披露宴
オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道 第三十章
*********** オークロード・デブリンガー ***********
結婚式の後は披露宴だ。
こちらもメンバーが殆ど同じなので、同じ場所で開催する事になる。
会場は、ガレオン陛下が特別に提供して下さった、王城の傍に建っている迎賓館だ。
この迎賓館は、他国のゲストや、他の街から王城に招かれた者がパーティを催したり宿泊したりする為の場所で、かなり贅沢な造りになっている大きな建物だ。
一月前にリーネが、ガレオン陛下に救援を求めてこの王城を訪れた際も、リーネとネイリーの二人は此処に宿泊する事になったのだが、その時はガレオン陛下がリーネの安全を最優先して、大勢の見張りと護衛をこの迎賓館周辺に用意してくれていたらしい。
因みに、この迎賓館は、大教会の隣に建っている。
私達は、ガレオン陛下夫妻も一緒に全員で歩いて移動していた。
本来ならば、ガレオン陛下夫妻はおろか、私達各街の領主クラスの者ならば、例え僅かな距離であろうと、盛大なパレードのように何台もの馬車を用意して移動するものなのだが・・・。
元々派手な事が苦手な私やラックに加えて、見てくれよりも中身、下手な自尊心よりも合理性を重視するガレオン陛下なので、そういった派手な行為は殆ど行われないのだ。
そもそも、ガレオン陛下は王位を継ぐまでは、私達と共に幾つもの戦場を渡り歩き、行軍や野宿など当たり前の毎日を過ごしておられたので、寧ろこういった場合は、自分から進んで歩くようなタイプなのだ。
そしてその事を良く理解している我々は、今更そんな陛下を止めたりしない。
そのお陰で、ガレオン陛下御付きの爺やさんは、毎日苦労なさっているそうだ。
まあ、私に言わせれば、いい加減ガレオン陛下の性格をご理解して差し上げるべきだと思うのだが・・・。
▽
迎賓館に到着すると、早速披露宴と言う名目の大宴会が始まった。
今回の宴会の酒や料理は、全てガレオン陛下が用意してくださった物だ。
最初は我々の方で用意すると申し出たのだが、たまには良いだろうと押し切られてしまったのだ。
「この間の牛王の財宝が予想以上に高く売れてな! 全く、世の中には物好きが居るものだ! まあ、そういう訳だから遠慮はするな、兄弟!! わはははははっ!!」
そう言って豪快に笑うガレオン陛下に、私もラックも何も言い返せなかったのだ。
しかし、今回の所はご好意に甘えておこうかと思っている。
何せ、王城にラックと共に出向いて段取りを話し合っている時に、我々が費用を負担すると反論していたら・・・。
ひょっこり顔を出してきた、ガレオン陛下の妻のライリー王妃が・・・。
「まあ、あなた。 デブリンガー様とラック殿、私達の大切な友人であるお二方の結婚式ならば、国を挙げてパレードを行っても良い位だと思うのですけど・・・?」
などと不穏な事を言い出し始めたので、我々は慌ててパーティの費用を負担して貰うだけで済ます事にしたのだ。
まあ、後々考えれば、私達に納得させるために一杯食わされた気もするのだが・・・。
昔、私の部下だった頃のライリーは、直情的な性格の妹のネイリーとは正反対で、いつも物静かでニコニコ微笑んでいる割に、いざ言い合いになると、部隊のメンバーの誰も適わないほどに頭が切れたのだ。
ライリーは私と同い年、ネイリーはその二つ年下で、初めて彼女と出会った時は、お互いに16歳になったばかりの頃だった。
地道な訓練により、オークからハイオークに進化を遂げていた当時の私は、王国の戦士となっていた。
ハイオークとなり、とても力の強かった私は、王国の部隊に所属し何度も帝国軍との戦いを繰り広げていた。
その後、まだ王太子だったガレオン殿下を、次の後継者にさせまいと、暗殺を目論んでいた第二王太子派の手の者より、偶然ガレオン殿下を救った私は、その功績により1チームのリーダーを任されるようになっていた。
