お彼岸のぼたもち
当時の食料事情とは違っている箇所があるやもしれません。
川芝村はフィクションです。
周辺の市町村は空襲を受けなかったので比較的食べ物が手に入りやすいという設定です。
ご了承ください。
誤字誤謬は可及的速やかに訂正致しますがご不快になられる方申し訳ありません。
誤字報告大変ありがたいです。
昭和二十一年 三月吉日
貴竹 寅蔵 二十七才 中村 ヨネ子 二十歳
川芝村の自宅にて祝言を上げて無事に夫婦となった。
****************************
貴竹家は川芝村の西口地区と呼ばれている部落で、トラちゃんはそこの農家の本家の長男だった。
ご両親も既に鬼籍に入られていて、身内は妹の七緒ちゃんと分家の祥子叔母さん一家。
「うちは元々身内が少ないでね、短命の家系だ」
「トラちゃんは長生きするよ!だって国に戻ってきたじゃない。」
結婚したばかりの新妻にいう言葉じゃないよ、と心で叫ぶ。
ヨネ子は物をハッキリいう。
周りの友達はそうじゃなかったけど、母親もチャキチャキいうタイプで、父親が許してたので、これまでそうしてきた。
だけれど、婚礼の前の日母親に
「田舎の農家に嫁ぐんだ。旦那を立てなきゃいけないよ。言いたいことの半分は心にしまっときな」
と言われた手前、半分は言葉を飲み込んだんである。
貴竹家の菩提寺は西口地区の家と同じ、西口日願寺だった。
自宅から坂を下って下って、下って下ったら、田んぼの間の道を小高い丘を遠くに見ながら歩く。
「あの上だから。」
「トラちゃんは脚が強いねぇ。」
ヨネは帰り道は来た道を戻るのねぇ・・・
と、もうゲンナリしていたが弱音は心ので吐くのだ。
途中の階段はトラに手をに引いてもらって、はあはあ息が上がって、ヘロヘロで寺についた。
「ごめんください」
「はーい」
入り口の戸を少し開けてトラが声をかけると、奥からお寺の奥さんが出てきて、中に招いてくれた。
ご住職が呼ばれて奥さんにお茶を出して頂いて向かい合った。
「私、この度いいご縁があり所帯を持ちまして」
「あれ、それはおめでたい。」
ご住職さまと奥さんが顔を見合わせて微笑んだ。
「こちらが嫁のヨネ子です。」
「はじめまして、どうぞ色々教えて下さい。」
ヨネが姿勢を正してそういうと、二人で頭を下げた。
「こちらこそ、これからもよろしくね。トラちゃん良かったわね。」
「はい。」
出されたお茶を頂いて、少し喋ってお寺を出ると、裏の墓地へと向かう。
貴竹家の墓地は広かった。
(代々続く大きな農家なんだなー)
と、墓石の溶岩石の数々を見ながら思った。
広い墓の草取りを二人でして、
(あー夏になったらどれだけかかるのか)
と、また愚痴を心の中で溢しつつ。
家から持ってきた花を生けて、お線香上げてお参りをした。
*****************************
またトラには普通でもヨネには長い長い道のりを歩いて家まで戻った。
すると、台所からいい匂いがしてきた。
急いで割烹着に着替えて出ていくと、七緒が豆を煮ていた。
「あ、ナナちゃん、ありがとう。火にかけといてくれたんだ。」
ヨネが昨晩から水につけて元に戻した小豆を七緒が竈にかけた大鍋でくつくつ煮ていた。
餅米とうるち米を半分ずつの飯も炊いている。
小豆は利き手の小指と親指ですんなり潰れるくらい柔らかくなったら砂糖を入れる。
(ちょっと前はすいとんばかりだったのに、ここいらはホンとに物が有るんだ)
「いい匂いね、ナナちゃん。」
食べるのが大好きなヨネである。
台所に一杯に広がる甘い匂いを鼻からスススーーーと胸一杯吸い込む。
「ネエサンったら。ふふ」
鼻の穴を広げて深呼吸し、うっとりとするヨネの姿に七緒が笑う。
焦げないように煮つめて火から上げると、擂り粉木で豆を潰す。
しゃもじで全体をネチャネチャ混ぜると、甘い甘いつぶ餡の出来上がり。
今度は炊き上がった飯をまた擂り粉木で潰す。
「ナナちゃん、ぼたもちの飯は半殺しっていってちょっと粒が残った位にすんだよ」
「はい、ネエサン」
それを大きな皿に丸めてあんこを絡めたのと、砂糖たっぷりにちょこっと塩いれたきな粉をまぶしたのと
半々に並べて、出来上がり。
仏壇と神棚に小皿に一つずつ乗せたぼたもちを上げて、手を合わせる。
「ネエサン、すごい美味しい」
「ヨネ、上手いよ!」
「ふふ、ぼたもちうちのお母ちゃんが得意で彼岸には必ず作るから子供の時から手伝ってて。戦争が激しくなってここんとこは作れなかったから、久しぶりに作れて嬉しいよ。」
「そういえば、お袋が亡くなってから食べて無かったな」
「一杯あるから!たくさん食べよう。ナナちゃん口の回りあんこついてるよ」
「ヨネもついてるよ」
「あ、トラちゃんはあんこときな粉でお化粧みたいになってるよ」
あははとお互い顔をふきふき笑いあった。
「また秋も作るよ。」
「これからはオレが小豆も餅米もたっぷり作るから、毎年彼岸にぼたもち作ってな。」
「もちろん!だから長生きしてねトラちゃん!」
大皿いっぱい作ったぼたもちを三人で腹一杯食べた、そんな初めての彼岸のお話
お読みくださいましてありがとうございました。
誤字誤謬があるかもしれません。
わかり次第訂正いたします。
いいねなどいただけますと励みになります。
よろしければお願いいたします。




