8-4(ウィリアム視点)
外灯でほのかに照らされる邸の窓から光が漏れていた。
(律儀なことだ)
ウィリアムはそう思いながらも、明るい家に帰るのが嬉しい。マーグレス侯爵家ではいつも母が家族全員が帰宅するまで起きていてくれた。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
執事とともに自室に入ると、ソファーに座り背もたれに体を預ける。
「今夜もお疲れでございますね」
「ああ。博覧会の報告書にアラスター殿下主催の夜会、その夜会の貴賓となる帝国の外務大臣の令嬢リュシール様の滞在の準備、やらなければならないことは山ほどある」
(……それにしてもリュシール様が、アラスター殿下が目的に違いないが――)
博覧会期間中、数度ウィリアムの元にやって来て上司であるアラスターのことを尋ねた。その様子を思い出していると、視線を感じて顔を上げれば執事の疑わしげな目とかち合う。
「そのご令嬢は、本当にアラスター殿下が目当てに間違いございませんか?」
「ああ」
ウィリアムは内心で閉口する。この質問は今夜だけでなく毎晩だ。
「……アラスター殿下の陰に隠れてお坊ちゃまを、などということはございませんね?」
執事の本音にウィリアムは今日も肩をすくめた。
「あり得ない。いくら俺の見る目が未熟でもそれぐらいわかる」
リュシールは確実にアラスターに特別な感情を抱いている。だがそれが憧れや恋かと言われるとそうは思えない。彼女はうまく取り繕ってはいるが、どちらかといえば不穏な空気を纏っていた。
アラスターの帝国留学中になにかがあり因縁の仲なのか、という予想はつくがその頃ウィリアムはまだ部下ではなかったし、面と向かって聞いてもはぐらかされるのが目に見えた。
なにより自分には向き合わなければならない問題があるのだ。
「オルレア嬢に返事は?」
「はい。仰せのとおりにいたしました」
先日オルレアから執事宛てに手紙が届くと、封も開けずに主人に差し出したのだ。
内容は、ウィリアムとオルレアの婚約にスティール伯爵の関与があったかどうかのみの確認だった。
『俺の意思だけだと返事を』
と指示したが、おそらくオルレアは納得していないだろう。
ウィリアムはスティール伯爵を庇う気持ちはない。あの一方的な誓約書がなくてもオルレアと結婚するつもりだった。
今宵もウィリアムの視線は執務机の上にある二つの箱に向かう。
「一刻も早くオルレア嬢にお渡しください」
「わかっている」
立ち上がり小さいほうの箱に指先で触れる。
(……〝ずっと観察をしていた〟などと言えば、いくら温厚なオルレアでも軽蔑するだろうな)
箱から手を離した主人の姿を見て、執事は深い溜息を漏らした。
※
翌朝ウィリアムは、夜会の招待状と一緒に箱を執事に託す。
それはオルレアへの帝国土産で少し大きいほうの箱だった。執事は一瞬失望の色を見せたが、口を挟まず恭しく受け取る。
ウィリアムも何も言わず馬車に乗り、王宮へと向かった。
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