第31話 ダンダリアン・フォン・ライオット
お気に入り登録ありがとうございます。
俺は今、ニース邸の練兵場にいる。
こんなところに来るつもりはなかった。
しかし、とある理由から来ざるを得なくなった。
「逃げださずにこの場にいること、まずは誉めてやろう!」
目の前には豪華な鎧に身を包んだ、俺と同じ年くらいの偉そうな男がいる。
これから俺は、この男と決闘することになっているのだ。
なぜこんなことになってしまったのか、今日はもうゆっくりするはずだったのに。
その原因を語るには、一時間前にあった出来事を話さねばならない。
今から一時間前、俺は花凛、リアと共に西部にある商業地区に買い物に行っていた。
俺が花凛に福屋でワンピースを買ってやると、店の外からリアの迷惑そうな声が聞こえてきたのだ。
俺はすぐさま店の外に出て、リアの姿を探した。
花凛には店の中で待っているように言った。
リアは俺のいた店から5軒先の店先にいた。
その前には10代後半と思われる男と、その男の部下と思われる人物が2人おり、リアの行く手をふさいでいた。
「やめてよ、迷惑なのよ!」
「なんだと、貴様奴隷風情がこの俺様に向かってなんて口の聞き方だ!この俺様が一緒に来いと言ってるんだ。大人しくついてこい。」
男がリアの手を無理やりつかみ、どこかに連れて行こうとする。
「おい、嫌がっているだろ、やめろよ。」
俺はリアに近づき、男にそう声をかけた。
リアと男の間に体を入れ、男の手がリアに届かないようにする。
「貴様、この俺様の邪魔をするのか!」
俺が間に割って入ったことで、激昂する男。
髪は金髪で、手入れもしっかりされており、顔立ちも整っている。
来ている服も、質が良く、金持ちのボンボンといった感じである。
「邪魔も何も、嫌がってるだろ?」
俺は男を諭すように話しかける。
けんか腰で話しても、物事は解決しない。
相手が冷静さを取り戻してくれれば、話し合いで解決できる。
「そんなことは関係ない。俺様はウサギの獣人の奴隷が欲しいんだ。」
「なら、奴隷商に行けよ。」
「ニースの町でウサギの獣人の奴隷が売られていると聞いてわざわざ王都から来たのに、すでに奴隷は売れた後だったんだ。そしたら、ちょうどよくこの奴隷が俺様の前に姿を現したんだ。だから、俺様がそいつをいただくことにした。」
「人の奴隷を奪うのは犯罪じゃないのか?」
「ええい、うるさい奴め、貴様には関係ないだろう!」
「関係ないわけないだろう?俺はこいつの主人だ。てめえなんかに渡さねえよ。」
「貴様がこの奴隷の主人だと?笑わせるな、貴様のような貧乏人にウサギの獣人が買えるわけないだろう。いいからそこをどけ。」
ダメだこいつは。
話し合いがまともに出来る手合いではない。
こういう手合いは無視するに限る。
「リア、行くぞ。」
俺は右手でリアの左手を取り、男を無視して歩き出す。
「貴様、なにをしている!そいつは俺様のものだと言っているだろう。」
男が後ろで何かわめいているが、聞く耳は持たない。
「ご主人様、いいの?」
「ああ、ほっとけ。ごめんな、俺が目を離したすきに嫌な思いさせて。」
「そんな、ご主人様はあたしのことちゃんと守ってくれたよ。」
俺たちは足早にその場から離れる。
「待てと言っているだろう!聞こえんのか!」
まだ何か言っているが、無視無視。
「ええい、お前らあいつを捕まえろ!男はどうなっても構わん。ただし、ウサギの女の方は無傷で捉えろ!」
後ろから物騒な声が聞こえてきた。
振り向くと、部下の二人が俺たちに走り寄ってきた。
一人が前方に来て、行く手をふさぐ。
「悪いなあんちゃん、坊ちゃんの命令なんで、大人しくしてもらうぜ。」
前方にきた、傭兵崩れの男が話しかけてきた。
まだ、こいつの方が話が通じそうだ。
「ウサギの嬢ちゃんさえおいていけば痛い思いをせずに済むぜ、どうする?」
