リーネの進化?
オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道 第二十八章
*********** オークロード・デブリンガー ***********
ゴブリンと牛王の襲撃から一月が経った。
王都へ連行された件の仮面の男は、シャウエッセンの街から逃亡した、帝国の元スパイのゲスパーで間違い無かった。
ただ、聞き出した証言によると、シャウエッセンの街乗っ取りに関してまでは帝国の指示だったそうだが、それ以降のリドリー・ゴルドーの見舞金略取や、屋敷乗っ取り、そしてゴブリンと牛王を利用したポークビッツの街の襲撃は、奴の独断であった事が判明した。
尤も、ガレオン陛下が最初から仰っていたように、その事実は公表される事は無かった。
あの男は、あくまでシャウエッセンの街と人々を危機に陥れ、更にはポークビッツの街まで攻めようとした大悪人、ゲスパーとして公開処刑されたのだった。
私の街の方はといえば、あれ以降特別これといった問題は起きていなかった。
しいて事件を挙げるとすれば、ゴブリン達に攫われ、牛王を誘き寄せる為に薬を盛られていた、タウロスマンの女性(名をカウラと言うらしい)は、ずっと付き添っていたウロスによって、先日ようやく故郷の牛人の集落に無事送り届けられたまでは良かったのだが・・・。
先方の両親にいたく気に入られたウロスが、めでたくカウラと婚約する事になった事位だろうか?
で、私はというと、プドルにせっつかれて、現在は私とリーネの結婚式の準備に奔走している。
本来ならもう少し早く式を挙げるつもりだったのだ。
しかし一ヶ月前のあの日、私のミスでお互いの想いをばらされる羽目になってしまったラックとクレアが、遂に結婚する事になったのだ。
そうなると、私とラック、双方の結婚式は招待客が殆ど被ってしまう為、何度も呼び出しを掛けるのも大変だろうと、いっそ同時に式を挙げてしまわないかと言う方向に話が進んでしまったのだ。
そして現在は、式場である王都の大教会に約束を取り付けに行って来た所である。
因みに結婚式後の披露宴会場は、なんとガレオン陛下が王城の迎賓館を会場として提供してくれる事になったのであった。
いよいよ結婚式は来週となった。
招待状も、全て出し終えてある。後は当日が来るのを待つだけだ。
今日の用事を終えようやく屋敷に戻った私を、プドルが待っていた。
隣にはリーネも何時ものメイド服で立っている。
リーネは、私と結婚する事になっても、相変わらず毎日屋敷の掃除の手伝いを続けてくれている。
何もしていないと不安になるらしい。
「「お帰りなさいませ、ご主人様。」」
二人の出迎えの挨拶が綺麗に重なる。
私は、一旦部屋着に着替える為、自室に向かったが、その後をリーネとプドルが着いて来る。
「どうしたのだ? 何か話でもあるのか?」
「はい、少しお話したい事が・・・。 お着替えが終わりましたらお呼び頂けますでしょうか?」
プドルにそう言われ、私は首肯する。
私は部屋に入ると、急いで楽な部屋着に着替え、二人を部屋に招き入れた。
二人は私の部屋に入ると、やけに畏まって立っていた。
「で、どんな話だ? プドル。」
私が尋ねると、暫く目を閉じたままだったプドルが、キッと目を開き私を睨みつけるように見つめてきた。
「デブリンガー様、リーネちゃんに聞いた所・・・、い・ま・だ・に、お二人は男女の関係になっておられないそうですね!?」
いきなりその様な事を言い出すプドルに、私は目を白黒させる。
「い、いや、それはだな・・・やはり式を挙げてからの方が良いと思って・・・その・・・。」
うろたえて言い訳をする私を、冷たい目線で睨みつけるプドル。
一方リーネは、顔を真っ赤にして下を向いていた。
「以前から何度も申し上げておりますように、心を決めたのにもかかわらず、ずっと放置されるのは、女としても辛い事なのですよ?」
「うう、それは・・・分かっているのだが・・・。」
