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馬鹿貴族




 オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道(ビクトリーロード) 第十一章



*********** オーク将軍デブリンガー **********

 


 リーネが屋敷に来て、今日で五日目の朝だ。

 リーネは何が気に入ったのか、あれから毎晩私の横で眠っている。

 まあ、リーネがそれで良いのなら、私は別に構わないのだが・・・。

 

 私は目が覚めると、リーネを起こさないようにそっと起き出そうとするのだが、初日以降は私の起床に合わせて起きるようになっている。

 恐らく、最初の日はそれまでの緊張から解き放たれて、何時も以上に熟睡してしまっただけのようだ。


 初日こそ、部屋に着てきていたメイド服のまま眠っていたが、翌日からはプドルに用意して貰った部屋着を着て眠るようになった。

 その為、目が覚めると自分の部屋に戻って服を着替えるのが、毎日の習慣になりつつある。


 「あ、お早うございまふご主人様。」


 まだ少し寝ぼけながら置きだすリーネ。


 「お早うリーネ、さあ、部屋に戻って着替えておいで。」


 私がそう言うと、”ハイ!”と元気に返事をして私の寝室から出て行く。

 リーネの寝室は私の寝室の隣に用意してあった。

 パタパタと言う足音を聞きながら、私は街の視察用の服装に着替える。


 屋敷の中に居る間は、楽な部屋着か着るのが楽なチュニック辺りを着ているのだが、街に出る時はしっかりとした佇まいにならなければいけない。

 仮にも私はこの街の領主なのだ、領主として行動する時は衣装にも気を付けなければならない。


 

 そういえば今日は午前中の視察が終わったら、再び王都まで出向かねばならない。

 注文していたリーネの服の受け取り以外にも、件の馬鹿貴族の屋敷に行かねばならない用事があるのだ。


 バルドッグが王都に住む仲間に調査を依頼したところ、あのバカットが愛玩奴隷を過剰に虐待している事は、ほぼ間違い無いと言う事だった。


 少なくとも、あのバカットが王都の奴隷商に奴隷を売り払いに行ったという記録は一切無かったそうだ。

 そしてあの男が、この数年王都から他の街に出た事も無かった。

 まともな奴隷商なら、契約者本人が立ち会わない限り奴隷の買取りはしない。

 そしてガレオン陛下の目の光っている王都において、闇で奴隷を売買するような奴隷商は一軒も無いのだ。


 そして、クルットの屋敷に出入りしている業者の話では、屋敷で働く使用人の数は別段普通だったと言う。

 恐らくは、バカットが虐待の末に殺してしまっているか、どこかに監禁しているのだろう。

 許せない屑だ!


 私は怒りの感情を押さえ込みながら、何とか証拠を掴む事が出来ないものかと思案していた。

 証拠があれば、正式に処罰する事が出来るのだが・・・。

 まあいい、例え証拠が無くてもあの男は貴族である私に喧嘩を売っている。

 ならば、貴族同士の喧嘩としてあの男を処罰すれば良い。


  

 私が着替え終わる頃、コンコンとノックの音がして、リーネが部屋に入ってくる。

 

 「ご主人様、着替えてきました!」


 何時ものメイド服に着替えたリーネが、ひょっこり顔を見せる。


 「では朝食にしよう。」


 そう言って私たちは食堂に向かう。

 朝は全員揃って食事を取る訳では無いのだが、それでも皆自然と食堂に集まって食事を取っている。

 そして子供達は、何故か何時も私が来るのを待っていてくれるのだ。


 「遅くなり過ぎると、皆がお腹を空かせてしまうからな!」


    

 朝食を済ませると、私は街の視察に向かう。

 これは私の日課でもあり、街の改善点や問題点が無いか見て回るのだ。

 今朝は、久しぶりにバルドッグも付き添っている。

 彼は夕べまでシャウエッセンの街の調査を受け持ってくれていたので、今日は視察がてら調査報告を受けるつもりだった。(バカットに関しては夕べに報告を受けている。)


 私達は、視察用の屋根の無いタイプの牛車に乗り、街に繰り出した。


  

 私が視察に出ている間、リーネはプドルに教えられ、屋敷の仕事の手伝いをしているらしい。

 何もしなくても良いと言ったのだが、何もしないで居ると逆に不安になるそうだ―――。

  


 牛車に揺られながら、バルドッグは私にシャウエッセンの街の調査結果を報告してくれた。

 すると、噂通りシャウエッセンの現領主は病に伏せがちと言う事なのだが、たまに表に顔を出す時は比較的元気そうで、取り合えず即座に領主交代という程では無いようなのだが・・・。

 もしや仮病ではないのだろうか?

