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再会




 オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道(ビクトリーロード) 第十二章


 

*********** オーク将軍デブリンガー **********



 あれからかなりの日数が経過し、リーネが私の屋敷に来てから既に一月近く経過している。 

 プドルの手当てのお陰で、傷もすっかり癒えたハクは、主に子供達の子守を中心に、彼らと共に屋敷の掃除に励んでいた。


 リーネも、屋敷の使用人達とそれなりに打ち解けてきたようで、毎日楽しそうに屋敷の家事を手伝っている。

 リーネには、あの日使用人のネイリーが洋服屋から受け取って来てくれた服があるのだが、どうもメイド服が気に入った様で、仕事をしている時は何時もメイド服を着ていた。

 

 一方例の洋服はというと、屋敷の外に出る時に着ているのだが、リーネが外に出かけることは全く無い為に、私と出かける時のお出かけ用の服になってしまっていた。

 

 仕方が無いので、一度朝の視察に誘ってみたら、喜んで着いて来るようになり、今では毎日私の横に座って、街の様子を眺めている。


 しかし最近は、気温もかなり低くなって来ており、そろそろ本格的に冬が近付いて来ていた。

 お陰で、せっかくの洋服も、上に羽織るコートの下に隠れてしまっていた。



 今日も、朝からリーネを連れて視察に出ている。

 息が白くなる中、私にしがみ付いているリーネ。

 視察の為に屋根の無い方の牛車に乗っている為、風がかなり寒いのだろう。

 そろそろ視察の時も屋根つきの牛車に変える頃か・・・。


 そう考えながら屋敷に戻ると、屋敷の前でバルドッグが待っていた。


 「デブリンガー様、シャウエッセンの街の仲間から、連絡が来ております。」


 「何か新しい情報でも入ったのか?」


 私とリーネは、牛車から降りた。


 「連中は、騙し取った屋敷を順に売り払っているそうなのですが。 どうもその販売に領主が絡んでいるらしいのです。 表向きは普通の屋敷の売買なのですが、当然販売には屋敷の主の証が必要になります。 しかし、これらの屋敷は既に家主が亡くなっている訳で・・・。 領主は、その販売先を紹介している形になっているのですが・・・。 既に家主が亡くなっている家を、恩賞を受け取った筈の遺族の子供以外の者が売りに出している事実に、領主が全く気付いていないというのは・・・。」


 私達はバルドッグの話を聞きながら屋敷の中に向かった。

 流石に外で話をするのは寒い。

 

 「仮に全く無関係だったとしても、自分自身が当の遺族に恩賞のメダリオンを渡しておきながら、遺族以外の者が売買している事に気付いていないと言う時点で、既に領主として職務怠慢。 その上で更に健康状態に不安あり・・・、場合によってはそれだけで領主交代まで持って行けるな。」


 国から配布された恩賞を、領主として対象者に配った当人が、その相手の事を覚えていないとか、ありえない話だ。

 私はふと、以前プドルから聞いた、リーネの話の内容を思い出す。


 「そう言えば、一つ気になっていた事があったのだが・・・。」


 私はそう言いながら、私にしがみ付いていたリーネに話しかける。


 「シャウエッセンの街に居たリーネの友達の一人・・・、ピピと言う娘の事で一つ聞いていいかい?」

 

 私の問いに無言で頷くリーネ。


 「ピピと言うホビット族の娘は、お金が無くなって家を追い出されて、外で暮らすようになったと聞いたのだが、どうして僅か半年でお金が無くなってしまったのか、聞いたことがあるかい?」


 「えーっと確か、商人だったお父さんとお母さんが亡くなって、お父さんが遺しておいてくれたお金で暫くは生活していたけど、家の家賃が払えなくなって、大家さんに追い出されたって・・・。」 


