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夜




 オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道(ビクトリーロード) 第十章


 

********** オーク将軍デブリンガー **********



 「そうか、わざわざすまなかったな、プドル。」


 私はプドルがリーネから聞き出したこの一年の出来事を、伝え聞いていた。


 「しかし、伯母を騙る女か・・・、見過ごすわけには行かんな。」


 「全くです、しかもまだ子供のあの子を放り出すなんて! 死ねと言っている様なものではないですか!」


 心優しいプドルにはとても見過ごせない事だったのだろう、かなり興奮している。

 何時も温和な彼女にしては珍しい。


 「デブリンガー様、その様な者は即座に断罪致しましょう。 証拠など無くてもデブリンガー様が直接出向かれるだけで即座に解決すると思われます。」


 意外にも、普段冷静沈着なバルドッグも怒りを露にしていた。

 彼は意外にも子供好きなのだ、この屋敷に来て以降も、暇な時はよく子供達の相手をしてくれている。

 かつて私の右腕として、諜報に戦闘にと大活躍してくれたとは思えないな。


 「確かに、その一件だけなら私が行けば即座に解決するだろうな。 私がリーネに与えた恩賞のメダリオンだ、リーネ以外の者が持っているだけで罪になる。」


 だが、それだけで終わっていい話だろうか?


 「しかし先程聞いた話だと、リーネが一緒に暮らしていた友人にも騙された者がいたらしいし、もしかしたら他にもそういう目に合った者が居るかもしれない。 それに、そういった事を放置している領主も問題だな・・・。 全くの無能か・・・、もしくは噂の通りに病気がちと言うのであれば、それはそれで領主交代も視野に入れねばならぬ・・・。」


 私は、バルドッグに命じた。


 「リーネの家だけでなく、他にその様な目に合っている子供達が居ないか、調べられるだけ調べてみてくれ。 それと・・・、領主についても調べられる限り調べてみてはくれないか? 場合によってはガレオン陛下にお知らせせねばならないかもしれない。」


 「承知致しました。 では早速ですが、明日より部下を数名連れ、シャウエッセンの街に行って参ります。」

 

 「バルドッグ、しっかりね。」


 妻であるプドルの言葉に無言で頷くバルドッグ。


 「それでは明日の準備を整え、今晩は早めに休ませていただきます。」


 そう一礼して部屋を出ていった。

 

 プドルも彼の準備の手伝いをするのだろう、そそくさと後を追って部屋を出る。


 「さて、私も寝室に行くとするか。 今日は色々あって疲れた。」


 そう言いながら、私は執務室を後にした。



********** オーク将軍デブリンガー **********



 私が寝室に入ると、そこにはリーネが居た。


 「あ、ご主人様・・・。」


 私を確認すると、小さな声でリーネが話しかけてくる。

 緊張しているのか、先程までより更に小さな声だ。


 「あ、あの・・・、ワタシ・・・。 イザベラさんから教えて貰って・・・。」


 そういいながら、いそいそと着ている服を脱ぎ始めた。

 イザベラというのは・・・、あの奴隷商にいた女性か。

 恐らく、愛玩奴隷として主人に身を捧げるという事を教えられていたのだろう。

 確かに愛玩奴隷にとっては、それが当然の事だし・・・、私とて出来る事ならリーネを妻にしたいし、当然そういう行為をしたい気持ちもある。


 しかし、まだ彼女は子供だ。

 この子供と言うのは、決して精神的な事を言っている訳ではない。

 ハーフエルフの彼女の身体は、完全に大人のそれになっていないのだ。

 そんな彼女では、大人の・・・それも特に身体の大きな私の事を受け入れることは不可能だ。

 間違い無く怪我をする事になる。


 私は、大切な彼女にそのような酷い事はしたくなかった。

 それに、裸になったリーネを見ると、カタカタと震えているのが分かる。

 怖いのだろう、・・・当然だ。


 私はゆっくりリーネに近付くと、優しく彼女を抱きしめる。

 彼女は一瞬ビクッとするが、それでも私の服にしがみ付いてきた。


 「ご主人様、優しくして下さいませ。」


 奴隷商で教えられたのであろう台詞を喋るリーネ。

 そんなリーネに出来る限り優しく話しかける。


 「リーネ、今日は良いから服を着なさい。」


 え?と言う顔をして私の事を見上げるリーネ。

 そんなリーネの頭を優しく撫でながら、私は言葉を続ける。


 「リーネが覚悟を決めて私の所に来てくれた事は、本当に嬉しく思うよ。 確かにそれも愛玩奴隷の仕事の一つだからね。 だけど、今のリーネでは、私を受け入れる事は出来ないんだ。 もしも無理やりそんな事をしてしまったら、リーネは大怪我を負ってしまうかも知れない。」