「言っただろ、こいつは俺の奴隷だ。他の奴に渡すわけないだろ。あんただって、あいつが間違っている事ぐらいわかっているんだろ?」
「まあ、な。それでも雇い主の命令だからな。聞かねえわけにはいかねえんだ。謝罪代わりに一発で沈めてやるよ!」
男が右手を振りかぶって俺に殴り掛かってきた。
主人の命令を聞いて、リアを傷つけるような軌道ではない。
俺は左足一歩下げ、殴り掛かってきた男を避ける。
そのまま男の右手を取り、体を反転させ、男を背に乗せて一本背負いをお見舞いしてやる。
背中から勢いよく男が地面に叩き付けられる。
「かはっ…」
肺から空気を漏らし、苦しそうにもがく。
後ろにいた男も殴り掛かってきたが、腕を取り手前に引き寄せ、態勢が崩れたところに顔面へと膝をお見舞いしてやる。
「ぐげっ、」
鼻血を吹いて男が崩れ落ちる。
俺は、何事もなかったように、再びリアの手を取り、歩き出す。
周りで遠目に見ていた住民たちは、何が起こったのか分からず、茫然としていた。
「貴様ああああ、この俺様をコケにしおって!この俺様自ら引導を渡してやる!決闘だ!」
俺が付き人二人の相手をしている間に、前方に回り込んでいた男がそんなことを言いだした。
「ライオット伯爵家三男、ダンダリアン・フォン・ライオットが貴様に決闘を申し込む!」
腰に付けた剣を抜き、俺へと向けてきた。
その剣は実用的なものではなく、飾りが施された物で、儀礼用の剣みたいである。
周りの住民は、伯爵と聞いてひそひそと何かを話している。
「だが、断る!」
俺が受ける義理はない。
てか、いきなり襲いかかってきて今更決闘とか、頭が湧いてるとしか思えない。
気にせず、男の横を通り過ぎる。
「待て貴様、逃げるのか!」
「おいおい、俺の町で暴れてんじゃねえよ。」
そこへ、この町の領主である、アルが騎士団を連れてやってきた。
住民の誰かが通報したのだろう。
「ふん、田舎貴族がこの俺様に指図するな。俺様はライオット伯爵家の三男だぞ、男爵風情が不愉快だ。」
アルのことを領主であると知っていたダンダリアンは吐き捨てるように言った。
「で、伯爵様の三男殿がこんな街中で剣を抜いて何をしてるんだ?」
アルは、ダンダリアンのそんな態度にも相手することなく、冷静でいる。
「この平民風情が俺様にたてついたのだ。そこの奴隷を俺によこせと命令しているのに、言うことを聞かんのだ。だから、決闘して奪うことにしたのだ。それを平民風情が断ったのだ。田舎貴族でも知っているであろう、決闘を断ることが出来ないことを。」
田舎貴族と言われる度、アルのこめかみがピクピク動く。
イラついているようである。
俺は黙ってことの成り行きを見守る。
「確かに、決闘は断ることは出来なかったな。」
「そうであろう。そこの平民風情にもよく聞かせてやれ。自分の無知さを。」
「だがよ、それはあくまで貴族同士でのことだ。そいつが受ける義理はねえ。」
「ふん、そんなことは関係ない。俺様が決闘すると言ったらするんだ。」
ダンダリアンは、全く聞き耳を持たない。
やれやれ、といった表情でアルが俺の傍に寄ってきた。
「ミツキ、決闘してそこのボンクラをぼこぼこにしろ。わかったな。」
そして、耳元でそう言ってきた。
脅すように。
よほど、田舎貴族扱いされたことが頭に来たようである。
「ライオットんとこの三男、こいつが決闘受けるそうだ。場所は俺の方で用意する。それでいいな。」
「おお、田舎貴族にしては中々使えるではないか、誉めてつかわそう。」
「…時間は今から一時間後、場所はうちの練兵場だ。」
「いいだろう、そこの平民、せいぜい首洗って待っているんだな。おいお前ら、いつまで寝ている、行くぞ。」
それだけ言い残し、ダンダリアンはその場を去って行った。
地面に倒れていた男二人も立ち上がり、後を追っていった。
「おい、アル、俺はやるとは言っていないぞ?」
勝手に決闘を決めたアルをにらみつける。
