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アラスターの屋敷には想像以上の人で溢れていて、馬車から下りたオルレアの足が止まる。
横に並ぶウィリアムも少し戸惑いの表情を浮かべていた。
「ウィリアム様」
玄関ホールの人だかりの真ん中から、令嬢が駆け寄ってくる。年の頃は十五、六歳だろうか。癖のない赤みがかった金髪は艶やかで濃緑の涼しげな瞳が印象的な、有り体にいえば美しい少女だった。
赤を基調に瞳と同じ濃緑のレースやチュールでアクセントを加えたドレスを纏う少女は、薔薇の精さながらの華やかさで見とれてしまう。
「ごんばんは。リュシール様」
ウィリアムが少女に礼儀正しく頭を下げ、オルレアに紹介してくれる。
「オルレア嬢、こちらは帝国の外務大臣のご息女です」
少女の素性に驚きを隠せないまま、視線が合った。
「はじめまして、リュシール・クロンビーです」
頭の角度から指の先まで完璧なカーテシーだ。オルレアは対抗心ではなく礼節として、全身の神経を張り巡らせて膝を折る。
「オルレア・スティールです」
そう名乗ると、ウィリアムがつけ足す。
「私の婚約者です」
憚ることなくと言われて、顔を上げて彼の横顔を見た。ウィリアムの表情は真摯そのもので偽りなど欠片もなく、オルレアは頬が熱くなるのを感じる。
リュシールはウィリアムとオルレアを交互に見た。それは嫉妬や敵がい心ではなく強いていえば確認の眼差しで、軽く肩をすくめる。
「ウィリアム様、アラスター殿下が確認したいことがあると仰っていたわ」
リュシールの言葉に、ウィリアムが小さな溜息をついた。
「多分わたくしの件だと思う。この夜会に出席すると知った招待状を持たない貴族たちがやって来ているの」
「ああ……」
問うこともなく述べられたのは予想に的中するものだったのだろう。ウィリアムが頬を固くする。
「それでわたくしが入り口でご挨拶して追い返していたの」
さらりと言ってのけるリュシールに、オルレアは舌を巻く。リュシールの正確な年齢はわからないが、自分が少女の頃に年上の大人に対して毅然とした態度が取れただろうか。
(帝国の外務大臣のご息女、ということだから色々慣れてらっしゃるのかしら)
それにしても随分と勝ち気な性格らしい。
おそらくウィリアムとは博覧会で知り合ったのだとわかるが、なぜリュシールがメルセイドラを訪問しているのかが疑問だった。彼女の言動からはウィリアムの恋慕は感じられないし、オルレアにも興味はないように見える。
「ウィリアム様、どうぞアラスター殿下の元へ行っていらして?」
オルレアが告げると、ウィリアムは僅かに逡巡する素振りだったがすぐに頭を下げた。
「申し訳ございません。すぐに戻ってまいります」
「ええ、お待ちしております」
そのやり取りを見届けてリュシールは玄関ホールに戻っていく。その後をウィリアムが続き、予想はしていものの二人は並ぶことも会話することもなくて、安心してしまったことをオルレアは恥ずかしく思いながら会場への階段を登った。




