1-2 ウィリアム視点
天井から等間隔に吊り下げられた大きなシャンデリアから零れ落ちるまばゆい光の中で、大勢の紳士淑女が思い思いに談笑やダンスを楽しんでいる。
ウィリアムは片隅から大広間を見渡した。の
彼は二十一歳。幼い頃に母の再婚により侯爵家の次男となる。
本来ならウィリアムは義兄を支えることに徹する立場だが、継父や義兄の後押しで王弟であるアラスターに仕えていた。
彼はその黒青の瞳を空の一点で止める。
最近、母の実家に問題が発生していた。
伯爵家を継ぐはずの従兄弟が、町に入り浸っているという。従兄弟は伯爵家の嫡男で他に子はいない。叔母は亡くなっていて、叔父が頻繁に母の元へ相談に来ている。事情は知らされていないが、ウィリアムは悪い結果にならないように願うしかない。
そんなことをつらつらと考えていると、大広間内が一際さざめいた。
先日婚約を発表した、ともに離婚歴のある伯爵と子爵令嬢が手を取り合い踊り始める。
この国は、離婚と再婚には寛容だから珍しいことではなかった。見守る貴族たちは内心はどうであれ、歓迎ムードだ。
(いや。俺は、この表向きは祝福している人間の心を少しでも読めるようにならなければ)
上司であるアラスターの口癖が〝私の側近ならもっと見る目を養え〟だから。
(しかし、見抜ける自信は微塵も湧かない)
そもそも心を読むなど本当にできるのか、自分の能力の乏しさゆえにウィリアムは懐疑的だ。悩んでいるとアラスターがグラスを持って帰ってくる。
「相変わらず冴えない顔をしている」
「私が未熟なせいで、殿下の課題を達成するのが難しいのです」
ウィリアムは正直に答えながら差し出されたグラスを受け取る。嘘や取り繕いなど上司には無意味だ。
アラスターはグラスの中身を煽ると、一分の隙もない男性を顎で示す。
「珍しいな。ゼッタリング辺境伯が舞踏会にお出ましとは。だが、あれは『仮面夫婦』だろう」
(は?)
ウィリアムは口に流しこんでいたワインを咽せないように飲みこみ、息をついた。
「辺境伯とオルレア夫人は仲が良くて有名です」
否定ではなく、確認の意味で言う。
「オルレア……」
アラスターが空グラスを傾けながら、辺境伯の隣の女性を見つめる。
ウィリアムも寄り添う二人を観察する。
(どう見ても理想的な夫婦にしか見えないが……)
「ああ、オルレア・スティールか」
乾いた声でアラスターが頷き、続ける。
「仲が良くて有名、か……」
「違うのですか?といいますか、お知り合いなのですか」
「私の婚約者候補だった女性だ」
そんな重要な女性を忘れるのか……と思うものの、アラスターはその時公爵令嬢と婚約したのだ。――結果的にはその婚約は破棄したのだが。
そんなウィリアムの心を読むように、アラスターは自嘲気味に微笑む。
「頭も良くて老師も推していたんだが、なにぶん私もまだ若かったからな」
返答に困って曖昧に頷くと、肩を軽く叩かれる。
「別に断定しているわけではないさ。だが、お前は〝見えているもの〟を見ているだけだ」
「それは……」
そうだろう。見えないものが見えるなんて神が持つ能力、千里眼だ。
(人の内面を見破るなど。しかも貴族たちがひた隠すものだ)
「見て、考えるんだな」
ウィリアムは、アラスターにもう一度肩を叩かれてしまった。