 そんな私の言葉に、意外な言葉が返ってきた。


 「で、でも・・・ワタシ、イザベラさんに痛くならないお薬貰って、それを飲んで・・・。」


 『何と、あのイザベラと言う女性はそこまで配慮していたと言うのか。 あの店の格付けが更に1ポイントアップだな・・・。』

   

 私は頭の中でそのような事を考えていた。

 おっと、今はそんな場合じゃない。


 「リーネ、そのお薬はまだあるのかい?」


 「はい、慣れるまで時間が掛かるといけないからって十回分貰ってあります。」


 「だったら、残りの九回分は大切に取っておいてくれないかな? もしもリーネが望んでそういう行為をしたいと思ってくれるなら、その時は私もリーネが怪我をしなくて済む方法を探してみるよ。 だけど、今は無理をしなくて良い。 それにリーネは私の家族になってくれたんだろう? 今はそれだけで十分だ!」

 

 そんな私の言葉を聞いたリーネの目には、うっすらと涙が溜まっている。

 恐らく相当怖かったのだろう。

 それでも、私に対して申し訳無いと考えているように見受けられる。


 「あ、あの・・・それじゃあ、今のワタシに出来る事はありませんか?」


 必死でそんな風に尋ねてくる。


 「そうだね・・・、じゃあ私におやすみのキスをしてくれるかい?」


 私がそう言うと、少し顔を赤くしたリーネが、私の顔に向かって両手を伸ばしてくるが、身長差がありすぎて全く届かない。

 私がそんなリーネを優しく抱きかかえると、リーネの顔が丁度私の顔の前に来た。


 リーネは顔を更に赤くして、両手で私の頬を挟み込むと、チュッと私の唇に口付けをした。

 当然頬にキスをしてくれると思っていた私は、身体が硬直してしまった。

 まるで石化魔法を掛けられたみたいじゃないか!? 


 「ご主人様、大好きです。」


 リーネはそう言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 実を言うと私も顔が熱くなっていた。

 恐らく、私の顔も真っ赤になっている事だろう。


 私は心臓がバクバク鳴っているのを、必死で隠しながら、リーネを静かに下に降ろす。

 下に降りたリーネは自分が裸だった事を思い出したのか、大慌てで服を着だした。


 私は、その光景から目を晒し、彼女が服を着終わるのを待つ。

 リーネが服を着終えたのを確認すると、私はリーネに声を掛ける。


 「それじゃあ寝室まで送ろう。」


 そう言うと、なぜかリーネは首を横に振った。

 

 「せめて、ご主人様の傍に居させてください。 その・・・ご主人様の傍に居ると落ち着くんです。」

 

 そう言えば、隷属魔法で本契約を結ぶと、奴隷は主人の傍に安心感を覚えるとか言っていたな。

 ならば、一人で眠るよりは、この娘も安眠できるのかもしれないな・・・。

 もしかしたら、私に父性を感じているのかもしれないし・・・。


 「ならば一緒に眠ろうか。」


 「は、はい!」


 私は私専用の巨大ベッドの上に乗り、リーネを横に座らせる。


 「このベッドはとても広いから、好きな場所で眠りなさい。」


 「はい!」


 なぜかリーネは、横になった私にしがみ付く様にして眠りだした。

 

 『これも、隷属魔法の効果なのか? ここまで懐かれるモノなのだろうか・・・?』

 

