第33話 新たな旅路
今回で第1章は終わりです。
次話から第2章になります。
ニースの町を出発してスクレクドの町へと向かう日、俺たちは朝からチャン商会に来ていた。
今回は二週間という長期の移動になるため、馬車をチャン商会から買ったのだ。
一昨日頼み、こちらの要望を聞いて今朝納品してもらえる手はずになっている。
「お待ちしておりました、ミツキ様。」
「お久しぶりです、ミツキ様。」
チャン商会の前ではセバスさんとエディさんの二人が待っていた。
前者がセバスさんで、後者がエディさんのセリフである。
「こちら、ミツキ様よりご注文いただいた馬車になります。」
セバスさんの後ろに用意されていたのが俺の注文した馬車で、元の世界でコネストーガ幌馬車を参考にして誂えて貰ったものだ。
コネストーガ幌馬車は河川の横断も考慮して作られたもので、全長が約6m、全高が約3mで全幅が約1.2mで、車輪も大きく作られ、ワゴン部分は白い幌で覆われている。
「ありがとうございます。いくらですか?」
「馬二頭を合わせまして金貨50枚となります。それと、ミツキ様にお願いがあります。こちらの馬車のアイデアを私どもの商会にお売りいただけないでしょうか?」
袋から金貨をだしお金を払うと、セバスさんがそう俺に持ちかけてきた。
「アイデアですか?」
「はい、ミツキ様の考えられたこちらの馬車、大変すばらしいものでございます。特に、一度に多くの荷物を運べる点は我々商会の物にとっては大きな利点であります。」
「別にわざわざ俺に確認取らなくてもよかったんじゃないですか?セバスさんには造り方教えているわけですし。」
ふと、疑問に思ったことを聞く。
この世界に特許制度はないのだから、勝手に真似しても問題ないはずである。
「ミツキ様、我々商会にとって信用は何よりも重要なものです。お客様がお考えになられたアイデアを無断で真似したとなれば、それは信用を失うことに繋がります。ですので、素晴らしいアイデアを我々は買い取ることにしているのです。」
「なるほど、そういう理由ですか。わかりました、お売りしますよ。」
チャン商会は随分と誠実な商売を心掛けているようである。
だからこそ、王国でも有数の規模の商会であるのだろう。
であれば、俺も遠慮する必要はないだろう。
「ありがとうございます。私どもとしては、こちらのアイデア料として白金貨2
枚と考えておりますが、いかがでしょうか?」
2億円か、高すぎやしないだろうか。
「それは少し高すぎませんか?」
「そんなことはございません。今までと比べ一度で3倍近い荷を運ぶことが出来るようになるとなれば、妥当な値段でございます。」
「そうですか…では、白金貨1枚でどうでしょうか。俺としてはこれからもチャン商会とは仲良くしていきたいと思っておりますので、この値段で取引したいのですが。」
「よろしいのでございますか?私としては大変魅力的な提案でございますが。本当のところ、値段を吊り上げられることも考えておりましたので、半額でいいと言われたのは大変驚きです。」
「お金に困っているわけじゃないですしね。」
ミスリル製のゴーレムの報酬で白金貨75枚を貰い、決闘では白金貨10枚を手に入れた。
この世界の基準でいってもかなりの大金持ちである。
今回の旅の準備で白金貨1枚ほどは使ったが、未だ80枚以上残っている。
「ありがとうございます。こちら契約書になります。問題がなければ金額とお名前のご記入をお願いします。」
契約書に目を通す。
俺が馬車のアイデアをチャン商会に売る旨と、発案者として俺の名前を使用すること、他の商会にはアイデアを売らないことが明記されていた。
特に問題はないと感じたので、白金貨1枚、ミツキ・ハルノと書きセバスさんに渡す。
セバスさんも名前を書き込み、契約が交わされる。
俺に白金貨1枚が支払われる。
「それでは、馬車の方の確認をお願いします。」
馬車のワゴンに入る。
ワゴンの中には何もなく、床に毛皮で作った絨毯が引かれている。
これは移動中、振動でお尻が痛くないようにするためだ。
何気に、この絨毯にお金がかかった。
こちらの世界、絨毯は高級品で、王侯貴族ぐらいしか所有していない。
そんなものを贅沢にも馬車に使ってみたのだ。
ワゴンの中をチェックし、外側の車輪などの部分もチェックする。
特に問題はないようである。