その当時の部隊のメンバーが、バルドッグであり、プドルでありラックだったのだ。
20年前に今のガレオン陛下が国王に就任されるまでは、このガレオン王国は帝国軍に一方的にに攻撃を受けている状況だった。
当時の国王ガレオン2世は、自己の利益しか頭に無い腐りきった大臣達の傀儡でしかなく、帝国の攻撃を受けても、大分時間が経ってから兵士を差し向ける程度の抵抗しか見せない為、あちこちの街や村が襲撃を受ける羽目に陥っていた。
そしてあの時、たまたま訪れたライリーとネイリー姉妹が住んでいた猫人族の集落も、帝国軍の襲撃により村中の建物が火事のせいで燃え尽きてしまっていたのだ。勿論、彼女達の家も無くなってしまった。
更に、二人の両親もその際に亡くなってしまっており、彼女達は途方に暮れている所だったのだ。
そこで偶然彼女達と知り合った私は、彼女達の事を放ってはおけず彼女達を私のチームに雑用係りとして所属させる事にしたのだ。
雑用係りなので、たいした給料は出なかったが、明日の食料にすら困っていた彼女達は、私のチームで賢明に働いた。
そして、我々が行っていた訓練を真似るようになると、二人はそれぞれに特別な才能を開花させた。
素早い動きと、巧みな剣捌きを身に着けたネイリーと、正確な弓の技を身に付けたライリーは、何時の間にか私のチームの一員となっていた。
ライリーとネイリーとはその時からの付き合いである。
披露宴に参加している者は、殆どが見知った顔馴染みの者ばかりなので、我々新婚夫婦の挨拶も程々に直ぐに宴会が始まったものの、今回我々は一応主役である為に、宴会の輪に入るわけにも行かず、それぞれ主役の席に座らされ、順に挨拶に来る者達の相手をする事になった。
先ず最初に私達の前にやって来たのは、ガレオン陛下とその妻ライリー王妃だ。
「兄弟、結婚おめでとう!」
ガレオン陛下はニコニコ顔で、私の肩をバンバン叩いてくる、相変わらずの癖だ。
そしてその横ではライリー王妃も微笑んでいる。
「デブリンガー様、本日は本当におめでとう御座います。 先程の式の時のデブリンガー様は本当に凛々しかったですわ!」
相変わらず、ライリーは私にお世辞を言って来てくれる。
彼女は昔から私の事を格好良いだとか凛々しいだとか言って褒めちぎってくれるのだ。
外見の醜い私に気を使って言ってくれているのは重々承知しているのだが、それでも面と向かって言われるのは、毎回こそばゆいものだ。
「有り難う御座います、ライリー王妃。」
私が敬語で挨拶を返すと、急に不機嫌な顔になるライリー。
「酷いですわデブリンガー様! 私は今でも貴方様の忠実な部下のつもりなのですよ? その様なよそよそしい呼び方は辞めて下さい!」
「そうそう、ライリーの言う事はしっかりと聞いたほうが良いぞ、兄弟! ライリーは怒らせたら世界で一番怖いのだっっとイテテテッ!」
そうガレオン陛下が冗談めかして言うと、いきなり悲鳴を上げる。
どうやらライリーにお尻をつねられたらしい。
二人は相変わらずの様だ。
「お二人は、相変わらず仲が良いようで安心しましたよ。」
私の言葉にライリーも笑顔で返す。
「そう言えば、デブリンガー様、妹のネイリーは今何処にいるのでしょうか?」
「確か、うちの屋敷の子供達の所に居ると思いますよ。 是非話をしてやって下さい。」
私はそう言うと、ネイリー達が談笑しているであろう場所を指差した。
「勿論。 先月久しぶりに王城に来てくれた時は、緊急事態だった事もあって、結局顔を見る事すら出来なかったのですよ! 是非とも今日はじっくりとお話したいと思っていますの。」
「ネイリーも喜ぶと思いますよ。」
私の言葉に、軽く会釈するとライリーは立ち去ろうとする。
そして、ふと私の方を振り返ると・・・。
「デブリンガー様、まだ言葉がよそよそしいです!」