 元々、帝国軍の襲撃時に仮病を使って戦線に出なかったと言う件がある。

 


 しかし、それよりも私を驚かせたのは、家を乗っ取られた子供の数が、予想以上に多かった事だ。

 リーネとその友人のラン以外にも少なくとも数件、中には路頭に迷って死んでしまった子供も居ると言う。


 しかも、どうやらそれらの大半が、同じグループの手によるものではないかと言うのだ。 

 

 「組織立って動いていると言うのか?」


 「はい、戦で親を失った子には、多かれ少なかれ王国から見舞金が渡されていたのですが・・・。 そういった子供の家に、遠縁の者だと名乗って近付き、見舞金や恩賞のメダリオンを奪って子供を追い出している模様です。」


 「何だそれは! リーネの受けた手口そのままでは無いか!」


 「そして、その親を失った子供の情報を、何者かが漏らしている可能性があると。」


 親を戦で失った子供達に、少しでも見舞金を与えて欲しいと言う私の意見を陛下が汲み取って下さり、シャウエッセンの街では、戦災孤児は少なくとも成人するまではギリギリ生きて行けるだけの見舞金が配られる事になった。

 そんな子供達を狙っての悪質な略奪行為・・・。


 当然、親を失ったと言う情報は近所に住んでいる者ならば直ぐに分かる話。

 だが・・・、バルドッグからの報告にあるように、この一年で十件以上も同じような事件が起こっているのは異常だ。

 しかも、これは間違いなく領主が何とかしていないといけない案件だった。

 いくら腕のいい諜報員だったとはいえ、僅か四日で此処まで調べられる程のこの件が、領主の耳に全く入っていないとは考えられない。


 もしそれを知っていて放置しているとしたら・・・?


 「まさか、領主が一枚噛んでいるのかも知れないと言う事か!」


 領主は、国から預かったを孤児達に配分した立場だ。

 当然どの家が子供だけで生活しているか、以前どの様な人間が住んでいたかは全て分かっている。


 「これは、また新しい仕事が増えそうだな。」


 私は頭に手をやり、ぼりぼりと薄くなってきた頭を掻く。


 「バルドッグ?」


 私の一言にバルドッグは即座に返事を返す。


 「シャウエッセンの街に住んでいる仲間達には、引き続け調査を行うように伝えてあります。」


 全く、相変わらす優秀な男だな!

 


 視察を終えて屋敷に戻ると、プドルが既に出かける準備を終えて屋敷の前で待っていた。

 今日はバルドッグとプドルともう一人、計三人を連れてクルット子爵の屋敷に向かうつもりだったのだ。 

 しかし、屋敷の前にはプドルと、ワーキャットのネイリーと言う使用人以外に、何故かリーネまでもがメイド服を着て立っていたのだった。

 