 「やはりおかしいですね。 例え借家であっても、少なくとも数年はそのまま生活できるだけのお金は渡されている筈ですが・・・。」


 バルドッグの言う通り、例え親が兵士で無くても、あの時に死亡した者の家族には漏れ無く見舞金が与えられたはずだ。

 無論、死亡した者の立場や死亡理由により金額の差はあったが、少なくとも遺された者が子供だけだった場合は、せめて成人するまでの間だけは生活出来るだけの金は渡されたはずだ。


 「一度、そのピピという娘に話を聞かなければならないな。 今から向かうとしよう。」


 私のその言葉に、リーネがそわそわしだした。 

 恐らく、ピピ達の事が気になるのだろう。


 「リーネも一緒に来るかい?」 


 「ハイ!」


 頭をコクコク縦に振るリーネ。


 「それでは準備をするとしよう。 リーネはプドルに午後の仕事を休むと伝えてきなさい。」


 「分かりました。 直に行って来ます!」


 リーネはプドルが居るであろう、屋敷の奥に駆けて行った。


 「それでは私もお供させていただきます。」


 バルドッグは既に準備が整っている様だ。



 結局、プドルも同行する事になった。

 何でも、シャウエッセンの街の教会には、顔馴染みが居るらしい。 


 我々は四人で屋根付きの牛車に乗り込んだ。



 シャウエッセンの街の転送屋の前に出る。


 こちらは、温泉が湧き出して冬でも比較的暖かいポークビッツの街に比べかなり寒い。

 天候も、今にも雪が降り出しそうだった。


 街に出るとバルドッグは、この街で生活している仲間の元に詳しい話を聞きに行くというので別行動だ。

 今この街に住んでいるのは、皆バルドッグの直属の部下だった者達だ。

 元々別の町に居た者も、此度の一件を調べるべく、わざわざ出向いて来てくれている。

 本当に頼りになる仲間達だ。


 

 私とリーネとプドルの三人は、歩いて教会に向かう。

 転送屋から教会までの距離は、それ程離れていなかったからだ。

 三人の中では、私だけが教会の位置をあまり把握していなかったので、二人の後について行く格好なる。


 程なくして、教会らしき建物が姿を現した。

 リーネが思わず駆け出して行く。

 

 リーネは教会の門を潜ると、立ち止まってキョロキョロと教会の周りを見回しだした。

 此処に世話になっているであろう、二人の友人を探しているのだろう。 


 しかし、教会の外には居なかったのか、少しがっかりした様子で私達が到着するのを待っていた。


 「え・・・。あなた、リーネなの?」


 不意に声を掛けられ振り向くリーネ。


 「シスター!」


 どうやら知り合いのシスターが、偶然教会の中から出て来た様だ。

 リーネが思わず抱きついている。


 「どうしてあなたが此処に!?」


 驚くシスターに、プドルが声を掛ける。


 「ごめんなさい、メルビン司教に会いたいのだけれど?」


 「シスターエリー、誰かお客様なのかね?」

 

 すると、シスターに続いて老齢の男性が中から出てきた。

 恐らく彼がこの教会の司教なのだろう。


 「メルビン、お久しぶりね。」


 笑顔で挨拶をするプドルを見て、メルビンと呼ばれた老人は目を見開いて驚いていた。


 目の前に、若かりし頃から、共に神聖魔法を習得すべく切磋琢磨し合った、友人でもありライバルでもあったワードッグの聖女が立っていたのだ。

 

 「ま、まさか・・・、プドル女史!?」


 「司教様、お久しぶりです!」


 リーネが嬉しそうに挨拶をする。

 リーネの存在に気付いたメルビン司教は、更に驚きの顔をする。


 「ど・・・どうして、リーネがプドル女史と一緒に・・・? まさか貴女がリーネの主人なのですか?」


 そんな問いに静かに首を横に振るプドル。


 「リーネの主人は、私がお使えする方ですよ。」


 そう言って私の方を振り向いた。

 丁度教会の前まで辿り着いていた私と、メルビン司教の目が合う。


 「あ・・・貴方はもしや・・・。 デブリンガー・アブラハム将軍!?」


 「え? この方が、あの救国の英雄の?」


 リーネが抱きついたままの、シスターエリーも驚いて私の事を見た。

 私は、被っていたフードの頭の部分を外して、顔をよく見せる。

 

