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翌々日に届いたレスター伯爵家の執事の手紙には〝ご婚約はウィリアム様のご意思です〟とだけ書かれていて、想像していたとはいえオルレアは深い溜息をついた。
「オルレア様。奥様が部屋でお待ちです」
「はい。今行きます」
宝石商が到着したのだろう。
一昨日の夕食時に、ウィリアムからアラスター主催の夜会に誘われたと兄に報告したら、一言『宝石商を呼ぶから好きな物を幾つでも選べ』と言われた。
あまりの寛容さに驚きながらも、余計な事を言えば団欒の空気を壊しかねないので、素直に頷くだけにしておいた。
ミルドレッドの部屋に赴くと、いつの間にか大きなテーブルが運びこまれており、直視するのが眩しいくらいにアクセサリーが並べられている。
オルレアは手招きされてテーブルの前の椅子に座った。
近くで見ればそこまで大きな宝石を使ってゴテゴテと派手な物は少なく、華美ではないながらも上質な物が揃っている。そっと見遣れば宝石商が神妙な顔をしているので、もしかしたら予めミルドレッドが選別してくれたのかもしれない。
(あ……)
真っ先に目に入ったのはブラックオパールの髪飾りだ。紺色の夕空に虹を浮かべたらこんなふうかもしれない、とオルレアは思う。
その隣は琥珀と真珠のブローチ、また隣はピンクサファイヤのネックレス。全体的に暖色が多いのは義姉の配慮だろう。
(……それにしても)
どれを選ぶか迷ってしまう。
派手なのは言わずもがな。地味すぎても主催のアラスターや婚約者であるウィリアムの顔までをも潰すことになる、と悩んでいると。
「こちらはいかがですか?」
流石は商売人だ。宝石商はオルレアの視線を一番先に捉えたブラックオパールの髪飾りを勧めてきた。
「いえ、それは」
口ごもると宝石商はすぐにアプローチを変えてくる。
「お好きな宝石はございますか?」
オルレアは内心で苦慮しながらもなんとか答えた。
「あの……ダイヤモンドです」
本当は好きでも何でもなく無難な宝石を上げた。横に座るミルドレッドが肩を微かに揺らす。
(こんな時助けてくださらないのは……お義姉様らしいわ)
あっという間にダイヤモンドの髪飾りとイヤリング、ネックレスの一揃いが決まり、他にも数点のアクセサリーを、ミルドレッドと宝石商が勧める物の中からオルレアが選んだ。
蔑ろにせず真剣に取り組んだが、なにぶん宝石の興味もなく流行もわからない結果である。
(……帳簿の不備ならすぐにわかるのに)
宝石商が帰ると使用人たちがテーブルを運び出すので、ミルドレッドとともにサンルームに移るとオルレアは急に疲労感を覚えてソファに座ると体の力が抜けた。
そろそろ双子も昼寝から目覚める時間で、侍女が一足先にお茶の用意を始める。
「あのブラックオパール素敵だったわね。本当に買わなくてよかったの?」
すました顔の義姉に指摘されて、オルレアの鼓動が早まった。胸元を押さえながらもうまく言い返せない。
髪飾りにあしらわれていたブラックオパールは、どこかウィリアムの瞳を彷彿させた。
婚約者なのだから相手の色を身に纏うことはなんら不思議ではなく、社交界では一般的なことだが、ウィリアムの心がわからない以上控えるべきだと思ったのだ。
「ふふ。自分で手に入れるより、プレゼントされるほうが嬉しいものね」
「それは……」
贈られる日はくるのだろうか。
あれだけ夫婦円満を完璧に演じていたロバートはオルレアの誕生日さえ、彼を印象づける宝石を与えてくることはなかった。折に触れて贈られたのは全て高額だが意味のない物だった。
「オルレア?」
「おかあさま、おねえちゃん!」
ミルドレッドの声に重なるように賑やかに双子がサンルームに飛びこんでくる。
あっという間に二人は義姉の両隣に座り、上機嫌で目の前の菓子に手を伸ばした。
「いただきます!」
「おねえちゃん、あとでおべんきょうみてね」
「ええ」
オルレアは双子に微笑みを返すと冷めかけた紅茶を喉に流しこんだ。