 何でもリーネが、自分も一緒に行きたいと言い出したのだそうだ。


 私は、出来る事ならあの様な下衆な男の前に、二度とリーネを連れて行きたくなかったのだが・・・。

 しかし、プドルの説得もあり、私は渋々折れることにした。


 私達五人は、大型の牛車に乗り換え、転送屋に向かった。



********** オーク将軍デブリンガー **********



 王都に到着すると、ネイリーに洋服屋への使いを頼み、私達四人は多頭引きの大型馬車を手配して、クルット子爵家に向かった。

 目的の屋敷は、王都でもかなり外れの位置にあり、到着までに少々時間を要した。


 屋敷の門の前に馬車が停まると、門番の内の一人がが慌てて屋敷の中に入って行く。

 暫くすると、50歳位の人族の貴族らしき格好をした初老の男が、慌てて屋敷から出てきた。

 そして、門が大きく開かれる。

 我々は馬車のまま門の中に入った。


 私が馬車から降りると、初老の男は、いきなり平伏して謝罪を述べだした。


 「こっ、この度は当家の馬鹿息子が、デブリンガー・アブラハム伯爵卿に大変失礼な振る舞いをし、大変ご迷惑をお掛け致しました。 どうか平にご容赦を願いたくっ!!」


 「貴殿が、クルット家当主のエドワード・クルット卿と言う事で間違いはありませんかな?」


 私の問いに、エドワード卿は平伏したまま肯定する。


 「ならば、此度は私が如何なる用で此処を訪れたか、分かっておられるかな?」


 「勿論でございます! あの愚か者は、即刻当家から絶縁し、即日牢に投獄致してございます。 現在は奥の中庭に拘束しておりますゆえ、お気が済むまでご自由になさって下さいませ!」


 どうやらあのバカットは、父親に絶縁されて見捨てられてしまった様だ。

 まあ、この男の判断はある意味賢明であるとも言える。


 取り合えず私は、あのバカットが、どの様に因縁を付けて来たのかを説明しながら屋敷の中庭へと進んだ。

 私の説明を聞きながら、見る見るエドワード卿の顔色が青ざめていくのが分かる。


 屋敷の横を抜け、中庭らしき広いスペースへと入って行く。

 するとそこには、あのバカットが立っていた。

 バカットは両手を鉄枷で拘束されたままの格好で、左右に立つ兵士に逃げないように見張られていた。


 バカットは私の姿を確認すると、キッと睨みつけてくる。

 フム、まだそれだけの気力はあるのか。

 

 「エドワード・クルット卿、あの者の拘束を外してもらえますかな?」


 私の言葉に、意外そうな顔をするエドワード卿。


 「な、何故その様な事を?」


 「既にあの男はエドワード・クルット卿とは全く関係の無い男。 それに間違いは御座いませんかな?」


 「ハッ! あの者は既に当家から絶縁された者。 この先何があろうとも当家と関わる事は御座いません。」


 「それは重畳。 ならばこれから私があの男と行う決闘は、あくまであの男個人と私個人の争いと言う事で話を進めてもよろしいか?」


 私のこの言葉に、明らかに安堵の表情をするエドワード卿。


 「も、勿論でございます! 当家の跡継ぎは次男のスカットで御座います故。 あの様な者、どうなろうとも問題ありません。」


 「では、申し訳ないが、この中庭を決闘の場所としてお貸し頂くと致しましょう。 出来れば卿には立会人を務めて貰いたい。」

 

 そう言いながら、そのまま数歩前へ進み出る。

 エドワードは無言で首肯していた。


 「これから行うのは、正式な決闘である。 従って正々堂々と戦う為に、あの男にも武器を一つ選らばせてやってくれ給え。」


 私はそう言いながら、素手のままでバカットの元へと歩いて行く。


 エドワードに卿命じられ、兵士がバカットの腕の鉄枷を外してやる。

 バカットは、”いてえじゃねーかっ”と文句を言いながら両腕の枷のあった部分をさすっている。

 そして、中庭の端に立てかけてある武器の所へと進んでいく。

 恐らく、エドワード卿はあの武器を使って私にバカットを処刑させるつもりだったのだろう。

 バカットは、様々な武器の中から、細身のレイピアを手に持った。

 

 以前持っていた武器と同じ種類のものだ、恐らく得意な武器なのだろう。


 鞘から抜き放ち、数度素振りをすると満足げに鞘へと戻すバカット。

 そのまま剣を持ちながら、私に向かって歩いて来る。


 「糞っ、貴様のせいで大変な目に遭ったぜ! この俺様の剣でぶっ殺してやる!!」


 「やれるものならやってみるがいい、しかし、お前は例え私に勝ったとしても、もう貴族になる事は出来ないがな。」 

 

 「フン!馬鹿にするなよ? 俺様は剣の天才だ! 本気になれば貴様など!」


 そう言って改めて剣を抜き放ち、鞘を投げ捨てる。

 