「いいえ、デブリンガー様は分かっておられません! こういう事は男性がリードしてあげなければいけないのですよ? 幾ら抱いて欲しくても、女の側から声を掛ける事など、出来よう筈もありません! 多少恥ずかしかろうが、女性の為にも、男性からお誘いするべきなのです!」
私はプドルにそう言われて、心から反省する。
確かに、男の私から求めてやらなければ、大人しいリーネからそのような事言えるはずも無かったのだ。
「すまん・・・。」
「謝る必要はございません、その代わり、今此処で、リーネちゃんを誘ってあげて下さい!!」
相変わらずプドルは無茶を言う・・・。
しかし、彼女は一度言い出したら聞かないのだ。
「それに、来週の結婚式の当日は、この前の祝勝会の時の様に、恐らく朝まで大騒ぎする事になるのでしょう? それでは初夜もへったくれもありませんよ? それに何よりも領主であるデブリンガー様に今一番望まれているものはお世継ぎなのですから!」
腕組をしてこんこんと私に説教をする、プドル。
何だか、リーネがうちに来てから、こうしてプドルに説教される事が増えた気がする・・・。
「分かった、分かったからもう勘弁してくれ、プドル。 それと、今からリーネを誘うから・・・、その・・・二人きりにしてくれないか?」
プドルは、仕方ありませんねと言いながら、部屋を出て行った。
しかし、部屋から離れる様子は無いので、部屋の外で待っているのだろう。
部屋に残された形のリーネは、緊張でカチカチになっている様子だ。
私はそんなリーネに近付くと、膝を付いてリーネを軽く抱きしめた。
「リーネ、今まで待たせてしまってすまない。 良かったら今晩、私の愛を受け入れてくれるかい?」
私がそう囁くと、リーネはコクコクと頷く。
「ワタシ、今晩は痛み止めのお薬飲んできますから!!」
そう言ってリーネは私にしがみ付き、そして私にキスをした。
▽
正直言って、私はそれからの数時間は完全に上の空だった。
情けない話だが、私は女性とその様な行為に及んだ事は一度も無い。
長い間、私などが、女性にもてる筈がないと思い続けてきた。
私は、今更ながらに行為の方法や手順が心配になり、こっそりバルドッグを呼び出して、手順を確認していたのだった・・・。
夕食後、私が先に風呂から上がると、入れ替わりに、リーネがプドルと共に風呂へと入って行った。
すれ違い様に、私に向かってプドルが軽くウインクをしてきたが、また何か企んでいるのではないだろうな。
先に寝室に戻った私は、落ち着き無くリーネが部屋を訪れるのを今か今かと待っていた。
この年になって、情けないと思われるかもしれないが、緊張するものは緊張するのだ。
部屋の中で悶々としていると、部屋に近付く足音が聞えた。
リーネだ!そして程なくして扉をノックする。
待ちかねていた私は、慌てて扉を開けると、そこには、湯上りで少し火照った顔のリーネが、湯上りが原因では無いであろう赤い顔で立っている。
「さ、さあお入り、リーネ。」
私はリーネを部屋に招き入れると、ベッドの上に座らせた。
本当ならばこのまま飛び掛りたい気分なのだが、私にはやらねばならない事がある。
そう、ハーフサイズの魔法だ。
これを使わねば、リーネに怪我をさせてしまいかねない。
「ハーフサイズの魔法を使うから、少し待っていておくれ。」
私がそう言うと、リーネは静かに頷いた。
言葉が少ないのは緊張しているからだろう。
私がハーフサイズのスクロールを使用すると、私の身体が見る見る縮んで行く。
そしてものの数秒で3分の2ほどの身長まで小さくなった。
これでも、小柄なリーネに比べればかなり大きい方なのだが、先程までに比べればマシだろう。
私が、ベッドに近付くと、リーネは私に左手首を見せて来た。
『おや? そういえば腕輪をしていないな?』
私がそんな疑問を持つと、リーネが予測していたかのように答える。
「実は、あの腕輪をしていると、痛み止めが効かないかも知れないからって、プドルさんが言ってたから、腕輪は部屋に置いてきました。 そして、痛み止めのお薬もちゃんと飲んで来ましたから・・・。」
なんと、無毒の蝶の腕輪は、痛み止めすら無効化するのか、覚えておいた方が良さそうだ。
