第九十八話 衝突
あの侵略事件からリユイの捜索を親衛隊であるソレイ達が行っていたがまったくと言って成果はなかった。
そのお陰といっていいのか国は大きな変化はなく平和にすごしていた。
だが一つだけ大きく変わったことといえば魔人達も食事をするようになったということだろうか。
その影響か魔人達の身体能力が驚異的に上がり健康面も良くなり病気にかかる確率が飛躍的に下がった。
その結果訓練時間を長くしても皆へばらなくなったお陰で戦力は大幅に強くなった。
それはヒトミ達も例外ではなかった。
それにあの襲撃事件の影響で皆が自分の弱さを自覚し以前よりもよりいっそう自分達を鍛えぬくことを始めたのでそのレベルアップは相当のものだった。
まあ元々も普通の魔人としての個体と比べれば比ではないほど強かったのだが。
そして数日後。
物語が動き出す。
「え! リユイを見つけたって!?」
「はい、見つかったというかご帰還されたと言うか・・・・・」
ソレイの報告にユミは驚き思わず座っていた椅子から立ち上がった。
「そ、それは本当なの!?」
ユミは急いでソレイの言葉が嘘ではないか聞いた。
それもそうだろう。
あれほどなんの痕跡も見つけられていなかったのにそれがなんの前触れもなく突然すんなりと本人を見つけたと言うのだからそれが嘘ではないかと思ってしまうのは仕方ないだろう。
「はい、本当です。お呼びしますね」
「う、うん」
ユミは思わず身構える。
そして扉が開きリユイの気配を感じ取ったユミはすかさず机を飛び越えリユイへと駆け寄った。
だがソレイの合図により入ってきたリユイは以前と同じ格好や雰囲気のままだった。
そう、まったく変わっていなかったのだ。
「・・・・・リユイ? 帰ってきたってことは――」
「すまない、時間がないんだ。至急国会会議の招集を行ってくれ」
言葉を遮られたユミはそのリユイの様子に思わず体がすくんでしまう。
そして同時に疑問や不安、悲しみがユミの心を曇らせた。
なんで帰ってきたのか?
やっぱりまだあの時と同じようにリユイは苦しんでいるのか?
凄く態度が冷たい。
その言葉がずっと頭の回りをぐるぐる廻っていた。
「・・・・・! ・・・・・分かった・・・・・リユイは先に会議室へ向かって」
「・・・・・分かった」
ネックウォーマーのような物とフードのせいで顔を確認することが出来ないのがまた更にユミの心を掻き乱していた。
ソレイはそんな二人の様子を不安に思うも皆を呼びに行くのであった。
数分後。
会議室にはリユイ、ユミ、サラ、アレン、ソレイ、ソウ、ゴブン、カエデ、ホムラ、シズク、ヒトミ、チビドラ、リバース佐藤巴、桜田有理、オイトさん、町長、キャシャ、つまり全員が席に着いていた。
皆この部屋へと入ったときにリユイを見るなり驚き声を掛けようとするが以前とは全く違った雰囲気を敏感に感じとり話しかけることはなかった。
そして全員が揃うまで誰一人声を発することはもちろん音をたてることもしなかった。
そして最後の一人、サラが部屋へと入り驚きながら席に着いた時会議は始まった。
「では第三回国家会議を始め――」
「第二十六回です」
リユイの誤りを訂正したサラの声はとても冷えきっていた。
そしてその訂正はリユイがいない間にどれだけの会議が開かれていていたか、つまりリユイがあまりにも居なかった時間が長かったということを表していた。
「だ、第二十六回国家会議を始める。まず最初に西聖国の――」
「おい、ちょとまてよ!」
リユイは気まずそうにそう言い直し、話を始めようとするとアレンがリユイの言葉を遮った。
アレンはテーブルに手をつき立ち上がるとリユイの座る椅子の真横へと立った。
「突然帰ってきて皆になんの説明もせず話を始めるつもりか?」
アレンの真面目な声がシーンとした部屋に響き渡る。