 「おい、ブタ野郎! 俺様が貴様を殺したら、あのハーフエルフは頂くからな!」


 「やれやれ、何を馬鹿なことを言っている? なぜ私がその様な一方的な条件を飲まねばならないのかね?」


 「だったら、貴様が勝ったら、俺様の奴隷をくれてやるよ!」


 そういいながら、中庭の隅に一人で立っている大人しそうなメイドを指差した。

 バカットに指を指されると、ガタガタと震えだしている。

 かなり顔色が悪いようだが、あれはバカットを恐れているだけなのか?それとも・・・。


 『一人だけ・・・か。やはり他の奴隷は見当たらないか。』


 「これでイーブンだ! これは貴族の決闘なんだろ?」


 ヘラヘラと笑いながらこちらを挑発してくるバカット。

 この男、本気で勝つつもりなのか、それとも既に頭がいかれてしまっているのか・・・?

 

 私は無言のまま、拳を構える。


 バルドッグとプドルは何時もの事と落ち着き払っているが、リーネだけは真っ青な顔でオロオロしており、プドルに肩を抱かれている。


 エドワード卿は、御付の執事らしき老人共々、これ以上余計な事は言わないでくれと、祈るように両手を前に組んでいた。 


 

 「私の名はデブリンガー・アブラハム。これより貴様に決闘を申し込む! 小僧、覚悟が出来たのなら掛かって来るが良い!」


 私の口上にバカットも思わず返す。


 「俺様はバカット・クルットだ! ぶっ殺してやるぜブタ野郎!!」


 そう言いながら、剣を振りかざし私に向かって来た―――。  



********** 馬鹿貴族バカット **********



 俺様は、人生で最大の危機に直面していた。

 父上には絶縁され、今こうしてあのブタ貴族と決闘する羽目になっている。


 しかし、あのブタ貴族、相当の馬鹿じゃなかろうか?

 まさか俺様の拘束を解かせ、武器まで持たせて決闘しようとは・・・。


 しかも当の自分は素手ときている。

 これは絶好のチャンスだ、此処であのブタ貴族を殺せば、父上も絶縁は撤回するに違いない。

 これが一応正式な決闘と言う扱いになるのなら、例え相手の貴族を殺そうとも、罪に問われる事は無いのだ。


 相手のオークは、全身の脂肪が邪魔をして、普通の剣の刃は非常に通りにくい。

 当然ながらハンマーや棍棒等の打撃武器も効果が薄いのだ。

 しかし、槍やレイピア等の刺突武器は、厚い脂肪の壁を突き抜けて、そのまま弱点に到達出来るのだ。


 そして俺様の最も得意とする武器はこのレイピア。

 本当ならば、いたぶりつくしてから殺してやりたい所だが、今はそういう場合じゃない。


 『一撃で殺してやる!!』


 俺様は、この前の時のように油断は一切していない。 

 逆に相手は完全に油断している様だ。

 俺様の挑発にも余裕の表情で対応して来る、完全に俺様を見下して嫌がる。

  

 「私の名はデブリンガー・アブラハム。これより貴様に決闘を申し込む! 小僧、覚悟が出来たのなら掛かって来るが良い!」

 

 今度はブタ野郎が俺様を挑発してくる。

 糞がっ!一々癇に障る奴め!!

 ならば一気に片をつけてやる。


 「俺様はバカット・クルットだ! ぶっ殺してやるぜブタ野郎!!」


 俺様はそう叫ぶと、一気に距離を詰めた。


 振りかざしたレイピアの切っ先を奴の心臓に定め、一気に突きを放つ。

 

 『貰った!死ね、ブタ野郎!!』


 しかし、奴の心臓を貫くはずだったレイピアは空しく空を切っていた。

 そして、目の前にあったはずの巨体が忽然と姿を消していた。


 「え?」


 俺様が一瞬うろたえた次に瞬間。


 ゴスゥッ!!


