山菜の天ぷら
当時の食料事情とは違っている箇所があるやもしれません。
川芝村はフィクションです。
周辺の市町村は空襲を受けなかったので比較的食べ物が手に入りやすいという設定です。
ご了承ください。
誤字誤謬は可及的速やかに訂正致しますがご不快になられる方申し訳ありません。
誤字報告大変ありがたいです。
「ヨネ、よけりゃあ、今日山の方行って山菜でも採りに行かないかー?」
「行ってみたーい!」
「じゃあ、肌出ない格好して。手拭いと背負子持って。」
「はい」
裏山の獣道を入っていく。トラちゃんが私を気にしながら山を登ってく。
ヨイショヨイショと後ろをついて行く。
「わーまだ採られてないや」
トラが喜色帯びた、はしゃいだ声を上げた。
「ヨネ、これわかるか?」
見たところ枯れ木のようだが。
「これ何?」
「タラの芽だ!たくさん芽がついてる上等だ!」
「ああ、タラの芽か天ぷらで食べるやつ」
「そうそう、タラの芽の天ぷらは旨いぞ、山菜の王様だー」
枯れ枝の先に出ている緑の芽を摘む。
「全部摘んじゃだめだよ、木が枯れちまうから。」
「わかったわ」
手の届く範囲で積んで背負子に入れた。
「幸先いいぞ、じゃあ行くか」
進んだ先の拓けた場所でトラちゃんがまたアイコという草を見つけた。
「アイコはミヤマイラクサっていってちょっとトゲがあるから気いつけろ」
「アイコがいっぱいある!」
「こっちにシドケもあるぞ、モミジガサっていうやつだ。」
「すごいすごい!」
「こっちには山ブドウの若葉もあるから、これもヨネ摘んで」
「はい!」
私が積んでるとトラちゃんは先に草むらへ入って行った。
「あった、ヨネ、こっち来てみ!早く早く」
小走りでトラちゃんの元へ駆けてくと
「あ、ウドだ!一、二、三・・・十本もあるわ!今日ご馳走だわ」
「ほんとだ、こっちにもタラノ木がまたあるよ」
「春の山の匂いがするー」
私は胸一杯に深呼吸した。
春の空気を食べているよう。
ふわふわの綿毛をまとったゼンマイを見つけて
「丸く厚みのあるのが男ゼンマイ、平いのが女ゼンマイって言って女ゼンマイを摘むんだよ」
「ハイ。でも私ゼンマイのアク抜きってわかんないわ。」
「叔母ちゃんに聞いてやればいいさ。」
「ほらワラビもいっぱいだ。上からスーっと茎を滑らせてポキって折れるとこで採って。」
「ハイ。こっちのは茶色くなってる。」
「まだ寒い晩は霜が降りるから溶けちゃうんだよ。でも地下茎は生きてるからそこまた出るよ。」
「この木に巻き付いてるのアケビの蔓だ。これの先もおひたしで食べたらうめーぞ」
「えー、食べたことないわ。じゃあ、たくさん積まなきゃね」
ニコニコと笑顔で、蔓の先をポキポキ折る。すぐ両手一杯採れた。
「今日かこのくらいにするか」
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「ただいま、ナナちゃん。たんと採れたよ!今日はご馳走だ」
隣の祥子叔母ちゃんに声をかけると、来てくれて下準備の仕方を教わる。
「たくさん採って!じゃあみんなで下準備するかね。まず山菜を井戸できれいに洗ってきて」
ハイと、返事をしてヨネと七緒がざるを持って洗いにいった。
「トラちゃん、うちの畑の畔にノンビルいっぱい出てたからそれも採っておいでよ。」
「ああ、わかった。」
トラはスコップと背負子を持って坂を下りって行った。
「じゃあ、アイゴからね。アイゴは葉と茎を分けて茎の筋をフキみたいに取って。アイコは葉と茎を分けて茎の筋を向くんだよフキみたいに。
ワラビとゼンマイは鍋に入れて竈の灰を二掴み入れて熱湯をかける。
そのまま一晩置いて水洗いしたらアクは抜けてるから。」
筋を取ったりお湯を沸かしたり、三人で手分けして作業をする。
シドケとアイゴの茎とアケビの蔓先は塩湯でして水にさらして。
シドケはほうれん草のような見た目、アイゴの茎はアスパラのよう。
鰹だしに醤油を足らした汁に浸ける。
アケビの蔓は二センチ位に刻んで祥子叔母さんちで採れた玉子とお醤油であえる。
山ブドウの若葉、タラの芽、山ウド、取っておいたシドケとアイゴの葉も小麦粉を水で溶いた衣をサッと
つけて温めておいた油の中へ。灰汁抜きしてあった筍も一緒に天ぷらにしてしまう。
お皿いっぱい天ぷらが上がった。
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トラちゃんが掘ってきてくれたたくさんのノンビルは、祥子叔母ちゃんが細く切った昆布とニンジンと一緒に
醤油と砂糖と酢で和え物にしてくれた。
たくさん上がった天ぷらも一緒にお裾分け。今日は叔母ちゃんちもご馳走だ。
「いただきます」
ヨネは好きなものは先に食べる派である。塩でタラの芽の天ぷらを食べる。
「んんー美味しい」
ほろ苦くてサクサクで春の味。
「ネエサン、美味しいね」
ヨネと七緒は顔を見合わせて微笑みあう。
「トラちゃん、今日はありがとう!こんなたくさんの天ぷらなんて、なんと贅沢なんでしょう」
「喜んでくれて良かった。まだまだ春の間に何度も採ってきてやるよ。」
満面の笑みの新妻にトラはとても満足だ。家族で囲む旬の食事に心が温かくなる。
「トラちゃんはお酒飲まないの?」
「ああ、オレはあんま強くないから。普段は飲まない。」
「そうなんだ。うちのお父ちゃんは酒飲みだったから、山菜の天ぷらなんて言ったらきっと飲み過ぎちゃう
くらい飲むんでお母ちゃんに怒られると思うわ」
「オレは飯のがいいな」
「私もー。」
「ワタシもー」
おかわりして、二杯目はアケビの卵和えをご飯にかけて食べた。
シャクシャクして癖もなく美味しい。
三人で腹一杯山菜を食べた。
そんな春先のお話。
お読みくださいましてありがとうございました。
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