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めたもるふぉうぜ  作者: 八澤
システムE ver.夢 
18/24

  の思い出


 その日、校門を出た瞬間、教室に忘れ物をしたことに気づいた。宿題で、明日提出なので、絶対に取りに行かなくてはならなかった。放課後、少し暗い空の下、小走りで戻り、下駄箱で靴を履き替えると、階段を駆け上がる。

 マユちゃんは本当にこの世にいないのだろうか。マユちゃんは、私が作り出した架空の友達で、私は、一人、その妄想と遊んでいたの? いや、そんなはずがない。マユちゃんの記憶は、少しだけなら、まだ残っている。それを、ずっと探していけば、見つけることが、できるかも、

 そんなことを考えながら、ぐるっと、踊り場を廻った瞬間、――あの小屋の光景を思い出した。全身を貫くような恐怖が、ぬっと私を騒ぎ立てるけど、ここは、普通の学校だ、今の時間だって、まだ明るいし、恐くないと、自分に言い聞かす。

 私の教室は、三階にある。何故か学年が上がると階数が増え、いつも登校するのが一苦労だった。

 二階に上がり、そして、二階の踊り場に辿り着いたところで、かすかな違和感を受けた。

 踊り場には、大きな窓が張られている。それは開けられないように出来ていて、光を入れる時だけに焼く立つ物だ。

 そこから、夕日が差し込んでいた。綺麗な色だ。黄色に、赤色が、まるで絵の具のように、混ざったその色は、


 なんで、あのお化け屋敷の空にそっくりなの?


 私は慌てて空を見上げる。そこには、あの時と同じ、色がねっとりと空を覆っていた。

 三階に上がる。

 私の教室は、すぐに右へ曲がったところにある。あるはずだ。まだ帰っていない生徒が、中にいる。それを見れば、私のこの恐怖は、消え去るはずだ。

 でも、そこに、私の知っている教室は無かった。代わりに、誰も居ない、無人の教室があるだけだった。中にはただ机があるだけ。椅子は無い。鞄や、教科書や、張り紙などは、一切ない。しかも、教室はそれだけしかなかった。あとは、細い廊下が、ずっと続いている。

 嘘でしょ。嘘でしょ、辞めてよ、こんな冗談はッ! 私は泣きながら一気に階段を五段飛ばしして、二階に下りて、教室を確認する。あぁ、ここも、一つしかない。しかも、誰一人として、生徒がいない。机だけの教室だ。

 私は半分パニックになりながらも、必死に冷静になれと自己暗示しながら階段を下りる。駄目だ、この学校から出よう。早く、出ようと、一階に降りると、そこは……二階と同じ形をしていた。正確には、三階と同じ、だ。同じように、教室が一つしかなく、誰もいない。窓から、赤と黄色い色が、それを人工的に照らしている。

 しかも、ここは一階のはずなのに、階段はまだあった。当たり前のように存在している。

 私は少し迷った後、覚悟を決めて、下に降りた。

 だけど、……また。同じ。

 降りる。降りる。降りる。普通なら、地下四階分は降りているはずなのに、何も変わらない。ずっと同じ教室と廊下が続いている。私は疲れてへたり込み、号泣していた。もう恐いよ、誰か助けて、と、頭がおかしくなりそうだった。誰でもいいから、私の前へ、来て! ぐちゃ

「ひっ」と声を上げる。その音は、あの小屋と同じく、階段の下から響いてくる。そっと下を覗き込むと……あぁ、覗き込まなきゃよかった……ほんと私は馬鹿。何故なら、あの、黒い影が、ゆっくりと列を作って上がって来ているからだ。

 私は鞄やナップザックを投げ出すと、上階へ上がる。これもまた同じだ。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ

 音は止まらない。近づいてくる。助けてと声に、出ない。私は、また力を振り絞って、一階上に上がる。すると、今度は、上からも、ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ 

 と音が聞こえてくる。もちろん下からも……。挟まれた。

 私はガタガタと震えながら、上下の階段が駄目だと悟ると、もう何でもいいから、廊下を進むことにした。無人の教室を横切って、そのずっと先に、何か逃げられる場所があるかもしれないと、一途の望みをかけて。あ、……無人じゃなかった。無人だったはずの教室には全ての机の前に、黒い影が、綺麗に立っている。それが、一斉に私のことを見る。動き出した。 ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ

 私は一目散に駆け出した。もう頭の中がぐちゃぐちゃで、わけもわからず、死にたくないと思いながら、必死に駆けていた。

 だけど、進めど進めど、廊下は、永遠に続いているようだった。息が出来ない。もう頭の中がスッカラカンで、逃げるだけしかわからない。心臓が破裂しそうだ。でも、止まったら、止まったら……。

 これは、……うん、夢だ。夢だよ、夢、うん、……ねぇ、もうそういうことにしようよ。確かに、息が出来なくて苦しいし、足は痛いし、涙は止まらないしで、リアル感たっぷりだけど、もう駄目、許して、ごめんなさい、助けて、嫌だ、嫌、恐い、死にたくないよ。

 その時、目の奥に、光のようなモノが過ぎった。顔を上げると、いつの間にか、廊下は袋小路を迎えていた。背後からは、ずっとあの音が響く。もう振り返る気力さえ、無い。

 扉だった。

 その袋小路には、扉が一つ、寂しげについている。

 表札が書いてある。

『マユの思い出』

 マユ……マユ……マユちゃん!

 私は、何も考えずに、そこに飛び込んでいた。


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