 低く響くような音と共に、身体に強い衝撃が走る。

 俺様はそのままその場にがばっと倒れ伏してしまった。 


 突然の衝撃に、息がまともに出来ない。

 両腕にも全然力が入らず、口からは血反吐か涎か分からない液体がだらだらと漏れ出している。


 『なんて一撃だ・・・。』


 地面を転がりながら、俺様はあまりの痛みに衝撃を受けていた。



 俺様が地下牢に幽閉された当日の夜、俺様の下に食事を運んで来たのは、俺様のたった一人の生き残りの愛玩奴隷のハクだった。

 今はこいつ以外に俺様の奴隷は一人も居ない。

 こいつ以外は皆死んでしまったのだ。


 当のこいつも、この前のパーティ以降、異様に俺様の事を恐れる様になった。

 しかし、隷属魔法で俺様の奴隷になっている以上、決して逆らう事はできない。

 俺様は、ハクに俺様の部屋に隠してある、とあるアイテムを持って来るように命令する。


 ハクは翌日の食事と一緒にそのアイテムを持って来た。


 「クックックッ、これがあれば・・・。」


 俺様は誰にも気付かれぬようにブーツの内側にそっと忍ばした―――。



 倒れ、悶え苦しむ俺様の下にブタ貴族はゆっくりと近付いてくる。

 俺様は、涙と唾を撒き散らしながら叫んだ。


 「お、おねがいでずぅ~~! ゆるじでぐだざい~~~!!」 


 そしてブタ貴族の足に縋り付こうとすると、奴はいきなり歩みを止め、俺様に質問をしてきた。


 「一つ尋ねたい事がある。 貴様が今まで買った愛玩奴隷は一体何処へ行った?」


 こいつは何を言っているんだ?・・・何故いまさら愛玩奴隷の事など聞く必要がある?

 そんな事よりも、もう少し近付いて貰わなければならないのだ。

 俺様は演技を続けた。


 「何でもおはなじじまずがらああああ~~~っ!」


 「では聞こう、愛玩奴隷達を何処へやった?」


 しめた、奴は更に一歩近付いて来た。今だ!!


 俺様は右手に握り込んでいたソレをブタ貴族の左足に突き刺した。



 ”毒トカゲの牙”

 森の奥地に生息する魔物の一種で、凄まじい猛毒を持ったモンスター、毒トカゲの毒が詰まった牙だ。

 この牙が身体に刺さると、即座に身体中に毒が回り、次第に体が動かなくなり命を落とす。

 昔から暗殺などに使われる事もある恐ろしい武器だ。



 「ザマアミロ!これで俺様の勝ち・・・。」


 そこで俺様の意識は途絶えた―――。



********** オーク将軍デブリンガー **********



 バカットが何でも話すと言うので、思わず近付き過ぎてしまった結果、不覚にも足に一撃を貰ってしまった。

 まだまだ私も修行不足の様だな。


 拳骨で頭を軽く殴り、意識を刈り取った所で、足に突き刺さったモノを引き抜く。


 「これは毒トカゲの牙か。」


 私の言葉にエドワード卿が叫び声を上げる。


 「毒トカゲの牙だと!? 正式な貴族の決闘に不意打ちをした挙句、毒の武器を使うとは、何と言う恥さらし・・・。 アブラハム卿、早く手当てを!」


 慌てるエドワード卿に私は軽く手を上げて制する。


 「帝国との戦いにおいて、まともにやりやっても私には勝てないと踏んだ連中は、事ある毎に毒の武器を使って来るようになったものだ。」


 そう言いながら毒トカゲの牙をひらひらと振ってみせる。


 「私は少量の毒を定期的に摂取する事によって、殆どの毒が効きにくい身体になっているのだよ。」


 「しかし、毒トカゲの牙は、致死性の猛毒で・・・いくら耐性を上げていたとしても・・・。」


 真っ青になりながら私に問い掛けるエドワード卿、貴族の決闘において不意打ちや毒などを使う卑怯な振る舞いは、例え相手を倒せたとしても・・・否、むしろ相手に何かあったあったら、卑怯な振る舞いをした者は問答無用で処罰の対象となる。

 そして、例え絶縁していたとしてもその様な悪行を許してしまった以上、クルット家も責任を負わねばならなくなる場合があるからだ。


 よく見ると、リーネも泣きそうな顔をして私の方を見ている。

 毒と言う言葉を聞いて驚いたのだろう。

 

 そんなエドワード卿やリーネ達に向かって私は左手を突き出した。

 そして左手の中指にはまっている指輪(腕輪)をみせる。


 「これは無毒の蝶の腕輪と言うマジックアイテムだ。 これはあらゆる毒を無効化してくれる。」


 この言葉を聞いて安心したのか、エドワード卿はその場にへたり込んでしまった。

 

 リーネはというと、このアイテムの事を思い出したのか、ホッとした顔で拍手していた。

 何故ここで拍手・・・? 


