7-3(ウィリアム視点)
人々の喧噪の中を進む派遣団の最後尾で、馬に乗るウィリアムは遠ざかる王宮を振り返った。
式典に出席したアラスターは、王の傍であふれんばかりの笑みを浮かべていた。
あれは部下が大役を務めることへの満悦などではなく――多分ウィリアムとオルレアが離れることで行く末がどうなるのか、という好奇心の表情だ、と分析して少し辟易した。
見送りは王族や派遣団の家族に限られており、ウィリアムの身内は継父と母が出席したが義兄夫婦は認められなかった。
義兄以上に兄嫁が気を落としていた、と母から聞かされて苦笑を返した。
それほど厳格であったのに、どんな伝手を使って潜りこんだのか、スティール伯爵の姿もあった。彼は胸を張り得意満面で、ウィリアムは心の中で毒づいた。
どうせならオルレア嬢を寄越してくれ、と。
しかし独断で婚約を結んでしまって合わせる顔がないので、どこか安心している部分もあった。が、やはり一目でも見たかった気持ちが勝つ。
現実に会ってしまえば、オルレアを振り切って帝国に行く自信はないのでこれでいいのだろうと思う、それでも。
(オルレア嬢からは何の音沙汰もない。やはり怒っているのか?まさかまだ婚約したことを知らされていない、とか……)
ウィリアムは首を振る。
可能性はゼロではないが、スティール伯爵の性格なら正式に婚約したと圧力を強めるのでは、と考える。
次々に湧き上がる答えのない思考に流されそうになる乗り手の心を感じ取ったのか、馬がブルリと首を震わせて短く嘶く。
我に返ったウィリアムは体に力を入れ直し、手綱をしっかりと握ると前を向いた。
※
メルセイドラ国から帝国へは通常なら五日ほどの道程だが、出品物を載せた大型馬車や警護隊、ウィリアムのように博覧会で何らかの仕事に従事する人間を含めれば五十人近くの大所帯だ。
半月近くかかって幾つかの国境を越えて帝国の地を踏む。
その間、手紙を書く時間はあったが出す手段は限られており、予め宿泊を承諾してくれた貴族や村長に託すくらいしかない。
町中に泊まるよりも、人家が少ない見通しの良い場所に建つ邸宅に立ち寄った。
警備もしやすく、余所者がウロつけば目立ってすぐに知らせが入るような、地元民の結束が固い地域が多い。
そんな場所では近くの町の郵便屋に手紙や荷物が届き、宛先の家には何かのついでに持っていく。その時に家の者が出したい手紙や荷物があるれば、郵便屋に託すという流れだ。
だから大抵の場合、貴族なら直接使者を出して相手方に届けるか、小金のある人間は町まで行って郵便屋で手続きする。
そこまでして貰うのは気が引ける、というのがウィリアムの率直な気持ちだった。
派遣団の誰もが同じ意見だったのか、それともたった半月だからか、一人として手紙を託している人間を見ることなく予定通りの日程で帝都に着いた。