 「デブリンガー・アブラハムと申します。 実は司教殿、少しお願いしたい事がございまして・・・。」

 


 私達は司教に、教会の中へと案内される。

 我々は礼拝堂の奥にある応接間に通された。


 シスターエリーが、私達に紅茶を出してくれる。

 私の向かいに座った司教はというと、何故か涙を流しながら祈りを捧げていた。 

 

 「まさか、リーネを買い取って下さったのが、あのデブリンガー・アブラハム将軍だったとは!! 神よ、貴方の慈悲に感謝いたします。」


 私は司教のあまりの喜びぶりに、少々困惑していた。


 「私達は、リーネを奴隷商に売って以降、毎日が心配で心配で・・・。」

 

 そういうメルビン司教の顔は、かなり頬がこけている様に見受けられた。

 シスターエリーもかなりやつれて居る所を見ると、年齢のせいだという訳では無いらしい。

 

 「我々に成す術が無く、仕方が無かったと自分に幾ら言い聞かせようとも、自責の念から逃れることが出来なかったのです。 何度自分の無力を呪った事か!」


 そう言いながら、またボロボロと涙を流す司教。

 余程リーネの事を心配していてくれていたのだろう。

 その事に気付いたのか、私の横に座っていたリーネが、司教に話しかける。


 「司教様、ワタシご主人様の奴隷になれて、今は凄く幸せなんです。 だから泣かないで!」


 「そうよメルビン、今はこうして無事で居るのだからそれで良いじゃない。 ご主人様のお傍こそ、この国で一番安全なのだもの。」



 二人に慰められて、ようやく落ち着きを取り戻したメルビン司教に、私は話を始める。


 「実は今、ある事を調べていて、ピピと言う少女にどうしても話が聞きたいのです。」


 「ピピと言うと、リーネの友達のピピの事ですね。 あの子なら今は宿舎で夕食の準備の手伝いをしている筈ですが・・・。 シスターエリー、ピピを連れて来て差し上げなさい。」


 「ハイ、承知しました!」


 やつれた顔をしながらも、リーネの無事を知り目に見えて元気を取り戻したシスターエリーは、部屋を出て行こうとする。

 しかし、そんなシスターをリーネが呼び止める。


 「あ、あの・・・シスター! 出来ればランにも会いたいです。」


 その言葉に、シスターが私に目で問いかけてくる。


 「勿論、連れて来て頂いて構いません。 もしかしたら、その子から話を聞く事になるかもしれないので。」


 そこまで言って、私はある事を思い出す。


 「あ、それと・・。 私が司教の知り合いで、リーネを引き取った者だと言う事で話を合わせて頂きたい。」


 リーネが、奴隷商に身売りする時に、友人達にはそう説明するようお願いしていた事を思い出したのだ。

 司教もシスターも、異論は無いようで直に話はまとまり、シスターは部屋を出て行った。



 二人が到着するまでの間、司教はプドルと近況を話し合っていた。


 「しかし風の噂で、その若さで軍の従軍魔法医を退役したと聞いていたが・・・。 まさかアブラハム将軍のお屋敷でメイド長をやっているとは・・・。」


 「若いと言ってくれるのは嬉しいのだけれど、私と貴方は同い年なのよ?」


 「ははは、確かに年は同じだが、君は獣人族。 人族の私とは若さがまるで違うじゃないか。」


 「まあ、確かにそうなのだけれど・・・。」

 

 「君なら、何処の教会でも聖女として引く手数多だろうに・・・。 私も若い頃は君の才能に嫉妬したものだよ、本来人族のほうが得意な筈の魔法で、私は君の足元にも及ばなかったのだから。」


