3-2
オルレアが実家に戻って約4ヶ月。生活が体に馴染んだ頃。
新しく仕立てられた数着のドレスをぼんやりと眺めていた。
(……お兄様、随分気前が良かったわ)
既製品ではない、生地から選んだドレス。
オルレアを誇張させるにしても、限度を超えている。
「気のない様子ね。ま、それも仕方ないわね」
ころころ笑う義姉に、肩を落とす。
「申し訳ありません。……ただ、まだ夜会に出席するのは」
(わたしったら。……多額のお金をかけて作ってくださったのに、気の利いたこと一つ言えないなんて)
ミルドレッドは歌うような口調で、ドレスの袖を摘まむ。
「あら。良い頃合いだと思うけれど――勘違いしないでね。わたくしは、できれば一日でも長くオルレアにいてほしいけれど」
息子たちの相手をしてくれて楽だし、とウィンクされて、オルレアも自然と笑みを返した。
「でも。あなたが動かなければ、辺境伯もお相手を探しにくいでしょうし」
ミルドレッドの言葉選びは絶妙だった。
ゼッタリング家には当たり前だが正式の後継がいない。妻であったオルレアとは〝白い結婚〟で、離婚済みだ。子がいなくとも親族から養子を迎えるか爵位を譲ることもできるが。
(ロバート様にはヴィクトリア様がいるから心配はないけど、わたしが実家に引きこもっていたら、先に進みづらいわね……)
オルレアは二人を応援したいわけではないが、これ以上邪魔をする気もなかった。
(――そうね。役目を演じるのは慣れているわ)
貴族たちの噂は怖いけれど、ロバートほど冷たい目を向けられることはないだろう。
決意をしたその夜。オルレアはブルー伯爵家の夜会に出席することを兄に告げられた。
※
ミルドレッド主導のもと、粛々と夜会への装いは整えられていく。とはいえミルドレッドは口を出さず、侍女に指示をするだけだ。
選んだときにジェイコブが眉を顰めた、碧色で半光沢の生地で仕立てたドレスを手に取ると、ミルドレッドは落ち着きのある髪型を侍女に指定した。まるでオルレアの心を読み取ったかのように。
安堵したのもつかの間、その後の装身具選びに行き詰まった。
目の前にあるほとんどが母の形見のため型もどこか古く、ドレスに調和する色もない。
唯一、青みが強い碧のイヤリングが同系色でバランスが良いが、どこかロバートの瞳を思い出させた。
(どうしよう……)
これを着けていたら、元夫に未練がある女に見えるかも知れない。
オルレアにとってはどうでもいいことだが、わざわざ噂の種を撒くのも嫌だった。
「決まらない?」
ミルドレッドが宝石箱を覗きこんで、納得顔で頷く。
「難しいわね。どうしても決まらないなら、わたくしのを貸しましょうか?」
わざわざミルドレッドの手を煩わせたくなくて、逡巡する。
「でも、逆に虫除けにはなるんじゃないかしら」
(――あ)
一息遅れて義姉の言葉を理解する。
(そうだわ。この色を着けていれば)
オルレアがまだ離婚の傷を抱えている――と誤解してくれる可能性がある。そうすれば貴族男性も声をかけづらいだろう。
「こちらにします」
力強く頷くと、あらあら余計な事を言っちゃったわ、とミルドレッドは肩を竦める。
「でも、今夜だけよ?すぐに旦那様も気づくはずだから」
「はい」
オルレアはずっと、この優しい義姉と兄がうまくいっているのか、理解できなかったが少しだけわかった気がした。




