第24話 ミュレの村
俺たちは順調に護衛任務をこなしていった。
時々魔物と遭遇するものの、リアがすぐさま魔物に気付くため、魔物が馬車に接近する前に倒すことで馬車が襲われるリスクを極力減らす。
エディさんにはここまで安全な旅は初めてだと言われた。
そんな感じで4日目、無事ミュレの村に到着した。
「ミツキさんありがとうございます。私たちは数日はこの村に滞在いたします。もし何か御入り用でしたら、遠慮なくおっしゃってください。」
エディさんはそういうと、俺に割符のようなものを渡してくれた。
この割符は依頼人からクエストが達成した証として渡され、ギルドに持っていくと報酬が貰える。
割符を渡してくれたエディさんは俺たちに一礼すると、村長の家に向かうと言っていなくなった。
「よし、俺たちは泊まるところを見つけよう。」
泊まるところと言っても、こんな小さな村に宿屋なんてあるわけがない。
なので、ここでもテント暮らしだ。
そこで、テントの張れそうな場所を探し、村人に許可を取ろうと思っている。
遺跡に行くのは明日にして、今日はゆっくりするつもりである。
ミュレの町を歩き回る。
変わり映えのしない木造の家が50軒ほどの村で、人口は200人程。
農地が広がっており、のどかな田舎である。
昼前ということもあり、多くの村人が農作業を行っている。
そんな村人に、テントを張っても問題ない場所を聞きながら、町を把握していく。
途中、この村の村長と会い、村の中心の広場にテントを張っていいという許可を貰った。
早速広場に向かう。
広場と言っても、特別何かがあるわけではなく、農地に適していないため、家なども建っていない空白地帯になっているだけだ。
収穫祭の時にはここに神様への貢物を置く祭壇を作るそうであるが、それ以外に使用されることはないそうだ。
「なあなあ、兄ちゃん冒険者なんだろう?」
村の子供たち数人が、広場テントを張っていた俺に話しかけてきた。
小学校中学年くらいの年齢だろうか。
「ああ、そうだよ。」
テントを張りながら、子供たちの相手をする。
「すっげー、魔物は?魔物と闘うんでしょ?」
目をキラキラさせて、子供たちが話に食いついてくる。
「ここに来る途中もゴブリンやウォルフと闘ってきたよ。ほら、これがゴブリンの角だ。」
魔法の袋からゴブリン討伐確認部位である角を取り出す。
「「「「おおおおおお!!!!」」」」
それを見た子供たちが歓声をあげる。
小さな村だ、娯楽が少ないのだろう。
そう思い、俺はしばらく子ども相手をすることにした。
シーナたちも女の子たちの相手をしており、彼らが家に帰るまで子守をすることとなった。
そんな中、一人の男の子が浮かない顔をしていることに気付いた。
みんなが楽しそうに話を聞いてくれるのに、表情が暗い。
「なあ、彼はどうしたんだ?」
俺は近くで、熱心に俺の話しに聞き入っていたギリーと呼ばれている男の子に聞いてみた。
「ああ、あいつはウェインって言うんだけど、あいつの父ちゃんこの間狩りに行った時魔物に襲われて、怪我したらしいんだ。」
ギリーの話を聞いたところによると、ウェインの父は魔物に襲われたものの一命は取り留めることができた。
しかし、傷がひどく、もう狩りに出ることは出来ないだろうとのことだった。
ウェインの父は村でも一番の猟師で、ウェインもそんな父に憧れていたそうだ。
「ねえ、ご主人様どうにかできないのかな?」
いつの間にか俺の傍にいて、ギリーの話を聞いていたリアがそんなことを言ってきた。
「体が動かないって辛いよ。」
リアは呪いのため、本来のステータスより格段に低いステータスで生活していた。
そのため、体が思うように動かないことの不便さを誰よりも知っている。
だからこそ、俺に懇願してくる。
「そうだな、出来るかわからないが、やってみるか。ギリー、ウェインに家に連れて行ってもらえないか聞いてくれないか?」
「わかった!俺もウェインには元気になってほしいからな!」
ギリーは子供たちの中心ともいうべき存在だ。
ガキ大将と言ってもいいだろう。
部外者の俺より、同じ年代で、子供たちの中心であるギリーにお願いしてもらった方が、話がすんなりまとまると思い、ウェインへ話してもらうことにした。
ウェインはギリーの話を聞き、表情が明るくなり、ギリーが俺のことを指さすと、俺の方に近寄ってきた。