「ははは、すまない。 許してくれライリー。」
私のその言葉にようやく満足したのか、ライリーはガレオン陛下の腕に手を回しながら、ネイリーの居る場所の方へと歩いて行った。
私が陛下と王妃を見送っていると、横に座っていたリーネがやっと言葉を話した。
「まさか、王妃様がご主人様の部下の方だったなんて!?」
どうやら、その事に驚いて言葉が出なかったらしい。
「しかもネイリーさんのお姉さん!?」
「ああ、そうだよ。 かれこれ25年の付き合いになるな。」
「わ・・・ワタシが生まれる前から!?」
リーネがショックを受けているみたいだが、そんな私達の前にまた新しい招待客がやって来たようだ。
私とリーネは姿勢を正し、次の招待客を出迎える。
結局私達はそれからかなりの時間、招待客の応対に忙殺される羽目になった。
正直、食事もまともに摂る事も出来ず、心の中で、『結婚式って大変なんだな・・・。』と思った。
********** 複数視点 ***********
ネイリーが好物の鶏のモモ肉に噛り付いていると、突如背後から声が掛かった。
「あらあら、相変わらずネイリーは、鶏肉が好きね。」
思わず振り向くと、そこには姉のライリーが立っていた。
「お、お姉ちゃん!? ハグッ、むぐぐっゲフンゲフンッ!!」
驚いて鶏肉を喉に詰めてむせ返る。
姉のライリーは、アラアラといいながら優しく背中をさすってくれた。
「わはははは、ネイリー、元気だったか?」
そう言ってライリーの横にガレオンが現れる。
「ううう~、情けない所を見られてしまった・・・。」
「何だ、落ち込むことなんか無いぞ? 今のむせた所も可愛かったぞ!」
「・・・陛下・・・。 よくお姉ちゃんの前で他の女を口説けますね・・・。」
ネイリーは嫌味たっぷりに答えるが、ガレオンにはまるで堪えていない様だった。
「わははは、心配しなくても、お前を口説いているのは、ライリーも了解済みだ!」
「そうよネイリー、いい加減デブリンガー様の事は諦めて、陛下の第二夫人におなりなさいな。」
「・・・。 私はお姉ちゃんほど諦めが良くないんですヨ!」
顔を赤らめながら、唇を尖らせるネイリー。
「しかし、諦めも肝心だぞ? あの難攻不落といわれた兄弟が、遂に陥落したんだからな。 あのリーネには誰も勝てんぞ?」
「私は別に、奥様になれなくても、お傍でお使え出来るだけで良いんです。 お姉ちゃんみたいにプドル姐さんが諦めたから自分も諦めるって感じには行かないんです!」
「何?今なんと言った? もしかして、ライリーが余の求婚を受けてくれたのは、プドル女史が兄弟の事を諦めてバルドッグと結婚したからなのか?」
「ええ、そうですわよ? 私もずっとデブリンガー様の事をお慕いしておりましたが、私の様にたいした役に立たない女よりも、誰よりもデブリンガー様の事を考え、そしてお役に立っているプドル姐さんが居たからこそ、自分の気持ちを抑えて来ていたのです。 しかし、五年前プドル姐さんはあっさりとデブリンガー様の事を諦めておしまいになられた・・・。」
ライリーは遠い目をする。
「だったら、プドル姐さんよりもデブリンガー様の妻に相応しくない私が、立候補など出来る訳ありませんもの。」
「く~~~っ! ずっと断られ続けていた求婚をいきなり受けてくれたのは、そういう訳だったのか!?」
ガレオンは頭を掻き毟る。
「本当なら、ガレオン様の求婚をお受けするつもりは無かったのですよ? 私などガレオン様の妻にすら相応しいような女では有りませんから。」
「何を言う、余はそなたに会ったその瞬間から、余の妻はそなたしか居ないと思い続けていたのだぞ?」
「そうですね、陛下は私と出会って15年、ずっと私を好きだと言い続けて下さいました。 その間、唯の一人もお妃様を迎えられることも無く・・・。」
「当たり前だ! 余の第一夫人はライリーしか居ないと思っていたからな。」