 「でも、貴方は決して諦める事はせずに、結局最後には追いついて来たじゃない。 それに、私は聖女とかそんな肩書きを持つ柄じゃないわ。」


 そう言いながら、少しおどけて見せるプドル。

 正直、何時も姿勢正しく凛々しい彼女からは想像できない姿だった。

 幼馴染と聞いていたが、この姿が彼女の本来の姿なのかもしれないな・・・。

 

 リーネも、普段見せないプドルの姿に、むしろ喜んでいる風だった。



 コンコンとノックをする音がする、どうやらシスターが戻って来たようだ。


 「司教様、二人を連れてきました。」


 「入りなさい。」


 司教の言葉に、応接室の扉が開く。

 すると、シスターの後ろに、リーネより大分小柄なホビット族の女の子と、リーネより少し背の高い人族の女の子が立っていた。 

 この二人がピピとランなのだろう。

 二人とも、少し大きめのシスター服を着ていた。

 

 その姿を見て、思わず立ち上がるリーネ。


 「ピピ、ラン!」


 「「え・・・? まさかリーネなの!?」」


 リーネは二人の下に駆け寄ると、二人に抱きついた。

 

 「久しぶりだね、元気にしてた?」


 そう問いかけるリーネの言葉に、顔を真っ赤にして目に涙を貯めたピピが叫ぶ!


 「いきなり居なくなって、どれだけ心配したと思ってるのよ! アタイ、もう二度と会えないんじゃないかって・・・。」


 そう言いながら、涙をボロボロこぼし始めた。


 「ごめんね、でも、仕方なかったの。」


 そんなリーネを抱きしめたまま、ランも涙声で話す。


 「元気だった?」


 「うん、うん・・・。 私は、ご主人様の所で、元気にしてるよ。」


 「ご、ご主人様!?」


 うっかりご主人様と言ってしまったリーネを、プドルが咄嗟にフォローする。


 「リーネは、当家でメイド見習いとして働いて居るのですよ。 こちらに居られるのが、私達の主人、デブリンガー・アブラハム様です。」


 元々それらしい話は聞いてらしく、二人は納得した様だった。



 ひとしきり再開の喜びを味わった三人に、私は話しかける事にした。


 「所で、ピピと言うのは君かい?」


 「え?あ・・・はい、アタイがピピです。」


 小柄な少女は、いきなり大柄な私に話しかけられて、少々緊張気味に答えた。

   

 「君の両親は、一年前の帝国軍の襲撃の時に亡くなったと聞いたのだが、間違いないかい?」


 私の問いに、静かに頷くピピ。


 「ご両親が亡くなった際、この街の領主から何かして貰ったかい?」


 「あ、はい。 父さんと母さんのお葬式をして貰いました。 そして、墓地に慰霊碑を建てて貰って、その前に合同で埋葬して貰いました。」


 ふむ、まあそれは普通の対応か・・・。

 埋葬する金の無い者の為の教会の共同墓地では無く、合同とは言え一応は墓石、慰霊碑を用意して貰った訳だからな・・・。


 「で、それ以外に何か貰わなかったかい?」


 「お金を貰いました。」


 お金も貰っていたか、なら何故借家を追い出される事になったのだろう?

 

 「幾ら位貰ったか覚えているかい?」


 「はい、えーっと・・・確か銀貨20枚です。」

 

 「何だって!? 銀貨20枚? ・・・金貨ではなくて?」


 私が急に大声を出したので、ピピはかなり怯えてしまった様だ。

 いかんいかん、驚かせてしまった、反省せねば・・・。 


 「は・・・はい、金貨なんて・・・そんな凄い大金貰って無いです・・・。 アタイの家には、あまりお金が無かったので家賃とか払ってたら半年も経たない内に全部無くなてしまって・・・。」