「問題ないですね。俺たちはこのまま町を出ようと思います。」
「ミツキ様、そのことなのですが、我々の商隊もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
「一緒に?」
「はい、我々もスクレクドまで行くつもりでございまして、ミツキ様さえよろしければ同行させていただきたいのです。もちろんギルドを通した護衛依頼という形を取らせていただき、報酬もはずませていただきます。」
「護衛依頼ですか。途中一度、東の遺跡によりたいのですが、それでもいいのであればお受けしますよ。」
東の遺跡が攻略されたことをセバスさんはすでに知っている。
どこから情報を仕入れたのか分からないが、馬車を頼みに行った時にお祝いの言葉をくれたのだ。
「問題ございません。今回は馬車が3台になりますので、ミツキ様の他にギルドの方に護衛の方を依頼していますので合同での護衛になりますが、そちらについてもよろしいですか?」
複数パーティでの護衛依頼か。
馬車の数も多いので、俺たちだけですべてを守るのは難しいかもしれない。
ならば、他の冒険者にもいて貰った方がいいだろう。
「わかりました。今からギルドに向かえばいいですか?」
「はい、馬車の方はすでに東門に移動させてあります。商隊ではエディが責任者になりますので、エディとともにギルドに行っていただき、その後東門へと向かってください。」
「ミツキ様、今回もどうぞよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします、エディさん。」
俺はセバスさん、エディさんと順番に握手を交わし、馬車に乗りギルドへと向かう。
俺は御者台に座り、エディさんが隣に腰かけた。
ワゴンに乗ったシーナ達には、床がふわふわしていて快適だったと、馬車は好感触であった。
ギルドではいつものようにメルティさんがカウンターにいたので、エディさんが俺たちのパーティ、スプリングフィールドにクエスト依頼する旨を告げ、俺が受ける旨を告げた。
その後東門に向かった。
東門には馬車が4台準備されていた。
3台はチャン商会のマークが書かれたもので、残りの1台はギルドが貸し出しているものだった。
エディさんが御者台から降り、ギルドの馬車へと向かっていく。
ギルドの馬車から出て来た冒険者は見覚えのある人物たちであった。
俺はその馬車に近づいていく。
「ミツキ様、こちら今回スプリングフィールドの方々と共に護衛の任務を受けていただく、ソードダンスの方々です。」
「ミツキじゃないか、久しぶり!君たちが今回一緒に護衛を受けるパーティなのかい。」
俺を見て声をかけてきたのはソードダンスのリーダ、カイルであった。
「ああ、俺もまさかカイルたちだとは思わなかったよ。それよりカイル、今後のことについて話し合わないか?エディさん、旅程について詳しく決めたいのですが。」
「はい、そうでございますね。他のメンバーの方も含め、一度話し合いを行いましょう。」
俺は馬車に戻り、シーナ達を呼びに行く。
そして、スプリングフィールドとソードダンス、チャン商会の3つで話し合いが行われた。
話し合われた内容は、スクレクドに行くまでの道のり、経由する町や村、進行時のフォーメーションについてだ。
スクレクドまではなるべく多くの村や町に立ち寄り、日用品などを売っていくことになった。
これはチャン商会の意向である。
次にフォーメーションであるが、俺たちスプリングフィールドが一番前を務め、その後ろにチャン商会、後方にソードダンスという布陣で進む。
俺たちが前になったのは、リアの索敵能力がずば抜けているからだ。
「それでは皆様、護衛の方よろしくお願いします。」
エディさんが最後にそう締めくくり、話し合いは終わった。
俺たちの馬車を先頭に東門を出ていく。
東門ではいつものように兵士によるチェックを受けたが、俺がギルドカードを見せると、兵士は大変驚いていた。
俺たちに続く様にチャン商会の馬車が税金を払い、町の外に出る。
最後にソードダンスの馬車が出てきて、俺たちの新たな旅は幕を開けた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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