「だからこそ、求婚をお受けしたのです。 私なんかの事をそこまで思ってくださる陛下を、それ以上お待たせする訳にもいかなかったから・・・。」
「は~~~。 全く、兄弟は自分の事を女にモテない醜男と思っているようだが・・・、余に言わせれば、兄弟ほど女にモテている奴も珍しいぞ!! 余は惚れた女が二人とも、兄弟に惚れていたのだからな!!」
「それだけではありませんよ、ポークビッツの街の中にもデブリンガー様の事をお慕いする女性は大勢居ます。 屋敷のメイド達の中にもね・・・。」
「そもそもプドル姐さんが一番お慕いされていましたものね。」
「そのくせ兄弟は、自分の容姿の醜さに女が惚れる筈がないと、全く周りの女性陣の気持ちに気付いていなかったのだから・・・、戦闘での勘の鋭さが全く嘘のように思える。」
三人は一斉に溜息を突いた。
「しかしまあ、そんな兄弟もやっと伴侶を見つける事が出来たのだ。 めでたい事だ。」
「ええ、それはそうですね。 私もようやく踏ん切りが付けられそうです。」
「まあ、それじゃあ私と一緒に陛下の元に来てくれる気になったの?」
「いや、その・・・私はまだやる事があるから・・・。 ん?」
ふとネイリーが足元を見ると、孤児のニアがネイリーのスカートの裾を掴んでいた。
「あらあらニア、どうかしたの?」
「う~~~、ママ~、もう眠い~~。」
「「ママッ!?」」
大声を上げるガレオンとライリーを目で制し、人差し指をそっと立てる。
「そう、それじゃああそこのソファで横になりましょうね。」
「うん。」
そう言うと、ネイリーはニアを抱き上げて、迎賓館のパーティ会場の隅に置いてある、休憩用のソファにニアを連れて行った。
ニアは、ソファに横になると、ネイリーの用意したクッションを枕に直ぐに寝息を立て始めた。
ネイリーは給仕の人に用意して貰ったブランケットをニアにそっと掛けると、静かにガレオン達の元に戻って来た。
「おい、ネイリーそなた子供が居たのか!? ま、まさか父親は・・・。」
焦り顔で尋ねるガレオンにネイリーは冷静に答える。
「馬鹿な事を言わないで下さい。 そんな事だったらとっくの昔にデブリンガー様のお嫁さんにして貰ってます。」
「そ、そうよね・・・。」
ネイリーの返事に、安心した様子のライリー。
「あの子は、あの時の・・・。 ポークビッツの街が帝国軍の襲撃を受けた際に、両親を失った孤児の一人ですよ。 あの子は当時、親の顔も覚えていませんでしたから、デブリンガー様が跡継ぎとは関係のない養女としてお引取りになられたのです。 そして、同族の私が世話をしているものですから、何時の間にか私の事をママと呼ぶようになったのです。」
「まあ、そうだったの。」
「そうか、兄弟から聞いていた、屋敷に引き取った孤児の一人だったのか。」
「そしてあの子は、デブリンガー様の事をパパと呼ぶのですよ!」
そう言ったネイリーの顔がニヤリとわらった。
「むむむ・・・。」
悔しそうな顔をするガレオンを、ライリーが優しく宥める。
「私は少なくともあのニアが、私が居なくても大丈夫になるまでは、デブリンガー様のお傍を離れるつもりは有りません。」
「うーむ・・・。 分かった、なら世も待っているとしよう。 何時になっても良い、お前が満足したら、余の第二夫人になってくれ!」
ガレオンにそう言われたネイリーは、呆れたような、それで居て少し照れたような目をしてガレオンの事を見つめるのだった。
********** オークロード・デブリンガー **********
招待客との挨拶も大体終了し、そろそろ一息つけそうになった時に、古い仲間の一人、ラビットマンのラビが私の元にやって来た。
このラビは、戦闘能力は低めだが、弓の名手でかつてはライリーにも弓を教えた事がある。
現在はこの王都で、何でも屋をやっているのだ。
因みに、ワードッグのドベルとヨークもこのラビの何でも屋で働いている。