リーネはそこまで言うと、ベッドの上に正座をして座る。
「ご主人様・・・、あの、ワタシがんばります!」
リーネは私の事を真っ直ぐ見つめてそう言ってきた。
そんなリーネが愛おしくて仕方なかった私はリ、ーネを抱きしめると、優しく口付けをした。
リーネも、私の身体に精一杯抱き着いて来る。
「だ、大好きです、ご主人様。」
私の口付けから開放されたリーネは、息が切れそうになりながらも私に愛を囁いた。
「私も愛しているよ、リーネ。」
そしてその夜、私達は初めて結ばれた―――。
********** オークロード・デブリンガー **********
昨晩、初めて結ばれた私とリーネは、愛し合った後、そのまま眠りについてしまった。
朝になって目覚めてみると、私の身体はすっかり元の大きさに戻っていた。
リーネは私の横で静かに寝息を立てていた。
私は、まだ眠っているリーネの顔を覗きこむと、何かがおかしい事に気が付いた。
『リーネの身体・・・大きくなっていないか?』
驚いた私は、慌ててリーネを揺り起こす。
「あふぅ、おはようごじゃいまふ。 ご主人様。」
まだ寝ぼけ気味に目覚めるリーネ、その声は間違いなくリーネのものだ。
しかし、目の前にいるリーネの姿は、明らかに昨日までのリーネとは違っていた。
いや、顔の作りも髪の色も目の色も、全てリーネのものだった。
だが、その身体の大きさが明らかに今までより大きい。
言うなれば、正にリーネが成長したらこんな感じになるだろうなと想像した通りの姿だったのだ。
「リーネ・・・その姿は?」
「え・・・? ワタシ、何か変ですか?」
「変というか・・・、リーネの身体が成長している・・・。」
「ええっ!?」
驚いたリーネは、ベッドから降りると、シーツを羽織ったまま、姿見の鏡の前に立つ。
私もそんなリーネの傍に立ってみた。
今までのリーネは、本来の私の半分位の身長しか無かった。
しかし、今のリーネは、頭一つ分背が高くなっている。
「ワタシ・・・、一晩でこんなに身長が伸びたんですか?」
「私にもよく分からない。 リーネ、身体に異常は無いのかい?」
「は、はい・・・。 あ、あの、お股が少し痛む以外は別に・・・。」
顔を赤くしながらそういうリーネに、私も思わず顔を赤くする。
「兎に角、プドルに相談してみよう。 服は着れそうかい?」
私の問いに、リーネはベッドの脇においてあった寝巻きを羽織る。
少し丈が短くなってしまっているが、何とか着る事は出来そうだ。
私は、リーネを部屋に待たせて、プドルを呼びに行った。
▽
私の部屋にやって来たプドルは、大きくなったリーネを見て驚きを隠せないでいた。
今までは、プドルよりかなり小さかったリーネが、今はプドルと殆ど変わらない位の大きさになっている。
私はプドルに、今朝起きた時にリーネが突如この大きさになっていた事を何とか説明した。
私の説明を一通り聞いたプドルは、大きくなったリーネをマジマジと観察すると・・・。
「まあまあ、困ったわ。 これじゃあリーネちゃんって呼べないわぁ!」
突如見当違いの事を言い出すプドルだったが、左程深刻な顔をしていない所を見ると、危険は無いのだろう。
私は一息ついて、プドルに詳しく話を聞いた。
「私も、エルフやハーフエルフの生態について詳しく知っている訳では有りません、特に精霊族と呼ばれるエルフは、不思議な事が多いのです。」
プドルはそう言いながらリーネの身体のあちこちを細かく調べている。
「しかし、もう直ぐ21歳になるというのに、リーネちゃんの身体は、むしろ平均より小さい位でした。 ですから、恐らくは心が大人になりきれて居ない事が、身体の成長を妨げていたのではないかと思うのです。」
確かに、エルフならばそういう事があっても不思議では無いのかもしれない・・・。
「だから、ご主人様と結ばれて、心が大人になった為に、身体もそれに合わせて一気に成長した! ・・・と言う事にして置けばよろしいのではないのでしょうか?」
「随分といい加減な推理だな・・・。」
呆れ気味にぼやく私に、プドルが抗議する。