「冒険者様、治癒術士様なんですか?お父さん、また前みたいに狩りに出られるようになるんですか?」
「怪我の状態がどの程度なのかわからないから、今の段階では絶対に治せるとは言えない。だけど、なるべく努力してみるつもりだ。」
興奮気味のウェインに目線を合わし、優しく諭す。
「有難うございます。すぐに家に案内します。」
そういうと、ウェインは走り出した。
「ちょっと言ってくるよ。リアは子供たちの相手を頼むな。」
「はい、ご主人様、あたしのわがまま聞いてくれてありがとう。」
一言リアに残し、俺はウェインを追った。
幸い子供の足であるし、村自体がそこまで広くないのですぐにウェインに追いつく。
ウェインに案内されたのは、村でも一番大きな建物だった。
建物の前には一台の馬車が止まっている。
「お母さん!冒険者様がお父様の怪我を治してくれるって!!」
ウェインが勢いよく家の中に入っていく。
「これ、ウェイン、お客様が来ていらっしゃるのだ。まずは挨拶なさい。」
中からはしわがれた老人の声が聞こえてきた。
「失礼します。」
そう声をかけ、ウェインに続き家の中に入る。
そこにはウェインを含め6人の人物がいた。
3人は俺の知っている人物で、残りの3人は老夫婦とウェインの母と思われる人物である。
「これはミツキ様、どうなさったのですか?」
俺と顔見知りの人物の1人、エディさんが俺の姿を見て声をかけてきた。
「エディさん、こちらの方とお知り合いですかな?」
先ほど、俺たちに村の広場を使っていいと許可をくれた村長が、俺のことを訝しげに見てくる。
「はい、本日こちらに到着するまでの間、護衛をしてもらっていた冒険者の方です。今回は今までにないくらい安全な旅路でした。」
「して、その冒険者が我が家に何用かな?」
「おじいちゃん、こちらの冒険者様がお父さんを治してくれるっていうんだ!」
興奮気味のウェインが村長に詰め寄る。
「なんと、ミツキさんと言われましたか、治癒術士様でおられるのですか?」
「いえ、俺は考古学者です。ですが、回復魔法を使えるので、一度傷の具合を見せていただこうと思いまして。」
「ですが、ミツキさん、見ての通りわが村は貧しく、治していただいても支払が出来ません。」
治癒術士というのは通常それを生業にしており、パーティメンバーなど以外を治療するときには料金を請求する。
また、ギルドを通して治癒術士に治療を依頼する際の相場は最低でも銀貨50枚、かなり高額なものとなっている。
これは高度な回復魔法を扱える治癒術士の数が少なく、優秀な治癒術士は大抵国や領主に仕えているか、教会に所属していることが多いため、フリーの治癒術士が貴重なためである。
冒険者からしたら、回復魔法を使える人物を何としても自分のパーティに入れたいと思うほどだ。
「いえ、別にお金はいりません。俺は近くの遺跡探索に赴くつもりですので、何か情報を教えていただければ、それを料金としていただきましょう。」
「それはありがたい!正直、息子はもうダメだとばかり…アメリア、カークスのところにミツキさんを案内してやってくれ。」
「はい、お義父様。ミツキ様、どうか夫をお助けください。」
アメリアと呼ばれた女性、ウェインの母が俺に頭を下げてくる。
アメリアさんについて行き、部屋に入る。
ウェインもついてきている。
そこには顔色の悪い一人の男性がいた。
体には包帯が巻かれており、特に右足は包帯の間から見える皮膚の色が紫に見える。
「アメリアか、どうした。商人が来ているのではなかったか?」
人の気配を察してか、カークスさんが体を起こそうとする。
「ダメよカークス!安静にしてなきゃ!」
すぐさまアメリアさんが近寄り、カークスさんを寝かせる。
「こちらの冒険者様があなたの傷の具合を見てくださるそうよ。」
「こちらは?」
そこで初めて俺に気が付いた。
「ミツキ様とおっしゃって回復魔法が使えるそうなの。」
「ミツキ・ハルノです・傷を見せていただいてもよろしいですか?」
「いいが、この傷じゃ俺はもう助からん。」
弱弱しく息を吐くカークスさん。
しゃべるのも辛そうだ。
「そんなこと言わないでカークス!」
「そうだよ、お父さん頑張ってよ!」
そんな夫、父に対して2人が励ましの言葉をかける。
「ポイズンセンチピードの毒にやられたんだ。高位術者でもなければどうにもならん。」