 しかし、本当にこのアイテムは凄い性能だな。

 高いだけの事はあるという事か・・・。

  

 実際、この腕輪を購入した翌日。

 念の為に解毒の魔法を習得しているプドルに付き添ってもらって、どれ位の毒まで耐えられるのか試してみたのだが・・・。

 少なくとも私の屋敷で用意できる毒に関しては、全て無効化出来ていたのだ。

 当然その中に毒トカゲの牙も含まれていた。


 しかし、このバカット。 

 正式な決闘においても尚この下衆っぷり、愛玩奴隷の件が無くても捨て置く訳に行かなくなってきたな。


 その時私は、先程から中庭の端で震えていた顔色の悪い奴隷の娘の事を思い出した。


 「そこの娘、こちらに。」


 私が顔色の悪い娘にそう声を掛けると、その場でガタガタ震えだしてしまった。

 私は精一杯優しい声でその娘に話しかける。


 「心配しなくても、お前に無いか酷い事をしたりしない。 だからこちらに来なさい。」


 私がそう言うと、流石に諦めたのかおずおずと私の下まで歩いてくる。


 『しかしこの娘・・・本当に顔色が悪いな。 病気か?』

  

 そう思い立った私は、傍に来た娘の肩に手をやる。


 私の手が触れた途端、ビクッと大きく震え、更に娘の額には大量の汗が流れ出していた。


 まさか、この娘!?


 「娘よ、許せ!」


 ビリビリビリッ!

 嫌な予感がした私は、一瞬で娘の衣服を破り捨てた。。


 「ひいっ!」


 小さく悲鳴を上げる娘、周りからもザワザワと声が上がった。

 しかし、私は周りの事など気にせず娘の身体を見る。

 なんと言う痛々しい姿だ。


 身体中に付いた無数の切り傷と痣。

 特に腹部に着いた切り傷は大変大きく、未だ完全に塞がらずに酷く化膿していた。

 こんな状態では、恐らく何日も高熱が出ていたに違いない。


 「プドル!早くこちらに来てくれ!! 早く治療せねばこの娘の命が危ない!」


 私の言葉に駆け寄るプドルは、眉間に皺を寄せて辛そうな顔をする。


 「なんと言う酷い事を・・・。」 


 怒りを露にしながらも、プドルは即座に治癒の魔法を使用する。

 すると、化膿していた腹部が徐々に塞がっていった。


 私は娘をプドルに任せると、その場に立ち上がり、エドワード卿に尋ねる。


 「あの男が、自分の愛玩奴隷にあのような所業をしていた事を、貴殿は知っておいでだったのか?」


 私の問いに必死の表情で首を振り否定する。


 「め、滅相も御座いません!! 無論、愛玩奴隷ですので、夜の相手をやらせていた事は存じておりましたが、まさかその様な虐待を・・・。」


 「では、今までに買い漁っていた愛玩奴隷達が皆どうなったか、それも知らないと?」


 「今までの飽きた愛玩奴隷は、毎度街の奴隷商にはした金で払い下げておったはずですが・・・。」

 

 そう答えるエドワード卿、この娘の姿に驚いていた所といい、どうやらこの男は本当に知らなかった様だ。


 「あ、あの・・・。」


 プドルに治療をされている娘が、消え入りそうな声で私に話し掛けて来た。


 「お・・・お屋敷の裏の林の中に・・・。」


 「貴女、もしかして知っているの?」


 プドルの問いに頷く娘。


 

 バカットの事は屋敷の兵士とバルドッグに任せ、我々は、娘の案内で屋敷の裏の林に向かった。

 

 娘は私が服を破いてしまったので、シーツを羽織らせて、私が抱きかかえて運ぶ事にした。

 プドルはそんな私の傍に付き添いながら、娘の治療を続けている。


 リーネは、何故か頬を少し膨らませながら、私の服を掴み後を着いて来ていた。

 後日、何故この時、頬を膨らませていたのかリーネに聞いた所・・・、どうやら、私が娘を抱きかかえていた事が少々置きに召さなかったらしい。

 もしかしてヤキモチを焼いてくれたのだろか?