 「それは本当なのかい? ピピ。」


 「司教様! アタイ嘘なんてついて無いよ!?」


 「何と言う事だ。 銀貨20枚では、幾ら子供一人とはいえ、とても生きて行ける訳が無い・・・。 むしろ半年も良くもったものだ・・・。」



 「ガレオン陛下は、国庫からかなりの金額を親を失った子供達の為に捻出されていた筈だ。 帝国兵に抵抗する事もなく逃げ隠れてしいた貴族や領主の位を格下げし、それにより一部没収した領地の収入も全て援助にまわされている。 このピピという少女ならば、少なくとも金貨三枚は受け取っていなくてはおかしい。」

 

 「えー! 金貨三枚!?」


 私の言葉を聞いて、ピピは驚きの声を上げている。

 子供一人なら、無駄使いしなければ金貨一枚で一年は生活できる。

 12歳のこの娘なら、成人するまでの三年分で三枚は貰えた筈だ。

 更に家が借家だったのなら、三年分の家賃の金も支給されていてもおかしくは無いのだ。


 幾ら悲惨な目に遭ったからと言って、普通は此処までの援助を行う事など考えられない事なのだが、それでもガレオン陛下が此処までの援助を決断されたのは、兎にも角にもこのシャウエッセンの街が重要な街だからだ。

 

 この街がこれ以上衰退する事は、帝国軍との関係を考えても決して容認できることではなかったのだ。

 それ故の大量の支援、及び見舞金だった。



 しかし、このピピが受け取ったのは、たったの銀貨20枚。僅か15分の1だ。


 「ならば、その差額の銀貨280枚は何処へ行ったのか・・・。」 

 

 私は思わず溜息を漏らす。

 

 「フウ・・・。 やはり領主しか考えられないか・・・。」


 私の溜息交じりの呟きを聞いた司教やシスターは、思わず顔を見合わせていた。  



 その後、一応ランと言う少女からも話を聞いた。

 この娘に関しては、概ねリーネから聞いていた通りだった。


 彼女の父親は、国の兵士で帝国軍の襲撃の際に戦死した。

 その後、領主から恩賞として金貨を10枚受け取り、母親と弟と共に、三人で暮らしていたのだが、母親が夫の死のショックから病に罹り死んでしまう。

 その後、姉弟で何とか細々と生活していたが、突如父親の姉を名乗る女が現れ、一緒に暮らし始めるも恩賞のメダリオンを奪われ家を追い出される・・・。

 まるっきりリーネと同じ手口だった。



 ピピとリーネ達との違い・・・、それは何か?


 先ず、ピピの家族の様に、一般市民が戦闘に巻き込まれて死亡した場合は、見舞金という形で、残された遺族に相応の金が渡されている。


 そして兵士だったランの父親の様に、街を守る為に戦いに赴いて命を落とした者の家族には、恩賞のメダリオンと共に見舞金が渡される。

 この恩賞のメダリオンには、戦死した兵士の名が刻まれ、国の為に尽くした証明になっているのだ。

 当然、一般市民の家族に渡される見舞金よりは高い金額となっている。


 リーネの両親も、既に現役の兵士ではなかったが、まさに命懸けで街を守る為に戦って多くの人の命を救い、そして命を落とした為に、普通以上の見舞金が送られたのだ。



 取り合えず違いは二つ考えられる。


 一つは、持ち家だったか借家だったか。

 そしてもう一つは、恩賞のメダリオンの有無だ。


 どちの要因で違いが出たのかは、まだはっきりとは分からないが・・・。

 恐らく、恩賞のメダリオンが関係しているのでは無いだろうかと思う。 



 ココからはあくまで私の推測だが・・・。


 恩賞のメダリオンは、ガレオン陛下が命じて作られた物で、当然メダリオンに刻まれた戦死者の名前や、見舞金の金額は王城にも記録が残されている。

 そして領主は、それを代行して遺族に授与したに過ぎないのだ。


 それに対して、一般人の死者の遺族への見舞金は、ある程度おおよその見舞金をまとめて領主へと渡し、それを被害に遭った遺族達に均等に分配するように命じられている。

 当然、合同慰霊碑を建てたり、埋葬したりする費用なども此処から支出する事になる。

 従って、遺族への見舞金を少しでも多くする為に、埋葬を合同で行うのは、むしろ合理的だと言えるだろう。

  