ポイズンセンチピードは危険度Cの巨大なムカデ型魔物で、大きさは3~5mあり、強力なあごをもち、牙には毒があり、噛まれると毒が体内に入り体を麻痺させる。
また、毒の成分のせいで、傷口からどんどん壊死していき、最終的には死に至る。
「とりあえず、それは傷口を見てみないとわかりません。」
アメリアさんがカークスさんに巻かれた包帯をほどいていく。
やはりひどいのは右足だ。
右足に手をかざす。
まずは体の毒素をどうにかしなくてはいけない。
「キュア!」
解毒魔法を使う。
患部が青白い光が降り注ぎ、右足が青紫から、赤みを取り戻していく。
毒は完全に消えたようで、カークスさんの顔色も血が通ったように赤くなっている。
「ヒール!」
今度はカークスさんの体全体を魔力で覆うようにして、魔法を使った。
口ではヒールと唱えたが、実際はリザレクションを使う。
すると、みるみる傷が消えていき、1分程度の時間が経つと目立った外傷はなくなっていた。
「おお、おおおお!!!」
「毒を体の中から取り除いて、傷は塞ぎましたが、体力は戻っていまし、失った血も無くなったままです。しばらくは安静を心掛けてください。」
体が治ったことで、立ち上がろうとしたカークスさんに釘を刺す。
「ありがとうございます。まさか、冒険者にこんな治癒術者がおられるとは。」
「ミツキ様、本当にありがとうございます。もうダメかと思っていた夫が…」
アメリアさんの目尻には涙が浮かんでいる。
「冒険者様!ありがとうございます!」
広場にいた時とは打って変わって、明るい表情になったウェインが元気にお礼を言ってきた。
そのまま、リビングの方へと走っていく。
「おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん元気になった!」
父が元気になったことがよほどうれしいのか、ここまで声が聞こえてくる。
「俺も失礼します。もう一度言っておきますが、体力戻るまでは絶対安静ですから、アメリアさんしっかり見張っておいてください。」
先ほどぽつりとカークスさんが小声で、「明日はこれで狩りにいけるな」とつぶやいていたので、今一度釘を刺しておく。
「わかっています。最低でも一週間はカークスを狩りに行かせるようなことはしません。ミツキ様、改めてカークスを助けていただきありがとうございます。」
最後にアメリアさんにお礼を言われ、部屋を後にする。
そのまま、リビングに足を運ぶ。
そこでは、ウェインは俺が先ほどカークスさんを治した状況を興奮気味に語っていた。
「おお、ミツキさん、ウェインから聞きました息子を救ってくださり感謝いたします。」
感極まった表情で、村長が俺の手を握ってきた。
「いやはや、ミツキ様には驚かされますな。剣士かと思っていたが、高位の治癒をお使いになるとは。セバス様が今回の護衛に指名しただけのことはあります。」
エディさんには心底驚かれ、ジェフには尊敬のまなざしで見られる。
「ミツキさん、大したおもてなしは出来ませんが、夕食を我が家でごちそうさせてください。もちろん、お仲間の方もご一緒で大丈夫です。」
村長からせめてものお礼にと、夕食に招待された。
遺跡についてもその時に教えてもらえることとなった。
俺は一度村長の家を後にし、広場に戻る。
リアが俺の姿を見つけると、すぐに走り寄ってきた。
「ご主人様、どうだった!?」
「大丈夫。毒も抜いたし、傷も治したから。後は体力の回復を待てば今迄通りの生活が出来ると思うよ。それより、シーナとフランを呼んできてくれ。」
シーナとフランは子供たちに魔法を教えているようで、子供たちも熱心に聞き入っている。
邪魔するのは悪いと思うが、村長に言われたことを伝えたいので、リアに呼んできてもらう。
「どうしましたの、ミツキ?」
子供たちが名残惜しそうにしている。
「ああ、村長の家で夕飯をごちそうしてもらうことになった。」
「村長の家で?ミツキ、さっきまでいないと思ったら、また何かやっていたんだね。」
「村長の息子が怪我してるっていうんで、治療したら、そういうことになった。それと、遺跡についても知っていることを教えてくれるそうだ。」
3人に、これから村長の家に行くことを伝える。
3人も村長の家に行くことを了承してくれ、まだ遊んで欲しそうな子供たちに別れをつげ、村長宅へと向かった。
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