8-1 再会
朝から空は薄黒い雲に覆われて空気までも重い。
オルレアは双子と庭を散歩していた。ハイウェルは花の周りを飛ぶ蝶や蜂などに興味津々だが、レイファーは虫が怖いらしく、オルレアの手を握りしめて後に隠れるように歩いている。
四阿の椅子に座り休憩をしながら、オルレアはウィリアムが帰国してからのことを考える。
(すぐにお会いするのは難しいかしら……。あちらからの連絡を待つべき?)
面会を果たせたら何から切り出すべきか。やはり婚約に至った経緯からか。手紙にはジェイコブと話し合ったと書いていたが、考えれば考えるほど疑わしく感じていた。
(例えお兄様が強引に迫ったとしても、嫌ならば突っぱねただろうし。そこは安心してもいいのよね?)
手紙もあんなに送ってくれているから、少なくとも嫌われてはいないはず。手紙の内容を鑑みれば好意があるとも思えないけれど。
ジェイコブがウィリアムの弱みや後ろめたいことを掴み脅した、とも考えた。
(お兄様にそこまでの人脈や冷酷さはない、と思いたい)
実際、兄がスティール家の当主になっても社交界での評価は〝裕福なだけの伯爵家〟の位置に留まっている。
オルレアを王が信頼する辺境伯家に嫁がせても、ジェイコブ自身が元侯爵令嬢のミルドレッドと結婚しても貴族社会の勢力図は大して変わっていない。
「おねえちゃん、あめがふってきたよ!」
ハイウェルの声で我に返り、見上げれば目視で雨粒が確認できた。
「急いでお部屋に戻りましょう」
オルレアは片方づつの手で双子のそれぞれの手を握り、小走りで屋敷に向かった。
子ども部屋に戻りハイウェルとレイファーの僅かに濡れた髪を拭っていると、ミルドレッドがやって来た。
「オルレア、明日仕立屋が来るからドレスを作りましょう」
突然の提案に目を丸くしてしまう。うって変わって双子が、わっと声を上げる。
「おかあさま、ぼくのは?」
「ぼくも!」
「もちろん、二人の服も作りましょうね」
「「やったー」」
二人が喜んでいるのを横目にオルレアは義姉のそばに立つ。
「わたしのドレスは――」
再婚活動前にすでに数着誂えていて新たに作るのは気が引けたので、断ろうとするが手で制された。
「デイドレスならいいでしょう?レスター卿が帰国されたらデートもすることだし。そもそもあなたは服の数が少ないわ」
そう言われると反論の余地はなかった。
ドレスの大半は辺境伯家に置いてきて処分は家令に委ねたし、実家に帰ってからはほとんど外部との接触もないため、母のドレスを手直ししたものを着回したりしていた。
「わかりました」
オルレア自身は特にこだわりなどなく豪華なドレスよりも機能的でシンプルな物が好きだが、服や装身具がどう他人の目に映りどれだけ影響を及ぼすかはわかっているので 今度は素直に頷く。
「たくさん作りましょうね」
「おねえちゃんのどれす、ぼくがえらぶ」
「ぴんくがいい」
ミルドレッドの弾んだ声に一抹の不安を覚えるものの、ハイウェルとレイファーの嬉しそうな声に自然と笑みが零れた。




