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午後の陽が差しこむ執務室で、オルレアと家令はロバートを手伝っていた。
(近々、税務院に書類を提出しなければならないから忘れていたけれど……もうすぐ甥たちの誕生日だわ)
毎年この時期は慌ただしく、去年はプレゼントを贈るのが遅れてしまった。
「手が止まっているぞ」
温度のない声に我に返って顔を上げる。
「申し訳ございません」
「書類に不備でも?」
オルレアが胸元で手を握れば、服の中にしこんでいるペンダントトップが触れる。
「……いえ。十日後に甥たちが四歳の誕生日を迎えますので、そのことを」
「そうか。子どもが何を喜ぶのかは私には見当がつかないから、任せる」
「はい……。ありがとうございます」
(……わたしだって、子どもが喜ぶ物なんてわからないのに……)
オルレアはペンダントトップを握りしめた。
四年前――結婚一周年ロバートから贈られたルビーをあしらったペンダント。
オルレアの瞳や髪の色でもなければ、もちろん彼の色でもない。
ただ高価なだけの宝飾品。
ノックの音がして最近雇い入れたメイドがお茶を運んでくる。
「明日、国境の様子を見に行こうと思う。3日は帰らないつもりだ」
その言葉にオルレアは顔を上げた。
「3日も、ですか?」
ロバートの幼馴染みで想い人であるエリザベスの顔が過ぎり、思いのほか低い声が出てしまって口元を押さえる。
オルレアだけが知っている、淡く微笑んでいるが奥底は凍てついたロバートの瞳に射貫かれた。
「今、国境が不穏なのは知っているだろう。隣国がいつ内戦を始めるかわからない」
「も、申し訳ございません」
「差し出口をお許しください、旦那様。奥様は寂しいのでございますわ」
緊張感にそぐわない無邪気なメイドの声が響いて、オルレアは安心するよりも焦りを強く感じる。メイドの目は輝いていた。彼女は、〝社交界の理想の夫婦〟で評判のロバートとオルレアに憧れてゼッタリング家のメイドになったのだという。
「ああ、そうなのか。勘違いをしたな」
目を細めるロバートを見て、メイドが喜色を露わにする。
(……彼女には見えないの……一段と瞳の色が冷えたのに)
それでもメイドが勘違いをしてくれたことにより、『理想の夫婦』像が損なわれなかったのだ。オルレアは感謝しかない。
「たった3日だ。それに書類の仕上がりも心配だからな」
「はい。お気をつけて」
オルレアは優雅に見えるよう、細心の注意を払って礼を取った。




