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出戻り令嬢は真実の愛に包まれる  作者: 加賀藤 夢真


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7-1 離れていても近づく距離

(今日も何もできなかった……)

 ベッドに腰掛けてぼんやりと床を見つめる。


 明日の朝ウィリアムは帝国へと出発するのに、オルレアは彼と面会どころか手紙も送れていない。

 会うことは最初から期待はしていなかった。それに忙しいウィリアムの時間を割くのは本意ではない。

 だが、ジェイコブからウィリアムと正式に婚約を取り決めたと告げられた翌日。

 手紙を届けて欲しいミルドレッドに頼むと、とても言いづらそうに口を開いた。

「ごめんなさい。レスター卿への手紙は出さないように釘を刺されているの」

 予想はしていたがやはりジェイコブが手を回していた。


「わたくしも、準備がお忙しいから面会は無理でも手紙くらいは、って言ったのだけれど『気を散らす真似は控えろ』って返されたわ」

「……そうですよね」

 あからさまに肩を落としてしまったオルレアにミルドレッドが寄り添う。

「大丈夫、ではないわよね。婚約したとはいえ三ヶ月も離れ離れになるのですもの。でもきっとレスター卿は帝国から手紙を送ってくださるから、たくさん返事をすればいいわ」

「返事を……帝国に手紙を送ってもいいのですか?」

 顔を上げると、ミルドレッドが微笑する。

「ええ。さすがにそこまでは旦那様も反対なされなかったわ」

 オルレアは手放しで喜ぶことができなかった。

 むしろまたジェイコブがウィリアムの手紙を止めたり、オルレアの手紙を届けなかったりするのでは、と疑う。


(……でも、そこまですれば逆効果、よね?)

 ジェイコブが、ウィリアムとオルレアを結婚させたいのは間違いないだろう。だから帝国へ行く前に婚約を結んだ。

 もし他にオルレアの嫁ぎ先の候補があるなら、ウィリアム不在の間に動いたはずで、婚約前提という曖昧な関係のほうが都合が良かったはずだ。

 ならオルレアとの距離を離しすぎて、ウィリアムの心が冷めるのも困るだろう。


(わたしは婚約の真実を知りたい……)

 ジェイコブの奸計に陥ったのか。ウィリアムの意思なのか。

 同時に自分がどう思われているのか知るのが怖い。

(――でも、逃げるのはもうやめなくては)

 振り返ればいつもオルレアは諦めて受け入れてきた。

 自分に何かが足りないから、と言い訳をして。

 ロバートとのことだって〝好きな人がいるから夫婦にはなれない〟と言われても、オルレアはそれに対して意思表明をするべきだった。

 ただ唯々諾々と従うだけではなく、もっと建設的な関係を築いたほうがよかったのではないか、と思う。


(いまさらどうしようもないけれど)

 だがウィリアムとはまだ繋がっている。

 オルレアは立ち上がり、引き出しから地図を出して机の上に広げた。

 王宮から王都の外へ出る道は東西南北にそれぞれ一本ずつ。帝国は東に位置しているので通る道は容易に特定できる。

 貴族の邸宅が建ち並ぶのは西側にあり反対の方角なので、博覧会に派遣される人たちが乗る馬車の行列さえ見えない。


 明日の朝、出発式が王宮で盛大に行われるが、参加できるのは関係者やその家族と一部の王侯のみで、当然ながらオルレアは含まれていない。

 何度も、こっそり屋敷を抜け出せないかと使用人たちの動きを探った。

 現在雇っている使用人のほとんどが両親亡き後に入れ替わり、オルレアの顔なじみはほとんどいない。

 そしてスティール家に忠実な人間ばかりで、例え当主の妹でも不審な動きをすれば、即座にジェイコブに進言するだろう。貴族の家にとっては理想的な使用人たちだが、オルレアは監視されているも同然だった。

読んでいただきありがとうございます!

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