「そんな事言ったって、私にも分からない者は分からないんですっ! それに、今健康状態を確かめましたが、何処にも異常はありません。 もしかしたら、ご主人様のように進化したのかもしれませんよ?」
「進化・・・か? ま、まあそれはともかく、身体に異常が無いのならそれで良いのだ・・・。」
「よ、よかった・・・。」
リーネも、ホッとした様子だ。
「しかし困りましたねぇ・・・。」
「ん? 何か問題があったのか?」
「いえ、これから急いでリーネちゃんが結婚式に着るドレスの手直しをしないといけないなと・・・。」
プドルは、そういうと、私達にウインクしてみせた。
▽
リーネが一晩で急成長した事に、屋敷の皆も驚いていたが、中身は以前と変わらぬリーネのままだったので、直ぐに落ち着きを取り戻した。
兎に角、問題なのは、来週の結婚式までにドレスを作り直さないといけない事だけなので、プドルは早速リーネを採寸し直していた。
残念ながら私に出来る事は何も無く、プドルに何時もの仕事をする様にと、さっさと屋敷から追い出されてしまった。
仕方なく私は、日課の街の視察に出かける。
「しかし驚いたな・・・。」
私は、牛車に揺られながら、先程のリーネの姿を思い出していた。
『彼女にそっくりだったな・・・。』
そう、今のリーネの姿は、昔私を救ってくれたエルフの女戦士、リーネの母親の姿にそっくりだったのだ。
まだ背の高さは、当時の母親と同じとまでは言えないが、元々リーネは小柄な方だったので、これは個人差と言うものだろう。
つまり、リーネは一晩で一気に大人の身体に成長してしまったという事か。
正直に言って私は嬉しくて仕方が無かった。
幾ら愛し合っているとはいえ、小さなリーネが相手では、どうしても罪悪感が拭いきれなかったからだ。
しかし、身体が大人のそれになってくれたら・・・。
「まあ兎に角! 大きかろうが小さかろうがリーネはリーネだ! 愛しているならそれで良し!!」
喜びのあまり思わず発した私の言葉は、辺りに響いていたのだった―――。
********** ハーフエルフの女性リーネ **********
初めてご主人様と結ばれた夜。
ワタシは、痛み止めの薬のお陰であまり痛みを感じる事無く、ご主人様と愛し合う事が出来た。
以前イザベラさんが言っていたように、愛する人との行為は、嫌悪や恐怖ではなく、痛みすらも幸福に感じる事が出来るのだとよく理解できた。
ワタシは幸せを噛み締めながら、ご主人様と眠りに付いたのだった。
しかし、翌朝事件が起こった。
何と、ワタシの身体が、急に成長してしまっていたのだ。
プドルさんも原因は良く分からないと言っていたけれど、兎に角健康に問題は無いと言う事なので、一先ずホッとした。
でも、姿見の鏡で見た自分の姿を見て、ワタシはハッとしてしまった。
鏡の中の自分の姿が、お母さんの姿にそっくりだったからだ。
元々、よく似ていると言われてはいたが、成長すると、こんなにも似て居ただなんて・・・。
『ご主人様、喜んでくれるかな・・・?』
ご主人様はずっと、ワタシのお母さんの事が好きだった。
ワタシなんかじゃ、お母さんの代わりなんてとても務まらないだろうけれど、せめて見た目だけでもご主人様の理想に近付けた事が、ワタシは少し嬉しかったのだ。
『ご主人様・・・今晩も、誘って下さらないだろうか・・・?』
そんな事を考えて、私は顔を真っ赤にしてしまった。
真っ赤な顔で身もだえしていると、後ろからプドルさんが抱き着いてきた。
その顔はニヤニヤと笑っている。
「うふふふ、リーネちゃん! 夕べの事、しっかり報告してもらうわよ!」
「ふえーーーん! それは恥ずかしいので勘弁してください~~~!」
「だーめ! ちゃんと報告するまで逃がさないんだからね!」
ワタシは結局全て白状するまでプドルさんから逃げる事は出来なかった。
*********** オークロード・デブリンガー **********
屋敷に戻った私を、プドルが待ち構えていた。
出迎えの言葉も程々に私を執務室に連行する。
また何か怒らせるような事をしてしまったのだろうか・・・?
まさか、夕べの行為に何か不始末があったのか!?