半年前のシャウエッセンの街での調査の際は、わざわざ何でも屋を休業して駆けつけて来てくれていたのだ。
「どうも、デブリンガー様、この前はあまりお役に立てなくて申し訳ありません。」
「何を言う、お前が城壁の上の弓師と魔法師を取り仕切ってくれたお陰で、こちら側の被害は殆ど出なかったのだ、感謝している。」
私がそう答えると、照れくさそうに笑った。
「所で、実はデブリンガー様にお願いが有って参上致しました。」
「願い? 私に出来る事なら何でもするぞ? 遠慮なく言ってくれ。」
「そうですか? それじゃあ―――。」
▽
それから暫くして、ようやく招待客との挨拶も終わり、私とリーネはやっと解放された。
因みにラックとクレアは、私達より大分早く開放されていた。
「リーネ、お腹が空いただろう、何か食べておいた方が良いぞ?」
「はい、流石に疲れました・・・。」
今回、挨拶に訪れたのは殆どが私の知人ばかりだったので、リーネは、私の横で愛想笑いをしている位しか出来る事はなかったのだが、それでも、必死で私の知人の顔と名前を覚えていた様子だった。
私は、リーネを伴って、屋敷の皆の居る場所へと向かう。
そこには、バルドッグやプドル達の他に、ガレオン陛下達も一緒に居た様だった。
私達がその輪に入ると、突如ガレオン陛下が私に絡んできた。
「兄弟! これで余も兄弟も嫁さんが出来たわけだが~~~!」
どうやら、ガレオン陛下は相当酔っている様だった。
「余はいつもいつも兄弟に負けてばっかりで納得がいかーーーん!! そ・こ・で・だ!」
私の前に人差し指を立てる。
「これから、余と兄弟、どちらが先に跡継ぎを作るか勝負しようではないか!」
「ええっ!?」
「残念ながら未だ余とライリーには子供が出来ていない。 しかし、そろそろ出来そうな予感がするのだ!」
そう言って私にビシッと指をさす。
「だから絶対に余が勝ってみせる!! どうだ、受けて立つか?」
私が何と答えれば良いのか悩んでいると、その言葉を聞いたプドルが嬉しそうに賛成してきた。
「まあまあ、それは良いではありませんか! お二人ともお世継ぎを切望される身、それ位のお覚悟で子作りに励むのも必要な事かもしれませんわね!」
「おいおい、プドル、お前酔っているのか?」
バルドッグが慌てて静止するもプドルは止まらない。
「それに、私は一日も早くデブリンガー様とリーネちゃんの赤ちゃんを見てみたいのです!」
そういいながらうっとりとした顔をするプドル。
リーネは突如そんな事を言われて、顔を真っ赤にしている。
「どうだ兄弟? 勝負を受けるだろ? 何、別に何かを賭けようと言う訳ではないから安心しろ!」
もう勝負する気満々のガレオン陛下と、それに賛同するプドル。
その時の私は、ふとイタズラ心が芽生えてしまった。
「そうですね・・・。」
少し勿体つけて言葉を紡ぐ。
「バルドッグ、お前も参加すると言うのなら、この勝負受けようじゃないか!」
「「ええっ!?」」
私の突然の言葉に目を白黒させるバルドッグ、プドルも一瞬言葉を詰まらせた。
元々、バルドッグとプドルには、近々子供を作るように話をするつもりだったのだ、これはいい機会かもしれない。
「ほう、バルドッグとプドル女史も参戦するのか、面白い! 受けて立つぞ!!」
「し、しかしデブリンガー様・・・。」
慌てるバルドッグの肩に私はポンと手を置く。
「なあ、バルドッグ。 お前達の間に、未だに子供が出来ないのは、ワザと作らないようにしてきたからなのだろう?」
私がそう言うと、バルドッグの顔が真顔になる。プドルも真顔だ。
「お前達が、私に迷惑を掛けないようにと、そう考えていてくれる気持ちは分かっているつもりだ。 しかし、私にとってはバルドッグもプドルも、かけがえのない家族。 そんな家族には、やはり誰よりも幸せになって欲しいのだ。」
「「デブリンガー様・・・。」」
二人は言葉を詰まらせる。