 私は眠りにつくまでかなりの時間を要してしまった。



********** ハーフエルフの少女リーネ **********



 翌日、私が目覚めると、ベッドの上にはご主人様は居なかった。



 ワタシは、夕べご主人様にこの身を捧げる覚悟でこの部屋に来ていた。

 イザベラさんに、男と女がどういう事をするのか一応教えて貰っていたし、愛玩奴隷がどういうモノかも教えられていた。

 だからイザベラさんに貰った痛み止めのお薬も飲んでいたのに、ご主人様はワタシの身体を気遣って決して手を出そうとはしなかった。


 ワタシは、そんなご主人様の優しさに思わず安心して涙してしまった。

 しかし、それと同時に少し残念に思ってしまっている自分が居た。

 

 『ワタシの身体が子供だから、ご主人様にご奉仕する事が出来なかった。』


 もしもご主人様が、昨日いきなり絡んできた怖い男の人だったら、絶対に何もしたく無い。

 だけど、ご主人様は凄く優しい素敵な男性だった。

 あのご主人様の為なら、自分に出来る事はなんだってやるつもりだった。

 イザベラさんの言葉じゃないけれど、ご主人様を愛おしいと思ってしまったのだ。


 『ワタシが子供だから、ご主人様に我慢をさせてしまった・・・。』


 そう思うと何かせずには居られなくなってしまい、思わず”何か出来る事はありませんか?”と言ったワタシに”キスをしてくれるかい?”なんて優しく言われて・・・。


 ご主人様に抱き上げられながらご主人様にキスをする。

 お父さんとお母さん以外の人にした初めてのキス。


 「ご主人様、大好きです。」


 勢いでキスしてしまい、更に好きですといってしまった。

 ワタシは恥ずかしさのあまり、顔が熱くなってしまった。  


 その後無理にお願いして、一緒のベッドで眠らせて貰う。

 大きなご主人様が乗っていても、私一人くらい全然余裕で眠れる程大きなベッドだったけれど、ワタシはご主人様にしがみ付いて眠った。

 

 ご主人様には邪魔だったかもしれないけれど・・・。

 何故だかそうしたかったのだ―――。



 

 目が覚めたワタシは寝室にご主人様が居ない事に気付くと、急に不安になってくる。

 ワタシはベッドから降りると、服のズレを直し寝室の外に出た。

 廊下には誰も居ない、何処に行けばいいのか分からずその場に立ち竦んでいると、廊下の角から誰かが姿を現した。

 プドルさんだ!


 安心したワタシはプドルさんに声を掛けようとすると、プドルさんもワタシに気付いたようで、笑顔でワタシの方に近付いて来てくれた。

 手には何かお盆のような物が乗っていて、その上には布巾が掛けられていた。


 「あら、もう目が覚めたの?」


 「おはよう御座います、プドルさん。」


 そう挨拶するワタシに、プドルさんはクスクス笑いながら答える。


 「ウフフフ、もうお昼前ですよ。 夕べは余程ぐっすり眠れたのね。」


 そう言われてワタシは驚いた。

 まさかお昼前まで熟睡していたなんて!

 お父さんとお母さんが死んでから、ここまでぐっすりと眠ってしまった事は一度も無かったのだ。 


 「ご、ごめんなさい。ワタシ寝坊しちゃって・・・。」


 「良いのよ、ご主人様も、ゆっくり眠らせておくようにと仰っていらしたわ。」


 そう言いながら、プドルさんはワタシをご主人様の寝室へと促す。


 「さあ、朝ご飯を持って来たから、お食べなさい。」


 そう言ってプドルさんがお盆に掛かった布巾を取ると、そこにはミルクとサンドイッチがあった。

 それを見ると”グゥ~~~~~~ッ”とお腹が鳴ってしまった。 


 「あ、あのご主人様は?」


 「ご主人様は、もう朝食をお済ましになって、朝のお仕事に向かわれたわ。」


 「え・・・。」


 「ご主人様は、毎朝街の様子をご覧になって、街の人々が困っている事が無いか調べておいでなの。」


 ワタシは少し寂しく思ってしまった。

 ご主人様、お屋敷に居られないんだ・・・。 


 ご主人様の寝室で、ワタシはプドルさんの持って来てくれた遅めの朝食を食べ始める。

 ワタシが朝食を食べる間も、プドルさんはワタシの傍で椅子に座っていてくれた。



 サンドイッチを食べ終えて、ミルクを飲みながら、ワタシは夕べの事をプドルさんに相談する事にした。

 