 当主のエドワード卿も、事態の深刻さを悟ったのか、執事と共に着いて来ていた。 

 このクルット家の敷地は中々に広大で、その屋敷の裏手には樹林が広がっていた。

 我々が、かなりの距離を進むと、突如ある場所を娘が指し示した。


 「多分あの辺りに、穴があります。」


 そういわれて近付くと、そこには―――。



 そこには直径5m、深さ3m位の巨大な円形の穴が掘られており、その底には、何体もの焼け跡の付いた白骨死体が転がっていた。

 実際に数えてみない事には正確な数は分からないが、少なくとも十人以上の死体があると思われた。


 「な、なんだこれは!!」


 真っ青な顔で叫び声を上げるエドワード卿。


 「なぜ私の屋敷の敷地にこんなものがあるのだ!?」


 私も、怒りのあまり声も出せないで居た。

 もし此処にあのバカットを連れて来ていたら、間違いなく殴り殺してしまっていただろう。

 リーネも、余程怖かったのか、私にしがみ付いて顔を私の腹に埋めてしまった。

 身体もカタカタと震えている。


 プドルは、そのあまりに凄惨な光景に、娘の治療の手すら止めてしまっていた。

 彼女が治療を忘れる事など、今までになかった事だ。


 「しかし、幾度と無く焼き払われた様な後があるが、あのバカットは炎の魔法が使えたのか?」


 私の問いに娘が答える。


 「ご主人様のお友達の方が、火炎魔法が得意で・・・、無くなった仲間を此処に運んで、焼き払っていたんです。」


 「仲間?」


 「はい、火炎魔法が得意なグレン様と、風魔法が得意なウイン様です。 何時もご主人様と一緒に、私達愛玩奴隷を、乱暴に犯して楽しまれるのです。 そして、奴隷に飽きてくると、ナイフや鞭でいたぶって楽しまれます・・・、そして・・・そして。」


 娘はそれ以上話す事が出来なくなってしまった。

 ガタガタと身体を震わせ泣き出してしまった。



 私は怒りを押さえ込み、勤めて冷静になるよう、言葉を話す。


 「エドワード・クルット卿、流石にここまでされては私もあの男を見過ごす訳には行かなくなった。 あの者の処罰は私に一任して貰っても構わないだろうか?」


 「勿論で御座います。 もし許されるのならば、今直にでも私自身の手で首を刎ねてしまいたい程です。」

 

 「後、この娘の言っていた、グレンとウインという二人に心当たりは?」


 「それは、恐らくあ奴の遊び友達の、街の魔法師の倅共だったと思います。」


 「ならばその二人も、重犯罪人として騎士団に突き出すことになりそうだな。 後で詳しく聞かせて貰うとしよう。」


 

 そしてその日、バカットの友人のグレン、ウインの二人は、バカットを連行した私の通報により、即座に騎士団に拘束され、バカット共々、後日裁判を受ける事になった。


▽


 無論、判決は当然有罪となり、重犯罪奴隷として、死ぬその時まで死地へと向かわせられる事が決まった。 

 戦争が停戦になったからといって、危険な仕事が無くなる訳ではないのだ。

 恐らく、森のモンスター退治の時の囮にでもさせられるのだろう。

 そして、逃げ出すことも出来ず、それが死ぬまで続くのだ。

 

▽


 後、バカットに虐待を受け、重傷を負いながらも唯一生き残った人族の愛玩奴隷のハクは、私が引き取る事にした。 

 なぜなら、プドルとリーネに頼まれたからである。

 幸い、私の屋敷には空き部屋はまだまだある、まあなんとかなるだろう。

 

 


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