「よし、これで参戦決定だ! 私とリーネ、ガレオン陛下とライリー王妃、バルドッグとプドル。 この三組の中で、最初に子供を産んだ組が勝利、それで良いですね?」
「おうよ、望む所だ、兄弟!」
「・・・、分かりました。 その勝負受けて立ちましょう。」
「プドル・・・お前それで良いのか?」
「勿論よ! 此処まで私達の事を気遣って下さっているのですもの、ここは完膚なきまでに叩きのめして差し上げますわ!」
バルドッグが頭を抑えている。しかし、プドルは一度火が着いたらもう誰にも止められない。
諦めろバルドッグ・・・。
こうして、私達の妙な勝負が決定した―――。
********** 第三者視点 ***********
披露宴も終了し、疲れた者はそれぞれ用意された客間へと向かいそれぞれ休憩し、そうで無い者は未だ宴会場で各々酒を酌み交わしていた。
プドルは、真夜中の庭園に出て、夜風に当たっていた。
「ふう、涼しいわね。」
そんなプドルの傍にはバルドッグが居る。
「プドル、本当に良かったのか? あの様な勝負を受けてしまって。」
そう尋ねるバルドッグにプドルは微笑み返す。
「あら、さっきも言ったでしょう? 折角デブリンガー様が私達の事を気遣って下さっているのだもの、ここで引いたら女が廃るってものよ!」
「しかし、お前は私と結婚する時に・・・。」
▽
『バルドッグ、貴方が私の事を愛してくれている事は良く分かってるつもりよ。 そして、私も貴方の事を愛してる・・・でも! 私にとってはデブリンガー様に尽くす事が全てなの!』
『それは分かっているつもりだ。 そもそも、私の求婚を受けてくれたこと自体に今も驚いている位だ。』
『私の力はデブリンガー様の部隊に無くてはならない。 だから、戦いに身を置いている間は、子供を作る事は出来ない・・・。 私の存在が無くなると、部隊の存続自体が難しくなるから・・・、だからごめんなさいね・・・バルドッグ。』
『何だ、そんな事か。 それ位なら何の問題も無いさ・・・。』
▽
「確かに、子供は作らないって決めたけど、一応今はもう戦いに身を置いている訳ではないのよね・・・。」
「それはそうだが・・・。」
「デブリンガー様は更に強くなられたわ、もうきっと大丈夫・・・。 それに今はリーネちゃんも傍に居る事だしね。」
プドルはそういうと、バルドッグにウインクしてみせる。
「第一、何だか悔しいじゃない? 私達だけ赤ちゃんが居ないって言うのは・・・!」
「フフフ、そうだな。」
バルドッグは苦笑している。
「但し、赤ちゃんを作るのは、リーネちゃんが出産してからよ? 一応勝負を受けたけれど私は勝つ気は無いからね?」
「なんだ、そうなのか? 随分やる気になっていたから私はてっきり・・・。」
「んもう、何を言っているのよバルドッグ。 もし私とリーネちゃんが同時に妊娠したりしたらどうするの! 赤ちゃんのお世話は、他のメイド達でも何とかなるけれど、赤ちゃんを産むまでは妊婦は戦いに参加なんて出来ないでしょう?」
「それは勿論そうだが・・・。」
「リーネちゃんは、日に日に治癒魔法の腕が上がっているわ。 つまり、私が妊娠している時もリーネちゃんが傍に居てくれたらデブリンガー様は戦える。 だから、私達が赤ちゃんを作るのは、リーネちゃんが赤ちゃんを産んでからよ! だって、リーネちゃんが妊娠している時は、私がデブリンガー様をお助けしないといけないのだから・・・。」
そう熱弁するプドルに、やれやれと頭を掻くバルドッグ。
「やれやれ、結局お前はデブリンガー様第一なんだな・・・。」
「当たり前でしょう? 私が世界一惚れている方なんだから。」
「全く・・・、しかしデブリンガー様相手では腹も立たんな。」
「あら、それは当然よ!」
プドルはズイッとバルドッグに近寄り、顔を覗きこむ。
「だって貴方も惚れているのでしょう? デブリンガー様に!」
「・・・。 フフフ、違いない!」
その後二人の影は一つに重なった―――。




