1-3
広い車内は微かにコロンの香りがした。
この香りに包まれている間は、オルレアの気は抜けない。
揺れが少ない馬車、心地の良い椅子に身を委ねてしまいたいが後少しの我慢だ。
オルレアは斜向かいに座る夫をそっと盗み見る。
ロバートは馬車に乗ってから一度もこちらの顔も見ず、口を開かない。
オルレアに笑いかけ優しく付き添ってくれた夜会で見せた姿とは別人のようだが、それはいつのことだった。
馬車が止まると、ようやくロバートはオルレアを一瞥する。
その横顔は『完璧な夫』としての表情に切り替わっていて、オルレアも同じように『完璧な妻』として頬に力を入れる。
夫にエスコートされて屋敷に入ると、すぐに家令に確認する。
「旦那様のお風呂の用意はできていて?」
「はい」
「そう。その後の冷たい飲み物の準備は?」
「ご用意いたします」
「お願いね」
ロバートはオルレアの手から逃れる。
「また後で」
不自然にならないよう、そう言い残して去っていく背中から目を逸らして、オルレアも侍女を伴い自室に向かった。
風呂を終えて寝室に入ると、すでにロバートはベッドの右側で横になっている。
「お休みなさいませ」
オルレアはそう一声かけて、ベッドの左端でロバートに背を向けて体を横たえて目を閉じる。自分の呼吸だけに意識をしていると、やがて眠りが訪れた。