「あの場で俺がぶん殴ってやってもよかったんだがな、ライオット伯爵家はいろいろと面倒な家柄でな、俺が直接手を出すと、後々問題になるんだよ。その点、決闘を挑まれたお前がぼこぼこに伸す分には問題ねえ。」
「たくよ、自分勝手なやろうだ。」
「それより、お前いつ町に戻ってきたんだ?戻ってたんなら顔ぐらい出しやがれよ。」
「少し前に戻ってきたばかりなんだよ。というか、シーナが家に報告に行ったぞ?」
「何、マジか?俺は騎士どもの訓練中だったんだよ。」
どうやら、アルはシーナと会えていないようである。
「にしても、お前いつの間に奴隷なんか買ったんだ?」
「北の遺跡から戻ってきてすぐ。パーティの戦力増やそうと思って。」
「それでどうしてウサギの獣人なんだよ?」
まあ、当然の疑問だろう。
ウサギの獣人は獣人の中でも戦闘に適さない種族であるのだから。
「直感だ!」
「直感か、それなら仕方がねえな。」
いいのかよ。
「ごめんご主人様。あたしのせいでこんなことになって。」
リアがすまなそうに頭を下げてくる。
「リアのせいじゃないよ。悪いのはあのボンクラだ。それより、花凛があの店にいるから呼んできてくれ。」
俺は花凛の服を買った店を指した。
俺の指示に従い、リアが花凛を呼びに行く。
すぐに、リアが花凛を連れて店から出てくる。
「パパ、大丈夫ですか?」
「当たり前だろ、俺があんな奴に負けるわけがないだろ?」
不安そうな表情の花凛の頭を撫で、安心させるように頭を撫でる。
「パパ?どういうことだミツキ、お前娘がいたのか!?」
花凛が俺のことをパパと呼んだことに、アルが過剰に反応した。
「まあ、いろいろあったんだ。詳しいことはあとで説明するよ。それより、あのボンクラを叩きのめす準備をしないとな。」
そんなことがあり、話は冒頭へと戻る。
一時間が経ち、練兵場に行き、ダンダリアンと対峙しているのである。
「平民、何か言い残すことはあるかい?」
「どうして、リアを欲しがる?」
俺はどうしてもそのことだけは確認したかった。
「リア?ああ、あのウサギ女か。そんなの決まっているだろ?ウサギの獣人、それも牝は愛玩奴隷として貴重なんだ。俺様のような貴族がペットとして飼うのは当然だろう?それに、あの胸だ。あれだけの胸を好きに出来るだけでも価値はあるじゃないか。飽きるまで毎日楽しんでやるさ。」
「最低だな、お前。」
「最低?貴族たる俺様に与えられた権利さ。平民には到底わからんさ。」
俺は決めた。
こいつは徹底的につぶす。
そんなことを一生考えることが出来ないように、矯正してやる。
「それでは、お二方準備の方はよろしいですかな?」
決闘の審判をしてくれているのはセバスさんだ。
商人は信用第一ということで、契約を重んじる。
契約の不履行、破棄は商人の信用を失墜させる。
決闘と言いうのは、貴族同士の一種の契約で、商人がとりなすことがあるそうだ。
商人は中立の立場で、審判をし、決闘を見守るのだ。
今回はその白羽の矢がセバスさんに立ったのだ。
「俺様はいつでもかまわん。」
「俺もいいです。」
「それでは、決闘内容の確認をいたします。決闘はダンダリアン様とミツキ様の一騎打ち、どちらかが戦闘不能になるか、降参することで勝負が決まります。もし相手を殺してしまった場合でも、罪には当たりませんのでこの点をご留意ください。ダンダリアン様が勝った場合にはミツキ様の所有奴隷、リリシア殿の所有権がダンダリアン様に移ります。ミツキ様勝った場合には、ダンダリアン様がミツキ様に白金貨10枚支払うということでよろしいですかな。」
「もちろんだとも、勝つのは俺様だからね。」
「俺も問題ありません。」
「お二人のその言葉を以って契約の締結といたします。それでは、決闘開始!」
セバスさんの声で、決闘が始まった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字、その他気になった点がありましたら、コメントよろしくお願いします。