 しかし、当然ながら、おおよその死亡者の数は、陛下の元へも連絡は行っている。

 だから領主へ渡される見舞金も当然それ相応の金額になっているはずだ。

 なのに、ピピの受け取った見舞金は15分の1以下・・・。


 もしも、これが他の遺族達にも同じような額しか渡されていないとしたら、その大半の金は何処へ行ったのか・・・?


 そして、リーネやラン達の様に、恩賞のメダリオンを奪われて家を奪われた者達。

 こちらは、それぞれ与えられる金額が定められている為に、見舞金の金額を誤魔化すと簡単にバレる恐れがあるのだ。


 しかし、こちらは亡くなった者や、その家族に関する情報がしっかりと領主の下に集まってくる。

 それを利用して子供だけになった家に遠縁の親類を装って近付き、恩賞のメダリオンと見舞金を奪い取る。

 そして屋敷を売り払う際は、恩賞のメダリオンさえあれば、その遺族として身分が保障される為、相手には売主が偽者か本物かなど分かるわけも無いと言う訳だ。

 しかも、紹介者がこの街の領主である、疑うわけも無い。

 

 もしも、屋敷を乗っ取った者と領主が繋がっているとしたら・・・?

 

 

 私はこの推測を、そこにいる皆に語って聞かせた。

 一応”あくまで推測だが”と言ってはいるが、私はほぼ間違いないと踏んでいる。 


 ピピやランには難しすぎたのか、ポカンとした顔でよく分かっていない風だったが、司教とシスターの顔色はかなり悪くなっていた。

 もしも今の推測が事実だったら、領主交代で済む話では無い。

 今まで信頼してきた領主だけに、信じられないのだろう。


 リーネも、少し難しかったみたいだが、ピピ達よりは理解しているようで、真剣な顔をしている。

 一方プドルはと言うと―――。


 その顔には明らかに怒りが滲んでいた。

 決して崩れる事の無い笑顔が引き攣り、普段は温和なその口元には、明らかに犬歯が姿を見せていた。

 

 元々子供好きで心優しい彼女の事だ、自分の私腹を肥やす為に、何人もの子供達を犠牲にして来た領主の事が許せないのだろう。


 元々、彼女は此処の領主の事を嫌っていた。

 街が帝国軍に襲われた際、屋敷に隠れて街の人々を見殺しにしていた事が許せなかったらしい。

 その上、この様な悪どい事をしていたとしたら・・・。

  

 放っておいたら、一人で領主の屋敷に乗り込みそうな気配を感じたので、私が先制する事にする。


 「取り合えず、バルドッグと合流したらリーネの屋敷を乗っ取った女を捕らえに行くとしよう。」

 

 その女から領主との繋がりの手懸りが見つかれば、領主を追い詰めることも出来るだろう。

 今回も、ガレオン陛下のお手を煩わせる事になりそうなのが申し訳ないが、そうも言っていられない。


 私が直に行動を開始する事を知ったプドルは、ようやく落ち着きを取り戻してくれたようだ。


 私は、リーネ、プドルと共に教会を出ることにする。


 「リーネも友達ともっと話がしたかっただろうが、今日のところは我慢しておくれ。 また今度、ゆっくりと遊びに来る事にしよう。」

 

 リーネも、プドルの様子から、只ならぬ事態である事が分かったらしく、素直に納得してくれたようだ。

 ピピとランに別れの挨拶をしている。

 

 私も司教達に別れの挨拶をした。

 私達は、バルドッグとの待ち合わせ場所に向かう為、教会を後にした。




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