プドルは、リーネととても仲が良く、隠し事の類は殆ど無いと言っても過言ではなかった。
もしかしたら、私が知らずにリーネに何かしでかして居たのかもしれない・・・。
ヒヤヒヤしながら執務室に入ると、プドルから帰ってきた言葉は、意外なものだった。
「先程、改めてリーネちゃんの身体に異常が無いか、検診の魔法も使ってしっかりと調べておきましたが、何処にも異常はありませんでした。 安心してくださって結構です。」
「そ、そうか、それは良かった。 じゃあ、あの変化は本当に進化みたいなモノだったのか?」
「ええ、恐らくそうなのだと思います。 これはあくまで私の推測ですが、デブリンガー様と生殖行為を行った事で、身体が子供を産み育てるのに相応しい状態まで一気に成長を促したのではないかと・・・。」
歯に衣着せず生殖行為と言われてしまって、私は冷や汗を掻いていた。
しかしそうか・・・、子供を産むのに相応しい大きさに成長したと言う考えもあるのか・・・。
しかし、考えてみればその様な事があってもおかしくは無かった。
あまり目に見えて大きな変化の無い人族ですら、戦闘などで急激に成長する事もある。
その点が特に顕著な我々獣人種に到っては、明らかな進化という変化があるのだ。
まだ知られていない事も多い精霊種の、中でも希少なエルフの血を引くリーネだ、それくらいあるのが普通なのかもしれない。
私が、一人納得していると、プドルが一礼して部屋を出て行こうとする。
私が礼を言って見送ろうとすると、プドルは急にクルリと回れ右をした。
「そう言えば一つ、大切な事を言い忘れていました。」
不意打ち気味にそう言われ、私はギクリとする。何か良くない事でもあるのか?
私の顔に不安そうな表情が出ていたのであろう。プドルはそんな私の顔を見て、イタズラっぽく笑うと。
「一応念の為に申し上げておきます。 幾らリーネちゃんが大人の身体になったからといって、当分の間は、半身の魔法無しでの生殖行為は禁止ですからね?」
「ええっ!?」
突然の言葉に言葉に詰まる。
「最低でも、リーネちゃんが出産を終えるまでは、本来のご主人様の身体で愛し合う事は我慢して下さい。 これはリーネちゃんの身体の為ですからね!?」
「はい・・・。」
私はそう返事する事しか出来なかった。否、当然私だって、元々そのつもりだったさ・・・。
しかし、改めてプドルに言われると、恥ずかしさでどうしようもなくなってしまう。
言葉が出ない私をクスクスと笑いながら、プドルは部屋を出て行った。
私は一人部屋に残されながら、一生彼女には勝てそうに無いと痛感したのだった。
*********** オークロード・デブリンガー **********
そして瞬く間に一週間が過ぎた。
リーネのドレスの手直しも何とかギリギリ間に合い、私達は朝一番に、王都に向かって出発した。
今回の式には、私の屋敷に暮らす者全員が出席するので、かなりの大所帯での移動だ。
転送屋に向かう私達の一団を見て、街の人々が何事かと騒ぎ出しているので、衛兵達に結婚式を挙げに行くのだと説明をしておいて貰う事にした。
転送を終えて王都に到着すると、既にシャウエッセンの街からの一団は王都に到着していた様子で、我々の少し前方を、王都の大教会に向かって移動している所だった。
我々は、その後に続いて大教会を目指す。
本来ならば、花嫁のリーネは、馬車に乗せて特別に移動させる所なのだろうが、折角なので一緒に歩きたいと、リーネ自身が言い出したので、私共々歩いて大教会に向かう事になったのだ。
私達を取り囲むように歩くメイドや使用人達は、殆どが元は私の特殊部隊のメンバーだったので、王都はかつて拠点にして居た事も有り、王都の街並みは見慣れている様だった。
しかし、孤児になってから家に来た子供達は皆、初めての王都に興奮気味に騒いでいる。
見た感じ、遙か前方のシャウエッセンの街の面々も、うちと同じ様に騒いでいる様子だった。
どうやらラック達も、馬車に乗っての派手な移動は選ばなかったみたいだ。
つくづく私のチームのメンバーは変わり者が多いようだな。