だがリユイはアレンの方を見ようとしない。
「時間がないんだ。すまないがその話は落ち着いてからに――」
「おい、いい加減にしろよ。そんなことで皆がお前に付いていくと思うか? 今もお前を信用しきっているって思ってんのか? お前勝手すぎるんだよ。 なあリユイ、せめて俺達になんでいなくなってしまったのか話してくれないか?」
アレンはリユイの両肩を掴み無理矢理自分の方へと向かせフードとネックウォーマーのような物をとり顔が見えるようにした瞬間固まった。
リユイの顔と髪は血で真っ赤に染まっていたのだ。
明らかにリユイ自身の血ではなく返り血だった。
またリユイの鋭い目が前髪の間からアレンをきつく睨んでいた。
皆はそんなリユイの様子に震えあがった。
「・・・・・時間がないんだ」
リユイはそれだけ言うとアレンから目を背けネックウォーマーとフードを被り直すと椅子に座り直した。
アレンは諦めたように自分の椅子へと戻り不貞腐れたように座った。
「ごめん、アレン。では話を始める。まず僕はあの襲撃事件の後少し西聖国について調べようと思い実際に行ってみた。その結果分かったことがあるそれは・・・・・現在西聖国は魔王国に教われている」
「魔王・・・・・というのは大陸西側の最古の魔王と言われる魔王エルザのことですか?」
「はい、そうです」
オイトの疑問にリユイは頷く。
「それでその事と我々にはなんの関係があるのですか?」
ソウの疑問に皆頷く。
それもそうだろう、攻めてきた者達がやられるのであれば逆にこっちにとっては清々しいだろう。
だがリユイは焦っている。
まるで速くしないと西聖国が滅んでしまうから速く助けにいかねばと言わんばかりの様子だ。
「クリスタル、だ。
これ以上クリスタルを破壊されれば魔素はかつてない程に増えるだろう。
だがこれ以上魔素が莫大に増えてしまうと神が降りてきてしまうかもしれない。
そうなったら終わりだ。
それだけは避けたい」
「いや、おいおい神ってなんだよ!?
魔素が増えたら神が降りてきてしまうってどういうことだ?」
「僕にも詳しいことはよくわからない。だが魔素の濃度が濃くなりすぎると神が降りてきてしまうということだけは分かっている。
そして魔王は神が降りてこないように人間や魔人の数を調整しているとも知ったが・・・・・どうやらそのエルザという魔王は大魔王に従っていないようなんだ。だから魔王エルザは魔素の濃度の変化がどういうことを引き起こすか知らないと思う。だから止めなくちゃいけないんだ。だから軍をうごか――」
「いい加減にしてよ!」
突然ユミが椅子から勢いよく立ち上がり机を叩いた。
「リユイは勝手すぎるよ! 自分の必要な時にだけ私達を利用してばっかじゃん!」
「え、そんなこと――」
「そんなことあるよ!」
ユミの悲鳴のような叫び声が部屋の中の響いた後静寂が部屋を包む。
誰も口出し出来る者は存在せずただただ静寂が続いていた。
ユミはリユイを睨みつけるがリユイは全くユミの方を見ようとしない。
「・・・・・そうだね、僕は君達を利用してばっかだ。今回ぐらい一人でやるよ」
リユイはそれだけ言うと椅子から立ち上がり部屋の外へと出ていく。
サラは咄嗟に立ち上がりリユイの後を追いかけようとした。
「何処に行くの!」
リユイを追いかけようとしたサラにユミは怒鳴り付ける。
「リユイさんが・・・・・また行ってしまってもいいんですか!」
「・・・・・もう、彼はかつてのリユイじゃないわ。今のリユイは王ではないただの流浪者よ」
「そんなことありません! リユイさんはリユイさんです! 私はリユイに戻ってきて欲しいんです!」
その言葉と共にサラが駆け出す。
「待ちなさい!」
ユミが止めたがサラは会議室を飛び出していった。