 「ワタシ、身体がまだ小さいせいで、ご主人様にご奉仕出来なかったんです・・・。 元々愛玩奴隷として買って貰ったのに、そのお勤めもまともに出来なくて・・・。 それに、プドルさんが言ったようにご主人様のお嫁さんになるっていう事は、ご主人様の赤ちゃんを産まないといけないって事だし・・・。」


 プドルさんはワタシの話を黙って聞いてくれている。


 「ご主人様がお優しいのは良く分かります。 だけど、ワタシがご主人様に何も出来ないのが・・・、何と言うか申し訳無くって・・・。」


 「うーん、確かに貴女の言いたい事は分かるわ。 だけど、ご主人様の仰る事も御尤もだと思うの、今の貴女では、ご主人様を受け入れる事は難しいわ。」


 「だけど、身体が大人になるまで、後何年も何も出来ずに居るのは流石に・・・。」

 

 「貴女が早く大人になる方法か・・・、もしくはご主人様が小さくなる方法・・・・・・あっ!!」


 「何かあるんですか?」

 

 プドルさんが何かを閃いた様子に、思わずワタシは期待を寄せる。

 彼女は口に手を当てて何かを考えているみたい。


 「もしかしたら、良い方法があるかも知れないわ。 一度私の方で調べておいてあげる!」


 そう良いながら笑顔でウインクしてくるプドルさん。

 その言葉に、ワタシは嬉しくなる。

 

 「よろしくお願いします!」



 食事の後、ワタシはプドルさんにお屋敷の中を案内して貰った。

 夕べは、入り口の扉から入った所にあるホールに、お風呂と食堂とトイレ、後はご主人様とワタシの寝室しか案内して貰っていなかったからだ。


 

 このお屋敷には、大きな敷地内に幾つもの建物が建っていた。


 先ずは一番大きな本館。

 これは今私が居るお屋敷で、ご主人様のお部屋や大きなお風呂や食堂がある。

 ご主人様やワタシの部屋以外にも沢山の部屋があって、その殆どは客間として使っているのだけれども、一部の使用人の方も住んでいるらしい。

 プドルさん、バルドッグさんの夫婦もその内の一室を使っているそうだ。


 次に屋敷の敷地内の奥に建っている小さな家。

 ここは周りに広い畑があり、その傍にポツンと一軒だけ建っている。

 ここは、ご主人様のご両親のお家らしい。


 ご両親は、元々この街で農作業をして生活をしていたそうで、ご主人様がこの街の領主になった時に、敷地内に家を建て畑仕事も出来るようにしたのだとか。

 ご主人様は、わざわざ畑仕事をする必要は無いと仰ったそうだけれど、ご両親は”動いて無いと身体が鈍る”と言って、今も畑仕事を続けているそうだ。


 後は、本館の左右両端に建つ二つの建物、これは、左右共同じ形をした建物で中の作りも同じ。

 ここは、使用人達の住む為の建物で、本館に向かって右が男性の使用人、左が女性の使用人の為の寮になっている。


 一部の使用人以外は、皆ここで寝泊りしている。

 何と、全員個室が与えられているらしい。

 但し、夕べのご主人様をパパと呼んでいた子供(女の子だった)は、流石に一人では無理なので、ネイリーという名のワーキャットの女性の使用人が一緒に生活しているのだとか・・・。


 それ以外にも、物置小屋や家畜小屋、牛車を停車しておく場所など、色々な建物があちこちにあった。

 はっきり言って、うっかりすると直ぐに迷ってしまいそうだ。



 一通りお屋敷を案内してもらった後、ワタシはプドルさんにお願いして、お屋敷のお仕事をお手伝いさせて貰う事にした。

 こんなお屋敷に住ませて貰うのに、何もしないのは流石に申し訳が無かったからだ。


 まだ今の私は、お掃除くらいしか出来ないけれど、これから色々教えてもらってお料理とかお裁縫とか出来るようになりたいと思う。


 ワタシは、ご主人様の奴隷になって、生まれ変わったんだ!

 もう、以前のように、引っ込み思案のままで居たくなかったのだ。


 がんばって、あの優しいご主人様に相応しい女性になりたい!

 ワタシは心からそう思った―――。

 

  


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