11・3 想いを伝える
挙式のあとは各国要人や国内貴族を招いての祝賀会だった。エルゼにとってはリーデルシュタインの社交界へのデビューでもあり、なかなかに緊張するものだった。
とはいえアーデルやカロリーネといった友人、両親代わりのフランクとグレタという心強い味方がいた。
なによりハインツがデレデレの笑顔でエルゼを『愛しい妃』と連呼し、片時も離れずにエルゼを守ってくれていた。
(おかげで当初考えていたよりずっと楽に祝賀会をやり終えることができたわ。問題は……)
エルゼは小さく息を吐いて、ベッドに並んですわるハインツを盗み見た。
(ついに初夜……!)
今夜からはハインツと寝室を共にする。
ヴァルターは隔日で別室で寝ることになっており今晩はいない。教育係に『お父様のような立派な王子になる第一歩です』と言われて、すっかりやる気に満ち溢れているという。
寝室は色とりどりの花で飾られ、甘くかぐわしいお香が焚かれ、エルゼの夜着は襟ぐりがだいぶあいている。
いかにもな雰囲気に、祝賀会とは別種の緊張でエルゼの心臓は爆発しそうなほど高鳴っていた。
(でも、なんだかハインツ殿下の表情も堅苦しいような……?)
ハインツは俯き加減で、握りしめた拳を太ももの上に置いている。
エルゼがどうしたのかしらと思っていると、ふいに顔を上げたハインツと目が合った。
「すまない、エルゼ!」
「ええっ?」
(どうして急な謝罪なの!?)
まさかここにきて、やはり結婚はやめにしたいとか間違っていたなんて言い出すのではとエルゼは不安に駆られる。
けれどハインツは情けない顔をエルゼに向ける。
「エルゼに再会して以来、私はどれほど君を愛しているか、言葉と態度でたくさん伝えたつもりだ。お互いに忙しい身だから全然足りてはいないが、それでも思いのたけは伝えた。――伝えたつもりだった」
「はい。じゅうぶんに伝わっております」
それだけは間違いない。ハインツの愛はちょっと鬱陶しいぐらいに、しっかりと伝わっている。
しかしハインツはしょぼんと肩を落とす。
「だがアーデル王女に叱られた」
「どういうことですか!?」
エルゼはますます訳が分からなくなる。アーデルからはなにも聞いていない。
「なぜ、デートに一度も連れて行っていないのか、と」
「あ……」
エルゼは口元まで出かかった「確かに」という言葉を慌てて呑み込む。
「で、でも王太子殿下となると簡単に外出はできないでしょうし。私も妃教育で忙しかったのですから、仕方ないですね」
「『だからこそだ』と強く非難された」ハインツはますます肩を落とす。「突然の結婚宣言、知人のいない王宮での生活、詰め込まれた妃教育課程、奪われた愛息子との時間。このひとつきでエルゼに与えられたストレスは途方もない大きさなのに、どうして気分転換のひとつも企画してないのだとアーデル王女に叱責されて、自分の間抜けさに気がついた」
「殿下……」
「私は君の愛がほしい。そう思っていたのに、この一ヵ月の間にしていたことは、自分の愛の押し付けだけだった。あまりに情けない」
打ちひしがれた様子のハインツは、まるで叱られてしょんぼりしている大型犬のよう。
エルゼは愛おしさが胸の奥に広がっていくのを感じ、ハインツの手にそっと自分の手を重ねた。
「ハインツ殿下は私とヴァルターためにたくさんのご配慮をしてくださったではありませんか。私は『愛の押し付けだけだった』なんて微塵も思っておりません」
「……本当か?」
「はい。でもいつかはデートはしたいです」
ハインツは目を見開き息をのむ。
「デートをしたいと望んでくれるのか。少しは私を愛するようになってくれたのか?」
「はい。ハインツ殿下が私にくださる想いと同じ重さにはまだ遠く及びませんが。私は殿下を……好きだと思います」
少しばかり自信がなくて『好き』という声が小さくなってしまった。
けれど声に出してみるとその言葉ばストンと胸に落ちて、エルゼは改めて自分はハインツ殿下を好きなのだと自覚した。
「嬉しいな。ずっと聞きたかった言葉だ」
ハインツは手を持ち上げ、自分の手を包むエルゼの手にキスを落とした。
「愛している、エルゼ。私は君とヴァルターを誰よりも幸せにするし、この身に変えても守ると誓う。だから、ずっと――、ずっと私のそばにいてほしい」
「はい」
エルゼの答えにハインツは満面の笑みになる。
幸せそうな顔に、エルゼの顔もほころぶ。
「では」とハインツの瞳が煌く。「初夜の心構えもできているということで、いいだろうか」
その言葉にエルゼの心臓は大きく跳ね上がった。
けれどとっくにそのつもりでいる。
エルゼはハインツの目をしっかりと見つめ、もう一度「はい」と繰り返した。
本日シナリオを担当している『無愛想執事長と始める女王陛下の物語係』第3話の配信が始まりました。
酒井さゆり先生が丁寧ですてきな作品にしてくださっています!
お読みいただけたら嬉しいです!
また、活動報告にてこちらのSSを掲載中です!
※webマンガオリジナルのため原作小説はございません。




