エピローグ
オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道 第三十一章 <最終章>
*********** オークロード・デブリンガー ***********
披露宴から数ヶ月経っていた、残念ながら未だリーネに妊娠の兆候は無いが、こればっかりはあせっても仕方が無い。
ただ、ガレオン陛下からライリー王妃に妊娠の兆候ありとの書簡が届いていたので、どうやらあの勝負はガレオン陛下の勝ちの様だ。
しかし、私達は何も慌てる必要は無いだろう、リーネは毎日が幸せそうで、私はそれが何よりだった。
ただ、報せを聞いたプドルが、『まだまだ、私とデブリンガー様の勝負は継続です!』と私を焚きつけて来てはいたが・・・。
「ふう、少し休憩するか。」
私はの椅子から立ち上がり、思いっきり伸びをした。
私は今、執務室で執筆活動を行っている。もうかれこれ数ヶ月だ・・・。
実は披露宴の席で、ラビに頼まれた頼み事がこれなのだ。
▽
『実はデブリンガー様に自叙伝を書いていただきたいのです!』
『自叙伝? 何でまたその様な物を・・・?』
『何でも屋の仕事で、世話になっているお客の中に、本を取り扱っている方が居るんですが、その方に是非と頼まれまして。』
『しかし、私の自叙伝など作って、採算が取れるのか? 本は魔法で複写しなければならないから、一冊一冊がかなり高くなると聞いているぞ?』
『まあ、確かにそうなんですが・・・。 実は私にも一つ考えが御座いまして、デブリンガー様の自叙伝を、子供に分かりやすく簡単な文章に置き換えて、絵本にしようと思っているのですよ。』
『絵本に? しかし、それこそ子供が手軽に読めるような値段には決してならないだろう?』
『勿論そうなんですが、その絵本を、孤児院や教会などに寄付すれば、子供達も手軽に読む事が出来ると思うんですよ! そうすれば、おのずと字を読める子供が増えていく筈です。』
『ふむ・・・、確かにそうすれば子供達も手軽に読めるし、字を覚える手助けにもなると思うが・・・。 それこそ、お前には全然利益が無いんじゃないのか?』
『ご安心を、利益の方は、デブリンガー様のお書きになった、そのままの自叙伝を魔法で複写した本を、金持ち相手にそれなりの価格で販売する予定ですので・・・。 それに、実はうちの何でも屋に新しく入った新人が、複写の魔法を使えるんですよ!』
『成る程、そういう訳か。 まあ、そういう事なら協力しよう。』
『へへへっ! 有り難う御座いますデブリンガー様!』
▽
しかし、ラビの奴は、採算が取れるような事を言っていたが、幾ら部下に複写の魔法の使い手が居るといっても、一度に何冊分ものページを全て複写など出来るものではない。
当然他にも人を雇わねば難しいだろう。もしくは一冊一冊を時間を掛けて作り上げていくか・・・。
どっちにしろ、足が出る事になるだろう・・・。
「まあ、私が執筆料を請求しなければ、それで何とかなるだろう。」
今まで散々私を助けてくれた、大切な仲間の頼みだ、これくらいどうと言う事もない。
「さて、もう少し書き進めるとするか・・・ん?」
廊下をこちらに向かって走ってくる音がする。バルドッグか?
そして執務室の前で止まると、扉がノックされる。
「デブリンガー様、たった今王都から使いが参りました。」
「何か有ったのか?」
バルドッグは、慌てた様子で部屋に入って来た。
「最南端のウイニーの街の付近に、ホースキングと見られる魔物が現れたとの事です!」
「ホースキングだと? それはもしや牛王のような存在と言う事か?」
「恐らくそうかと思われます。 現在親衛騎士団が調査の為に現地に向かって居るそうですが・・・、ガレオン陛下が使いの者に、デブリンガー様に助けを求めるよう御命じになられたとか!」
私は、ペンを置き、インク壺のふたを閉じた。
「分かった。 直ぐに王都へ向かいガレオン陛下にお会いする。 バルドッグは今直ぐ屋敷の皆を集めてくれ、場合によってはまた戦いに赴いて貰う事になるかもしれない。」
「了解致しました。」
バルドッグは会釈すると直ぐに部屋を出て行く。
やれやれ、また戦いになりそうだ・・・。
しかし、今の私に恐れは無い。
なぜなら、今の私には守るべき者がある、だから私は絶対に負けはしないのだ!