▽
暫く歩くと、王都の大教会の前の大きな庭園に到着した。
この庭園は、非常に美しく手入れされた芝生が一面に広がり、色取り取りの春の花が咲いていた。
私達が大教会前の庭園に入って行くと、先に到着したシャウエッセンの街の面々は、ようやく我々が後ろを歩いていた事に気付いたようだった。
そんなシャウエッセンの街の団体から、見慣れた二人がこちらに駆けて来る。
ピピとランだ。
二人に気付いたリーネは、嬉しそうに二人の元に駆け寄っていく。
しかし、二人はリーネを見て、不思議そうな顔をしていた。
えーーーー!っと大きな叫び声まで上げている。
いや・・・まあ、仕方無いだろうな。
まさかほんの50日程(前回ポークビッツの街を二人が訪れたのは、50日程前だったからだ。)で、あそこまで成長しているなどと思いもしないだろうし・・・。
すると、ピピとランに続いて近付いてきた二人も、リーネの変わり様に驚きの顔を隠せないで居た。
メルビン司教とシスターエリーだ。
実はあの二人にも結婚式の招待状を出しておいたのだ。
現在のシャウエッセンの街は、以前とは比べ物にならないほど良くなって来ている。
新しい領主となったラックが、色々と頑張っているお陰だ。勿論私も出来る限りの協力をしている。
中でも教会の環境はかなり改善されており、今では司教以外にも浄化魔法を使える神官が二人、新しく赴任していた。
かつての万年資金不足の現状が、ラックの頑張りで、ある程度安定した寄付金が手に入るようになった為に新たに神官を呼ぶ事が出来るようになったのだ。
今日も、その二人の神官に留守を任せているのだろう。
二人は、ドレスを着飾った美しいリーネを見て、涙を流していた。
私は一旦リーネ達から離れて、シャウエッセンの街の集団の中で、やや緊張気味に顔を強張らせているラックと、その横で満面の笑顔でたたずんでいるクレアの元に近付いた。
「まあ、デブリンガー様!」
私にいち早く気付いたクレアが、私に声を掛けて来る。
以前はどちらかと言うと、口下手で控えめな性格だったクレアだが、想い人のラックとの婚約が叶って以来、とても明るく美しくなっていた。
「やあ、クレア。 今日は一段と綺麗だな! ラックの奴も鼻が高いだろう!」
「デブリンガー将軍、今日位はからかうのは勘弁して下さいよ・・・。」
「いや、からかうも何も・・・、クレアが美しいのは事実だろう?」
「いや、それはそうなんですが・・・。」
「うふふ、褒めて頂いて有り難う御座います。 そう言えば、デブリンガー様のお嫁さんのリーネ様は?」
「あそこで、友人達と話をしているよ。」
そう言ってリーネ達の方を見やる。
今もランと何か会話をしている様だ、ピピは・・・どうやらご執心のビットと二人で話をしている。
「そういえば、デブリンガー将軍にお聞きしたかったのですが・・・、ウロスの奴が今何処にいるかご存知ありませんか? 今まではシャウエッセンの街に住んでいた筈なのですが、此処の所姿を見かけないのです。 今日の招待状も結局届いたのかどうかさえ分からない状態でして・・・。」
ラックがそう尋ねてくる。確かに、今まで同じ街で暮らしていたので心配なのだろう。
「ははは、心配は要らない。 実はあいつも今縁談の話が進んでいてね、今も先方の所に言っている所だ。」
私のその言葉に、ラックも思い当たったのだろう。納得の行った顔をする。
「その縁談とは、もしやあの牛王の一件の時の?」
「ああ、そうだとも。 あの時世話をした女性を実家まで送って行ったそうなのだが、先方のご両親にえらく気に入られたらしくてね、一度私の元に報告に帰ってきたが、直ぐに彼女の村まで戻って行ってしまったよ。」
「まあ、それはおめでたいですね。」
クレアもとても喜んでいる。
「まあ、そのお陰でウロスは結婚式には不参加なんだ。 また戻ってきたら、一度そちらにも顔を出すように言っておくとしよう。」
私達は、それから式が始まる直前まで、晴れ渡る青空の下で和やかに会話を続けていたのだった―――。




