の袋ですることになったため、1000個の卵が俺の袋に入っているのである。
銃弾の補充も完了したので、花凛を連れて2階の居住スペースに向かう。
俺たちの部屋は5人部屋で、一番大きな部屋を使っている。
商人たちには1人部屋、ソードダンスには2人部屋を使ってもらっている。
「戻ったぞ~。」
部屋に戻った俺は、部屋にいた3人に声をかけた。
「あっ、ミツキ、花凛ちょうどいいところに戻ってまいりましたわ。こちらの文字は何と読むのですか?」
一冊の本を手に、シーナが聞いてくる。
シーナが持っているのは、5階にあった本の一つで、日本語を覚えたいと言ったシーナのために簡単なものを持ってきた。
「どれだ?」
「こちらですわ。」
「これは金って読むんだ、んで、こっちが銀でこれが銅。」
「金に銀に銅ですわね。」
俺がこの本を選んだ理由は、日常的に使われる言葉が多く書かれているので、覚えやすいのではと思ったからだ。
「では、こちらは何て読むんですの?」
「あー、これは…」
俺はしばらくシーナに捕まり、夕飯の時間まで日本語を教えることになった。
翌日、日が昇ると俺たちは研究所を後にした。
そういえば、今回わかったのだが、俺たちが今いる街道の名前は、塩街道というらしい。
王国内で、塩の生産がされているのは南西部の町や村に固まっており、それを王都まで運搬することから塩街道という名がつけられたそうだ。
そんな塩街道を順調に進み、途中、近隣の村に立ち寄り行商をしつつ東へと進む。
研究所を出て3日、ニースの町とスクレクドの町のちょうど中間に位置する、グランフィズ要塞都市に到着した。
ここは、塩街道を管理するために作られた都市で、傭兵や冒険者が数多くいる都市である。
「身分を証明するものを出してくれ。」
「ギルドカードでいいか?」
「もちろんだ。」
今は、町に入るため西門でその手続きを行っているところだ。
「はいよ。」
「!ミツキ・ハルノSランク冒険者…いやすまない、まさかSランクだとは思わず。問題なさそうだな。ようこそグランフィズへ。」
黒いギルドカードを見て驚くものの、俺たちのことを歓迎してくれた。
「スプリングフィールドの皆様、ソードダンスの皆様、グランフィズまでの安全な旅路感謝いたします。こちらを出発するのは2日後の朝となります。東門へ6時までにお集まりください。それでは私どもは一度失礼します。何かございましたら、支店におりますので、そちらにお願いします。」
チャン商会の支店はここ、グランフィズにもあるようで、エディさんたちは支店へと向かっていった。
「カイルたちはこの後どうする?」
「俺たちは一度ギルドに行ってみるよ。確かギルドで馬車を預かってくれたと思うんだ。」
「マジか、なら俺たちもギルドに行くか。」
俺は再び馬車に乗り、ソードダンスの馬車と共に、ギルドへと向かう。
グランフィズのギルドは、町の中心にあり、ニースの町のギルドより大きい建物であった。
「俺はギルドで馬車を預かってくれるか確認してくるから、みんなは待っていてくれ。」
「わかりましたわ。」
俺はカイルと共にギルドの中へと入る。
内部はニースの町のそれとあまり変わらない。
「すいません。」
カウンターにいる女性に声をかける。
「ようこそグランフィズのギルドに。お兄さんたち見ない顔だね。」
「俺はスプリングフィールドのミツキです。」
「俺はソードダンスのカイルです。」
「ミツキさんにカイルさんだね。私はここのギルド職員、エリーって言います。よろしくね。それで、どういった要件なのかな?」
エリーと名乗ったギルド職員はメルティさんに比べると、気さくな人だ。
「俺たち護衛任務の途中でこの町に寄ったんですが、ギルドで馬車を預かってくれると聞いたので、それについて教えてほしいのですが。」
「ああ、護衛任務だったのね。道理で見たことないわけだわ。馬車はギルドの方で一日銅貨50枚で預かっているよ。預かる馬車はいくつかな?」
「俺たちの馬車が一台と、カイルたちの馬車が一台で合計二台です。」
「わかりました。二台だね。それじゃあ、こっちの書類を書いてもらえるかな。」
エリーさんが俺とカイルに一枚ずつ書類を渡してくる。
紙には馬車の預かり証と書かれていた。
各項目はパーティ名と名前、ランクの3つだ。
「書き終わったらギルドカードも一緒に見せてね。」
「これでいいですか?」
「はい、いいで……す…よ?ってえええええ!Sランク!」
紙と共に黒いギルドカードを渡したら、大声を上げながらエリーさんに驚かれた。
すでにこの光景も見慣れたものである。
カイルたちとエディさんにはニースの町を出発する前に教えたのだが、同じように驚かれた。
「スプリングフィールドのミツキさんって、あのミツキさん!」
「えーと、はい、そのミツキです。」
「数万の魔物を一瞬で屠ったとか、魔族を一撃で打倒したとか、湖を魔法で干上がらせたとか言われてて、かわいい子がいれば手を足さずにはいられないあのミツキさん!?」
この人は一体何のことを言っているのだろうか。
というか、ギルドの中で俺の存在はどうなっているんだ。
「俺はそんなことをした覚えありませんが。」
「そうですよね。いやー最近ギルドで新しくSランクに指定された冒険者の噂がされててね、他にもとんだ女たらしだとか、ウサギの奴隷を蹂躙しまくっているだとか、遺跡を攻略しただとか、オーガを単独で討伐したとか、そんな話を耳に挟んでね。」