「フフフ、どうやら自叙伝に書き込む話が、また一つ増える事になりそうだ。」
私は立ち上がると、急いで準備を始めた―――。
********** 第三者視点 **********
~~10年後~~
春の暖かい日差しの中、美しい春の花が咲き乱れている草原を、数人の子供達が楽しそうに駆け回っている。
先頭を走っているのが、オーク族の少年だ。年齢は今年でまだ8歳になった所だ。
不思議な事にその少年の髪は、オーク族には珍しい金髪をしており、そしてその耳は、オークのそれとは少し違い、ピンと横に長く伸びていて、まるでエルフかハーフエルフの様だった。
実はこの金髪と耳は、ハーフエルフの母親譲りのものだった。
その後を追いかける、一見人族に見える少女は、美しいエルフの様な顔立ちの、少年と同い年位のエルフの血を引いた少女だ。
しかし少女の髪色は、殆どが金髪のエルフには珍しいブラウンで、更にその耳はオークの耳そっくりだった。
こちらの少女の髪と耳は、実はオークの父親譲りで、二人は双子の兄妹だった。
そしてそんな二人に大分送れて、四人の犬人族の子供がキャッキャッと笑いながらヨタヨタと二人を追いかけている。
見た目は5歳位でまだ足元のおぼつかない四つ子達は、時折地面につまずいてはコロンと転がっていたが、転んでも泣き出す事も無く、四人の後ろについて歩いている。
そして、そんな四人の後について来た、メイド服を来た猫人族の13歳位の少女に抱き起こされていた。
「やったぜ! 今日も一等賞だ!!」
草原の中心に一本だけ生えている大きなクヌギの木の元に辿り着いた少年が、嬉しそうにそう叫んだ。
「むう~! お兄ちゃん足が速すぎだよっ!」
少年の双子の妹が少し送れて木の下に辿り着くと、頬を膨らませて文句を言う。
「「「「えるにぃ~、でぃ~ねぇ~!」」」」
そんな二人からかなり送れて、やっと四つ子の到着だ。
全員がクヌギの木の下に辿り着くと、少し大きめのバスケットを手に持ったメイド服の少女が、バスケットの上に掛けていたシーツのような布のシートを木の下に広げた。
「さあさあみんな、おやつにしましょうか!」
「「「「わーい!!」」」」
おやつの言葉に大喜びの四つ子達。
四人のように大はしゃぎはしないが、双子の二人も嬉しそうにシートの上に座る。
メイド服の少女は、バスケットの中から一つ一つ綺麗な布に包まれたカップケーキを取り出して、子供達に配って行く。
後は人数分のコップを取り出し、水筒から紅茶をそれぞれに注いで行った。
「ニアネエ、有り難う。」
四つ子にえるにぃと呼ばれた少年は、少し照れたようにメイド服の少女に礼を言う。
でぃーねぇーと呼ばれた少女は、カップケーキを見て目を輝かせていた。
どうやら、甘いものに目が無いらしい。
「いえいえどう致しまして、さあエルリンガー君も、ケーキを食べてね。 今日のケーキは私が焼いたんだよ。」
「ええ!? ニア姉さん、もうケーキが焼けるの? すごいな~、ワタシなんか未だにお料理させてもらえないのに・・・。」
「うふふ、ディーネちゃん。 心配しなくても、もう少ししたらリーネ様やプドル様が教えてくれるわ。」
「えー、でもお母さんもプドルおば様も、魔法を教えてくれる時は凄く厳しいから嫌だなあ・・・。 ねえ、どうせならニア姉さんが教えてよ!」
「そうねぇ、リーネ様が良いって仰ったら、私が教えてあげる。」
「やったぁ! 約束だよ、ニア姉さん!」
それから七人はおやつのケーキを黙々と食べる、皆甘いモノは大好きなのだ。
おやつを食べ終えると、四つ子達はクヌギの木の周りで、追いかけっこをして遊びだした。
エルリンガー少年は、腰に下げていた木刀を握ると、四つ子から少し離れた場所で素振りを始めた。