なるほど、木を隠すなら森の中じゃないが、いろいろと荒唐無稽な噂の中に真実を入れることによって、真実が嘘だと思われるということか。
「やっぱり噂ってあてにならないね。ミツキさんそんなひどい人には見えないもんね。」
俺が何か言う前に勝手に納得してくれた。
これはきっと、ばあちゃんが行った情報操作なのだろう。
「俺はそんな噂が流れていることを初めて知りましたよ。それより、手続きお願いできませんか?」
「おっと、これは失敬失敬。ミツキさんの方は問題ナッシング。カイルさんの方も、OKだね。明後日まで預かるから、銀貨1枚ずつだよ。」
俺とカイルは一枚ずつ銀貨をエリーさんに渡す。
「確かに銀貨一枚受け取ったよ。それじゃあ、この紙を馬車に張って、こっちは自分たちで持っていてね。その紙なくすと、手続き面倒だからなくさないでね。馬車は隣の建物にいる職員に渡してね。」
俺とカイルはギルドを出て、みんなに馬車から降りてもらい、指示された場所に馬車を移動した。
そこにいた男性に話しかけ、馬車を預かってもらうことが出来た。
「さて、今日の宿を探すか。」
俺はギルドの前で待っていてもらったシーナ達と合流した。
ソードダンスの面々も一緒である。
「俺たちはいつも泊まっている宿に行くけど、ミツキたちも一緒にくるかい?」
「そこ、風呂はあるか?」
「風呂?なかったと思うよ?」
「そうか、なら遠慮しておく。俺は風呂のある宿を探す。誘ってくれたのにすまん。」
「いや、いいよ。ミツキの風呂好きはこの旅でよくわかっているから。」
俺はこの旅の間、毎日魔法で風呂を作っていた。
そのため、一緒に旅をしている人たちには俺が大の風呂好きであることを理解されているのだ。
俺たちはソードダンスのみんなと別れ、風呂付の宿を探すことにした。
「よーし、風呂のついた宿探すぞ!」
「相変わらずですわね。」
「いいんだよ、風呂気持ちいいんだから。」
シーナに呆れた顔をされる。
そんなことは気にせず、歩き始める。
町にはやはり冒険者が多く、活気に満ち溢れている。
町の人たちに宿のある場所を聞き、そちらへ移動する。
そこは宿の固まった一角で、飲食店も同じ区画に多く集まっている。
風呂のついた宿は一軒しかないとのことで、その宿を目指す。
「でけえな。」
「おっきいですわね。」
「大きいねえ。」
「すごい大きい。」
「大きいです。」
宿に着いたが、その大きさに圧倒された。
他の宿の倍近い大きさで、見た目はいかにも高級そうな宿である。
とりあえず、宿に入る。
中も綺麗で、華美になりすぎないように装飾がなされている。
「ようこそ翡翠亭へとお越しくださいました。お客様、失礼ですが紹介状などはございますでしょうか?」
執事服を身に着けた男性が俺たちのところへやってきた。
「えーと、紹介状は持っていないのですが、紹介状がないと泊まれませんか?」
「そういうわけではございませんが、当宿は他のお宿と比べ、宿泊費が高額となっております。ですので、当宿をご利用なさるお客様は貴族様や大きな商会の会頭様になっております。」
あれだ、要するに俺らが金のなさそうな冒険者だから、やんわりと出ていけってことだろう。
「宿泊費っていくらですか?」
「お一人様ご一泊二食付きまして、金貨1枚となっております。」
金貨1枚か、5人で二泊しても金貨10枚、余裕で払える値段だ。
「なら5人で二泊お願いできますか?」
「お客様、持ち合わせの方は大丈夫ですか?」
やっぱり、お金がないと思われている。
「大丈夫ですよ。」
「本当ですか?」
「ええ。」
この執事、疑り深すぎる。
「何か問題でもございましたか?」
そこへ、初老の男性が声をかけてきた。
「支配人、いえ、お客様が当宿に泊まりたいとおっしゃられるのですが、その、」
どうやら、初老の男性はこの宿の支配人らしく、執事の男性が恐縮している。
支配人はその様子から、おおよその状況を察したようである。
「お客様、失礼ですが身分を証明できるものの提示をお願いできますか?」
「これでいいですか?」
俺は黒いギルドカードを取り出し、支配人の男性へと見せる。
「なっ!?」
毎度のように、執事さんが驚きを露わにする。
支配人の男性の方は、表情を変えなかった。
「ハルノ・ミツキ様、確認いたしました。私どもの従業員が大変失礼いたしました。」
「いえ、いつものことですので。特に気にしていません。」
「ありがとうございます。冒険者の方が以前当宿にお泊りになられたことがあるのですが、そのお客様がお金を払えなかったということがありまして、従業員が冒険者の方を警戒してしまい、お客様には不快な思いをさせてしまいました。今回は迷惑料として宿泊費を二割引きさせていただきます。」
「いいんですか?」
「もちろんでございます。それではお部屋にご案内させていただきます。」
Sランク冒険者の肩書き凄すぎである。
そのおかげで、風呂付の宿に泊まることが出来る。
「こちらの部屋をお使いください。」
俺たちが案内されたのは、5階の部屋で部屋の広さは普通の宿屋の3倍程度、部屋に内風呂と露天風呂が一つずつついている部屋だった。
「それではごゆっくりしてください。失礼します。」
「いえ、ありがとうございます。」
こうして、俺は念願の風呂付の宿に泊まることとなった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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