少年は最近やっと、父親から剣の訓練の許可を得て、父から貰った練習用の木刀を毎日振るっているのだ。
最初のうちは、へっぴり腰だったエルリンガー少年も、最近ようやくまともに木刀が振れる様になって来ていた。
「エルリンガー君、随分上達したね。」
「え、ホントに? ニアネエ、ホントにそう思ってる?」
ニアに褒められて、頬を赤くしたエルリンガー少年は、嬉しそうにそう尋ねる。
「ええ、勿論! きっと大人になったらデブリンガー父様みたいに強くなれるわ!」
「へへへ、そっか・・・。 僕頑張るよ!!」
そう言って更に張り切って木刀を振るエルリンガー少年を見て、ディーネがボソッと、兄に聞えないように呟く。
「全く、お兄ちゃんはニア姉さんの前だと張り切るんだから・・・。」
ニアは、敢えてその言葉に突っ込む事はせず、ディーネに話し掛ける。
「そういえば、ディーネちゃんは、この前王城に遊びに行った時はどうだったの? 確か、婚約者のリオン王太子様と会ったんでしょう?」
ニアがそう聞くと、途端にディーネの機嫌が悪くなる。
「どうしたの? リオン王太子様と何か有ったの?」
「だって・・・リオン君、ワタシに意地悪するんだもん!」
「意地悪?」
「この前久しぶりに遊びに行った時、ワタシには少し挨拶しただけで、ずっとお兄ちゃんと遊んでばかりで・・・。 ワタシも混ぜてって言って混ぜて貰っても、あまりお話してくれないの!」
そんなディーネの話を聞いて、ニアは何かに思い当たる。
そういえば自分も、ディーネ様位の年頃になると、急にそれまで一緒に遊んでくれていた男の子達が余所余所しくなったものだった・・・。
「うふふ、ディーネちゃん、それは意地悪しているんじゃないわ。」
「え? そうなの?」
「ええ、リオン王太子様は、照れておられるだけなのよ。 ディーネちゃんが可愛いから!」
「えーーっ! ほ、ホントに? ワタシが可愛いから照れてる・・・?」
ディーネは顔を赤くしてモジモジし始めた。
なんだかんだでリオン王太子様の事を憎からず思っているのだろう、思いの他嬉しそうだ。
その様な他愛の無い会話をしていると、屋敷の方から誰かが近付いて来る。
大柄なオークの男性と、美しいハーフエルフの女性・・・、デブリンガーとリーネだ。
その後ろにはプドル様とバルドッグ様。
そしてその後ろから、ネイリー何か荷物を持って着いて来ていた。
恐らく仕事が一段落着いて、子供達の様子を見に来たのだろう。
四人の姿を見かけた子供達は、一斉にデブリンガー達の元に駆け寄って行く。
皆が口々に何かを言っているが、皆同時に放し掛けているので、何を言っているか全然聞き取れない。
「仕事が一段落着いたから、私達もピクニックに参加する事にしたんだ、お邪魔してもいいかな?」
デブリンガーがそう尋ねると、子供達全員が一斉に返事をする!
「「「「「「「もちろんっ!!」」」」」」」
デブリンガー達は、大勢の子供達に囲まれて楽しそうにクヌギの木の元まで歩いて行った。
これが、デブリンガー達の日常である。
これといって事件も無く、平和な毎日を過ごす日常。
しかし、何よりもかけがえの無い大切な日常だ。
もしもこの大切な日常に、害をなす存在が現れたとしたら、きっと彼等は全てをかけてその存在に立ち向かっていく事だろう。
何よりも大切な、この日常を守る為に・・・。
何故なら・・・この、オークロード、デブリンガー・アブラハム。
彼こそが、ガレオン王国の守り神とまで呼ばれた、伝説のオークロードなのだから―――。
―――オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光の道―――終わり―――




